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日常の中の非日常③
しおりを挟む所で、大通りにて私が周りを気にすることなく足を止めた理由ですが、とある石を見つけた事にあります。
謝罪に許しを頂いた私は買った商品の一つを正妃様に渡しました。それを見た正妃様の表情が変わり、じっくりと観察を始めます。
私が渡したのは恐らくエレキサンドだと思われる石を使った小物です。
エレキサンドは色が緑や赤に変わるのが特徴の魔石で、一見すると宝石の様にみえます。この国でごく稀にカラスが何処からか持ってくる珍しい物で、通常の魔石は属性因子が一つしかないのですが、エレキサンドは多属性を帯びることがわかっております。
正妃様は室内灯に翳したり、日に向けたりと色々試したのち、確信をもって頷いた。その後ろでレイスがあれと声をあげた気がしましたが、気のせいとしておきましょう。
「間違いありません。どこでこれを手に入れたと?」
「西にある洞窟でたまたま拾ったと言ってました。」
「なぁ。」
「直ぐに調査隊を!」
「エルディアス様…。」
「鉱脈が見つかれば、この国はもっと豊かになります。他国への切り札にも。」
「聞けよ!」
レイスがぎゃんと騒ぎ、皆の視線が向いた。
普通は王族の話をと切らすなど不敬なのですが、まあ、知り合いですし良いでしょう。
一斉に視線を向けられたことに少しだけ怯むが、気を取り直して腰からぶら下げている袋から、ゴロゴロとエレキサンドと思われる石を出してきた。
一つ借りて正妃様に渡すと、力強くうなずかれた。
間違いない、原石です。
「これは…。」
「今、冒険者をやっているんだけど、クエストで西に行った時に崖の所で見つけた。この録音機を作った奴に渡したら、前の騒ぎの件の事もあるし秘密にした方が良いって言われて届けは出さなかったんだ。ちなみに、録音機にも僅かに使われてる。」
「場所はわかりますか?」
「勿論。洞窟の奴ももしかしたらオレが雨宿りで使っていた時に落としたのかも。」
レイスの報告に、直ぐに騒ぎになりました。
正妃様は王様と側妃様に伝えに行きましたし、ディランは地図を取りに書庫へ。
アイリスは相も変わらず私の護衛として側にいますが、レイスはポカンと成り行きを呆然と見ています。
「これってこんなに凄いのか。」
「ええ、この国でしか発見されないのに何故か鉱脈が見つかりませんでしたし。」
「ああ、確かにあれは普通見つからないよな。」
「?」
「後で地図がきたら説明するよ。」
ディランが戻ってからも同じ説明をするならその時にまとめて説明してしまった方が良いものね。
それにしてもレイスが冒険者になっているなんて。意外の様な、そうでもないような。でも、あのパーティーで最後までアイリスから同級生を守っていたのを思い出すと、なかなか似合っているかも。
くすりと笑えば、アイリスからどうしたと聞かれた。あのパーティーを思い出していたと伝えれば、アイリスとレイスが同じように眉をしかめて、何とも言えない顔になる。
まあ、今思い出すと黒歴史ですよね。
「ふふ。似合ってますよ冒険者。」
「ちなみに、あの時のメンバーであと二人パーティーを組んでいるんだ。」
「あら、できたらこの録音機を作ったのは。」
「そうそう、宮廷魔術師長の養子だよ。」
「名前ぐらい存じてます!」
まったく失礼しちゃうわ。
でも、この録音機を作るなんて凄いわ。しかも、エレキサンドの価値まで見抜き、危険性も考えていそうだし、成長したわね。
何処と無く子供の成長に喜ぶ母の気持ちになりながらしみじみと息を吐く。
さて、もう一人は騎士団長の息子かしら?
「正解だ。一度実家で根性を叩き直されたあとに冒険者になったらしい。」
アリストを取り押さえることの出来る騎士団長の扱き、見てみたかったわ。
え、悪趣味?
なんとでも言いなさい。
「戻ったぞ!」
「ディラン、お帰りなさい。」
息を切らせて戻ってきた旦那様の汗ばむ米神に軽く口づけを落とすと、ご機嫌に地図を拡げた。
地図は西の区域が詳しく書かれているもので先程の会話で『西』というキーワードを覚えていたのがよく分かる。
レイスがディランと頭を付き合わせて話し出したのを見て、学生時代の風景を思い出しました。まあ、あのときはディランでなくてリクリート殿下でしたけど。
手を挙げると、侍女が紅茶の用意をしてくれた。
暖かな紅茶を味わいながら、あの時のパーティーで人生が狂った人達が、頑張っているのが見えてほっとしております。
「はぁ?お前は軟体動物か!よくそんなところに入り込めたな。」
「軟体動物って酷くないか?ちょっと関節外して入るだけだろ!」
「…人間だよな?」
何か騒がしいと思ったら、どうやら鉱脈に入る場所が崖に入った亀裂の奥なのだとか。亀裂は狭く普通は入れそうにないのだとか。
ただ、レイスは関節を外してするすると入ることが出来た様で、奥に空洞がありそこに鉱石があると教えてくださいました。
実をいうと、レイス程ではありませんが私も関節を外すことが出来ます。手首だけなので縛られたときに逃げ出す事しか出来ませんけどね。もしかしたら勇者の遺伝子がなせる技かしら。
今度、実家や親戚に聞いてみましょう。
「エルディアス様、何か楽しそう。」
「あら、そうかしら? でも確かに、昼間みたいなことは勘弁だけど、こうした日常の中の非日常も刺激があってたまには良いかなって思うわ。」
本当にたまにならですよ。
*************
アイリス視点
冷たく湿気がこもって暗い場所に、元正妃様の護衛だった男が鎖に繋がれている。
今は、イチャイチャ時間だとディランに追い出されて此処に来たのはこの男に会うためである。
男は俺に気づいて、ほの暗い笑みを浮かべた。
「アイリス様、来ると思っていましたよ。」
「何故、名を?」
「妹から聞きました。恋人だと。」
「そんな事実はない。」
なるほど、俺の名前はエルディアス様の元侍女に聞いたか。だが、見栄なのか俺を恋人呼ばわり馬鹿な事だ。
「貴方はエルディアス様に執着されて困っていたのでしょう?」
「俺にとってエルディアス様は片翼だ。執着される事に喜びを感じても、困ることはない。」
「…片翼? まさか、お前は…処刑された筈では!」
鎖をじゃらじゃらと鳴らし、吠えるように叫んでいる。どうやら、俺の正体に気づいたらしい。
確かに、俺は処刑されたことになっている。何故生きているかと言われたら、
「エルディアス様に求められたからな。『ディラン』を支える両翼になろうと。」
「ディラン殿下がお許しにならないだろ!」
「ディランも承知済みだ。『エルディアス』を守るためにお互いに血濡れになろうと。」
「狂っている!」
男の言うとおり俺達は少しおかしいのかも知れない。でも、彼女が笑ってくれるならそれでも良い。
「さぁ、最後の別れだ。大丈夫。あの女は先に逝っているよ。」
「えっ? あの…女?」
「国から出たあと手紙など一度も来なかっただろう?」
「なっ、き…貴様ぁぁあぁ!」
牢の中で紅い華が咲く。
さて、ディランとエルディアスのイチャイチャが終わる前に片付けて、邪魔しに行こう。兵士には、自殺したと伝えておけば良いだろう。なんたって装備はそのままだったからな。
おまけ(会話文だけです。)
「ただいま。」
「あら、アイリス。どこに行っていたの?」
「ディランに追い出されていた。」
「まあ。でも本当は自由にして良いのよ?」
「!」
「エルディアス、禁句。」
「だって、さっきは…。」
「エルディアス様からは聞きたくない。」
終わり。
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