上 下
76 / 124

64.耐えなければ

しおりを挟む
「いい? 身体に触るよ?」

 梶ヶ谷が冬麻の身体を両腕で抱き締めた。恋人にするように優しく、少し艶めかしく。

 抱き締められてわかる。ものすごく嫌だ。梶ヶ谷と触れ合っているだけで耐えられない。背中を優しく撫でられても気持ちが悪いとしか思えない。

「逃げないんだ。ちゃんと俺に抱かれる覚悟してきたんだね。可愛いなぁ」

 梶ヶ谷は冬麻の髪を撫でる。それから冬麻は梶ヶ谷に身体を触れられるがままだ。
 それに身を固くして耐える。人形のように感情を殺し、何も感じないようにしていたのに、梶ヶ谷の手でいやらしく尻を撫で回されたとき、堪えきれずに涙が溢れてきた。

「えっ?! 冬麻くん泣いてるの?!」

 スンスン鼻を啜っていたら、梶ヶ谷に気づかれた。

「ちょっと待ってよ、まだ俺何もしてないけど?」

 梶ヶ谷の言うとおりだ。ちょっと触られたくらいで泣くなんて自分はどうかしている。こんな状態でこれから梶ヶ谷にされることに耐えられるのだろうか。



「やばい」

 梶ヶ谷は冬麻を顔を覗き込み、冬麻の涙に指で触れた。

「その泣き顔、マジでそそられるわ。ねぇ、写真撮っていい?」

 冬麻は強く首を横に振る。嫌に決まっているのに、そんなことをさらっという梶ヶ谷はとんでもなく意地が悪い。

「これ、久我くんが見たら発狂すんじゃねぇ? やっば。俺、興奮してきたわ」

 梶ヶ谷は躊躇なく冬麻のシャツのボタンに手をかけた。三つボタンを外したあと、梶ヶ谷は乱暴にシャツを引っ張り、冬麻の首筋の肌を露わにし、そこへ唇を当てて吸いついてくる。

「いっ……た……!」

 やめて欲しくて冬麻が手を出したら、梶ヶ谷にその手を捕まれ、両手首をドアに押さえつけられ、抵抗ができない。

「あっ……!」

 梶ヶ谷は冬麻の首筋に、キスをして吸いつき、アザをつけようとしている。


 冬麻が嫌がるからしないと、久我にもされたことないのに。

「やだぁ……!」

 冬麻が嫌がり身をよじっても、梶ヶ谷はやめてくれなかった。

 梶ヶ谷がやっと離れたあと、壁に備え付けてある鏡に映った自分を見ると、誤魔化せないくらいにくっきりアザができている。


「ひどい……」
「これが消えるまでは久我くんの前で服を脱ぐことはできないね。理由をつけてセックスは断りなよ。久我くんもしばらくはお預けくらうのか。ざまぁみろだな」

 さっきからの梶ヶ谷の言動がおかしい。まるで冬麻が久我の恋人だととっくに気がついているような喋りだ。

「まぁ、恋人同士ならキスマくらいつけるよね? 久我くんにも散々つけられてんじゃないの?」
「だから、久我さんとは何の関係も——!」
「嘘だ」

 梶ヶ谷は冬麻の言葉を遮った。

「間違いない。久我くんが最も大事にしているものは君だよね? 初めて君と久我くんをホテルで見かけたときから怪しいなと思ってたんだ。君を見ているときの久我くんの顔。あんな顔をする久我くんを俺は初めて見た」

 梶ヶ谷は、最初から久我と冬麻の仲を疑って、それで冬麻に近づいてきたのか。

「久我くんが君みたいな子を社長秘書にするのもおかしい。それで冬麻くんと話してみたら、久我くんと違って君には隙だらけ。俺が『久我くんが女連れてるのみたことない』って言ったら喜んじゃってるし、久我くんのことを社長と呼ばずに久我さんと呼んでみたり、冬麻くんは上手く誤魔化しているつもりなのかもしれないけど君は嘘が下手。あれじゃすぐにバレるよ」
「…………っ!」

 梶ヶ谷にせめられ、冬麻は反撃の言葉が咄嗟にみつからない。

「久我くんとどれくらい付き合ってるの? 久我くんが指輪をし始めたのは二年くらい前だから、もしかして結構長い付き合いなんじゃない? 一緒に暮らしているみたいだから久我くんと身体の関係は当然あるんでしょ?」

 梶ヶ谷は冬麻の腕をぐいっと引き、部屋の中へと連れ込む。ベッドのすぐそばまで来たら、ドンッと身体を押されて冬麻はベッドの上に倒れ込んだ。



「まぁいいや。とりあえずフェラ、お願いしてもいいかな?」

 梶ヶ谷は冬麻の身体を引っ張り、自分の下半身へ冬麻の頭を近づけさせようとする。

「えっ! 無理っ……したことない……」

 冬麻は梶ヶ谷の手を必死で振り払う。

「へっ? したことないってどういうこと? 久我くんにフェラしないの?」
「…………」

 久我にそれをされたことは何度もある。でも自分からしたことはないし、久我にそれを強制されたことも、頼まれたことも一度もない。

「え? マジで?!」

 冬麻が何も答えないことが、答えだと思ったようだ。梶ヶ谷は驚き、珍獣をみるかのような目で冬麻を見ている。

「久我くん、君にフェラもさせないの?! 待って、マジでびっくりなんだけど。二年も付き合ってるのにそういうの、まだないの?!」
「し、してもらったことは……」

 言われて気がついた。男同士なのだから久我だけがやって、冬麻がやらないというのはおかしなことなのかもしれない。


「久我くん。君にご奉仕セックスしかしないってこと? 久我くんは、冬麻くんの嫌がることはしないタイプなんでしょ?」
「はい。絶対にしません……」
「うっわ。すっげ! 久我くんは本当に冬麻くんのこと大事にしてるんだね。これはやばいな……」

 梶ヶ谷と久我の話をしているうちに、久我に会いたくなってきた。

 そうだ。今日家に帰ったら、久我が戻るまで起きて待っていよう。それでお願いすれば冬麻のことを抱いてくれるに違いな……
 駄目だ。梶ヶ谷に変な痕をつけられてしまったから、しばらくの間は久我とはできない。梶ヶ谷に触られた部分が気持ち悪いから早く忘れるためにも久我に触れて欲しかったのに。


「じゃあフェラはとっておこう。だって冬麻くんのお口はバージンなんだもんね? 後でゆっくりやり方を俺が教えてあげるよ。久我くんより先に冬麻くんを犯せるの、たまんねぇな! あいつ相当悔しがるだろうな!」

 何がそんなに嬉しいのか梶ヶ谷はバカ笑いしている。
 ニヤついた顔で、梶ヶ谷もベッドに上がった。ふたり分の重みでベッドがギシリと軋んだ音を立てた。


「冬麻くんは偉いねぇ。久我くんのために、俺に抱かれにきたんだもんね?」

 梶ヶ谷が迫ってくる。

 駄目だ。怖い。嫌だ。自分でここまできたくせに、今すぐ走って逃げ出したい。
しおりを挟む
感想 47

あなたにおすすめの小説

隠れヤンデレは自制しながら、鈍感幼なじみを溺愛する

知世
BL
大輝は悩んでいた。 完璧な幼なじみ―聖にとって、自分の存在は負担なんじゃないか。 自分に優しい…むしろ甘い聖は、俺のせいで、色んなことを我慢しているのでは? 自分は聖の邪魔なのでは? ネガティブな思考に陥った大輝は、ある日、決断する。 幼なじみ離れをしよう、と。 一方で、聖もまた、悩んでいた。 彼は狂おしいまでの愛情を抑え込み、大輝の隣にいる。 自制しがたい恋情を、暴走してしまいそうな心身を、理性でひたすら耐えていた。 心から愛する人を、大切にしたい、慈しみたい、その一心で。 大輝が望むなら、ずっと親友でいるよ。頼りになって、甘えられる、そんな幼なじみのままでいい。 だから、せめて、隣にいたい。一生。死ぬまで共にいよう、大輝。 それが叶わないなら、俺は…。俺は、大輝の望む、幼なじみで親友の聖、ではいられなくなるかもしれない。 小説未満、小ネタ以上、な短編です(スランプの時、思い付いたので書きました) 受けと攻め、交互に視点が変わります。 受けは現在、攻めは過去から現在の話です。 拙い文章ですが、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。 宜しくお願い致します。

美形な幼馴染のヤンデレ過ぎる執着愛

月夜の晩に
BL
愛が過ぎてヤンデレになった攻めくんの話。 ※ホラーです

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

ヤンデレだらけの短編集

BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。 全8話。1日1話更新(20時)。 □ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡 □ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生 □アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫 □ラベンダー:希死念慮不良とおバカ □デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。

弱すぎると勇者パーティーを追放されたハズなんですが……なんで追いかけてきてんだよ勇者ァ!

灯璃
BL
「あなたは弱すぎる! お荷物なのよ! よって、一刻も早くこのパーティーを抜けてちょうだい!」 そう言われ、勇者パーティーから追放された冒険者のメルク。 リーダーの勇者アレスが戻る前に、元仲間たちに追い立てられるようにパーティーを抜けた。 だが数日後、何故か勇者がメルクを探しているという噂を酒場で聞く。が、既に故郷に帰ってスローライフを送ろうとしていたメルクは、絶対に見つからないと決意した。 みたいな追放ものの皮を被った、頭おかしい執着攻めもの。 追いかけてくるまで説明ハイリマァス ※完結致しました!お読みいただきありがとうございました! ※11/20 短編(いちまんじ)新しく書きました! 時間有る時にでも読んでください

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

処理中です...