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勇者という存在がもたらすもの
僕と感動の再会
しおりを挟むグレイはグレイシアが本当の名前だったようで女将がわざと男っぽい名前で読んでごまかしていた事情を聞いた。
僕もシシリーの時に色々と大変だったのは知っているしそれは納得した。しかし、同じぐらいだと思っていた彼女がなんと年上だった。
ラウルス家の人たちも学園を卒業している僕や兄上が、成人だと思っていたようだが僕は肉体的には未成年のままだ。ラウルス家に勘違いしていたことを謝られたが精神的に彼らより年上ではあるので返答には困ったものだ。
事件の日は自然と解散となったが、勇者のお披露目会でもあったので色々な国の人が来ていた。詳しいことは知らせていないので王の愚行だけが広がるだろう。だけどそれだけなら直ぐに記憶の奥に消えてしまう。それで良いのだ。
こんな目に合わせた非礼として獣人街の職人たち渾身の木細工を手土産に持たせたらみな喜んでいた。音の国の細工や彫刻はどこの国でも愛されているようで0がとてつもない数で取引されることもあるらしい。
会場で骨の鈴を入れられていた箱なら貴族の年収ぐらいになるだろうとのことだ。知らなかったけど。もったいないので鈴を回収して浄化の魔法を掛けた後に希望のある参加者に配布した。回収のための箱を開けるのは兄上が説明書も見ないでパッパッとしてくれ次々と取り出される鈴に苦労して構造を考えた獣人さんが目を丸くしていた。兄上曰く見なくても形状からある程度はわかるのだそうだ。流石はチート。
獣人街のほうは今は落ち着いているようだ。
体調を崩すこともなくなり仕事がスムーズに回るようになったらしい。一部の反獣人の人も居るが多くは獣人たちを気遣い、夜間の音楽を控える様になった。完全にやめないのはやはり音の国というなと芸術の国という通りなで無音なのは可笑しいだろという話が獣人からも出たからだ。
そんな感じて事後処理をしていたある日、グレイシアが会いに来たと連絡があった。あの巨大な王の欲望の犠牲者とも言える赤子を浄化して永年にわたりこの国に縛り付けてしまった聖剣を開放した英雄として今や前以上に人気者だ。なので補助にセシリアさんがついて毎日忙しそうだ。そんな彼女が訪ねてきたのはたぶんアレのことだろう。
「本当のお父さんお母さんに会いたい。」
「うん。待っていたよ。」
セシリアさんからグレイシアの出生の話しを聞くだろうなとは思っていたけど思ったより日にちがかかった。それだけ忙しかったのだろうがもう少し経っていたら国に帰るところだった。
サラート夫妻は今は獣人街の守護者と呼ばれて毎朝拝まれているそうだ。子供と再会したら成仏しようとしていたみたいだが音の国獣人街の結界を担う役目になっているのでしばらくはそのまま気楽に過ごすという。
結界と言えば兄上の膨大な魔力を使い続けるのは問題無いが一応彼は神の国の公爵様なのでちょっと距離が遠い。そこであたりに漂う魔素を魔力に変換させる術式を追加することにした。あたり周辺には兄上と『お願いね』と呟いたら濃度が濃くなってしまったがまあ、サラート夫妻に任せる事にした。
そんな嘆きのサラート夫妻は獣人街の中心に神殿が出来てそこに置かれている。最初は普通に中心部に置いといたら毎朝お祈りに人々が押し寄せて来てはっちゃかメッチャカになってしまったので遠くからでも見ることの出来る神殿を造りそっちの方に向かって祈れと言ったのだ。
「とても立派。」
「職人の親方が張り切ったからね。」
「シンリ様に勇者様。いらっしゃいませ。」
神殿の大きさは2畳にも満たない広さだが天に伸びる様な設計に一人だけ整備を整えたり位牌を守るための人が配置されている。ただその役を誰がやるかでまた揉めた事は内緒だ。
2畳の室内には祭壇が作られていて色様々な花に囲まれてその中心に位牌が置かれ、そこから穏やかな顔つきの双顔一身の人が浮かび上がっている。今日は外に出ていたい気分の様だ。
「サラート夫妻。」
『シンリくん。こんにちは。そちら‥…は。』
「お父さん、お母さん。」
『ああ。この子がそうなんですね。』
「うん。名はグレイシアだそうだよ。」
『愛しいわたしの子。』
その場の6つの目から光るしずくがしたたりおちる。
サラート夫妻とグレイシアがお互いの温もりを感じようと手をのばす。本来なら通り抜けてしまうそのこの行動は指先に当たる感触で奇跡へと変わる。
指先の感触を楽しみ手を握り合う。額を当てて親愛のキスを贈り合う。見ていた管理人は涙を溢れさせて奇跡だと呟やいた。
言葉を交わすこともなく今まで離れ離れだった時間を埋めるように触れ合う時間は短く感じたが日はもう薄暗くなるまで続いていた。
「お母さん、お父さん。守ってくれてありがとう。」
『独りにしてごめん。』
「独りじゃなかったよ。女将さんや冒険者もいたから大丈夫。」
『いい人達に出会えたな。』
「今度紹介するね。」
触れ合うのは今日だけかもしれないが、同じ国に住まうことになった彼等はいつでも出会えるだろう。
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