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後日談① オウル編
しおりを挟む雲ひとつない青空が眩しい昼間。
私はとある僻地に来ていた。
私はある国の第二王子のオウルという。
こうして王都から離れた僻地に来ているのには訳がある。この僻地には愛しの女性が孤児院を営んでいるからだ。
女性の名はアリッサ・ドラグネス。
少し前に王都に起こった事件の関係者だ。そのため、こんな僻地に送られたのだが、本来なら死刑か日の見ないところで死ぬまで監禁だった事を聞けばずいぶん寛大な処置であろう。
それを手引きしたのは、弟の婚約者の女性である。彼女には感謝しきれないな。
さてはて、まあ、事情はだいたい分かってくれたと思う。
ちなみに愛する女性にただ合いに来たのではないのだ。今回は国の孤児院への新支給金制度を持ってきたのだ。父上にも合格をもらいやっと堂々と会いに行けるのは嬉しい。
「王都からの支給である。誰かおるか?」
「……あら、オウル様。」
孤児院から修道女姿のお腹に膨らみを持つ可愛らしい女性が出てきた。彼女がアリッサだ。
アリッサは私の姿を見つめるとふんわりと華がさいさように微笑んだ。やっぱり可愛いな。
「ふふ、お久しぶりですね。」
「ああ、元気そうだな。」
「はい。」
その身に起こった悲劇に世界を呪うまで壊れたアリッサの姿は既にない。
幸せそうに子供と戯れる彼女はさぞ美しいだろうな。そこに私がいればもう、完璧だ。
「人では足りているか?力仕事があればやるぞ。」
「大丈夫です。ギルドの人が来てくれますし。」
「……そうか。」
私が対策としてギルドを利用したのは良かったが、愛しの女性に良いところが見せられないのは困った。
今まで、孤児院への支給金は王都から運ばれていた。その運ぶ相手は遠くの地まで行くのが面倒だったり多くの支給金に目がくらみ、国の目が届かない遠くの場所には届かないのが主だった。
そこで私は至るところにあるギルドに目をつけた。ギルドのマスターが人を選び、その者が支給金を届けるのだ。これは国から依頼として出されるため依頼完了金も出る。
もともと、金を届けるための宿泊費とかが大分あったからな。そこから出した。しかも、国から依頼と云うことではくがつくのだ。
ギルドなら金を預ける機能があるから、楽にお金のやり取りがしやすいのも利点だ。
「今回は、私が持ってきたのだ。」
「ありがとうございます。」
「アリッサ、そろそろ昼の準備。あれ?お客様?」
「あら、もうそんな時間?」
支給金を渡していると、アリッサの背後から男の声がした。
アリッサより年上の様な男は、アリッサの隣に来ると私をじろじろと見てきた。いくら、私が王族だと知らないとは言えそんなに見るのはあまりにもマナーがなっていないな。
「紹介するわね。私の旦那よ。」
「えっ?」
「実は、昔の孤児院に生き残りがいてね。彼もその一人。」
「はぁ。」
「レオ様が見つけてくれたのよ。感謝しきれないわ。」
「聞いてない。」
話を聞くと、彼はギリギリまでアリッサがヘッジバード男爵に買われるのを良しとしなかったらしい。そして、彼女が連れてかれてから冒険者となり連れ戻すために頑張っていたのだという。
数日間任務があり孤児院を離れたときに病が流行ったのだという。
その時の病で全員は死ぬことはなく、今までは彼が育てていたのだ。
彼は小さい頃からアリッサが好きだったらしく、王都に迎えに行こうとしていた。そこに弟が来たのだという。
レオンよ。絶対に手を焼かせた私への意地悪だろ。
腹を抱えて指差して笑うお前が目に浮かぶようだよ。
「……おめでとう。」
「ありがとう。オウル様にもその婚約者様にも迷惑かけたわね。」
「いや、ダイジョウブだよ。」
ああ、念のためにいうと、アリッサのお腹の中には父親がわからない子供がいる。彼は、アリッサの子なら愛せると宣言して愛しんでいるらしい。
「じゃあ、支給金ありがとうね。」
「……うん。またね。」
夫婦仲良く腰に手を回しながら私を見送る姿に、胸の奥を痛めながら別れた。姿が見えなくなったところで、大きなため息をつき、へたりこむ。
私も冒険になって世界を回ろうかな。
「変なことを考えてません?」
あれ、王都に居る筈の婚約者の声がする。
「レオンがオウルが落ち込むから迎えに行けって。」
弟の差し金か。……ってことは、
「本物!」
「やっと、分かりましたの?」
「リンファ!」
「ふふ、何ですの?」
私の前には確かに婚約者のリンファ・レイオードがいた。
街娘風の服を身に纏い、口元に艶やかな笑みを浮かべた美少女がいる。いつもなら気高い雰囲気が苦手なのだが、街娘に扮しているからかとても安心する。
「さあ、王都に戻りましょ。」
「そうだな。いつまでもくよくよしてられんからな。」
「そうですわ。貴方は次期王というプレッシャーを感じながらも努力をしてきた素晴らしいかたですもの。小娘は見る目がなかったのね。」
リンファの言葉に、動きが固まる。
誰もが私の努力を知らないと思っていたのに。なんだ、見てくれている奴がこんなにも近くにいたのだな。
「お前も、気を張って頑張っているじゃないか。」
「えぁ?」
私に誉められると思わなかったのか、きょとんとした顔は可愛らしい。そのあとに顔を真っ赤にして口をパクパクとしている。ふはっ、良いな。
「リンファ、ゆっくり帰ろうか。」
「あ、は、はいっ。」
ある国が作り上げたギルドを使った孤児院への支給金対策は他の国でも真似るようになった。それにより、僻地にある孤児院にも届く様になる。
この改革の発端にはある事件があったのだが、対策を広めた国が口にすることはなかった。
ただ、国の王と王妃は仲良くお互いに笑い会うだけである。
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