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前編

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 弓道場は、常に静寂な場所だった。ただ弓を引き、矢を放つ音だけが響き渡る。

 ここは山梨県の県立高校。ボロボロな弓道場。僕は武田信也。弓道部に所属している高校一年生だ。

 弓道を始めたばかりということもあると思うが、まだあまり上手ではない。

 僕の隣で矢を放っているのは、部長の甘利虎蔵先輩。先輩は、県大会に出るような凄い先輩だ。

 そんな先輩と僕は付き合っている。今日から丁度一週間前のことだ。

 部活の時間が終わって、片付けをしていた僕と甘利先輩だけが弓道場に残っていた。

 そのときに、先輩が「好きだ。付き合ってほしい。」と言ってくれた。僕は前からカッコいいなぁと思っていた先輩から告白されるなんて思ってなかったが、「よろしくお願いします!!」と即答した。

 それから、部内のみんなには秘密にしながら僕と先輩は付き合っている。なんだかうずうずする感じがする。

「武田。ここはこうやって腕を弾くんだぞ。」

そう言って、先輩が僕の身体に触れた。ドキドキで手に力が入らない。

 このように、僕の彼氏はちょくちょく僕をイジメてくる。まあ、そういうところも好きだからいいんだけど……

 そんなこんなで時間は経っていく。2時間が過ぎて、部活動終了の時間になった。かんたんに片付けを済ませた部員たちが弓道場から出ていく。

 そうなると、弓道場に残っているのは部員全員が毎日持ち回りで担当する掃除係だけとなる。今日の掃除係は、僕と甘利先輩だった。

「みんな、帰っちゃったな……」

と先輩が外を見ながら言った。

「下校時間ですから。」

僕は床を雑巾がけするために、バケツに水を入れながらテキトーに対応した。

「そういうことじゃないだろう?信也。」

と、先輩が僕をバックハグして来てそういった。先輩の温かいぬくもりと、優しい匂いが僕を包み込んだ。

「もう……先輩……話してくださいよ!♪」

「や~だ。」

「ちょ、本当に!♪掃除できないじゃないですか~」

「しなくてもいいんじゃない?」

「何言ってるんですか~」と僕は冗談混じりに笑いを誘ったが、先輩はマジな顔をしている。

「俺と遊ぶじゃ。ダメ?」

先輩がいつも以上にカッコイイ。近づいてくる先輩。僕は思わずあとずさりしてしまう。

壁に当たった。もうこれ以上は下がれない。ドン!!と言う音とともに先輩の、手が僕の顔左側すれすれの所を突いた。いわゆる壁ドンってやつだ。

「もう一度聞こう。武田信也くん。今から俺と遊ばないか?」

 いつもなら先輩はこんなことを言う性格ではない。いつもよりカッコイイ先輩からのお誘いに僕はどう返事をすれば良いんだろうか………
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