借金のカタにイケメン社長に囲われる

雨宮里玖

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番外編 サプライズプレゼント1

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 今日は休日で、桜を見に行こうとマンションを出て近所の千鳥ヶ淵を久我とふたりで散歩する。
 少し開花が遅れた東京は今が満開で、いつも空いているはずの千鳥ヶ淵緑道は外国人観光客や桜を愛でるために来た人たちでごった返している。

「家から眺めてるほうが楽でしたね……」

 人酔いしてしまいそうな冬麻はポツリと愚痴を言う。久我のマンションからは皇居のお堀が一望できる。もちろん桜並木も、マンションにいながら楽しめるのだ。

「それもいいけど、桜を間近で見られるし、散歩も風情があるよ」

 久我はヒラヒラと舞い落ちてきた桜の花びらに手を伸ばし、空中で捕まえた。「ほら」と冬麻の目の前で手のひらを開いて桜の花びらを見せてくれる。たしかにこうして花びらを感じることは、マンションにいてはできない。

「冬麻の今日の服、可愛いね」

 久我は嬉しそうに笑う。その笑顔に一瞬キュンとしたが、冬麻の着ている淡いピンクのシャツも、インナーのグレーのTシャツも、すべて久我がプレゼントしてくれたものだ。自前で買ったものはジーパンくらい。

「なんですか、それ、自分のセンスがいいって言いたいんですか?」

 わざと嫌味を言ってからかうと、久我は「うん。モデルがいいから服選びが楽しくて」と冬麻の髪を優しく撫でた。

「首にアクセサリーがあってもいいね。桜を見たあと銀座に行ってお揃いの買おっか」

 久我はニッコニコしているが、なんでそこでお揃いになるのだろう。久我は冬麻と同じものばかり、または色違いなどで欲しがるから、そのうち持ち物がみんな久我とお揃いの物ばかりになってしまいそうだ。

「いーです! 久我さんはプレゼントプレゼントっていつも俺にくれてばっかりじゃないですか。今日は買い物には行きません! 桜を見てご飯食べて帰るんですっ」

 冬麻が説教すると、「残念だな……」と久我が寂しそうな顔をする。
 しょんぼりしている久我が可哀想に思えてくる。でも、今日はネックレスは絶対に買いに行かない。

 なぜなら冬麻のカバンの中にはすでにお揃いのネックレスが入っているからだ。
 いつも久我にプレゼントばかりもらっているので、今日こそはお返ししたいとお揃いのネックレスを買って用意した。これをタイミングを見て、久我にプレゼントするつもりなのだ。


 ——プレゼントしたら久我さんどんな顔するかなぁ。

 冬麻にしては奮発した金額のネックレスだったが、久我にはプチプラは似合わないと思って頑張った。
 ネックレスは久我の好きな『お揃い』だ。しかもただのお揃いじゃない。棒状バーデザインのシルバーアクセサリーで、ひとつひとつセパレートでもデザインとして申し分ないのだが、ふたつを並べると実はデザインが繋がっているという、ペアデザインとなっている。

 ——喜んでくれるといいなぁ。

 今からプレゼントしたときのことを想像してニマニマしていたら、久我に「どうしたの? そんなに楽しい?」と肩を抱かれた。

「はい。俺の恋人は相変わらず世界一だなぁって思って」

 思わずのろけてしまったら、久我が「それって俺のこと?」と真面目な顔で聞き返してきた。
 いや、こんなに一緒にいて、恋人宣言だってしたのに、他に誰がいると思ったのだろう。

「違いました? 久我さん、俺の恋人じゃない……? 俺はそうだと、お、思ってるんですけど……」

 念のため確認してみる。ふたりの関係は秘密裏だから久我が違うと言ったらそれだけで終わってしまうような、曖昧なものだ。

「嬉しい。ごめん冬麻、夢みたいで信じられなくて」

 久我は屈託のない笑顔をみせる。作り笑いじゃない、本当に嬉しそうに声を出して無邪気に笑う。
 出会ったころの久我のビジネスライクな笑顔を思い出す。能面のように常に同じ、作られた笑顔。あれは久我の対面的なよそいきの笑顔だ。
 でも今は違う。久我のこんな無邪気な姿を見られるのはきっと冬麻だけだ。これは、冬麻だけの恋人特権なんじゃないだろうか。

「冬麻、好きだよ。大好き」

 公衆の面前でそんなことを突然耳元で囁かれ、耳にキスされ、ドキッとする。こんな昼間からそういうことはしないでほしい。恥ずかしくて耳が真っ赤になってしまう。

「久我さんたら、もう……」
「ごめん。これでも精一杯抑えてる。だから許して」

 ごめんと言うものの、久我にはあんまり反省の色がなさそうだ。いつでもどこでもイチャイチャしようとするのは一生治らないかもしれない。

 やっぱりマンションから桜を眺めるだけにすればよかった。
 それなら、桜を見ながら気兼ねなく久我と仲良しできたのに。

「冬麻が可愛くて仕方がない。冬麻、今すぐマンションに戻ろうか」

 久我はグッと冬麻の肩を自分の身体に引き寄せた。冬麻は久我に寄りかかるみたいな格好になる。
 これじゃあ距離が近すぎる。これは、どう見ても特別な関係だ。

「ダメですよ、久我さんっ、せっかくお散歩に来たんですから家を出て五分で帰るなんてありえないです!」

 冬麻が肩におかれた久我の手を振り払うと、「わかった。我慢する」とまるでお預けを食らった犬みたいな顔をする。

 ——これであんな大きな会社の社長だなんて信じられないよな。

 例えば冬麻が「言うこと聞いてくれたらキスしてあげます」などと言えば、久我は会社の重要な方針まで変更してしまいそうな勢いがある。

 本当に困った恋人だな、と思いながら、小指一本くらいならいいかなと冬麻は久我の小指に小指を絡める。すると久我がぎゅっと小指を小指で捕まえてきた。

 こうやって愛情をたっぷり示してくれるのは正直嬉しい。やっぱり久我は世界一の恋人だ。
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