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3.囲われる?
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会社を出て、再び久我の車に乗せられやって来たのは、皇居近くにある千代田区の高級マンションだった。
「あ、あの、ここはどこですか……?」
てっきりグループ内の店舗でも見て回るのかと思っていたら、プライベート感満載の場所に連れて来られて冬麻は戸惑う。
「ああ。俺のマンション」
「え、どういうことでしょうか……」
「冬麻に案内するだけしておこうと思ってさ。あ、そうだ。これはこのマンションの鍵ね。ここにキーの上部をかざすだけだから。今後のためにも冬麻がやってみて」
なぜだろう。久我に鍵を渡されて、オートロックの解除方法を習わされる。
「ここの最上階が全部ウチなんだ。建築途中の時にまとめて全戸買って、内装の設計変更してもらったんだよ」
久我はさらっと言うが、それは一体いくらになるのか世界が違いすぎて想像つかない。
「家の鍵、開けてみてくれる?」
14階。最上階には、久我の言う通りドアは一つしかない。そのドアも冬麻がキーを解除した。
そして使い終わった鍵を久我に返そうとしたのに、「冬麻が持ってて。それは冬麻の分の鍵だから」となぜか拒否された。
「ここがダイニングとキッチン。リビングは、一応こっちがメインで、奥にもこれよりこじんまりとしたのがあるよ。人が来た時とか、分けて使いたいかなと思って。ほら、冬麻も友達呼んだりすることあるかもしれないだろ? その時に俺は奥のリビングやキッチンを使うから」
本当に広い家だ。広く空間を使っているのに関わらず、10LLDDKKくらいはありそうだ。
それにしても新入社員が社長の家に友達を呼ぶシチュエーションなどあり得ない。久我の例え話はとてもわかりにくい。
久我は各々の部屋を案内しながら、家の奥へと進んでいく。その説明がバスルームの場所とかやけに具体的だ。そんな説明は要らない。さすがに社長の家の間取りまで把握する必要などないだろう。
「それから、ここが冬麻の部屋」
「えっ?!」
——なんで俺の部屋?!
「隣の部屋も使っていいよ。冬麻のクローゼットにどうかなと思って」
久我がクローゼット部屋のドアを開けて、部屋の中を見せてくれた。そこには、ものすごい数のプレゼントの箱や、新品の服などがズラリと並んでいる。
「俺、自分のものは興味ないんだけど、街で冬麻に似合いそうだなと思ったものは衝動買いする癖があるんだ。時間のある時に見てくれる? 使える物だけ使ってあとは人にあげても何をしてもいいから」
これは全て久我から冬麻への贈り物ということなのだろうか。
久我とは昨日知り合ったばかりなのに……。
「冬麻の部屋の隣は、俺の部屋」
久我は案内を続けようとするが、その前にこの家に『冬麻の部屋』が存在していることを説明して欲しい。
「あの、こ、これはなんなんですか。俺の部屋があるとか可笑しいですよ」
「なんで? ここは朝夕食事つきの社員寮だと思ってよ。食事は基本俺が作る。忙しい時は宅配とかお願いするかもしれないんだけど。あ、仕事終わりに冬麻とどこかで食べてから帰るのもいいね」
これをどう考えたら社員寮だと思えるのだろうか……。しかもなぜ社長自ら、いち社員のために料理の腕を振うのだろうか。
「いや、俺実家から通えますから」
さらりと言った冬麻の言葉に、久我の動きが止まった。
「冬麻は俺と一緒に住むのが嫌なの?」
いや怖い。さっきまでニコニコしてたのに久我は急に真顔になった。
「どうなの? やっぱりやめる?」
「や、やめるって何を……」
「俺は冬麻が欲しいから、融資の話を受けたんだ。冬麻が手に入らないなら、白紙に戻したい」
——え?
あれ、入社して欲しいって話じゃなかったのか……?
「……冬麻はここにいてくれないの?」
久我はすごく寂しそうな表情。
「俺。冬麻と暮らすの夢だったのに……」
そんな落ち込まれても困る。別に久我を毛嫌いしているわけじゃない。
「わかったよ。冬麻が嫌なのに無理強いはしたくない。でも、何が嫌なのか教えてくれ。直すから。改善するから」
久我は強く冬麻の手を両手で掴んで離さない。昨日会ったばかりの人間に、そんな必死で縋り付くことないだろう。
「あ、あの、俺がいて迷惑じゃないんですか……?」
「そんなことある訳ない。毎日冬麻に会えるなんて最高だ」
「俺、ここで暮らせばいいんですか。そしたら融資の話も継続になりますか?」
久我はうんうんと大きく二度頷いた。
別にここで暮らすことくらい、なんでもない。それだけで実家の店も守ることができて、冬麻も大企業で学ぶことが出来るのなら。
「わかりました。久我さんがそれで構わないなら、社員寮に入ったと思ってここで生活します」
冬麻がそう決意を表すと、久我はものすごく喜んでいる。
「本当かい? 俺、嬉しくてどうにかなりそうだよ。冬麻。君に抱きついてもいい?」
「えっ?!」
驚く冬麻の返事も待たずに久我は冬麻に抱きついてきた。そのまま「幸せだ……」と言ってなかなか離れない。
「あ、あの……」
「冬麻」
しばらくして久我は冬麻を解放してくれたが、今度は強い視線で冬麻を捉える。
「冬麻は俺の恩人なんだ。冬麻は覚えてないみたいだけど、十年前、俺が落ち込んでた時に助けてくれたのは、あの時の冬麻なの」
十年前なら、冬麻はまだ十歳だ。正直いつどこで久我と出会って何をしたのかも憶えていない。
「ここに暮らすっていうの、約束だよ?」
うわ、懐かしい。久我は小指を立てて冬麻に約束を迫る。
「指切りげんまん」
そして小指で冬麻の小指を引き寄せて絡ませる。
「嘘ついたら針千本……じゃなくて冬麻が俺のものになるってのはどう?」
いやいや、意味がわからない。約束を守っても、破っても結局久我と一緒にいることになってるぞ。
冬麻が戸惑っているとすぐに久我は「冗談だよ。冬麻は自由にしていいからね」と笑った。
はぁ。びっくりする。久我の言動は常にヤバい。
「俺が冬麻のことを必ず幸せにしてみせる。だからお願いそばにいて?」
いやいやどうして愛の告白まがいのことを囁かれているのだろう。
冬麻としては借金のカタにこの家に暮らすことにしただけなのに。
「久我さんが融資をしてくださる間、約束どおり俺はここにいますよ。交換条件はそれだけですよね?」
「うん。それだけでいい。冬麻が俺のそばにいる限り、融資は継続すると約束する」
久我の言葉に冬麻はほっと胸をなで下ろす。あとから条件をつけ足されてしまっては困るからそれだけは確認しておきたかった。
この男の頭の中にはそれ以上の何かがあるような気がしてならない。
借金のカタに冬麻をこの家に囲ってどうするつもりなのだろう……。
「あ、あの、ここはどこですか……?」
てっきりグループ内の店舗でも見て回るのかと思っていたら、プライベート感満載の場所に連れて来られて冬麻は戸惑う。
「ああ。俺のマンション」
「え、どういうことでしょうか……」
「冬麻に案内するだけしておこうと思ってさ。あ、そうだ。これはこのマンションの鍵ね。ここにキーの上部をかざすだけだから。今後のためにも冬麻がやってみて」
なぜだろう。久我に鍵を渡されて、オートロックの解除方法を習わされる。
「ここの最上階が全部ウチなんだ。建築途中の時にまとめて全戸買って、内装の設計変更してもらったんだよ」
久我はさらっと言うが、それは一体いくらになるのか世界が違いすぎて想像つかない。
「家の鍵、開けてみてくれる?」
14階。最上階には、久我の言う通りドアは一つしかない。そのドアも冬麻がキーを解除した。
そして使い終わった鍵を久我に返そうとしたのに、「冬麻が持ってて。それは冬麻の分の鍵だから」となぜか拒否された。
「ここがダイニングとキッチン。リビングは、一応こっちがメインで、奥にもこれよりこじんまりとしたのがあるよ。人が来た時とか、分けて使いたいかなと思って。ほら、冬麻も友達呼んだりすることあるかもしれないだろ? その時に俺は奥のリビングやキッチンを使うから」
本当に広い家だ。広く空間を使っているのに関わらず、10LLDDKKくらいはありそうだ。
それにしても新入社員が社長の家に友達を呼ぶシチュエーションなどあり得ない。久我の例え話はとてもわかりにくい。
久我は各々の部屋を案内しながら、家の奥へと進んでいく。その説明がバスルームの場所とかやけに具体的だ。そんな説明は要らない。さすがに社長の家の間取りまで把握する必要などないだろう。
「それから、ここが冬麻の部屋」
「えっ?!」
——なんで俺の部屋?!
「隣の部屋も使っていいよ。冬麻のクローゼットにどうかなと思って」
久我がクローゼット部屋のドアを開けて、部屋の中を見せてくれた。そこには、ものすごい数のプレゼントの箱や、新品の服などがズラリと並んでいる。
「俺、自分のものは興味ないんだけど、街で冬麻に似合いそうだなと思ったものは衝動買いする癖があるんだ。時間のある時に見てくれる? 使える物だけ使ってあとは人にあげても何をしてもいいから」
これは全て久我から冬麻への贈り物ということなのだろうか。
久我とは昨日知り合ったばかりなのに……。
「冬麻の部屋の隣は、俺の部屋」
久我は案内を続けようとするが、その前にこの家に『冬麻の部屋』が存在していることを説明して欲しい。
「あの、こ、これはなんなんですか。俺の部屋があるとか可笑しいですよ」
「なんで? ここは朝夕食事つきの社員寮だと思ってよ。食事は基本俺が作る。忙しい時は宅配とかお願いするかもしれないんだけど。あ、仕事終わりに冬麻とどこかで食べてから帰るのもいいね」
これをどう考えたら社員寮だと思えるのだろうか……。しかもなぜ社長自ら、いち社員のために料理の腕を振うのだろうか。
「いや、俺実家から通えますから」
さらりと言った冬麻の言葉に、久我の動きが止まった。
「冬麻は俺と一緒に住むのが嫌なの?」
いや怖い。さっきまでニコニコしてたのに久我は急に真顔になった。
「どうなの? やっぱりやめる?」
「や、やめるって何を……」
「俺は冬麻が欲しいから、融資の話を受けたんだ。冬麻が手に入らないなら、白紙に戻したい」
——え?
あれ、入社して欲しいって話じゃなかったのか……?
「……冬麻はここにいてくれないの?」
久我はすごく寂しそうな表情。
「俺。冬麻と暮らすの夢だったのに……」
そんな落ち込まれても困る。別に久我を毛嫌いしているわけじゃない。
「わかったよ。冬麻が嫌なのに無理強いはしたくない。でも、何が嫌なのか教えてくれ。直すから。改善するから」
久我は強く冬麻の手を両手で掴んで離さない。昨日会ったばかりの人間に、そんな必死で縋り付くことないだろう。
「あ、あの、俺がいて迷惑じゃないんですか……?」
「そんなことある訳ない。毎日冬麻に会えるなんて最高だ」
「俺、ここで暮らせばいいんですか。そしたら融資の話も継続になりますか?」
久我はうんうんと大きく二度頷いた。
別にここで暮らすことくらい、なんでもない。それだけで実家の店も守ることができて、冬麻も大企業で学ぶことが出来るのなら。
「わかりました。久我さんがそれで構わないなら、社員寮に入ったと思ってここで生活します」
冬麻がそう決意を表すと、久我はものすごく喜んでいる。
「本当かい? 俺、嬉しくてどうにかなりそうだよ。冬麻。君に抱きついてもいい?」
「えっ?!」
驚く冬麻の返事も待たずに久我は冬麻に抱きついてきた。そのまま「幸せだ……」と言ってなかなか離れない。
「あ、あの……」
「冬麻」
しばらくして久我は冬麻を解放してくれたが、今度は強い視線で冬麻を捉える。
「冬麻は俺の恩人なんだ。冬麻は覚えてないみたいだけど、十年前、俺が落ち込んでた時に助けてくれたのは、あの時の冬麻なの」
十年前なら、冬麻はまだ十歳だ。正直いつどこで久我と出会って何をしたのかも憶えていない。
「ここに暮らすっていうの、約束だよ?」
うわ、懐かしい。久我は小指を立てて冬麻に約束を迫る。
「指切りげんまん」
そして小指で冬麻の小指を引き寄せて絡ませる。
「嘘ついたら針千本……じゃなくて冬麻が俺のものになるってのはどう?」
いやいや、意味がわからない。約束を守っても、破っても結局久我と一緒にいることになってるぞ。
冬麻が戸惑っているとすぐに久我は「冗談だよ。冬麻は自由にしていいからね」と笑った。
はぁ。びっくりする。久我の言動は常にヤバい。
「俺が冬麻のことを必ず幸せにしてみせる。だからお願いそばにいて?」
いやいやどうして愛の告白まがいのことを囁かれているのだろう。
冬麻としては借金のカタにこの家に暮らすことにしただけなのに。
「久我さんが融資をしてくださる間、約束どおり俺はここにいますよ。交換条件はそれだけですよね?」
「うん。それだけでいい。冬麻が俺のそばにいる限り、融資は継続すると約束する」
久我の言葉に冬麻はほっと胸をなで下ろす。あとから条件をつけ足されてしまっては困るからそれだけは確認しておきたかった。
この男の頭の中にはそれ以上の何かがあるような気がしてならない。
借金のカタに冬麻をこの家に囲ってどうするつもりなのだろう……。
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