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サプライズプレゼント3
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「冬麻、こっち来て」
久我は周囲から冬麻を庇うようにして、道の端っこへと引き寄せる。
緑道を外れて、桜の木の裏側、太い木の幹に冬麻の身体を隠すようにして、人からの視線を遮った。
きっと冬麻が泣きそうな顔をしていたから、それを見られないようにするためだろう。
「……失敗だ。本当は、冬麻にサプライズしたかったのにな」
久我は手にしていたカバンから、小さな箱を取り出した。アクセサリーが入っていそうなサイズの箱で、冬麻はそのブランドの包みに、とても見覚えがある。
「これを冬麻にプレゼントするつもりだった。冬麻は欲しくないってさっき言ってたよね……。欲しくないものをプレゼントするなんて俺のエゴだと思ってやめようとしたんだけど、冬麻に泣かれたら俺は弱い」
まさか、と思ってプレゼントの包みを開けてみる。中身は久我が首にかけているものとお揃いのネックレスが入っていた。つまり、冬麻が久我に贈ろうと思っていたネックレスと同じものだ。
——か、かぶってる……。
たしかにこのネックレスは、いつか久我とふたりで買い物に行ったときに、久我がじっと眺めていたものだ。
冬麻もそのときの久我の羨ましそうな顔を覚えていて、プレゼントすることを決めたのだが、まさかのサプライズかぶりとは。
「俺は冬麻にサプライズプレゼントしようとしたんだ。そうしたら冬麻に『ネックレスは要らない』と言われて、やめることにしたんだけど、俺があらかじめつけてたネックレスを指摘されて——」
やっぱり。久我も同じことを考えていたのだ。
「俺が自分用に買ったって言って話を終わりにしようとしたら、冬麻がこれがペアデザインだってことを知ってて、仕方なく嘘をついたら『誰からもらったのか』って泣きそうな顔をされてもうダメだ。冬麻がそんなに気にするとは思わなかったんだよ、ごめん。誰からももらってない。ペアの片方はここにある。俺が冬麻にあげようとして隠してただけ」
「そう、なんですか……」
ほっとした途端に、冬麻の目に溜まっていた涙がひと粒溢れた。それを見て久我がすかさず「泣かないで」と頬に伝う涙を指で拭った。
「ごめん。いつも冬麻を縛りつけないようにしようって思ってるのに、こんなものをプレゼントしたらダメだよね。冬麻が知ってたみたいに、見る人が見ればペアだとわかる。冬麻は俺との関係を隠したいと思ってるのを知ってて、こういう関係を匂わせるようなものをプレゼントしようとしたのが、そもそもの間違いだったんだ。これは処分する。誤解を解くために冬麻に見せただけだから、冬麻は忘れて」
久我は冬麻の手からネックレスと箱を奪い去り、サッとカバンの中にしまう。
「この話はこれで終わり! 冬麻はちゃんと俺のそばにいてくれるんだから縛らない。独占欲は捨てる。捨てなきゃ嫌われる。束縛彼氏はウザいに決まってる……」
途中から久我はブツブツと様子がおかしくなっている。なんかわからないけど、自分の中の何かと戦い始めたようだ。
「久我さん。俺も、久我さんに見せたいものがあります」
冬麻は「手を出してください」と久我の右手を掴んで引っ張った。
「はい。久我さんにプレゼントです」
冬麻が久我の手のひらの上に置いたのは、小さな箱だ。久我にサプライズでプレゼントしようと冬麻がずっと隠し持っていたもの。
「どういうこと……?」
久我は信じられないという顔をしている。
「だから、俺からの、さ、サプライズプレゼントです……」
「でも、これ」
「そうです。開けてみてください」
久我も見覚えのある包みに驚いているようだ。それもそのはず、まさかのサプライズかぶりとは思いもしなかったのだろう。
久我の財力ならこのくらいのアクセサリーは簡単に買える。でも冬麻にとってはかなりの出費だ。それを冬麻が買うとは、思ってもみないはずだ。
「同じだ……俺が買ったネックレスと同じ……」
「そうですよ。俺もサプライズ失敗しちゃいました。さっきネックレスは要らないと言ったのは、買って持ってたからです。これから久我さんにこれをプレゼントしようってしてるのに、ネックレスなんて買いに行きたくなかったんです」
冬麻の言葉を聞いて、久我は「なんだ。それであんなことを言ったのか」と頬を緩ませた。
「久我さん、この前買い物に行ったときに、コレ、ずっと眺めてましたよね? だから欲しいのかなって思って……いつも、久我さんにはもらいっぱなしだから、俺からも何かプレゼントしたいって思ってて、あ、アレがいいかなって思い出して買ったんです。思いきりかぶっちゃいましたけど」
「うん。俺もまさか冬麻からプレゼントされるなんて考えもしなかった」
久我は手の中にあるネックレスを見つめている。
「ほら。俺とお揃いです」
冬麻は自分のぶんのネックレスを取り出して久我の手の中にあるネックレスと並べてみせる。ふたつのネックレスのモチーフに描かれた模様はぴったりと合致した。そこに浮かび上がるのは永遠を意味する8の字を横にしたような形のインフィニティマークだ。
「えへへ。これは、ずっと一緒にっていう意味らしいです。久我さんとは結婚できないし、指輪ももらったのに俺は人から言われるのが苦手でできない。でも、これならいいかなって……洋服の下に隠しちゃえば仕事中だって使えるかな、なんて。そしたら離れてても一緒って思えるかな。あ、考えが甘いですかね……」
冬麻だって本当は、久我との関係を大っぴらに言えたらいいのにと思っている。
でもその覚悟がない。久我は社会的地位が高すぎる。取り返しのつかないことになったら、久我が苦しむようなことになったら、といろいろ考えると結論が出ない。結局今のままでもふたりでいられるから、交際を公にする気持ちにならないのだ。
久我は周囲から冬麻を庇うようにして、道の端っこへと引き寄せる。
緑道を外れて、桜の木の裏側、太い木の幹に冬麻の身体を隠すようにして、人からの視線を遮った。
きっと冬麻が泣きそうな顔をしていたから、それを見られないようにするためだろう。
「……失敗だ。本当は、冬麻にサプライズしたかったのにな」
久我は手にしていたカバンから、小さな箱を取り出した。アクセサリーが入っていそうなサイズの箱で、冬麻はそのブランドの包みに、とても見覚えがある。
「これを冬麻にプレゼントするつもりだった。冬麻は欲しくないってさっき言ってたよね……。欲しくないものをプレゼントするなんて俺のエゴだと思ってやめようとしたんだけど、冬麻に泣かれたら俺は弱い」
まさか、と思ってプレゼントの包みを開けてみる。中身は久我が首にかけているものとお揃いのネックレスが入っていた。つまり、冬麻が久我に贈ろうと思っていたネックレスと同じものだ。
——か、かぶってる……。
たしかにこのネックレスは、いつか久我とふたりで買い物に行ったときに、久我がじっと眺めていたものだ。
冬麻もそのときの久我の羨ましそうな顔を覚えていて、プレゼントすることを決めたのだが、まさかのサプライズかぶりとは。
「俺は冬麻にサプライズプレゼントしようとしたんだ。そうしたら冬麻に『ネックレスは要らない』と言われて、やめることにしたんだけど、俺があらかじめつけてたネックレスを指摘されて——」
やっぱり。久我も同じことを考えていたのだ。
「俺が自分用に買ったって言って話を終わりにしようとしたら、冬麻がこれがペアデザインだってことを知ってて、仕方なく嘘をついたら『誰からもらったのか』って泣きそうな顔をされてもうダメだ。冬麻がそんなに気にするとは思わなかったんだよ、ごめん。誰からももらってない。ペアの片方はここにある。俺が冬麻にあげようとして隠してただけ」
「そう、なんですか……」
ほっとした途端に、冬麻の目に溜まっていた涙がひと粒溢れた。それを見て久我がすかさず「泣かないで」と頬に伝う涙を指で拭った。
「ごめん。いつも冬麻を縛りつけないようにしようって思ってるのに、こんなものをプレゼントしたらダメだよね。冬麻が知ってたみたいに、見る人が見ればペアだとわかる。冬麻は俺との関係を隠したいと思ってるのを知ってて、こういう関係を匂わせるようなものをプレゼントしようとしたのが、そもそもの間違いだったんだ。これは処分する。誤解を解くために冬麻に見せただけだから、冬麻は忘れて」
久我は冬麻の手からネックレスと箱を奪い去り、サッとカバンの中にしまう。
「この話はこれで終わり! 冬麻はちゃんと俺のそばにいてくれるんだから縛らない。独占欲は捨てる。捨てなきゃ嫌われる。束縛彼氏はウザいに決まってる……」
途中から久我はブツブツと様子がおかしくなっている。なんかわからないけど、自分の中の何かと戦い始めたようだ。
「久我さん。俺も、久我さんに見せたいものがあります」
冬麻は「手を出してください」と久我の右手を掴んで引っ張った。
「はい。久我さんにプレゼントです」
冬麻が久我の手のひらの上に置いたのは、小さな箱だ。久我にサプライズでプレゼントしようと冬麻がずっと隠し持っていたもの。
「どういうこと……?」
久我は信じられないという顔をしている。
「だから、俺からの、さ、サプライズプレゼントです……」
「でも、これ」
「そうです。開けてみてください」
久我も見覚えのある包みに驚いているようだ。それもそのはず、まさかのサプライズかぶりとは思いもしなかったのだろう。
久我の財力ならこのくらいのアクセサリーは簡単に買える。でも冬麻にとってはかなりの出費だ。それを冬麻が買うとは、思ってもみないはずだ。
「同じだ……俺が買ったネックレスと同じ……」
「そうですよ。俺もサプライズ失敗しちゃいました。さっきネックレスは要らないと言ったのは、買って持ってたからです。これから久我さんにこれをプレゼントしようってしてるのに、ネックレスなんて買いに行きたくなかったんです」
冬麻の言葉を聞いて、久我は「なんだ。それであんなことを言ったのか」と頬を緩ませた。
「久我さん、この前買い物に行ったときに、コレ、ずっと眺めてましたよね? だから欲しいのかなって思って……いつも、久我さんにはもらいっぱなしだから、俺からも何かプレゼントしたいって思ってて、あ、アレがいいかなって思い出して買ったんです。思いきりかぶっちゃいましたけど」
「うん。俺もまさか冬麻からプレゼントされるなんて考えもしなかった」
久我は手の中にあるネックレスを見つめている。
「ほら。俺とお揃いです」
冬麻は自分のぶんのネックレスを取り出して久我の手の中にあるネックレスと並べてみせる。ふたつのネックレスのモチーフに描かれた模様はぴったりと合致した。そこに浮かび上がるのは永遠を意味する8の字を横にしたような形のインフィニティマークだ。
「えへへ。これは、ずっと一緒にっていう意味らしいです。久我さんとは結婚できないし、指輪ももらったのに俺は人から言われるのが苦手でできない。でも、これならいいかなって……洋服の下に隠しちゃえば仕事中だって使えるかな、なんて。そしたら離れてても一緒って思えるかな。あ、考えが甘いですかね……」
冬麻だって本当は、久我との関係を大っぴらに言えたらいいのにと思っている。
でもその覚悟がない。久我は社会的地位が高すぎる。取り返しのつかないことになったら、久我が苦しむようなことになったら、といろいろ考えると結論が出ない。結局今のままでもふたりでいられるから、交際を公にする気持ちにならないのだ。
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