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第44話 彼方の高みへ至る者

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 チートを使う罪悪感と照れ臭さも、きれいさっぱり消え去った。
 この力は、前世で命と心を削って積み上げた対価なのだ。
 正当な報酬なのだから、遠慮なく使えばいい。
 
「マキナ、奴の落下コースを視界に表示しろ」

『了解です、タカシさん。表示しました。』
 
 魔力放出で落下軌道を調整しつつ、全力の魔力放出と同時に力場を蹴る。
 一気に接近した俺は空中でエレイン侯爵に組み付いた。

「き、貴様、何をするつもりだ!」

「答える義務はない!」

 超振動手刀で奴のウォーハンマーの柄をスパッと切る。

「なっ……」

「まだまだ行くぞ!」

 そのまま両腕をひねり上げて背中に着地する。
 たまらず奴は役立たずとなったハンマーを手放した。

「ぬおああっ! やめろ惰民風情だみんふぜいがぁぁッ!」

「俺はお前の領民じゃない!」

 落着直前に奴を大地に向けて蹴り落とすようにしてジャンプする。 

「グオアーッ!!」

 隕石でも落ちたかのような大爆発が起きた。
 地面に叩きつけられたエレイン侯爵がクレーターのど真ん中に倒れている。
 もちろん俺は優雅に着地した。

「お、の、れ……」

 エレイン侯爵がヨロヨロと立ち上がってくる。

「バゾンドは不死身なのか? 今ので木っ端微塵にならないとは」

「何を言う、貴様もバゾンドではないか……!」

「あいにくと違う。俺はバゾンドではない」 

「ならば何者だというんだ……!」

 ……俺が何者か?
 そうだな、彼方高至カナタタカシの名をこの世界の発音に直すと……。

「バゾンドを超える者。その先を往く者。ルナの保護者にして、彼方の高みへ至る者」

 赤き月を背に、俺は高らかに名乗りをあげた。



「ハイエンド……だとぉ?」

 エレイン侯爵がわなわなと震える。
 無理もない。
 この世界の言語で神の一歩手前を自称したも同然なのだから。
 
「貴様ごときが、この私を差し置いて! 名乗っていい名前では……なァい!!」

 巨躯が駆けてくる。
 かつての勢いは見る影もない。
 そろそろ引導を渡してやろう。

「マキナ。十五秒でいい。【素早さ】と【筋力】を五倍に」

『了解しました。ですが、このステータスは人間の許容限界をオーバーしています。注意してください。』

「すべて理解している」

 確かに少し前なら自分が鼻った攻撃の威力に肉体が耐えきれず、木っ端みじんになっていただろう。

 だが、

「応えろ、ブラッディ・ムーン!」

 マキナは教えてくれなかったが、戦っている最中にすべて悟った。
 俺を取り巻く炎は、赤き月の力に根ざしている。
 しかも、この力を俺に与えてくれたのは――

「誓おう。ハイエンドの名において、を取り巻くこの世すべての理不尽を打ち砕く!!」

 赤い炎が天高く燃え上がってから、渦を巻くようにして右足に集まった。

月華終焉ブロッサムーン・エンデッド!!」

 炎をまとった神速の回し蹴りがエレイン侯爵に炸裂する。

「――!!」

 鎧姿のバゾンドは為す術もなく空の向こうへ吹っ飛んでいった。
 技を放ち終えた姿勢のまま、俺はゆっくりと残心する。

「本来ならお互いが消滅してもおかしくない威力だったはずだがな……」

 星と消えたエレイン侯爵の方角を眺めていると、赤い炎が俺をたしなめるようにボッボと音をたてた。

「そうか、それが君の意思なら尊重しよう」

 俺に人殺しをしてほしくなかったのか。
 元からそういう力だったのか。
 あるいは両方かもしれない。

「ありがとう」

 礼を告げると、炎が俺の胸に吸い込まれるようにして消えていった。
 これからは、いつでも力を貸してくれるはずだ。
 さて、ルナのところに帰る前に……。

全ステータス300の状態を終了モード・エンド

了解しましたラジャ。モード・エンド。』

 今の状態はあまりに人間味に欠けるので、ルナとの交流には支障をきたしかねない。
 事前に設定しておいたコマンドワードで元通りの十倍ステータスに――

「えっ、何だよさっきまでの俺……厨二病過ぎないかっ!? 何がハイエンドだよ、恥ずかしすぎだろ!」

『そんなことはありませんよ、タカシさん。とても素晴らしいネーミングセンスだと思います。』

「お願いだから褒めないでーっ!」
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