俺の可愛い幼馴染

SHIN

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終局

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 精霊祭の会場に戻った俺等は、会場にオウル兄さんを見つけた。オウル兄さんは、俺等に気付くと側に寄ってきた。そして、兵士に捕らえられているアリッサの前に来ると、膝を付いて頭を床に付ける。

 会場にいる人々がざわざわと騒ぎ出す。
 俺とは違い王族として生活している者が人前で土下座しているのだ。そりゃあ、騒ぐだろうな。
 そんなオウル兄さんを見つめながら、アリッサは冷めた様な声を出す。


「どういうつもり?」
「すまなかった。君をここまで追い詰めたのはこの国だ。」
「……だから?」
「私は、この国の王族だ。責任がある。」


 王族。
 俺が逃げたそれは、国のシンボルであり国の代表者。
 民のために民を守り街などを活性化させる代わりに、税金というので生活を送らせてもらっている存在。


 「もしも、孤児院への補助金を輸送する者に正義感溢れるものを使っていたら、妻を作らないのに若い少女を養子にする男爵を怪しんでいたら……後悔ばかりだ。」
「……後悔しないでくれる?反省して私の様な子を作らないように努力しなさいよ。」


 アリッサは、オウル兄さんと同じように膝まつき、オウル兄さんの顔を上げさせた。
 その顔は、泣いているような苦笑いをしている様な不思議な物だった。


「ああ、やはり君はすごい娘だ。」
「何よ。」
「私はアリッサが本当に好きだった。」
「それを利用して悪かったわね。」


 オウル兄さんはアリッサを本当に愛していたらしい。
 だが、今はもうすべてが遅すぎた。彼女はこれから国を潰しかけた者として国家反逆罪で裁かれる。
  たとえ死刑を免れても、彼女はもう一生涯日の光は見ることはないだろう。


「……国王陛下、宜しいでしょうか?」


 ベアトがゆっくりと口を開いた。
 鈴の転がるような心地よい声が辺りを包む。誰もがベアトに注目している。


「良い。話せ。」
「ありがとうございます。国王陛下、今回の出来事は国の防犯のため私がヘッジバード嬢にお願いしたのです。」


 突然の意見に、だれもが言葉を失った。
 ベアトは、今回の件は自分が黒幕だといいはじめたのだ。俺が止めようとするのが分かっているのか、口元に指を宛てシッと合図している。


「何を言っているか分かっているのか?」
「はい。彼女はこの国の欠点を見つけてくださいましたわ。」
「欠点?」
「ええ。まずは孤児院のずさんな管理。本来ならどんなに遠くても数年に一度は視察をするのに、視察するのは近場の所だけ。それでは遠くの孤児院の状況は分かりせんわ。」
「そ、それは……。」
「次に貴族たちの腐敗。功績も残していないのに役職がついているために税金から安くはない給料が払われる。何年間功績がなければ貴族席を外し、功績のある者に与えればよろしいのでは?そうすれば、貴族同士が競合して良くなるのでは?」
「ううむ。」


 ベアトの言葉は最もである。もしも、これらが実現すれば、確かにより良い国になるであろう。
 実現すればの話だが。


「さしでがましい事を申しました。」
「いや。今回の件は我々も痛感した。参考にしよう。」
「それと、お願いがございます。」
「お願い?」
「……ヘッジバード嬢は私のお願いを聞いただけ。」
「えっ。」


 ベアトは美しい笑みを浮かべ、凛としたたたずまいで俺の父さんを見つめている。要は、アリッサの減刑を願っているのだ。アリッサは信じられないといった表情でこちらを見ている。

 父さんは、ため息を盛大についたあと口を開いた。


「今回の件は私たち王族にも責任がある。とはいえ罪は罪。ヘッジバード嬢、いやドラグネス嬢は僻地の孤児院に修道女として行くことを命じる。」
「えっ。」
「オウルは、その僻地への補助金の運送方法を見直すこと。それを他の運送にも使うからしっかりな。」
「はい!ありがとうございます。」
「そして、今回の一番の罪であるベアトリーチェ・リィーヒィア。」
「はい。」
「貴族席外す。良いな。」
「寛大な裁き、感謝いたします。」


 ベアトが礼をして父さんの元から離れ俺の元にきた。
 何処か困っているような嬉しそうな顔をしながら優しい眼差しで見つめてくる。


「レオ様、私どうやら貴族じゃなくなったみたいなの。」
「ああ、見ていたよ。」
「だから、何も気にせずに冒険しましょ。」


 ふふ、と笑うベアトに俺は目を見開いた。
 どうやらベアトは貴族であるベアトを俺の勝手に巻き込むのを悩んでいたのを知っていたらしい。

 本当にかなわないなぁ。


「ベアトは本当にそれでいいのか?」
「あら、私はあなたがいればそれだけで、幸せよ。」
「愛してる。」
「私もよ。」
 

 もともと俺は、ベアト以外の他人のを思い、慈しむことはできなかった。たとえ、父さんもや母さんが魔物にとりつかれても問答無用で切ることが出来てしまうのだ。そんな欠陥品の俺が唯一想い、愛せたのがべあとである。

 だからこそ、こんな執着心だらけの男の婚約者で本当に幸せか不安だったのだが、ただの杞憂で終わったようだ。



 今回のベアトの涙で始まった騒動はあらかたけりがついたといって良いだろう。
 え、孤児院の生き残り?
 ああ、彼はアリッサの孤児院に送り込んどくよ。そのときのオウル兄さんの反応が楽しみだ。




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