118 / 138
番外編 サプライズプレゼント1
しおりを挟む
今日は休日で、桜を見に行こうとマンションを出て近所の千鳥ヶ淵を久我とふたりで散歩する。
少し開花が遅れた東京は今が満開で、いつも空いているはずの千鳥ヶ淵緑道は外国人観光客や桜を愛でるために来た人たちでごった返している。
「家から眺めてるほうが楽でしたね……」
人酔いしてしまいそうな冬麻はポツリと愚痴を言う。久我のマンションからは皇居のお堀が一望できる。もちろん桜並木も、マンションにいながら楽しめるのだ。
「それもいいけど、桜を間近で見られるし、散歩も風情があるよ」
久我はヒラヒラと舞い落ちてきた桜の花びらに手を伸ばし、空中で捕まえた。「ほら」と冬麻の目の前で手のひらを開いて桜の花びらを見せてくれる。たしかにこうして花びらを感じることは、マンションにいてはできない。
「冬麻の今日の服、可愛いね」
久我は嬉しそうに笑う。その笑顔に一瞬キュンとしたが、冬麻の着ている淡いピンクのシャツも、インナーのグレーのTシャツも、すべて久我がプレゼントしてくれたものだ。自前で買ったものはジーパンくらい。
「なんですか、それ、自分のセンスがいいって言いたいんですか?」
わざと嫌味を言ってからかうと、久我は「うん。モデルがいいから服選びが楽しくて」と冬麻の髪を優しく撫でた。
「首にアクセサリーがあってもいいね。桜を見たあと銀座に行ってお揃いの買おっか」
久我はニッコニコしているが、なんでそこでお揃いになるのだろう。久我は冬麻と同じものばかり、または色違いなどで欲しがるから、そのうち持ち物がみんな久我とお揃いの物ばかりになってしまいそうだ。
「いーです! 久我さんはプレゼントプレゼントっていつも俺にくれてばっかりじゃないですか。今日は買い物には行きません! 桜を見てご飯食べて帰るんですっ」
冬麻が説教すると、「残念だな……」と久我が寂しそうな顔をする。
しょんぼりしている久我が可哀想に思えてくる。でも、今日はネックレスは絶対に買いに行かない。
なぜなら冬麻のカバンの中にはすでにお揃いのネックレスが入っているからだ。
いつも久我にプレゼントばかりもらっているので、今日こそはお返ししたいとお揃いのネックレスを買って用意した。これをタイミングを見て、久我にプレゼントするつもりなのだ。
——プレゼントしたら久我さんどんな顔するかなぁ。
冬麻にしては奮発した金額のネックレスだったが、久我にはプチプラは似合わないと思って頑張った。
ネックレスは久我の好きな『お揃い』だ。しかもただのお揃いじゃない。棒状デザインのシルバーアクセサリーで、ひとつひとつセパレートでもデザインとして申し分ないのだが、ふたつを並べると実はデザインが繋がっているという、ペアデザインとなっている。
——喜んでくれるといいなぁ。
今からプレゼントしたときのことを想像してニマニマしていたら、久我に「どうしたの? そんなに楽しい?」と肩を抱かれた。
「はい。俺の恋人は相変わらず世界一だなぁって思って」
思わずのろけてしまったら、久我が「それって俺のこと?」と真面目な顔で聞き返してきた。
いや、こんなに一緒にいて、恋人宣言だってしたのに、他に誰がいると思ったのだろう。
「違いました? 久我さん、俺の恋人じゃない……? 俺はそうだと、お、思ってるんですけど……」
念のため確認してみる。ふたりの関係は秘密裏だから久我が違うと言ったらそれだけで終わってしまうような、曖昧なものだ。
「嬉しい。ごめん冬麻、夢みたいで信じられなくて」
久我は屈託のない笑顔をみせる。作り笑いじゃない、本当に嬉しそうに声を出して無邪気に笑う。
出会ったころの久我のビジネスライクな笑顔を思い出す。能面のように常に同じ、作られた笑顔。あれは久我の対面的なよそいきの笑顔だ。
でも今は違う。久我のこんな無邪気な姿を見られるのはきっと冬麻だけだ。これは、冬麻だけの恋人特権なんじゃないだろうか。
「冬麻、好きだよ。大好き」
公衆の面前でそんなことを突然耳元で囁かれ、耳にキスされ、ドキッとする。こんな昼間からそういうことはしないでほしい。恥ずかしくて耳が真っ赤になってしまう。
「久我さんたら、もう……」
「ごめん。これでも精一杯抑えてる。だから許して」
ごめんと言うものの、久我にはあんまり反省の色がなさそうだ。いつでもどこでもイチャイチャしようとするのは一生治らないかもしれない。
やっぱりマンションから桜を眺めるだけにすればよかった。
それなら、桜を見ながら気兼ねなく久我と仲良しできたのに。
「冬麻が可愛くて仕方がない。冬麻、今すぐマンションに戻ろうか」
久我はグッと冬麻の肩を自分の身体に引き寄せた。冬麻は久我に寄りかかるみたいな格好になる。
これじゃあ距離が近すぎる。これは、どう見ても特別な関係だ。
「ダメですよ、久我さんっ、せっかくお散歩に来たんですから家を出て五分で帰るなんてありえないです!」
冬麻が肩におかれた久我の手を振り払うと、「わかった。我慢する」とまるでお預けを食らった犬みたいな顔をする。
——これであんな大きな会社の社長だなんて信じられないよな。
例えば冬麻が「言うこと聞いてくれたらキスしてあげます」などと言えば、久我は会社の重要な方針まで変更してしまいそうな勢いがある。
本当に困った恋人だな、と思いながら、小指一本くらいならいいかなと冬麻は久我の小指に小指を絡める。すると久我がぎゅっと小指を小指で捕まえてきた。
こうやって愛情をたっぷり示してくれるのは正直嬉しい。やっぱり久我は世界一の恋人だ。
少し開花が遅れた東京は今が満開で、いつも空いているはずの千鳥ヶ淵緑道は外国人観光客や桜を愛でるために来た人たちでごった返している。
「家から眺めてるほうが楽でしたね……」
人酔いしてしまいそうな冬麻はポツリと愚痴を言う。久我のマンションからは皇居のお堀が一望できる。もちろん桜並木も、マンションにいながら楽しめるのだ。
「それもいいけど、桜を間近で見られるし、散歩も風情があるよ」
久我はヒラヒラと舞い落ちてきた桜の花びらに手を伸ばし、空中で捕まえた。「ほら」と冬麻の目の前で手のひらを開いて桜の花びらを見せてくれる。たしかにこうして花びらを感じることは、マンションにいてはできない。
「冬麻の今日の服、可愛いね」
久我は嬉しそうに笑う。その笑顔に一瞬キュンとしたが、冬麻の着ている淡いピンクのシャツも、インナーのグレーのTシャツも、すべて久我がプレゼントしてくれたものだ。自前で買ったものはジーパンくらい。
「なんですか、それ、自分のセンスがいいって言いたいんですか?」
わざと嫌味を言ってからかうと、久我は「うん。モデルがいいから服選びが楽しくて」と冬麻の髪を優しく撫でた。
「首にアクセサリーがあってもいいね。桜を見たあと銀座に行ってお揃いの買おっか」
久我はニッコニコしているが、なんでそこでお揃いになるのだろう。久我は冬麻と同じものばかり、または色違いなどで欲しがるから、そのうち持ち物がみんな久我とお揃いの物ばかりになってしまいそうだ。
「いーです! 久我さんはプレゼントプレゼントっていつも俺にくれてばっかりじゃないですか。今日は買い物には行きません! 桜を見てご飯食べて帰るんですっ」
冬麻が説教すると、「残念だな……」と久我が寂しそうな顔をする。
しょんぼりしている久我が可哀想に思えてくる。でも、今日はネックレスは絶対に買いに行かない。
なぜなら冬麻のカバンの中にはすでにお揃いのネックレスが入っているからだ。
いつも久我にプレゼントばかりもらっているので、今日こそはお返ししたいとお揃いのネックレスを買って用意した。これをタイミングを見て、久我にプレゼントするつもりなのだ。
——プレゼントしたら久我さんどんな顔するかなぁ。
冬麻にしては奮発した金額のネックレスだったが、久我にはプチプラは似合わないと思って頑張った。
ネックレスは久我の好きな『お揃い』だ。しかもただのお揃いじゃない。棒状デザインのシルバーアクセサリーで、ひとつひとつセパレートでもデザインとして申し分ないのだが、ふたつを並べると実はデザインが繋がっているという、ペアデザインとなっている。
——喜んでくれるといいなぁ。
今からプレゼントしたときのことを想像してニマニマしていたら、久我に「どうしたの? そんなに楽しい?」と肩を抱かれた。
「はい。俺の恋人は相変わらず世界一だなぁって思って」
思わずのろけてしまったら、久我が「それって俺のこと?」と真面目な顔で聞き返してきた。
いや、こんなに一緒にいて、恋人宣言だってしたのに、他に誰がいると思ったのだろう。
「違いました? 久我さん、俺の恋人じゃない……? 俺はそうだと、お、思ってるんですけど……」
念のため確認してみる。ふたりの関係は秘密裏だから久我が違うと言ったらそれだけで終わってしまうような、曖昧なものだ。
「嬉しい。ごめん冬麻、夢みたいで信じられなくて」
久我は屈託のない笑顔をみせる。作り笑いじゃない、本当に嬉しそうに声を出して無邪気に笑う。
出会ったころの久我のビジネスライクな笑顔を思い出す。能面のように常に同じ、作られた笑顔。あれは久我の対面的なよそいきの笑顔だ。
でも今は違う。久我のこんな無邪気な姿を見られるのはきっと冬麻だけだ。これは、冬麻だけの恋人特権なんじゃないだろうか。
「冬麻、好きだよ。大好き」
公衆の面前でそんなことを突然耳元で囁かれ、耳にキスされ、ドキッとする。こんな昼間からそういうことはしないでほしい。恥ずかしくて耳が真っ赤になってしまう。
「久我さんたら、もう……」
「ごめん。これでも精一杯抑えてる。だから許して」
ごめんと言うものの、久我にはあんまり反省の色がなさそうだ。いつでもどこでもイチャイチャしようとするのは一生治らないかもしれない。
やっぱりマンションから桜を眺めるだけにすればよかった。
それなら、桜を見ながら気兼ねなく久我と仲良しできたのに。
「冬麻が可愛くて仕方がない。冬麻、今すぐマンションに戻ろうか」
久我はグッと冬麻の肩を自分の身体に引き寄せた。冬麻は久我に寄りかかるみたいな格好になる。
これじゃあ距離が近すぎる。これは、どう見ても特別な関係だ。
「ダメですよ、久我さんっ、せっかくお散歩に来たんですから家を出て五分で帰るなんてありえないです!」
冬麻が肩におかれた久我の手を振り払うと、「わかった。我慢する」とまるでお預けを食らった犬みたいな顔をする。
——これであんな大きな会社の社長だなんて信じられないよな。
例えば冬麻が「言うこと聞いてくれたらキスしてあげます」などと言えば、久我は会社の重要な方針まで変更してしまいそうな勢いがある。
本当に困った恋人だな、と思いながら、小指一本くらいならいいかなと冬麻は久我の小指に小指を絡める。すると久我がぎゅっと小指を小指で捕まえてきた。
こうやって愛情をたっぷり示してくれるのは正直嬉しい。やっぱり久我は世界一の恋人だ。
112
お気に入りに追加
1,148
あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。


男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い

ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
全8話。1日1話更新(20時)。
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので芸風(?)が違うのですが、楽しんでいただければ嬉しいです!

好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる