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冬麻ハッピーラッキーLOVE作戦編2
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「えっ? これ、冬麻が作ったの?」
「はい! 頑張りました! どうですか、久我さんの口に合いそうですか?」
今日は飲食店経営の同業者の会合に出席していた久我の帰りを家で待ちながら、帰宅の時間に合わせて夕食を並べてみせた。
久我の疲労回復を思って作った和食だ。オクラと茄子の出汁ジュレ和え、鶏の照り焼き、大根など根野菜煮付けの突き出し三種類。メインは野菜とエビの天ぷら。それにきのこご飯と豆腐の赤だしをつけた。
「すごい……冬麻って実は料理上手だよね……」
「一応専門出て、調理師免許持ってますから」
専門卒業後、冬麻の職歴は久我の会社に就職してギャルソンからの秘書だ。そのため料理は最近疎かになっているが、もともと実家の居酒屋の手伝いをしていたのだから、苦手ではない。
「ありがとう。最近付き合いばかりで疲れてたから嬉しいよ」
久我は料理に箸をつけて、そのひとつひとつにいちいち「美味しい」と言って感想をつけてくれる。
「これからは俺が夕飯担当しますね。朝晩ともに久我さんが作るんじゃあ不公平になっちゃいます。俺、頑張りますから」
冬麻は自分の決意を込めて久我の前で言い切った。
恋人に甘えてばかりではいけない。自分が相手を支えてあげる気持ちでいなければならない。今日からでも心を入れ替えるべきだ。二年八ヶ月寄り添った恋人に捨てられないために。
「冬麻の手料理を食べられるのは嬉しいけど……急にどうしたの? 俺のことなら構わないからね? 俺は冬麻を幸せにするためだけに存在してるんだから」
「そうはいきませんよ。俺だって料理はできます。こ、恋人同士なんだから支え合わないと! これからは久我さんが朝ご飯担当で、俺が夜ご飯担当にしましょう」
「……わかった。でも言ってくれればいつでも代わるよ」
「大丈夫です、俺がちゃんとやりますから」
ルールを曖昧にしたら、なんとなく今までどおりの関係に戻ってしまいそうだと思った。ここは意地でもやり通したい。
「久我さんはゆっくりしててくださいね、後片付けも俺がやりますから」
「でも……」
「お仕事お疲れ様です。ほら、食べたらソファーでゴロゴロしてたらどうです?」
「片付けくらい俺がやるよ」
「いいんです! 久我さんはたまには休んでください、俺だって少しくらい役に立てますから」
手伝おうとする久我を制して、なんとかソファーでくつろがせる。
その間、冬麻は夕食の片付けを済ます。それが終わったら久我に緑茶を淹れて「どうぞ」と運んだ。
「そうだ、久我さん、今度の日曜日って仕事の予定、午前中だけでしたよね? 午後からふたりで出かけませんか?」
「えっ?」
お茶に手を伸ばそうとしていた久我が、ぴたと手を止めた。
「なんで急に? どこか行きたいところがあるの?」
「い、いえ特に行きたいとこなんてないんですけど……」
どうしよう。久我はあまり乗り気ではないようだ。なぜそんな面倒な話をするのだろうと思っているに違いない。
でも、家デートばかりでは飽きられてしまう。
「あっ、そうだ! 俺、魚見たいなって思ってて。水族館とかどうです? 久我さんは?」
「……いいよ。冬麻が行きたいならどこでもついていくけど」
「本当ですか? じゃあ日曜日、水族館に行きましょう!」
水族館でもどこでもいいから、外デートをこぎつけたかった。久我が乗り気でなくても約束さえしてしまえば、とりあえずはデートができそうだ。
「久我さん、肩マッサージしましょうか? こっちに背中向けてくださいっ」
「え? 大丈夫だから冬麻は少し休んだら? 明日は工場視察で朝早いよ」
「お気遣いありがとうございます、でも少しだけ。いいですか?」
「あぁ。わかった、ありがとう」
久我がこちらに背中を向ける。冬麻はソファーの上に膝立ちして、久我の両肩を丁寧にもみほぐしていく。
久我の背中は好きだ。実は久我は着痩せするタイプで、スーツの下の身体は筋肉質で逞しくて、綺麗な逆三角形をしている。
この仕事は体力勝負だからと運動は習慣化させているらしい。久我のストイックさにはいつも脱帽する。
ワイシャツに鼻を寄せるとすごくいい匂いがする。頼もしいこの背中を見るとなぜか抱きつきたくなる衝動に駆られるのはどうしてだろう。
「ごめんなさい、ちょっとだけ……」
マッサージをしなきゃいけないのに、魅力的な背中の誘惑に勝てずに後ろから久我に抱きついてみる。上質なワイシャツに頬を寄せると気持ちがいいし、あったかい。
やっぱり好きだ。大好きだ。この人と一緒にいるためだったらなんだって頑張れる。一年でも、一日でも長く一緒にいられるように努力は惜しまない。
「どうしたの? 冬麻」
「どうもしません。久我さん、もしかして嫌ですか?」
「嫌なわけがない」
「じゃあ、あと少し、背中を俺に貸してください」
冬麻は目を閉じる。五感のひとつを閉ざすと他の感覚が研ぎ澄まされるのか、より久我の温もりを感じる。
明日からも頑張ろうと思った。この居場所を失わないように、愛すべき恋人のためにできることはなんでもしてあげたいと改めて心に誓った。
「はい! 頑張りました! どうですか、久我さんの口に合いそうですか?」
今日は飲食店経営の同業者の会合に出席していた久我の帰りを家で待ちながら、帰宅の時間に合わせて夕食を並べてみせた。
久我の疲労回復を思って作った和食だ。オクラと茄子の出汁ジュレ和え、鶏の照り焼き、大根など根野菜煮付けの突き出し三種類。メインは野菜とエビの天ぷら。それにきのこご飯と豆腐の赤だしをつけた。
「すごい……冬麻って実は料理上手だよね……」
「一応専門出て、調理師免許持ってますから」
専門卒業後、冬麻の職歴は久我の会社に就職してギャルソンからの秘書だ。そのため料理は最近疎かになっているが、もともと実家の居酒屋の手伝いをしていたのだから、苦手ではない。
「ありがとう。最近付き合いばかりで疲れてたから嬉しいよ」
久我は料理に箸をつけて、そのひとつひとつにいちいち「美味しい」と言って感想をつけてくれる。
「これからは俺が夕飯担当しますね。朝晩ともに久我さんが作るんじゃあ不公平になっちゃいます。俺、頑張りますから」
冬麻は自分の決意を込めて久我の前で言い切った。
恋人に甘えてばかりではいけない。自分が相手を支えてあげる気持ちでいなければならない。今日からでも心を入れ替えるべきだ。二年八ヶ月寄り添った恋人に捨てられないために。
「冬麻の手料理を食べられるのは嬉しいけど……急にどうしたの? 俺のことなら構わないからね? 俺は冬麻を幸せにするためだけに存在してるんだから」
「そうはいきませんよ。俺だって料理はできます。こ、恋人同士なんだから支え合わないと! これからは久我さんが朝ご飯担当で、俺が夜ご飯担当にしましょう」
「……わかった。でも言ってくれればいつでも代わるよ」
「大丈夫です、俺がちゃんとやりますから」
ルールを曖昧にしたら、なんとなく今までどおりの関係に戻ってしまいそうだと思った。ここは意地でもやり通したい。
「久我さんはゆっくりしててくださいね、後片付けも俺がやりますから」
「でも……」
「お仕事お疲れ様です。ほら、食べたらソファーでゴロゴロしてたらどうです?」
「片付けくらい俺がやるよ」
「いいんです! 久我さんはたまには休んでください、俺だって少しくらい役に立てますから」
手伝おうとする久我を制して、なんとかソファーでくつろがせる。
その間、冬麻は夕食の片付けを済ます。それが終わったら久我に緑茶を淹れて「どうぞ」と運んだ。
「そうだ、久我さん、今度の日曜日って仕事の予定、午前中だけでしたよね? 午後からふたりで出かけませんか?」
「えっ?」
お茶に手を伸ばそうとしていた久我が、ぴたと手を止めた。
「なんで急に? どこか行きたいところがあるの?」
「い、いえ特に行きたいとこなんてないんですけど……」
どうしよう。久我はあまり乗り気ではないようだ。なぜそんな面倒な話をするのだろうと思っているに違いない。
でも、家デートばかりでは飽きられてしまう。
「あっ、そうだ! 俺、魚見たいなって思ってて。水族館とかどうです? 久我さんは?」
「……いいよ。冬麻が行きたいならどこでもついていくけど」
「本当ですか? じゃあ日曜日、水族館に行きましょう!」
水族館でもどこでもいいから、外デートをこぎつけたかった。久我が乗り気でなくても約束さえしてしまえば、とりあえずはデートができそうだ。
「久我さん、肩マッサージしましょうか? こっちに背中向けてくださいっ」
「え? 大丈夫だから冬麻は少し休んだら? 明日は工場視察で朝早いよ」
「お気遣いありがとうございます、でも少しだけ。いいですか?」
「あぁ。わかった、ありがとう」
久我がこちらに背中を向ける。冬麻はソファーの上に膝立ちして、久我の両肩を丁寧にもみほぐしていく。
久我の背中は好きだ。実は久我は着痩せするタイプで、スーツの下の身体は筋肉質で逞しくて、綺麗な逆三角形をしている。
この仕事は体力勝負だからと運動は習慣化させているらしい。久我のストイックさにはいつも脱帽する。
ワイシャツに鼻を寄せるとすごくいい匂いがする。頼もしいこの背中を見るとなぜか抱きつきたくなる衝動に駆られるのはどうしてだろう。
「ごめんなさい、ちょっとだけ……」
マッサージをしなきゃいけないのに、魅力的な背中の誘惑に勝てずに後ろから久我に抱きついてみる。上質なワイシャツに頬を寄せると気持ちがいいし、あったかい。
やっぱり好きだ。大好きだ。この人と一緒にいるためだったらなんだって頑張れる。一年でも、一日でも長く一緒にいられるように努力は惜しまない。
「どうしたの? 冬麻」
「どうもしません。久我さん、もしかして嫌ですか?」
「嫌なわけがない」
「じゃあ、あと少し、背中を俺に貸してください」
冬麻は目を閉じる。五感のひとつを閉ざすと他の感覚が研ぎ澄まされるのか、より久我の温もりを感じる。
明日からも頑張ろうと思った。この居場所を失わないように、愛すべき恋人のためにできることはなんでもしてあげたいと改めて心に誓った。
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