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男が目撃したもの②
しおりを挟む「イェシル殿下、その人生きてます?」
とりあえず、他の兵の視線もあるので殿下呼びに戻して、侍女を支えるリーダーの元に向かった。
連絡したあるお方は応急処置用の解毒薬を転送してくれたし、この色々な暴力を受けたであろう身体の治療は城に戻ったらしてくれるらしいし。あとはこの侍女さんの生命力次第なんだけど。
「気を失った。とりあえず、髪飾りの証拠を見てみるか。」
「うっす。それと解毒薬です。飲ませられます?」
「先ずはこの凶器を外さないとな。未だに手は俺を狙っている。」
何か手がかりが有るかもなと、髪飾りを投げ渡す我等がリーダー。
代わりに、解毒薬を放ると証拠だと言っていた髪飾りに目を向けた。
木を削って造られているらしき髪飾り。
よくみるとこれは手作りの様で、キラリと輝る石が真ん中に嵌められている。
いや、これは硝子玉だ。
指で硝子玉を撫でているとかちりと音がして、魔方陣が浮かび出した。
「音の魔法文字に絵画の魔法、それと記憶の魔法が組み込まれているな。」
「へぇ、いわゆる記憶装置って所っすか?」
「ああ。こんな小さい媒体を造り出すとは、造り手は化け物だな。」
魔方陣の中ではまるでその場にいるかのような、映像が流れている。視点がこの侍女よ様なので使用者の記憶を保存でも出来ると考えればいいのか。
それにしても、映像に映る本来の花嫁さんはとても良い性格だったようだ。
「この侍女もよく考えれば、凶器じゃなくて素手で刺せば良かったと気づいただろうに。」
イェシルさんはそう呟くと、怪しい光を放つ小さな刃物を取り上げると何も持っていない手を自らの腹に押し当てた。
すると、命じられていた事が実行された事になったのか、身体の強ばりがとれ、毒に犯された少女が残される。
侍女の詰め襟のブラウスを緩まし、やはり嵌められていた隷属の首輪を指先をなぞらせるだけで砂としてしまった我等がリーダーは、解毒薬を自ら口に含んで、侍女に口付けをする。
数分が経過した。
ゆっくりと侍女の喉仏が動いているから、無事に飲ませていると思うが、やたらと長い口付けだ。
「そろそろ、犯罪っすよ。」
「俺の嫁だろ?」
やっと離れたと思ったら、そんなことを言う。
まだ本人にも本国の王にも認められてないんすけどね。
侍女の顔色が幾らばかしか良くなっているようだ。
映像はこの侍女さんの大切な誰かが殺されたところまで来ていた。
ああ、だから最後あんなことを願ってたのか。
それにしても…
「イェシル殿下が気に入るなんて。」
「お前も見ただろ。あの燻る炎の様な眼と最後の綺麗な笑みを。」
確かに危険だと感じるほどの意思の強い瞳に想いを託した後のきっと本人は気付いていない笑みは、美しかった。
それでも、すべてを諦めたイェシル殿下が牽かれる意味は分からない。分からないが、少しだけ楽しそうなリーダーの姿が見えるし、まあ、いっか。
映像が終わった様で、魔方陣がまた髪飾りに吸い込まれていく。
確かにこれは獣人の国を貶める証拠となるだろう。使う場がきたら有りがたく使わせて貰うことにして、映像をどうにかコピーしないとな。
「お前ら!こいつは俺の花嫁だ。約束通り連れて帰るぞ!」
リーダーの声に宰相などは微妙な顔をしながらも、血気盛んな護衛兵士どもはオオーと雄叫びを上げる。
人間の国の馬車は有りがたくそのまま貰っていこうかな。
こうしてオレらは何事もなかった様に帰路をついた。
帰ると、手配していたあるお方がぐったりとしている侍女に悲鳴をあげて、イェシルさんを罵詈雑言なげつけながら治療したり、解毒が完全じゃなくて薬草を取りにいかされたり、たまたまサボって侍女、まあ、姐さんでいいか。の部屋で目覚めのタイミングとかち合ったりしたが、 まさか、あの時の雄叫びが元嫁候補の姫さんにも聞こえていて、勘違いしているなんて今は知るすべはなかった。
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