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5.記憶 〜凪沢side〜
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朝の情報番組の番宣は無事終わり、凪沢はひとまず胸を撫で下ろした。
そして次の番宣のため、準備&移動の合間に、同じ映画に出演している、久遠が声をかけてきた。
「なぁ、凪沢。車の助手席にこんなもん落ちてたんだけど、これお前の?」
久遠はこの前、凪沢が白のポルシェ911を借りた相手だ。
凪沢はそれを受け取った。そういえばレストランを出た後、「俺にも支払わせてくれ」と車内で日向が財布を出してお金のやり取りを日向としたのを思い出す。
あの時、日向が落としたのかもしれない。夜で車内は暗くて紙切れ一枚落としても気付かなかったのだろう。
何気なく、その紙を開いてみて驚愕する。
それは昔、二人が小学生だった頃に凪沢が日向に宛てて書いた手紙だった。
そこには幼い字でくだらないことも書き連ねてあるのだが、締め括りの言葉の「20才になったら必ず会おう」という約束は忘れもしない。
くだらない、子供同士の約束だ。だが、この約束が凪沢をどれだけ奮い立たせてくれたのか、色々あり過ぎて一言で伝えようがない。
施設にいた時、日向はいつも凪沢の側にいた。暴力、理不尽、そういった汚いもの全てから凪沢を庇ってくれた。
引き取られた先での「あなたの為」という大義名分のもと行われた過度な躾に疲弊していた時も、日向との手紙のやり取りが唯一の救いだった。
施設を出てから一度だけ日向に会った事がある。小学校六年生の頃だ。誕生日プレゼントに何が欲しいと訊かれ「日向に会いたい」と願ったのだ。
その願いは叶えられ、二人は久々の再会をした。
その時もお互いあの約束を確認し合ったのだ。二十歳の再会を。
——日向、あいつ俺との約束を覚えてないふりしやがったな!
日向は約束を忘れてはいなかったのだ。この手紙を持ち歩くくらいにずっと大切に覚えていてくれていた。
今すぐに日向に会いに行きたいのに、自由の効かないこの仕事を恨みたい。
日向……待ってろよ!
そう強く想いながら、凪沢は本番のスタジオに入った。
そして次の番宣のため、準備&移動の合間に、同じ映画に出演している、久遠が声をかけてきた。
「なぁ、凪沢。車の助手席にこんなもん落ちてたんだけど、これお前の?」
久遠はこの前、凪沢が白のポルシェ911を借りた相手だ。
凪沢はそれを受け取った。そういえばレストランを出た後、「俺にも支払わせてくれ」と車内で日向が財布を出してお金のやり取りを日向としたのを思い出す。
あの時、日向が落としたのかもしれない。夜で車内は暗くて紙切れ一枚落としても気付かなかったのだろう。
何気なく、その紙を開いてみて驚愕する。
それは昔、二人が小学生だった頃に凪沢が日向に宛てて書いた手紙だった。
そこには幼い字でくだらないことも書き連ねてあるのだが、締め括りの言葉の「20才になったら必ず会おう」という約束は忘れもしない。
くだらない、子供同士の約束だ。だが、この約束が凪沢をどれだけ奮い立たせてくれたのか、色々あり過ぎて一言で伝えようがない。
施設にいた時、日向はいつも凪沢の側にいた。暴力、理不尽、そういった汚いもの全てから凪沢を庇ってくれた。
引き取られた先での「あなたの為」という大義名分のもと行われた過度な躾に疲弊していた時も、日向との手紙のやり取りが唯一の救いだった。
施設を出てから一度だけ日向に会った事がある。小学校六年生の頃だ。誕生日プレゼントに何が欲しいと訊かれ「日向に会いたい」と願ったのだ。
その願いは叶えられ、二人は久々の再会をした。
その時もお互いあの約束を確認し合ったのだ。二十歳の再会を。
——日向、あいつ俺との約束を覚えてないふりしやがったな!
日向は約束を忘れてはいなかったのだ。この手紙を持ち歩くくらいにずっと大切に覚えていてくれていた。
今すぐに日向に会いに行きたいのに、自由の効かないこの仕事を恨みたい。
日向……待ってろよ!
そう強く想いながら、凪沢は本番のスタジオに入った。
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