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春の訪れと新入生
僕とグランドオール
しおりを挟む目の前に広がるのは陽の光さえ奪うような木々が鬱蒼とした森だった。中からは獣の声や木々のざわめきそれに不思議な音などが響いている。新入生の少年が生唾を飲むのが聞こえた。どうやら緊張しているようだ。
開けた場所からワープを開始してあれから更にワープを2回。合計3回でグランドオールの入口まで飛んでこれた。
未知なる場所にとぶのは正確な位置と高度それとその場でのイレギュラーな物への対処が必要となる高難易度のテクニックが必要となる。
それをコウラン殿下一人で調整して人に魔法をかけると昔の城のように大破するかもしれないので、ゲート方式にしてなど普通の人なら到底できない事をやって見せた。
さすがは魔王級チート魔だ。
森の入口についてまず目に入ったのは凶悪な顔つきのお馬さん。黒毛で僕達の乗る馬より遥かに大きいその姿に、少年が目を見開いて側にかけて行った。目線でウォルターに指示を出せば心得たとばかりに後を追い、拳骨一つに引きずりながら連れてくる。
「ヘタリーチェ伯爵の物らしいです。」
「そうか。」
「クオラさんの弟君。勝手に行動をしたら危険だろ。」
君がじゃなくて僕達が。
勝手についてくるのは許可したけどそれで大切なコウにぃが僕以外の要因で危険に合うのは許さない。
「クオラ兄の弟じゃなくて‥…。」
「その先は興味は無いんだ。」
ハッとして傷付いた顔をしているけど関係ない。
同行を許可しているのもさっさとヘタリーチェ伯爵に押し付けるためだ。
馬から降りて辺りを索敵する。近くの生命反応はなし。もう少し奥に行くとモンスターと戦っている人がいるがそれは複数だからヘタリーチェ伯爵では無いだろう。
更に奥まで索敵をしていると、巨大な木が生えているのが分かった。その根本に傷付いている瀕死の男と手には花の様な植物が握られている。
確か夫人の病気の特効薬は花だったか。
ではこの男がヘタリーチェ伯爵の可能性が高いな。
ヘタリーチェ伯爵らしき所まで行くにはこのモンスターと戦闘している謎の集団をどうにかしないと行けない。
ここはある意味で境目の所だからこの者たちが味方かは分からない。
隠密で行きたいところだがあの弟君を連れては無理。だからと戦闘を終えるまで待つなんて時間の無駄だ。
「ヘタリーチェ伯爵らしき人を見つけた。だけど謎の集団が行く途中でモンスターと戦闘中。」
「どうしたい。」
「伯爵が瀕死だから早く行かないとまずいからワープで行こう。」
「位置の情報は分かるか?」
「うん。信じてくれるでしょ?」
「当然。」
こういうときにこそチートを使わないとね。
アキさんに紙とペンを持ってきてもらい、現在いる森の入口から伯爵の居る位置までの地図をつくる。その際に気をつけないといけないのが道幅や敵の位置それに高低差だ。運が良いことに伯爵がいる巨木の周りは開けていてそこに敵もいなさそうだ。
索敵に使っている糸で距離感も問題はなさそうだし、ちらっとみたコウにぃの口元が笑っているからあっちも問題はなさそうだ。
地図を頭に書き込んだ兄上がワープを展開する。
念の為アキさんが最初に入り問題がなさそうなら後に続く形で先に進む。
ワープを通り過ぎるときにこの途中で術がとけたら身体はどうなるんだろうなんて物騒な考えをしつつも、どうにか謎の軍団との戦闘に巻き込まれないで伯爵らしき人の側に来れた。
巨木により掛かるように彼がいる。
子供達とは違う金糸の髪に武道に秀でているのかゴツゴツした手。そこにしっかりと握られているのは血のように赤い大輪の花。
弟君の様子から彼が伯爵で間違いなさそうだ。
伯爵には意識が無い様で微かに胸が上下しているのが生きている証拠だろう。それをみてとりあえずは安堵する。
とりあえずは治療の前に鑑定をかけさせてもらう。
***
グレン・ラガン・ヘタリーチェ (45歳)
性別 男
種族 人
魔力 5200/10000
状態 毒 疲労
***
***
チルカル
効能
ジエチルカルバマジン含有。寄生虫の薬として古くから使われてきた。新鮮な黄色の花を加工するとくするとなる。効力は採取から徐々に消えてゆき赤い花は劣化している。
加工法‥…。
***
「この花じゃだめだね。質がもう劣化している。」
「え。」
「伯爵を治療してどこで手に入れたか聞き出そう。」
伯爵に手を翳し口の中で『解毒』を唱えるとわずかばかり顔色が良くなった。改めて鑑定をして毒の状態がなくなっている。
後は怪我というよりは擦り傷か。
ここにはモンスターも何故か近寄らないみたいなので自分で気が付くまで放置しておいて大丈夫だろう。
花は伯爵がどこで取ってきたか確認したほうが探すよりも早そうだしな。
「な、なあ、辺境伯様。」
「僕は辺境伯じゃないよ。辺境伯爵は父様だ。」
「うっ。辺境伯子息様。」
「なんだい?」
「この花じゃ母様を救えないのか。」
「救えない。この花は本来輝くような黄色をしている筈だ。効力はその状態で無いとない。だよな。」
「はい。タリスに渡された資料にもそう記載があります。」
今は冒険者として居るから敬語とか云々はどうでもいい。
弟君の質問に答えつつもアキさんにも確認を取る。そうすればタリスさんが準備していた採取の資料でも確認をしてくれる。
とりあえずは謎の集団もモンスターもこなさそうなので食事と休憩を取ってしまおう。
ふと巨木が気になって頭上を見上げると僕の顔ぐらいの葉がざわざわとざわめいている。ここの空気は重苦しくもないからヘタリーチェ伯爵は良い場所で気絶してくれていたようだ。
謎の集団の方を向いていると気分が悪くなるのでここは砂漠でいうオアシスの様な物なのだろう。
そんなところを汚すわけにはいかないので、食事は作り置きで我慢してもらおう。
そう考えて空間魔法を使い料理を取り出す。
野菜のスープにチキンを挟んだサンドイッチ。
勝手についてきた弟君には出さないで置こうかななんて思ってたけど、盛大な腹の虫の抗議があったので仕方が無いので出しておく。
「休憩ついでに長期依頼について説明をしましょうか。」
「はい。先生。」
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