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番外編 忘れられない一日6
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「えっ! どうして?!」
久我は驚いてスマホを投げ出し立ち上がった。
「俺がここにいても仕事の邪魔でしょ? 俺は『余計なこと』なんですから」
離れろだの、余計だのと言われて目も合わせず仕事をされるなら、冬麻がここにいる必要なんてない。
「嫌だ、行かないで!」
「いいえ帰ります」
意味がわからない。なんで冬麻を避けておきながら引きとめてくるのか。
「冬麻っ!」
久我は帰ろうとする冬麻を追いかけてきて、突然後ろから抱き締めてきた。
「嫌だ。絶対に行かせない! もう冬麻とこれ以上離れたくないっ! やっと72時間経ったのに……」
苦しいくらいに強く抱き締められる。久しぶりの抱擁に嬉しくなるけど、ちょっと気になることが……。
「久我さん、72時間ってなんのことですか?」
冬麻が訊ねると、久我は冬麻の身体を腕の中で反転させ、冬麻の腰を抱きながら「えっ、冬麻が言い出したことでしょ?」と冬麻の顔を驚いた顔で見ている。
「まさか、『三日間お触りなし』のことでしょうか……」
「うん。三日前の23時05分に、冬麻が言ったでしょ? 今、やっと約束の72時間終わったんだよ? それなのにどうして冬麻は俺から離れようとするの?」
「えっ……」
これは捉え方の違いだ。
冬麻は火・水・木の三日間のつもりだったが、久我は正確にルール開始の時間を一分単位で考えてそこから72時間が経つのを待っていたんだ。
「だから、今日、久我さんは俺のことを避けたんですか……?」
「避けたなんて言い方しないでよ。俺は冬麻との約束をきっちり守りたかっただけ」
「なんだ……。そうだったんですか……」
今朝出勤前のキスをしてくれなかったのも、車で別れ際に避けられたのも、ついさっきの拒絶も、久我の中では『72時間冬麻に接触禁止』が頭にあったからだったんだ。
「俺、久我さんに嫌われたのかと……」
「俺が冬麻を嫌いになる?! そんなこと絶対にない。俺、冬麻に何をされても冬麻のこと嫌いにならないよ。俺は冬麻がこの世にいるから生きてるんだから」
久我は大真面目な顔をしてそう言い切った。
「俺、実は三日間って、火・水・木の三日間って思ってて……」
「72時間じゃなかったの?!」
「金曜日……今日の朝になっても久我さんが全然何もしてくれないから……それどころか俺を避けるようなことをするから……」
「待って冬麻。俺はいつから冬麻に許されてたの?!」
「え……?」
「金曜日の午前0時は? オッケーだったの?」
「そこまで考えてなかったです……なんとなく三日経った日の朝くらいかな、なんて思ってましたけど……」
その場で急に考えたルールだったから、そんな明確な時間までは考えていなかった。でも金曜0時がオッケーなら、火曜23時05分から開始したとしたら、実質二日間だな、と思った。
「冬麻……まだルールが曖昧なら、金曜0時からオッケーにしようか?」
ん……? なんか久我がどことなく嬉しそうな様子だ。
「冬麻の思ったとおり、開始した日から数えて三日間にしよう。それで、午前0時に日付が変わったら終了。今後はそうしよう」
それって、三日間ルールの捉え方うち、一番時間が短くなるプランじゃないのか……?
「ねぇ冬麻。金曜日の朝になっても俺が何もしてくれないって、いったい俺に何をして欲しかったの?」
「えっ?!」
そんなの決まってる。おはようのハグや、出勤前のキスのことだ。
でもそんなこと、答えられる訳がない。
「こういうこと?」
久我は冬麻の髪に触れ、頭を撫で撫でしている。
「それとも、こういうこと?」
久我は冬麻の身体を抱き寄せた。
「もしかして、ここまで考えてくれた?」
久我は両手で冬麻の頬に触れ、冬麻に上を向かせてそのまま唇を重ねるだけのキスをした。
「三日ぶりの冬麻とのキスだ……」
久我はこの上なく幸せそうな顔をして冬麻を見つめている。
「俺はここにいていいんですか? 久我さんは今日、俺にきて欲しくなかったんでしょう?」
「いいに決まってる。だからパーティーの最中になんとかして冬麻をこの部屋に誘ったんだから」
「俺は『余計なこと』なのに?」
「違う、冬麻。だって、冬麻もパーティーのときの俺を見てたでしょ? あんな姿を冬麻に見られたくなかった……」
あんな姿……? まるでウェディングパーティーの新郎新婦のように振る舞っていた姿のことか……?
「冬麻だってすごく寂しそうな顔をして俺を見てた。偽物だとはいえ、恋人が目の前でウェディングみたいなことをしてたら嫌な気分になるよね。本当にごめん」
「いえ……仕事ですものね……ファーストバイトとか断れる空気じゃなさそうでしたし……」
「今日のパーティーのことは冬麻には黙っていようと思ってたのに、勝手なことをした櫂堂に腹を立てたんだよ! あいつ、なんでこんなこと……」
久我が怒っていたのは秘書の櫂堂のことだったのか。
「俺は冬麻とファーストバイトしたかった。あの場で冬麻のところに行って、冬麻を引っ張ってこようと思ったくらいなんだから!」
「え! やめてください!」
あの場で久我に引っ張られていたら。「冬麻は俺の恋人だ」なんてみんなの前で宣言されたとしたら、たまったものじゃない。
「冬麻が俺の花嫁役をやってくれたらよかったのに……」
「いやあの、断固拒否します……」
それだけは絶対に嫌だ。
「——じゃあ、今やろうか?」
「はぁ?!」
「ふたりだけの、ウェディングパーティー」
「はい?!」
なんだなんだ、突然何を言い出すんだ?!
久我は驚いてスマホを投げ出し立ち上がった。
「俺がここにいても仕事の邪魔でしょ? 俺は『余計なこと』なんですから」
離れろだの、余計だのと言われて目も合わせず仕事をされるなら、冬麻がここにいる必要なんてない。
「嫌だ、行かないで!」
「いいえ帰ります」
意味がわからない。なんで冬麻を避けておきながら引きとめてくるのか。
「冬麻っ!」
久我は帰ろうとする冬麻を追いかけてきて、突然後ろから抱き締めてきた。
「嫌だ。絶対に行かせない! もう冬麻とこれ以上離れたくないっ! やっと72時間経ったのに……」
苦しいくらいに強く抱き締められる。久しぶりの抱擁に嬉しくなるけど、ちょっと気になることが……。
「久我さん、72時間ってなんのことですか?」
冬麻が訊ねると、久我は冬麻の身体を腕の中で反転させ、冬麻の腰を抱きながら「えっ、冬麻が言い出したことでしょ?」と冬麻の顔を驚いた顔で見ている。
「まさか、『三日間お触りなし』のことでしょうか……」
「うん。三日前の23時05分に、冬麻が言ったでしょ? 今、やっと約束の72時間終わったんだよ? それなのにどうして冬麻は俺から離れようとするの?」
「えっ……」
これは捉え方の違いだ。
冬麻は火・水・木の三日間のつもりだったが、久我は正確にルール開始の時間を一分単位で考えてそこから72時間が経つのを待っていたんだ。
「だから、今日、久我さんは俺のことを避けたんですか……?」
「避けたなんて言い方しないでよ。俺は冬麻との約束をきっちり守りたかっただけ」
「なんだ……。そうだったんですか……」
今朝出勤前のキスをしてくれなかったのも、車で別れ際に避けられたのも、ついさっきの拒絶も、久我の中では『72時間冬麻に接触禁止』が頭にあったからだったんだ。
「俺、久我さんに嫌われたのかと……」
「俺が冬麻を嫌いになる?! そんなこと絶対にない。俺、冬麻に何をされても冬麻のこと嫌いにならないよ。俺は冬麻がこの世にいるから生きてるんだから」
久我は大真面目な顔をしてそう言い切った。
「俺、実は三日間って、火・水・木の三日間って思ってて……」
「72時間じゃなかったの?!」
「金曜日……今日の朝になっても久我さんが全然何もしてくれないから……それどころか俺を避けるようなことをするから……」
「待って冬麻。俺はいつから冬麻に許されてたの?!」
「え……?」
「金曜日の午前0時は? オッケーだったの?」
「そこまで考えてなかったです……なんとなく三日経った日の朝くらいかな、なんて思ってましたけど……」
その場で急に考えたルールだったから、そんな明確な時間までは考えていなかった。でも金曜0時がオッケーなら、火曜23時05分から開始したとしたら、実質二日間だな、と思った。
「冬麻……まだルールが曖昧なら、金曜0時からオッケーにしようか?」
ん……? なんか久我がどことなく嬉しそうな様子だ。
「冬麻の思ったとおり、開始した日から数えて三日間にしよう。それで、午前0時に日付が変わったら終了。今後はそうしよう」
それって、三日間ルールの捉え方うち、一番時間が短くなるプランじゃないのか……?
「ねぇ冬麻。金曜日の朝になっても俺が何もしてくれないって、いったい俺に何をして欲しかったの?」
「えっ?!」
そんなの決まってる。おはようのハグや、出勤前のキスのことだ。
でもそんなこと、答えられる訳がない。
「こういうこと?」
久我は冬麻の髪に触れ、頭を撫で撫でしている。
「それとも、こういうこと?」
久我は冬麻の身体を抱き寄せた。
「もしかして、ここまで考えてくれた?」
久我は両手で冬麻の頬に触れ、冬麻に上を向かせてそのまま唇を重ねるだけのキスをした。
「三日ぶりの冬麻とのキスだ……」
久我はこの上なく幸せそうな顔をして冬麻を見つめている。
「俺はここにいていいんですか? 久我さんは今日、俺にきて欲しくなかったんでしょう?」
「いいに決まってる。だからパーティーの最中になんとかして冬麻をこの部屋に誘ったんだから」
「俺は『余計なこと』なのに?」
「違う、冬麻。だって、冬麻もパーティーのときの俺を見てたでしょ? あんな姿を冬麻に見られたくなかった……」
あんな姿……? まるでウェディングパーティーの新郎新婦のように振る舞っていた姿のことか……?
「冬麻だってすごく寂しそうな顔をして俺を見てた。偽物だとはいえ、恋人が目の前でウェディングみたいなことをしてたら嫌な気分になるよね。本当にごめん」
「いえ……仕事ですものね……ファーストバイトとか断れる空気じゃなさそうでしたし……」
「今日のパーティーのことは冬麻には黙っていようと思ってたのに、勝手なことをした櫂堂に腹を立てたんだよ! あいつ、なんでこんなこと……」
久我が怒っていたのは秘書の櫂堂のことだったのか。
「俺は冬麻とファーストバイトしたかった。あの場で冬麻のところに行って、冬麻を引っ張ってこようと思ったくらいなんだから!」
「え! やめてください!」
あの場で久我に引っ張られていたら。「冬麻は俺の恋人だ」なんてみんなの前で宣言されたとしたら、たまったものじゃない。
「冬麻が俺の花嫁役をやってくれたらよかったのに……」
「いやあの、断固拒否します……」
それだけは絶対に嫌だ。
「——じゃあ、今やろうか?」
「はぁ?!」
「ふたりだけの、ウェディングパーティー」
「はい?!」
なんだなんだ、突然何を言い出すんだ?!
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