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第41話 邪悪の権化
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ザルディス・エレインは侯爵である。
王族の血を継ぐ公爵を除けば、最高の爵位だ。
先代までのエレイン家は弱小貴族だった。
なら、何をもってして侯爵になったのか?
武功だ。
エレイン侯爵はバゾンドの超人的な力を密かに用いて、戦場で大量の敵を殺戮することで出世した。
「私はこの世のすべてを踏みにじっていい権利を赤き月から与えられたのです!」
赤き月ブラッディ・ムーンに魅入られてバゾンドの力を得たエレイン侯爵は、その結果として赤眼となった。
そんな彼にとって、バゾンドであることは最大の強みであると同時に弱点でもある。
自分が赤眼と知られれば、エレイン家は終わりだからだ。
この世でエレイン侯爵が恐れるものは、ふたつ。
ひとつが自分の秘密を探ろうとする政敵。
もうひとつが、自分以外のバゾンドだ。
「だから私以外のバゾンドはすべて殺さなくてはならない! 私の他にバゾンドがいていいはずがない! 英雄は私一人でいいのです!」
エレイン侯爵は、健気に身を挺しようとするルナをあっさりどけて、念願を達成するべく自分専用の巨大ウォーハンマーを振り上げる。
そこで仮面が半分以上割れて、自分を見上げるタカシと目が合った。
「ム? おかしいですネ。この男、赤眼ではないですヨ」
ほんの一瞬だけ興味がそそられる。
赤眼でなくともバゾンドの力を維持する方法。
エレイン侯にとっては垂涎の的だ。
はたしてそれは赤眼を赤眼でなくする方法なのか?
それとも、赤眼に変じずともバゾンドになれる方法なのか?
「ああ、でも……もう無理ですヨォォ……♪」
後ろで泣き叫ぶルナの声に赤眼の衝動を抑えられない。
少女の嘆きと絶望ほど、エレイン侯爵を昂らせる肴はないのだから。
「逝きなさいネッ♪」
とどめの一撃がタカシの脳天に振り下ろされた。
ズドゥム! という重低音が響く。
衝撃波が周辺の樹木と岩盤とをまるごと爆砕した。
「おや? 肉と骨をミンチにしたときの手応えがありませんネ?」
長年鍛えられたエレイン侯爵の勘が違和感を訴えた。
案の定、土煙が晴れてもバラバラに四散した血肉がどこにも見当たらない。
「……おんやぁ?」
そこでエレイン侯爵はクレーターのように陥没した穴の端から自分を見下ろす赤い影に気付いた。
紛れもなくタカシだ。
しかし、何やら真っ赤な炎のようなオーラをまとっている。
エレイン侯爵の見上げる位置からは、偶然なのか、まるでタカシが赤き月を背負っているように見えた。
「タカシ!」
ルナが涙を散らしながら笑顔で叫ぶ。
「ごめん。心配かけた。でも、もう大丈夫だから」
一瞬だけ笑顔を見せたものの、タカシはエレイン侯爵から厳しい視線を外さない。
「フホホホ! まだそんな奥の手を残してたんですネ!」
背骨を叩き折られて全身がマヒしていたはずだ。
普通なら絶対に動けない。
だから赤き月から得た未知の力で超回復したのだろうと、エレイン侯爵は勝手に解釈した。
しかし、当のタカシは否定する。
「そんなのじゃない。俺にも何がなんだかよくわからないんだ」
「まあ、なんでもいいですヨ♪ ちょっとだけ楽しみが先延ばしになっただけですからネェ……」
「……その口調、誰かに似てるなって思ってたけど。ようやく思い出したよ。アンタ、俺の上司にそっくりだ」
「ほう? さぞかし立派な方だったんでしょうネ」
タカシが首を横に振る。
「人に偉そうに指示ばっかして、自分では何もしない癖に、失敗だけは他人のせいにするサイテーの奴だったよ」
「……無礼な。私もそうだと言いたいのか?」
エレイン侯爵の声が低くなる。
「いや、自分で現場に来るだけアンタはご立派な貴族なんだろうな。だけどやっぱり、別の意味でサイテーだ。お前なんかにルナを好きにはさせない」
「クフフフ……残念ながらそれは無理な相談だ! 何故なら! お前はここで死ぬからだーッ!」
エレイン侯爵がタカシめがけて駆けた。
「轟天槌ッ!」
放たれたのはバトルスキルまで使用した最大最速の一撃。
対するタカシは――
「ああ、そうだ。思い出したよ。もともと俺は異世界に来たら――」
「めぎッ!?」
タカシがエレイン侯爵の顔面に拳をめり込ませる。
思いっきり腕を振りぬくと、全身鎧に身を包んだエレイン侯爵の巨躯が、たくさんの樹木を破壊しながら森の奥へとすっ飛んでいった。
「そうそう。悪者退治がしたかったんだよね」
王族の血を継ぐ公爵を除けば、最高の爵位だ。
先代までのエレイン家は弱小貴族だった。
なら、何をもってして侯爵になったのか?
武功だ。
エレイン侯爵はバゾンドの超人的な力を密かに用いて、戦場で大量の敵を殺戮することで出世した。
「私はこの世のすべてを踏みにじっていい権利を赤き月から与えられたのです!」
赤き月ブラッディ・ムーンに魅入られてバゾンドの力を得たエレイン侯爵は、その結果として赤眼となった。
そんな彼にとって、バゾンドであることは最大の強みであると同時に弱点でもある。
自分が赤眼と知られれば、エレイン家は終わりだからだ。
この世でエレイン侯爵が恐れるものは、ふたつ。
ひとつが自分の秘密を探ろうとする政敵。
もうひとつが、自分以外のバゾンドだ。
「だから私以外のバゾンドはすべて殺さなくてはならない! 私の他にバゾンドがいていいはずがない! 英雄は私一人でいいのです!」
エレイン侯爵は、健気に身を挺しようとするルナをあっさりどけて、念願を達成するべく自分専用の巨大ウォーハンマーを振り上げる。
そこで仮面が半分以上割れて、自分を見上げるタカシと目が合った。
「ム? おかしいですネ。この男、赤眼ではないですヨ」
ほんの一瞬だけ興味がそそられる。
赤眼でなくともバゾンドの力を維持する方法。
エレイン侯にとっては垂涎の的だ。
はたしてそれは赤眼を赤眼でなくする方法なのか?
それとも、赤眼に変じずともバゾンドになれる方法なのか?
「ああ、でも……もう無理ですヨォォ……♪」
後ろで泣き叫ぶルナの声に赤眼の衝動を抑えられない。
少女の嘆きと絶望ほど、エレイン侯爵を昂らせる肴はないのだから。
「逝きなさいネッ♪」
とどめの一撃がタカシの脳天に振り下ろされた。
ズドゥム! という重低音が響く。
衝撃波が周辺の樹木と岩盤とをまるごと爆砕した。
「おや? 肉と骨をミンチにしたときの手応えがありませんネ?」
長年鍛えられたエレイン侯爵の勘が違和感を訴えた。
案の定、土煙が晴れてもバラバラに四散した血肉がどこにも見当たらない。
「……おんやぁ?」
そこでエレイン侯爵はクレーターのように陥没した穴の端から自分を見下ろす赤い影に気付いた。
紛れもなくタカシだ。
しかし、何やら真っ赤な炎のようなオーラをまとっている。
エレイン侯爵の見上げる位置からは、偶然なのか、まるでタカシが赤き月を背負っているように見えた。
「タカシ!」
ルナが涙を散らしながら笑顔で叫ぶ。
「ごめん。心配かけた。でも、もう大丈夫だから」
一瞬だけ笑顔を見せたものの、タカシはエレイン侯爵から厳しい視線を外さない。
「フホホホ! まだそんな奥の手を残してたんですネ!」
背骨を叩き折られて全身がマヒしていたはずだ。
普通なら絶対に動けない。
だから赤き月から得た未知の力で超回復したのだろうと、エレイン侯爵は勝手に解釈した。
しかし、当のタカシは否定する。
「そんなのじゃない。俺にも何がなんだかよくわからないんだ」
「まあ、なんでもいいですヨ♪ ちょっとだけ楽しみが先延ばしになっただけですからネェ……」
「……その口調、誰かに似てるなって思ってたけど。ようやく思い出したよ。アンタ、俺の上司にそっくりだ」
「ほう? さぞかし立派な方だったんでしょうネ」
タカシが首を横に振る。
「人に偉そうに指示ばっかして、自分では何もしない癖に、失敗だけは他人のせいにするサイテーの奴だったよ」
「……無礼な。私もそうだと言いたいのか?」
エレイン侯爵の声が低くなる。
「いや、自分で現場に来るだけアンタはご立派な貴族なんだろうな。だけどやっぱり、別の意味でサイテーだ。お前なんかにルナを好きにはさせない」
「クフフフ……残念ながらそれは無理な相談だ! 何故なら! お前はここで死ぬからだーッ!」
エレイン侯爵がタカシめがけて駆けた。
「轟天槌ッ!」
放たれたのはバトルスキルまで使用した最大最速の一撃。
対するタカシは――
「ああ、そうだ。思い出したよ。もともと俺は異世界に来たら――」
「めぎッ!?」
タカシがエレイン侯爵の顔面に拳をめり込ませる。
思いっきり腕を振りぬくと、全身鎧に身を包んだエレイン侯爵の巨躯が、たくさんの樹木を破壊しながら森の奥へとすっ飛んでいった。
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