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「冬麻。朝と夜の時差がある電話はできないけど、俺と直接話すことはできるよ」
「……は、はい?」

 んーと、どう言う意味だろうか。

「ヨーロッパ出張に一緒について来てくれ、冬麻」
「えっ……」

 咄嗟のことで久我の言っていることが理解できない。

「冬麻とふたりで行きたいんだ。これは仕事で、社長命令だよ」
「でもチケットが……」

 冬麻が手配したときならばいいが、出張は目前だ。今から飛行機に空きがあるだろうか。

「チケットは用意してある」
「えっ!!」
「冬麻が手配したあと、櫂堂にチェックしてもらったでしょ?」
「……はい」
「そのときに冬麻のぶんを櫂堂に手配させた」
「えぇっ!」

 まったく知らなかった。櫂堂もひと言もそんな話はしていなかった。

「ごめん。ちょっとしたサプライズのつもりで……。多少の仕事はある。でも、俺としては冬麻と新婚旅行するみたいなイメージなんだ。冬麻と付き合うようになって、指輪まで交わしたのに一度も旅行に行けてない。なんとかしたかったんだけど、仕事がたてこんでこんなに遅くなった」

 そうだ。秘書課にうつりたいならパスポート取得が必須だと言われ、一年ほど前にパスポートを作らされた覚えがある。あのときから久我はいつかふたりで旅行に行くことを考えていたのかもしれない。



「冬麻、来週からのヨーロッパ、俺についてきてくれる?」
「はっ、はい!」

 会えないと思ってたのに、急にずっと一緒にいられるということだ。しかもフランス&スペインで。

「よかった。飛行機も俺の隣、ホテルもふたりで泊まるようにしてあるから」

 冬麻のまったく知らないうちに櫂堂とふたりで何もかも用意されていたようだ。

「まだ信じられません……」

 実感が湧かない。冬麻は初めての海外旅行だ。でも久我が一緒にいてくれるのならそこに不安なんてない。なんだかワクワクしてきた。

「冬麻には今日みたいにパリやジローナのレストランで俺と一緒に食事をする仕事があるからね」
「そんなの仕事のうちに入りませんよ……」

 久我とふたりで食事をするなんて、楽しいだけだ。なんの負担もない。

「ついでに観光もしようか。エッフェル塔やルーブル、オルセー美術館に行く? 冬麻も行きたいところがあれば、そこに寄れるようにしよう」
「俺、まさかこんなことになるなんて思わなかったんで……。今から行きたいところ考えてみます」
「そうだよね。急でごめん」
「いいえ。久我さんと一緒に行けるなら、すごく嬉しいです」

 最高の仕事だ。仕事と呼ぶには申し訳ないくらいの内容だ。

「俺も。冬麻とふたりきりで旅行に行くのが夢だったから、それが叶いそうで嬉しいよ」

 久我は冬麻に微笑みかけてきた。

「冬麻。旅行に必要なものがあれば俺と買いに行こう。それも全部誕生日プレゼントにさせてよ」
「あ、ありがとうございます……」

 言われてみるとスーツケースからして持っていない。他にも色々必要なものがあるかもしれない。

「やばい。来週が楽しみになってきた。こんな可愛い秘書とふたりで出張だなんて最高だ」

 久我は時々仕事とプライベートを線引きするのを忘れてしまうときがある。そういうところはちょっとだけ心配だ。
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