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冬麻ハッピーラッキーLOVE作戦編4
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のそのそとベッドから這い出て、リビングダイニングに向かうと久我が朝食を作っているところだった。
「おはよう、冬麻。ご飯すぐにできるから」
久我に爽やかな笑顔を向けられる。こっちは寝ぐせ頭でぼんやりしているのに、久我は完璧な装いだ。
「ごめんなさい、昨日の夜、俺寝ちゃったみたいで……。久我さんが運んでくれたんですよね?」
「そうだよ。冬麻にはゆっくり休んでもらいたかったから。よく眠れた?」
「はい。ありがとうございます」
「よかった。顔洗ってきたら? 新しいタオル買ったんだ。使ってみて。朝食を食べたら、会社まで送るよ」
「いえ、久我さん、俺が運転しますよ、秘書なんだから」
「いい。俺が運転する。今日はそんな気分なんだよ」
冬麻は免許は取ったものの、ほとんど運転を任されることはない。今日は、じゃなくて今日も、久我が運転してくれるらしい。
「俺に任せて」
またまた久我に完璧な笑顔を向けられる。付き合いが長くなって少しずつわかってきたことだが、久我は感情を封印するときは隙のない完全よそいきの笑顔を作る。
ということは、今、久我は何か不満を抱えているということだ。
「あ、はは……ありがとうございます」
冬麻はとりあえずその場を離れて顔を洗いつつ、必死で考えを巡らせた。
最近の生活の何がいけなかったのだろう。何もせずにいたことを反省して、夕食を用意したことは喜んでもらえていたし、昨日は久我が夕食はいらないと言うから作らなかっただけだ。
夜、久我が帰ってくるのを待ちきれずに寝てしまったことがいけなかったのだろうか。あれは「起きて待ってます」とは伝えていないし、冬麻が勝手に起きていようと思っただけだ。
それでも薄情な恋人だと思われたのかもしれない。一昨日に引き続き、昨夜も別々で眠ることになり、身体の関係が途切れたことを怒っているのかもしれない。
「そういうことしたいなら、自分のベッドに連れて行けばいいじゃん……」
今さら別に寝ているところをベッドに拉致され襲われたってなんとも思わない。こっちは寝ぼけてても、この身体を勝手にしてくれたっていい。相手が久我ならそのくらいされても構わないのに。
「俺に言いたいことがあるならはっきり言ってよ……」
すぐに気持ちを閉ざしてしまうのは、久我の悪いところだ。あんなふうに笑って誤魔化されるほうが嫌だ。不満があるならガツンとぶつけてくれたほうがスッキリする。
とにかく自分に至らないところがあることは自覚している。具体的にどこがどうダメなのかハッキリしないのが気になるが、できるだけ尽くして頑張らなければ。
冬麻がダイニングの椅子に座ると同時に久我お手製の朝食が並べられる。久我も自分のぶんを目の前の席に置き、ふたり向かい合って朝食をとる。
久我はいつもより軽めの朝食だ。
「久我さん、食欲ないんですか?」
「うん。昨日、付き合いで飲み過ぎたから」
飲み過ぎたと言う割には、いつもどおりの爽やかな雰囲気だ。優しく微笑まれても、この笑顔の裏には何を隠してくるのかと、つい勘ぐってしまう。
「朝食、用意してくれてありがとうございます。いつも感謝してます」
いつもはあまり口にしないが、久我にお礼を言う。日常の小さなことにも相手への感謝を忘れてはいけないと思ったからだ。
「そう、よかった」
久我はまた完璧な笑顔を向けてくる。やっぱり何か違和感がある。その証拠に、このあとぱったり会話が続かないのだ。
——えーっと、会話、会話……。
「くっ、久我さんっ、日曜日デート楽しみですね!」
冬麻、渾身の明るい声で話しかけたのに、久我には「そうだね」と、笑顔でさらっと流されてしまった。
——なんだよ。せっかく誘ったのに乗り気じゃないなら最初から断ればいいのに。
「……冬麻、もしかして怒ってる?」
「えっ?」
久我に指摘されてやばいやばいと冬麻はすぐに態度を改める。
「そんなことないですよ。あ、時間やばいですね! ごちそうさま! 急いで支度します!」
ササッと朝食を終えて冬麻は席を立つ。
もう少しで、余計なひと言を言ってしまいそうだった。変なことを言って仲違いなんてしたくなかった。久我とは仲良くしていたいから。
きっと大丈夫だ。久々のデートに行って、ふたりきりでゆっくり話をして、いつもより熱い夜を過ごせば、わだかまりもなくなるはず。
「おはよう、冬麻。ご飯すぐにできるから」
久我に爽やかな笑顔を向けられる。こっちは寝ぐせ頭でぼんやりしているのに、久我は完璧な装いだ。
「ごめんなさい、昨日の夜、俺寝ちゃったみたいで……。久我さんが運んでくれたんですよね?」
「そうだよ。冬麻にはゆっくり休んでもらいたかったから。よく眠れた?」
「はい。ありがとうございます」
「よかった。顔洗ってきたら? 新しいタオル買ったんだ。使ってみて。朝食を食べたら、会社まで送るよ」
「いえ、久我さん、俺が運転しますよ、秘書なんだから」
「いい。俺が運転する。今日はそんな気分なんだよ」
冬麻は免許は取ったものの、ほとんど運転を任されることはない。今日は、じゃなくて今日も、久我が運転してくれるらしい。
「俺に任せて」
またまた久我に完璧な笑顔を向けられる。付き合いが長くなって少しずつわかってきたことだが、久我は感情を封印するときは隙のない完全よそいきの笑顔を作る。
ということは、今、久我は何か不満を抱えているということだ。
「あ、はは……ありがとうございます」
冬麻はとりあえずその場を離れて顔を洗いつつ、必死で考えを巡らせた。
最近の生活の何がいけなかったのだろう。何もせずにいたことを反省して、夕食を用意したことは喜んでもらえていたし、昨日は久我が夕食はいらないと言うから作らなかっただけだ。
夜、久我が帰ってくるのを待ちきれずに寝てしまったことがいけなかったのだろうか。あれは「起きて待ってます」とは伝えていないし、冬麻が勝手に起きていようと思っただけだ。
それでも薄情な恋人だと思われたのかもしれない。一昨日に引き続き、昨夜も別々で眠ることになり、身体の関係が途切れたことを怒っているのかもしれない。
「そういうことしたいなら、自分のベッドに連れて行けばいいじゃん……」
今さら別に寝ているところをベッドに拉致され襲われたってなんとも思わない。こっちは寝ぼけてても、この身体を勝手にしてくれたっていい。相手が久我ならそのくらいされても構わないのに。
「俺に言いたいことがあるならはっきり言ってよ……」
すぐに気持ちを閉ざしてしまうのは、久我の悪いところだ。あんなふうに笑って誤魔化されるほうが嫌だ。不満があるならガツンとぶつけてくれたほうがスッキリする。
とにかく自分に至らないところがあることは自覚している。具体的にどこがどうダメなのかハッキリしないのが気になるが、できるだけ尽くして頑張らなければ。
冬麻がダイニングの椅子に座ると同時に久我お手製の朝食が並べられる。久我も自分のぶんを目の前の席に置き、ふたり向かい合って朝食をとる。
久我はいつもより軽めの朝食だ。
「久我さん、食欲ないんですか?」
「うん。昨日、付き合いで飲み過ぎたから」
飲み過ぎたと言う割には、いつもどおりの爽やかな雰囲気だ。優しく微笑まれても、この笑顔の裏には何を隠してくるのかと、つい勘ぐってしまう。
「朝食、用意してくれてありがとうございます。いつも感謝してます」
いつもはあまり口にしないが、久我にお礼を言う。日常の小さなことにも相手への感謝を忘れてはいけないと思ったからだ。
「そう、よかった」
久我はまた完璧な笑顔を向けてくる。やっぱり何か違和感がある。その証拠に、このあとぱったり会話が続かないのだ。
——えーっと、会話、会話……。
「くっ、久我さんっ、日曜日デート楽しみですね!」
冬麻、渾身の明るい声で話しかけたのに、久我には「そうだね」と、笑顔でさらっと流されてしまった。
——なんだよ。せっかく誘ったのに乗り気じゃないなら最初から断ればいいのに。
「……冬麻、もしかして怒ってる?」
「えっ?」
久我に指摘されてやばいやばいと冬麻はすぐに態度を改める。
「そんなことないですよ。あ、時間やばいですね! ごちそうさま! 急いで支度します!」
ササッと朝食を終えて冬麻は席を立つ。
もう少しで、余計なひと言を言ってしまいそうだった。変なことを言って仲違いなんてしたくなかった。久我とは仲良くしていたいから。
きっと大丈夫だ。久々のデートに行って、ふたりきりでゆっくり話をして、いつもより熱い夜を過ごせば、わだかまりもなくなるはず。
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