借金のカタにイケメン社長に囲われる

雨宮里玖

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番外編 忘れられない一日3

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 その来訪者は本当に突然やってきた。

 男は、レストランのランチ営業が終わりに差し掛かる時間に、これからパーティーに出席するような艶のあるスーツと、シルバーのネクタイ、ポケットチーフを携え、受付でディレクトール(支配人)にうやうやしく頭を下げた。

「急なことで大変申し訳ありませんが、外苑前の人員をこちらに割いていただけませんでしょうか? どうか力をお貸しください」

 ディレクトールと話をする男を見て冬麻はハッとする。
 あの男は、久我の秘書の櫂堂だ。

「レセプションパーティーの料飲サービスを行う人員を急遽集めております。レストランのオープニングスタッフだけでは足りず、サービスの質が低下するとの判断で他店舗から即戦力の経験者を募っています。外苑前のギャルソンをひとり、私共にお貸しください」
「こんなことってあるんですか……」

 ディレクトールは急な頼みに戸惑っている様子だ。

「はい。ひとりでもふたりでもと駆け回ってスタッフを確保に回っている最中です」

 ディレクトールと話していたはずの櫂堂は、急に冬麻のほうを向いた。冬麻が櫂堂を見ていたせいでバッチリ目が合う。
 櫂堂からの強い視線。無言の圧力をひしひしと感じる。
 櫂堂の視線の先に気がついてディレクトールも冬麻のほうを見た。

「彼をお借りしてもよろしいですか? ディレクトール」

 櫂堂は冬麻から視線を外さずに、ディレクトールに言う。

「二ノ坂はまだここに来て半年も経たない新人ですが……」
「この店で半年も経験があれば十分です。彼をお借りできますか?」

 櫂堂とディレクトールのふたりが冬麻のもとへとやってくる。

「二ノ坂。話は聞いてたか?」

 ディレクトールに言われ、「はい」と頷くしかない。

「二ノ坂さん、はじめまして。櫂堂と申します」

 櫂堂とは久我のマンションで一度面識がある。それなのに櫂堂は「はじめまして」と頭を下げた。
 ディレクトールの手前、何もなかったことにしているのか……?

「今から他店舗の応援に来ていただけませんでしょうか? どうかお願いいたします」
「二ノ坂すまない。この人の頼みは断れないんだ。引き受けてくれないか?」

 ディレクトールと櫂堂。このふたりに仕事を頼まれて断れるはずがない。

「わかりました。できる限りやってみます」

 冬麻はふたりに対して大きく頷いた。






 冬麻はレセプションパーティーが行われる新店舗に到着した。
 すぐに指定された制服に着替え、新店舗のオープニングスタッフや他店舗から応援にきた社員に混ざって、冬麻も付け焼き刃の説明を受ける。
 応援にきた社員は受付やクローク担当などさまざまな仕事を割り当てられているのだが、冬麻の担当はウェイター業務だ。

 こんな突然で仕事をこなせるのか不安だが、立食パーティーだから個々の客に対する料理のサーブはないし、主に飲み物を提供したり空いた食器に目を配ればなんとかなるだろう。

 まずは会場のセッティングを手伝う。レストランにあるテーブルや椅子を指示通りに配置していくのだが、作業をしていて気がついた。
 このレストランは眺望がいい。階としては八階なのでそれほど高さはないが、天井高のレストランの大きなガラス窓の向こうにはかなりの広さのテラスがあり、その真下の七階はキレイに整備され緑地化されたビルの屋上庭園だ。

 冬麻はさっき受けたばかりの説明を思い出す。このレストランのコンセプトは「忘れられない思い出を創る場所」だった。
 印象的な料理を提供する、ハイレベルな空間を用意し、夢の中にいるような居心地の良さを創り出す。

 レストラン業務だけでなく貸切パーティーもできるようにスクリーンや各種機器、照明の設備もあるらしい。ガーデンウェディングなども行えるよう広いテラスがあると説明を受けた。

 久我の会社はさまざまなことにチャレンジする会社のようだ。
 フランチャイズの価格を抑えたレストランチェーンもあるし、一店舗のみのこだわりのレストランもある。ホテルチェーンとの合同事業、レストランのシステム化を進めるソフトウェアまで開発し、他社販売まで考えているとか……。

 そういえば最近の久我は、家でも仕事をしてばかりだ。「俺と仕事とどっちが大事ですか」など面倒くさいことは言う気はないけれど、仕事が今以上に忙しくなって前みたいに構ってくれなくなったらと、少し寂しく思う。



「社長!」

 社員の誰かの声に冬麻も振り返る。会場に久我が到着したようだ。
  
 ——なんだあれ!!

 久我は白のタキシードを身に纏っている。ネクタイも白、靴も白。胸に白いバラを差し、まるで花婿だ。
 その久我の隣を歩くのは純白のウェディングドレスと白いバラのブーケを持っている超絶美人。
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