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42.ふたりの想い
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「冬麻……」
「今度こそ俺も頑張りますから。久我さんばかり頼ってた俺が悪かったんです」
久我とは恋人同士だったけど、その天秤は全然つり合ってなかったと思う。いつも与えられてばかり。してもらってばかりだった。
「これ以上冬麻は何を頑張るの……? 俺を好きになってくれて、俺のためにそんな覚悟までしてくれて、さっきから俺はもう充分すぎるくらい——」
「そんなことないです。こうやってきちんと言葉で伝えなきゃ。最初は久我さんに押されっぱなしでしたけど、俺だって……俺なりに恋、してました。気づかない間に好きになってて、今はもうそばにいないと苦しいくらいに好きです」
恋だの愛だの、久我に出会うまではそんなことと無縁に過ごしてきた。それがある日突然現れた人に心をかき乱され、気がついたら心の最奥まですっかり染められていた。
「冬麻はどうしてこんな俺を愛してくれるの? 初めて出会ったときからそう。冬麻はどうしていつも俺を救ってくれるの?」
久我は冬麻を愛おしそうに見つめてきた。
「十年前、初めて会ったときから、冬麻は俺の道標みたいなものなんだ。初めて冬麻を見たときのこと、俺は今でも覚えてるよ。きっと一生忘れない。全身の細胞が活性化するみたいな感覚だった。今まで動いていなかった部分の脳が目覚めて、未知の力を手にしたような、不思議な感覚だった」
すごいな……。覚醒する、生まれ変わる、そんな言葉があるけれど冬麻に会っただけで久我はそのような感覚になったのかもしれない。
その話をしていて思い出した。以前久我は初めて冬麻を見たとき陽向だと思ったと嘘をついていたことを。
「そういえば久我さん。俺に嘘をつきましたよね」
冬麻はジトッと責めるような目をわざと久我に向けて言う。
久我は「えっ、何の話?」と身体をビクッとさせ、何事かと身構えている様子だ。
何か冬麻に責められると思って怯えながらもこちらの様子を伺っている久我はちょっと可愛い。
「櫂堂さんからあのバースデー写真のことも全部聞きました。俺を陽向くんの代わりにしてたって。俺を見るたびに陽向くんを思い出してたなんて言って、本当はそんなこと、一度も思ったことないんでしょう?」
冬麻はずいっと久我の真っ正面から顔を近づける。
「そんな嘘をつかれても俺は久我さんのことを嫌いになりませんでしたよ。だからもうそんなことは言わないでください」
久我から嘘をつかれて悲しい気持ちになった。例え冬麻のためだとしてもああいうことはもうやめて欲しい。
「そうだよ、冬麻のこと、一度も陽向の代わりだなんて思ったことないよ。陽向と冬麻はまるで正反対だ」
久我は優しく微笑みながら白状した。
「陽向は好き嫌いが多くて、食にあまり興味はない子だったけど、冬麻はなんでも食べるよね。俺の料理をいつも美味しそうに食べてくれるところ、すごく好き」
久我の料理の腕前は相当なものだ。お世辞でも気を遣っているわけでもなく全部美味しい。
「陽向はあまり感情を表に出さなくて難しい子だったけど、冬馬はすごく素直。笑ってる冬麻も怒ってる冬麻も、俺に偽りなく気持ちをぶつけてくれるんだって嬉しくなる」
たしかに冬麻は人からわかりやすい奴だと言われることが多い。それって長所なのか……?
「陽向は俺のたったひとりの弟。冬麻は俺がたったひとり結ばれたいと思った人。俺はふたりとも大好きだけど、意味が違う」
たしかにそうだ。家族も恋人も大切な人には変わりないけど……。
「俺。冬麻のことが好き。昔からずっと好きだったけど、冬麻の近くにいて、一緒にいればいるほど冬麻に惹かれていった。好きになるって際限がないんだなって思い知ったよ。ああもうこれ以上の好きはないっ! て思うのに次の日にはもっともっと好きになってる」
久我にこんなことを言ってもらえる日がくるなんて、嬉しくて泣きそうになる。
「触れ合ってるときも冬麻のことしか考えてないけど、離れていても冬麻のことばかり考えてる。俺は冬麻のことしか考えられないの。冬麻がそばにいると嬉しくて、離れていたら苦しくて、ただそれだけで気持ちが揺れてる。本当に単純な思考で自分自身で呆れてるよ」
「久我さん……」
本当にそうだったらすごいことだ。冬麻だって今、まさしくそんな状態なのだから。
「冬麻。俺の恋人になってくれる? もう一度、冬麻と一緒に暮らしたい。ずっとそばにいて欲しい」
また一緒にいられる。好きな人のそばにいられると思っただけでこんなに嬉しくなるのはどうしてだろう。
「はい……」
こらえきれずに涙が溢れる。別れてからもずっと、久我と過ごせる毎日をとり戻したいと願っていたから。
「今度こそ俺も頑張りますから。久我さんばかり頼ってた俺が悪かったんです」
久我とは恋人同士だったけど、その天秤は全然つり合ってなかったと思う。いつも与えられてばかり。してもらってばかりだった。
「これ以上冬麻は何を頑張るの……? 俺を好きになってくれて、俺のためにそんな覚悟までしてくれて、さっきから俺はもう充分すぎるくらい——」
「そんなことないです。こうやってきちんと言葉で伝えなきゃ。最初は久我さんに押されっぱなしでしたけど、俺だって……俺なりに恋、してました。気づかない間に好きになってて、今はもうそばにいないと苦しいくらいに好きです」
恋だの愛だの、久我に出会うまではそんなことと無縁に過ごしてきた。それがある日突然現れた人に心をかき乱され、気がついたら心の最奥まですっかり染められていた。
「冬麻はどうしてこんな俺を愛してくれるの? 初めて出会ったときからそう。冬麻はどうしていつも俺を救ってくれるの?」
久我は冬麻を愛おしそうに見つめてきた。
「十年前、初めて会ったときから、冬麻は俺の道標みたいなものなんだ。初めて冬麻を見たときのこと、俺は今でも覚えてるよ。きっと一生忘れない。全身の細胞が活性化するみたいな感覚だった。今まで動いていなかった部分の脳が目覚めて、未知の力を手にしたような、不思議な感覚だった」
すごいな……。覚醒する、生まれ変わる、そんな言葉があるけれど冬麻に会っただけで久我はそのような感覚になったのかもしれない。
その話をしていて思い出した。以前久我は初めて冬麻を見たとき陽向だと思ったと嘘をついていたことを。
「そういえば久我さん。俺に嘘をつきましたよね」
冬麻はジトッと責めるような目をわざと久我に向けて言う。
久我は「えっ、何の話?」と身体をビクッとさせ、何事かと身構えている様子だ。
何か冬麻に責められると思って怯えながらもこちらの様子を伺っている久我はちょっと可愛い。
「櫂堂さんからあのバースデー写真のことも全部聞きました。俺を陽向くんの代わりにしてたって。俺を見るたびに陽向くんを思い出してたなんて言って、本当はそんなこと、一度も思ったことないんでしょう?」
冬麻はずいっと久我の真っ正面から顔を近づける。
「そんな嘘をつかれても俺は久我さんのことを嫌いになりませんでしたよ。だからもうそんなことは言わないでください」
久我から嘘をつかれて悲しい気持ちになった。例え冬麻のためだとしてもああいうことはもうやめて欲しい。
「そうだよ、冬麻のこと、一度も陽向の代わりだなんて思ったことないよ。陽向と冬麻はまるで正反対だ」
久我は優しく微笑みながら白状した。
「陽向は好き嫌いが多くて、食にあまり興味はない子だったけど、冬麻はなんでも食べるよね。俺の料理をいつも美味しそうに食べてくれるところ、すごく好き」
久我の料理の腕前は相当なものだ。お世辞でも気を遣っているわけでもなく全部美味しい。
「陽向はあまり感情を表に出さなくて難しい子だったけど、冬馬はすごく素直。笑ってる冬麻も怒ってる冬麻も、俺に偽りなく気持ちをぶつけてくれるんだって嬉しくなる」
たしかに冬麻は人からわかりやすい奴だと言われることが多い。それって長所なのか……?
「陽向は俺のたったひとりの弟。冬麻は俺がたったひとり結ばれたいと思った人。俺はふたりとも大好きだけど、意味が違う」
たしかにそうだ。家族も恋人も大切な人には変わりないけど……。
「俺。冬麻のことが好き。昔からずっと好きだったけど、冬麻の近くにいて、一緒にいればいるほど冬麻に惹かれていった。好きになるって際限がないんだなって思い知ったよ。ああもうこれ以上の好きはないっ! て思うのに次の日にはもっともっと好きになってる」
久我にこんなことを言ってもらえる日がくるなんて、嬉しくて泣きそうになる。
「触れ合ってるときも冬麻のことしか考えてないけど、離れていても冬麻のことばかり考えてる。俺は冬麻のことしか考えられないの。冬麻がそばにいると嬉しくて、離れていたら苦しくて、ただそれだけで気持ちが揺れてる。本当に単純な思考で自分自身で呆れてるよ」
「久我さん……」
本当にそうだったらすごいことだ。冬麻だって今、まさしくそんな状態なのだから。
「冬麻。俺の恋人になってくれる? もう一度、冬麻と一緒に暮らしたい。ずっとそばにいて欲しい」
また一緒にいられる。好きな人のそばにいられると思っただけでこんなに嬉しくなるのはどうしてだろう。
「はい……」
こらえきれずに涙が溢れる。別れてからもずっと、久我と過ごせる毎日をとり戻したいと願っていたから。
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