借金のカタにイケメン社長に囲われる

雨宮里玖

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17.朝

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「冬麻、おはよう」

 裸のままの身体を背後から抱き締められて、冬麻は目を覚ます。

 ——あれから俺はどうしたんだ……?

 昨夜の最後に自分がどうなったかわからない。気絶するみたいにして眠ってしまったようだ。
 今自分が寝ているのは久我のベッドだ。そして抱き締めてくるのは久我。昨日とは違う色のスウェットを着ている久我の髪は少し濡れていて、シャンプーの香りがする。


「朝ご飯も用意したよ。でもその前に冬麻もシャワーを浴びる?」

 そう言って久我は冬麻の首筋にキスをする。
 そのキスをトリガーにして、昨日の記憶がまざまざと蘇ってきた。

 ——やばい。急に恥ずかしい!

 冬麻は頭ごと布団の中に潜り込んだ。思い出して、なんだか久我の顔を見ることすら恥ずかしい。

 あれから冬麻は久我にベッドに連れ込まれた。そして雰囲気に流されるがまま、久我とそういう関係を結んでしまったのだ。



「昨日の冬麻、すごく可愛かった。俺、冬麻のこともっと好きになったよ。だから俺に顔を見せて」

 久我は布団の中で冬麻を更にぎゅっと抱き締める。
 昨日の自分は酷すぎた。あんなに乱れるなんてあり得ない。しかも最後は意識もない。そんな醜態をさらしておいて一体どんな顔をして——。

「とーま、こっち向いて」

 久我が冬麻の身体を反転させようとする。どうしようと思っているうちに、久我のほうを向かされてしまった。

 久我と目が合う。
 はぁ。この人は、いつ見てもかっこいいな……。どの角度から見てもイケメンなんて一体どんな顔の作りをしてるんだよ……。

「可愛い」

 久我は冬麻を眺めながら微笑んだ。

「冬麻、俺ね、今最高に幸せだよ」

 確かに久我はいつにも増して爽やかな笑顔だ。

「全部冬麻のおかげ。まだ夢みたい。冬麻とこうしていられるなんて」

 久我は今度は冬麻の唇にキスをする。
 挨拶みたいにキスしないで欲しい。こっちは身体からまだ昨日の感覚が抜けきっていないんだから。

「バスルームまで連れて行こうか? ついでに俺に冬麻の身体、洗わせて? 俺が汚したんだから責任取りたいんだ」
「いっ、いや、いいですっ!」
「昨日、冬麻の身体はキレイにしたつもりだけど、中まではできなかったから」

 おいおい、昨日の俺はあの後、この人に丁寧に処理されたのか……?
 確かに身体のベタつきはなくさっぱりしている。下腹部には少し違和感があるが。
 情交のあと、久我に何をされたのか全然覚えてない。でも汚れきった身体を拭いたりされたかと思うとかなり恥ずかしい……。


「そうだ。冬麻、水飲む?」
「あっ、はいっ。飲みたいです……」

 さっきから喉がカラカラだ。声も枯れてるし、何か水分が欲しい。

「待ってて」

 久我はすぐそばのサイドテーブルに置いてある、水の入ったグラスを手に取ると、それに口をつけ、クイッと口に含む。

 ん……?
 何をしているんだと思ったら、久我はそのまま冬麻に顔を寄せ、水を口移しで与えようとする。

「えっ、あっ……!」

 驚いて声を出した瞬間、久我は唇を合わせる。

「んんっ……!」

 そこからこぼれる水は冷たくて、冬麻の渇いた喉はそれを欲しがり、久我から与えられた水を反射的にゴクリと飲み込んだ。
 乾いた全身に水がしみわたるようで、素直に美味しいと思った。
 
 久我は再び水を口に含み、冬麻のもとへと運んでくる。そしてまた唇を合わせて冬麻にそれを与えた。
 起き上がるのは億劫だが、ひとりで水を飲むことくらいはできる。
 なのに、どうしてこんなまどろっこしいことを自分は許してしまっているんだろう。

 親鳥からエサを与えられるのを待っている雛にでもなった気分だ。
 この人が許さなかったら一滴の水ももらえない。しかもそれは口移しでしか与えられない。そんな支配下に置かれている錯覚に陥っている。

「美味しい?」

 久我から水を与えられたあと、笑顔で訊ねられた。
 冬麻はコクンと頷く。

「もっと飲む?」

 再び頷く。まだ足りない。

「起きて自分で飲む? それともこのままがいい? 俺は冬麻が欲しいだけ、いくらでもあげるよ」

 そんなこと、選択肢にして欲しくない。久我に試されているみたいだ。

「あ……あと少し……」

 バカなことを言っているとわかっているのに、自分でも恥ずかしい言葉が口をついて出た。

「久我さんから、して欲しいです……」

 もう駄目だ。冬麻の中の何かのタガが外れてしまったみたいだ。

「いいよ。すごく嬉しい」

 久我は微笑んで、グラスの水を口に含み、さっきの行為を冬麻に何度も何度も繰り返した。




 それから結局久我に抱き上げられて、バスルームに連行され、隅々まで身体を洗われた。
 バスローブを羽織らされ、髪を乾かされ、「何か食べる?」とダイニングの椅子に座らされた。
 久我は嬉々として冬麻の目の前に朝食を並べていく。



「冬麻? 大丈夫?」

 ボッーとしていた冬麻にの顔を久我が覗き込む。

「あっ、はいっ」

 慌てて返事をしたものの、身体もだるいしなかなか気持ちが切り替えられない。

「仕事、行ける? 今日は外苑前の店は臨時休業にしようか?」
「えっ! 駄目です駄目ですっ!」

 びっくりするようなことを言われて目が覚めた。いやおかしいから。なんで従業員ひとりのズル休みのためだけに、店を休みにするんだよ。

「そう? 無理しなくていいのに。俺が冬麻の代わりにシフトに入ってあげたいけど、そういうのは冬麻、嫌でしょ?」
「はい。あり得ません……」

 なんでいち新入社員が休んだシフトの穴埋めを社長がするんだよ。急に久我が代わりとして出勤してきたら、周りのみんなが卒倒するぞ。

「久我さんと話してたら仕事に行く気になりました」

 久我のぶっ飛んだ思考にツッコミを入れたおかげで、なんとか平静を取り戻せそうだ。

「朝ご飯ありがとうございます」

 冬麻は目の前に用意された超健康志向の和定食みたいな完璧な朝食に手をつけた。
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