上 下
238 / 245
霊峰と深緑の山

一方その頃

しおりを挟む




 眼の前で大切な存在が消えるのを見るのは気分が良いものでははい。むしろ喪失感を感じでどうにかなってしまいそうだ。

 無事なのは分かっているのだがその気持ちはどうしょうもない。前にダンジョンで眼の前で消えたときにもう二度と起こさないと誓ったのに。
 それもこれもあの変な男のせいだ。

 最初はただの観光客だと思っていたが、あまりにもうるさいのでアドバイスをして雪山に入れる様にしてやった。だがそれがそもそも間違いだったのだ。
 ペラペラとよく回る口に、馴れ馴れしい態度。無視をしようがついてくるしぶとさにお貴族の様にすぐ追いつかなくなると思っていたのに意外とある体力。


 アキンドに指示をして速度を上げてもらおうとしたら男が『カズキ』と名乗ったので思いもかけずに動きが止まった。
その音はこの世界では珍しい響きだ。

 地球の日本人の転移者もいるだろうから全く無いとは言えないが偶然ともその響きの名前がつけられるとは驚きだ。


 カズキと名乗った男を見やると同じ音を持つあいつとは全く違うのは分かった。あいつはこんなにもチャラチャラしていないし、そもそも茶髪でもない。眼鏡の奥の野心はあいつとは別の男に似ているが、恐らくあの男ならこんなところで一人で居ないだろうから違うだろう。



 やはりと言うか男の失言により山の女神の怒りに触れてしまった。
 地響きが発せられそれにより雪崩が起こる。雪崩は不思議なことにシンリの元に向かっている。それもカズキがシンリをお嬢さんと呼んだせいだ。

 更に、パニックになっているのかシンリを抱きしめる様に拘束していて本当に邪魔な奴だ。雪に足が取られうまく抜け出せないシンリを更に溺れさせようとしているように見えた。

 シンリがこちらまで巻き添えになると判断したのだろう俺と繋がるロープを切断するためにナイフを取り出した。


「駄目だ!」


 声は出なかったが俺の意図は理解したのだろう。困った顔をしたあとに何かを言っている。


『先に行って誤解を解いておいてよ。いやぁ、この母親似の美貌のせいでごめんね。』


  唇を読めばそんな感じに軽い感じである。
 あまり良く知らないやつと一緒にしたいとは思わなかったが、シンリの袖から見える宵月が頷いているように見えたので盛大な舌打ちをした。

 シンリがアキンドにも何かを伝えてナイフを一閃させた。

 アキンドが俺を抱えて避難する時に白い波により攫われるシンリの姿。その背後にいるあの男がにやりと笑った気がした。




 暫くして地響きが落ち着くと俺たちは先に進む事にする。
 宵月が慌ててこちらに来ないことを考えて、予想通りシンリが無事なのはわかっている。だが、あの男の最後の表情が気になり、心が荒れる。


「アシュレイ様、あそこに祠が見えます。」
「行くぞ。」
「はい。」


 アキンドが指さした先には雪に埋もれた祠があった。
 祠を覗くと中には小さな動物達が身を寄せ合い暖を取っている。外は常に降る雪のせいで寒いからここは最適な場所なのだろう。

 それらを除くと見えるのは山の神を形どった手の平ぐらいの像だ。
 淡く光るそこにやつは居るのだろう。

 俺はその像を掴むと外に持ち出した。
 中の小動物を怯えさせるなんてシンリに怒られるからな。

 像を外に出した途端に像の中から女の神が現れた。

薄緑の肌に若葉な色の瞳。ボブの紅葉色の髪に今は白い帽子を冠っている女の神だ。若葉の様な色合いの目がこちらを睨みつけるように向いている。


『無礼者!妾にこのような仕打ち、赦されると思うな!』
「許してもらう事はしてないさ。」
『何を抜かす!』
「先に人のに攻撃してきたのはそちらだろ?」


 弟との言葉に意味がわからぬというように暴れる神にカトレアからの書状を見せつけた。


「俺と居たのはカトレアから直接頼まれた『魔神の愛し子』だ。あまりにも可愛くて美人だからと男と女を間違えるな。」
『お、男子おのこじゃと!?』
「そうだ。」
『そうは見えんかったぞ。』
「議論はそちらなんですね。分かりますけど。」


 アキンドの呆れた声が聞こえた。
 確かに本来なら『愛し子』に反応すると思うがあの顔立ちで男だと言う方が反応するものだろう。

 まあ、無礼者は向こうの方だどいうのは分かっただろう。


 ゴホンと咳き込み、像を投げやる様に放おると山の神が具現化して像を受け取り済まなそうに俺の眼の前に正座した。


『大神様を呼び捨てになさるとは貴方様も『魔神の愛し子』と見受けます。とんだ御無礼をお許しください。』
「取り敢えず、吹雪を収めろ。」
『それは出来ません。』
「何だと?」


 山の神は本当に申し訳ないとばかりに頭を下げる。

 この吹雪は山の神の意図に関係なく吹き荒れるのだという。むしろこの吹雪は山で生きる者に対しても害でしかなく食べ物も少なくなり寒さも重なり苦しんでいるのだとか。

 それにカトレアが言っていたという異質のものが関係しているかもしれない。

 取り敢えずできる限り抑えると言う山の神を信じるということでシンリの到着を待つしかなさそうだ。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う

ひなクラゲ
ファンタジー
 ここは乙女ゲームの世界  悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…  主人公と王子の幸せそうな笑顔で…  でも転生者であるモブは思う  きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と

鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。 令嬢から。子息から。婚約者の王子から。 それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。 そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。 「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」 その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。 「ああ、気持ち悪い」 「お黙りなさい! この泥棒猫が!」 「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」 飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。 謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。 ――出てくる令嬢、全員悪人。 ※小説家になろう様でも掲載しております。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! ★恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 日間総合ランキング2位に入りました!

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~

イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」   どごおおおぉっ!! 5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略) ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。 …だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。 それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。 泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ… 旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは? 更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!? ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか? 困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語! ※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください… ※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください… ※小説家になろう様でも掲載しております ※イラストは湶リク様に描いていただきました

処理中です...