わたくしは貴方を本当に…

SHIN

文字の大きさ
上 下
15 / 34

饗宴の終わり

しおりを挟む






 大笑いの主は言わずながらもレオナルド様です。腹を抱えるかの勢いで笑いこける彼は、はぁ、と息を整えた後にわたくしに問いかけます。


「人間とは思えないのか?愛にうつつを抜かし嘘を信じ、自分の立場がいよいよヤバくなれば真実の愛とやらも捨てて保身に走る。それこそ人間のさがに見えるが?」
「あら、難しい事を仰るのですね。わたくしは単純に話をいつまでも理解していないようですので、そう言ったまでですのよ。」



 言葉を発する生き物は多種います。けど言葉を使いこなすのは数少ないのです。
 誰かが話の通じない新人が未確認生物みたいだ!などと言っておりました。
 わたくしも今回の王子殿下は同じ国の者なのに言葉も通じないので、まるで異界からきた生物に見えてしまったの。
 それほどかと言われたらちょっとばかし大袈裟に言いましたが、本当に愛していた身で支えることすら出来ずに罪に落とされかけた方としては、これぐらい可愛いものでしょ?


「はは。伯爵令嬢の言うとおりだ。」


 レオナルド様が何処かに合図をすると、兵士達が現れました。
 彼等はわたくしからも拒絶を示した事で、今度こそ糸が切れた人形の様に呆然としてしまった王子殿下と未だにぶつぶつとゲームだコンテニューだ訳の分からないこと言っているアリア。この二人と側にいた三人の男達を一度取り調べるということで回収していかれました。

 その際に少しだけ、大人しくつれてかれる彼らに不気味さを感じました。特に別に問題を起こしていない三人の男達が。

 会場は静まり返っております。あんな場面を目撃してしまったのなら当然ですね。先生方戸惑ってしまっている様子。
 
 せっかく陛下が用意してくださった場ですので、このままというのも申し訳ないです。なんとか雰囲気を取り戻さないといけませんね。こういう時こそ王妃教育を思い出すのよ。


「皆様、わたくしのせいで酷く気分を害してしまい、お詫び申し上げますわ。元の雰囲気とはいきませんが、わたくしも退出いたしますので、陛下のお気持ちを楽しんでください。…とは建前で、わたくしが緊張がとけて足が小鹿の様にプルプルしますのでお暇します。それと、この様なことは沽券に関わりますので内密にお願いします。」

 最後にはにかんだ笑いを漏らせば何人かが笑ってくれたので良いでしょう。
 本当にわたくしがいてもきっと楽しむことができないでしょうから、一礼をして会場から退出する。
 
 その際に何人かの方々から気にしないでとか、格好良かったとかお声かけくださいました。そんな人々のお陰で少しだけ心が軽くなります。
 そんな事を思いながら会場の出入り口の扉を潜りました。




 賑やかな雰囲気をどうにか取り戻した会場の外は廊下になっています。
 そこに出た瞬間に、緊張の糸が切れて腰を抜かしてしまいました。小鹿の様だというのは本当の事だったのです。誰にもばれなかったでしょうか。
 そうして、ふるふると身体の震えが止まらなく、ポロポロと雨まで降ってきました。
 いえ、室内なのですから雨の訳ございませんね。
 これは涙ですね。
 
 わたくしは貴方ティグリスを本当に愛していたのです。

 こんな結果にはしたくなかったのですよ。
 手の痛みでどうでも良くなった?確かにそんな気持ちも有りましたが、本心ではなんとかしてあげたかった。
 でも、もう手遅れだったのです。陛下は決断していましたし。
 わたくしだけが悪役になるのならまだ良かったのに。父や母、一族を巻き込まなかったら。 

 いったいどこで間違ってしまったのでしょう。
 アリアが絡んできた当初はさほど問題が無かったのに。そう言えば王子殿下が変な魔術になんておっしゃってましたが本当にそんな魔術が有ったのなら…。
 殿下は許されるのでは。

 




「また、泣いてるのかよ。泣き虫姫さん?」
「れ…お…?」
「おうよ。とりあえず、空き部屋でその手の治療するぞ。ドラクネア家の当主も来ているからな。」
「…ない…の。」
「ん?」
「立てないのよ。」



 
 何でわたくしが困っているときに現れるのは貴方なのでしょうか。




しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

この罰は永遠に

豆狸
恋愛
「オードリー、そなたはいつも私達を見ているが、一体なにが楽しいんだ?」 「クロード様の黄金色の髪が光を浴びて、キラキラ輝いているのを見るのが好きなのです」 「……ふうん」 その灰色の瞳には、いつもクロードが映っていた。 なろう様でも公開中です。

毒姫の婚約騒動

SHIN
恋愛
卒業式を迎え、立食パーティーの懇談会が良い意味でも悪い意味でもどことなくざわめいていた。 「卒業パーティーには一人で行ってくれ。」 「分かりました。」 そう婚約者から言われて一人で来ましたが、あら、その婚約者は何処に? あらあら、えっと私に用ですか? 所で、お名前は? 毒姫と呼ばれる普通?の少女と常に手袋を着けている潔癖症?の男のお話し。

婚約破棄の『めでたしめでたし』物語

サイトウさん
恋愛
必ず『その後は、国は栄え、2人は平和に暮らしました。めでたし、めでたし』で終わる乙女ゲームの世界に転生した主人公。 この物語は本当に『めでたしめでたし』で終わるのか!? プロローグ、前編、中篇、後編の4話構成です。 貴族社会の恋愛話の為、恋愛要素は薄めです。ご期待している方はご注意下さい。

他には何もいらない

ウリ坊
恋愛
   乙女ゲームの世界に転生した。  悪役令嬢のナタリア。    攻略対象のロイスに、昔から淡い恋心を抱いている。  ある日前世の記憶が戻り、自分が転生して悪役令嬢だと知り、ショックを受ける。    だが、記憶が戻っても、ロイスに対する恋心を捨てきれなかった。

堕とされた悪役令嬢

芹澤©️
恋愛
「アーリア・メリル・テレネスティ。今日を持って貴様との婚約は破棄する。今迄のレイラ・コーストへの数々の嫌がらせ、脅迫はいくら公爵令嬢と言えども見過ごす事は出来ない。」 学園の恒例行事、夏の舞踏会場の真ん中で、婚約者である筈の第二王子殿下に、そう宣言されたアーリア様。私は王子の護衛に阻まれ、彼女を庇う事が出来なかった。

完 さぁ、悪役令嬢のお役目の時間よ。

水鳥楓椛
恋愛
 わたくし、エリザベート・ラ・ツェリーナは今日愛しの婚約者である王太子レオンハルト・フォン・アイゼンハーツに婚約破棄をされる。  なんでそんなことが分かるかって?  それはわたくしに前世の記憶があるから。  婚約破棄されるって分かっているならば逃げればいいって思うでしょう?  でも、わたくしは愛しの婚約者さまの役に立ちたい。  だから、どんなに惨めなめに遭うとしても、わたくしは彼の前に立つ。  さぁ、悪役令嬢のお役目の時間よ。

シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした

黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)

処理中です...