警護者キリュウ

どらんくうざ

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十三才 夜の会話と初めて見た降霊

03

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 判事が淡々と事件の状況の確認をおこなっていく。
静まり返った法廷内。
そして、警護者が証拠を言い淀みなくだしてゆく。
事件現場で集められた物的証拠や聞き込み調査を行った時の証言をひとつずつ表していった。

 キリュウはそれらを聞いていたら、難しい内容があった。
殺され方で不意をつかれたのであろうといったこと。
それと傍の茂みの中に凶器と思われる小剣が落ちていたと。

それらの情報で何故、犯人は職務上の知人の犯行になるのかということが分からなかった。

「犯人はメグミ・ゴーレントゥクスは、被害者の子供の自慢話によって殺意を抱いたと。
自分たちの成績も被害者とは違って悪く、子供の自慢によって決断いたした」

 警護者アクウは淡々と調べぬいた事件の詳細を語っていく。
被告人のメグミは判事を見つめているようだった。
キリュウからは彼女のしっかりと立っている背中しか見えなかったが。

「なあ、ミネア。
仕事上や子供の勝ち負けでそんなにイラついたりするもんかな?」

「アナタだって、私に負けると悔しいでしょ?
二回ずつは負けようとするじゃない?」

 ミエナはキリュウの方を見ることもなく発言した。
その様子を見ていた彼は両手を別々に握りしめてから緩めた。

「それでは霊媒師の降霊させた供述を証拠のひとつとして提示いたします」

 警護者のアクウは立った状態で後ろに座っていた少女に合図を送った。
少女が立ち上がる。
本来霊媒での証拠は、裁判で重要視されることは少なかった。
理由として、強い感情を持ったまま死んでしまった場合に意識が残るといわれているからだった。
つまり、潜入観念を持っていた場合、その意識が固着してしまう危険性があるから。

 白い祭服を着ているカエアは手にしていた衣服を法廷内に置いた。
被害者が死亡時に着ていた衣服であると発言が続いた。

「判事、今から降霊をはじめます」

 少女は衣服の前に跪くと急に身体の周りに橙色の光が滲み始めてきた。
光は徐々に強くなると、衣服から離れていく。その光が人の姿を形作っていく。

「すごい」

 キリュウは初めて見た降霊を見て一言漏らした。
両腕が震えているのに気づく。
恐れている幽霊に違いないことが、彼に恐怖心を与えたのかもしれなかった。

「キリュウ君大丈夫よ。
私もいるしね」

 ミネアの一言が聞こえてきて彼女の方を見た。
彼女の口の端は持ち上がっている。
手も上下にパタパタ動かしていた。
彼はその様子を見てから自分の腕をさすり、ゴクリと生唾を呑み込んだ。

『私を殺した犯人は、彼女です』

 いつの間にか現れた女性の言葉でキリュウの意識は引き戻された。
はっきりと橙色の影の人が被告人の女性を指差した。
迷いのない勢いがあった。

 裁判の審議は順調に進んで、被告人は無期懲役刑の有罪となった。
二人は裁判所から出ると夕方を背景にして歩いていた。

 早い夕日を浴びてミエナが薄明るく染まっていた。

「ミエナ」

 彼女が振り向く。
彼はさらにこの場の勢いも借りてさらに言葉を続けた。
その台詞で彼女は驚いてから指を空から動かして沈みゆく太陽を指差した。
もう陽が薄明るい色に変わる夕日になっていた。

「もう遅いから、勝負はまた今度にしましょ」

「駄目だ。
俺たちが一緒に学んでいた道場に向かうぞ」

 キリュウは彼女の手を掴んでそのまま道場に向かった。
ミエナは今も三日に一回は道場に通っていたらしかった。
当然だけどキリュウは元の道場に通っていなかった。
彼はリリポットの小さな道場に通っていたが、単身の鍛錬といってよかった。

「一本勝負だけだぞ」

 キリュウの成人前の師範がため息をつきながら中に案内した。
まだ道場の夜の部の始まる前であり、使わせることができると判断したと。

 勝負はキリュウの木剣を打ち下ろした踏み込みによって開かれた。
その木剣を彼女の木剣で受け止められる。
彼は攻撃の速さ、向きを変え続けた。
しかし、全部彼女に受けられかわされる。

 彼は緊張感と焦りで表情も変わってきていた。
それに合わせて切り替わるように、ミエナからの攻撃を繰り出されるように変わった。

 そして、彼女の木剣の動きに合わせてキリュウの手が力を失ったかのように開いた。
木剣が音を立てて床に落ちた。
勝負の間の空気から一転して、静かに勝敗がついた。

「真剣ではこうはいかないからな」
「期待してるわ」

 ミエナは師匠に木剣を渡した。
彼は丁寧に拭いた後に剣架に掛けていた。
その様子を見ているミエナ。
その時にキリュウは駆けだして飛びついた、はずだった。
彼女は余裕を持った笑顔のまま、彼の体を投げた。

「突発的にやれば勝てると思ったの?
あなたの行動は隙が大きいのとわかりやすいわ」

 キリュウを見下ろすように発言するミエナ。
彼は仰向けの状態のまま彼女を見上げて目を瞑り呟いた。
「ちくしょう」と。
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