警護者キリュウ

どらんくうざ

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プロローグ

03

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 彼女は曇りの天気の中を歩き始めた。
カズキは幽霊だとカエアの口から聞いた。
生者たちの家からエンドレス墓地に移動する時間ほどをかけて歩きとおした。
彼女は裏路地の途中の建物の前で立ち止まった。

「着いたの?」

 キリュウは彼女の肩に触れて尋ねた。
彼女は急に睨みつけてから、右側の小さな家を指差した。
家はこじんまりとしたサイズであった。
彼ら兄弟の家も当然風呂とトイレは都市の住人達と共用だった。
しかし、両親と兄弟の部屋、居間そして祖父の使っている部屋の三部屋あった。

「ここのはずだわ」

 カエアの声で喋る。
彼女が知っているはずのないことなので何か違和感を感じているような語調だった。
ガンジス兄は玄関に立つと、深呼吸してノックした。

「何か用かい?」

 家から腰の曲がった老婆がでてきた。
完全な白髪で、杖もついていた。

「あのここは、カズキ・リーディングルさんの家でしょうか?」

 その老婆は体が固まったように止まった。
それから、杖でガンジス兄の胸を突いた。
手では、玄関をしめようとしていた。

「帰っておくれ」

 ガンジス兄は足で玄関が閉められるのを止めると、さらに続けた。

「私たちは、カズキ・リーディングルさんの使いで来たんです。
貴女様は、彼の知り合いですか?」

 老婆は目を左右に動かしながら、玄関を開け放った。
しかし、しっかりと杖を握ったまま。

「私はその子の母親だよ。
カズキはもう四十年以上前に死んだんだよ」

 老婆は発言し終わると、口元をしっかりと閉じた。
静かな奇妙な空気が流れていく。

「ママ」

 カエアの口から言葉が出た。
カズキがカエアの身体を使って喋ったのだろう。
その台詞をきいた老婆は頭をすこし後ろに動かした。
それから、杖で床板を叩き始めた。

「あんたら遊びのつもりかい?
私を騙せないよ」

 その時、カエアの胸元から青白い影が飛び出て老婆の前に出てきた。
最初の手から脚、そして胴体と出てきた。
そして最後に頭が現れた。

「ママ」

 その男児の台詞が聞こえ、顔が見えると老婆は杖を持ったまま崩れた。
そこをガンジス兄は支えにまわった。

 そして老婆の独白がはじまった。

 四十年ほど前のこと。
病弱であったカズキは六才の頃に流行り病にかかり、高名な医師に診せたそうだった。
しかし、治療の甲斐なく彼は亡くなったと。
その時の治療代の代わりと医師に感謝の思いを込めて、彼の首飾りを贈ったらしかった。
それは、カズキの母曰くカエアの身に着けている首飾りに似ているといった。

 彼女の独白でカズキが診察を受けたのは、ある診療院だと分かった。
それは、当時カエアの血筋の経営していた診療院だった。

「それじゃあ、あんたの親族の経営している診療院かい。
その首飾りは、貴女に似合っているね」

 老婆は絞り出すように呟いた。

 帰り道に幼馴染のカエアの前で、キリュウは胸を張った。

「もう違和感はないだろ?
僕に任せればこんなものさ。
これで僕は霊も克服できたさ」

「キリュウ、霊山から不思議な虹色の煙が上がっているぞ」

 キリュウの動きが急に早くなった。
息を忘れたように一直線に家に向かった。
霊山から噴出する煙は竜の現れる前触れののひとつだといわれていた。
その名前通りに寄り集まった霊魂が竜を生み出すといわれていた。
さらに死者たちが活発化する時も霊山から噴煙が上がるという言い伝えがあった。

 ガンジス兄は余裕しゃくしゃくに、カエアは体を弾ませながら追ってきた。
何かからかっているような様子の目をしている。

「キリュウ君。何もわきあがってないわよ」
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