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私は誰のもの?私のものですわ。
しおりを挟む会場には狂った男が二人。
一人は王族で普段はちょっとお馬鹿な執着屋。もう一人は普段からヤバそうな執着屋。
何故か私はヤバそうな方に執着されています。
アリスのケタケタ笑う行動に会場の警備が危機感を感じて周りを取り囲む。もっと早く行動してくれても良いのになんて内心思いながらも、まずは正妃様の避難を優先してもらい、完了したからこっちに来たのだと理解しているから最悪の回避の安堵にほっと息を吐いた。
しかし、警備の一人がアリスを捕らえようとした時、軽く身を交わされ何処から取り出したのかナイフを構えていた。
会場のいたるところから悲鳴が上がり、警備にも緊張が走る。
「俺とエルディアス様の逢瀬を邪魔するな!」
その慣れた手つきは彼がそういうことを常にしているのだと知らしめた。あれだけアリスにお熱だった男達が蜘蛛の子が散るように周りの群衆に紛れる。
残ったのはリクリート殿下と自分の矜持の為か、騎士団長の息子と勇者の子孫の三人だ。特に騎士団長の息子と勇者の子孫は皆を守るように護身の為の剣をいつでも抜けるように構えた。
そんな彼らを流し見していたかと思うと、私の方に向き治りアリスが愛しげに手を伸ばしてきた。
私を守るようにディランが目の前に立ち、伸ばしていた手からかばってくれる。
アリスは舌打ちをして飛び退き、先程までいた場所に警備の攻撃が当たる。
「だからさあ、邪魔しないでよ。」
「…アリス様。」
「ああ、エルディアス様。俺の事はアリストと読んでよ。」
アリスの名を呼べば嬉しそうに微笑んでキラキラと輝く瞳で名の訂正をしてきた。アリスト、それが彼の本来の名前なのだろう。なるほどとっさに呼ばれて返事を返すには名が近い方がいい良いと言うことか。
口の中でアリストの名前を繰り返すと、声を出してもいないのに尻尾を振る犬の様にはしゃいでいる。
「アリスト様。貴方、魔術師ですわね。」
「!?」
はしゃいでいる所悪いけど先程、私に向かって伸ばされた手に微かな魔力の波動を感じていたのでそう鎌かけをしてみれば、微かに表情が強ばった。
これごときで顔を強ばらせるなんて動きは玄人でもまだまだ未熟の証拠。それとも私だから余裕が無いのかしら。なら、私が怖がる必要はないわね。
落ち着くために深呼吸をして、守るように立つディランの横に並び立つ。大丈夫。怖くないわ。
「得意は、幻影かしら?」
「さあね。俺の所に来たら教えてやるよ。」
「貴方、魅了と幻覚を使ったでしょ。」
どちらも幻影魔法の上位。
たまに特異体質で魅了を使えるものも居るけど、それぞれ対象に術者、体質者を好ましく思うようにするある意味禁忌の魔法である。強く掛ければそれだけ奴隷の様になる。
これで納得がいく。
本来、生活環境等で好みも変わってくるのに男達は何故か男が変装した少女を取り合うほど愛し、気に入られようと争っていた。
彼は言っていたじゃない。
リクリート殿下の性質を利用したと。
それだけじゃない。他の男達の弱みも利用したのだ。
彼らからしたらアリスは至極理想の女性だったのだろう。
「何故、こんなことを?」
「片翼を両翼に戻すためさ。」
アリストの聞いた噂道理なら今日、私はリクリート殿下に婚約破棄され、しかもこんな大衆面前で行われることでショックを受けるはずだった。そんなショックを受けた私を本来の姿が慰める予定だったのだとか。しかも、魅了を使いながら。
それが、私の婚約者は別の者。
「でも、巻き込むなら馬鹿王子だけでもよかったでしょう。」
「まあね。他はついでの仕事だよ。」
「確かに貴方が落としたのは重要な人達ばかりでしたね。誰かがそれを目論んでいるのですね。」
白い肌に映える紅い口元に弧を描き、なんとも楽しげに言えば今度こそはっきりと不味いことをいったという表情を浮かべてくれた。本当、私には感情を向けてくれるわね。
私とアリストの会話の最中、気配を消して近付くものが一人。
私からは丸見えだけども、アリストからは見えない。彼は私に意識が向いてしまっているだからね。
手の中に滴る緊張の汗は誰にも気づかせない。だって、ここで彼の気を引けるのは私なんだから。
最初、狂っている姿は確かに怖かったわ。動きもただ者じゃない感じでどれだけ修羅場をくくったのか考えてたわ。
でも、実際の彼はさほど実戦経験は少ないと思うし私を傷つける事は無いでしょう。
私になにかを言いかけたのか口が動いた瞬間、誰かに呼ばれた騎士団長がアリストを取り押さえた。
アリストは突然の衝撃に受け身も取れずに床に叩きつけられた。顔が苦痛に歪み、圧迫された息が吐きだされながらも唇は私の名を何度も呼ぶ。
「ありがとう。」
「息子の尻拭いです。」
騎士団長はガッチリとアリストを押さえつけながら、ディランと私に軽めの礼をくれた。
さすがは国一の武人。隙の無い動きです。
「子供にしては良い動きでした。だけどエルディアス様が目の前にいてはしょうがないのかな。所詮は子供か。」
「……。」
「ここで騒がないところはさすがか。」
アリストは私の名を呼ぶのを中断し、自分をくみしく騎士団長を睨み付けていた。
大人しく拘束されている姿に堪忍したかと思っていると、急に魔力の高まりを感じた。
「わたしには魅了は効かないぞ。状態異常無効の装備を着けているからな。」
「ちっ。もう少しで手に入ったかも知れないのに。俺の片翼…。」
「私は貴方の物じゃありませんわ。私は私の物です。それに、ここで私を手に入れられたとしたも貴方を愛すことはありませんわ。」
暗い瞳で私を見つめてくる。
先程のキラキラとした眼はもう成りを潜めていた。何を考えているか分からないけど、これで一旦は騒動は終わりかしら。
おそらくアリストは処刑されるでしょう。
他のアリスを愛した男達にも沙汰が下るはず。
楽しかったパーティーは今や楽しむ様子もない。それはそうよね。これだけの事があったらもう帰りたいもの。
私も帰りたいわ。でも、次期王妃足るものそんな事出来ないわ。
私は高らかに声を張り上げる。
「今宵はイレギュラーな出来事になった事を詫びますわ。後程、詫びの品を贈りますわ。皆様に怪我が無かったことが僥倖でした。私達を守ってくださりました警備の方にも感謝します。」
「そうだな。今日はここまでと言うことでお開きにしよう。」
私の言葉に続くようにディランの締めの言葉を述べた。
それを境に皆が私達に一礼して出口に向かう。それに笑顔で返しながら、そろそろ緊張感の解放で足がガクガクしております。それに気づいたディランが苦笑いをして腰を支えてくれました。
「無理をするなよ。」
「ふふふ、ディランが支えてくれるなら大丈夫そうですわ。」
「…俺はそんな重圧から救いたかった。」
アリストの小さな声を拾ったのは私達だけだった。
あと一話か二話で終わる予定。
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