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第38話 ここで本物登場とか聞いてないんだけど!?
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えっ、何こいつ?
マキナの緊急警報があって、新しく見えたマーカーを確認しようとしたら、いきなり目の前に現れたぞ?
「お前がバゾンドか?」
フルフェイスの兜のせいでくぐもっているけど、確かに男の声だった。
いや、それよりこいつの言葉……普通の速度で聞こえたな。
【知力】200のせいで、普通の人の声はみんなスロー再生みたいになるのに。
「そうだと言ったら?」
試しにこちらも同じ速度……つまり超早口で答える。
もし、これが聞き取れるなら――
「奇遇だな、私もバゾンドだ」
まあ、そうだよなぁ……。
バゾンドごっこで調子に乗ってたら、まさかの本物登場とは。
「外野のバゾンドがわざわざ乱入してきて、いったい何のつもりだ?」
謎の気まずさを感じつつも冷静を装って問いかける。
敵意をビンビンに感じるし、文句を言いに来ただけではないはずだ。
「ひとつの時代にふたりのバゾンドはいらない」
鎧のバゾンドが手を掲げると篭手に描かれた紋様が輝いて、虚空から巨大なハンマーが現れた。柄の部分をがっちり両手で掴んでから、深く腰を落とす。
「だから、お前はここで死ね」
「なっ!?」
鎧のバゾンドが問答無用で突進してきた。
巨大なハンマーを振り下ろしてくるけど、大きく後ろに跳んで避ける。
ハンマーを叩きつけられた地面がすさまじい轟音とともにクレーターみたく抉れてた。とんでもない攻撃力だ。
食らったらたまったもんじゃないし、遮蔽物を利用しながら距離を取ろうとしてみる。
「逃がさん!」
だけど、鎧のバゾンドはすかさず追いかけてきて、巨大なハンマーを軽々と振り回してきた。
なんとか回避してから、状況を立て直すために全速力で森を駆け抜ける。
肩越しに見やると、後ろに鎧のバゾンドがぴったりとついてきていた。
「クッ! 速度はこっちと同じか、それ以上ってことか!」
あんな重そうな鎧を着込んでるのに、なんて速さなんだ。
普段ならどんな相手の動きもスローに見えるっていうのに。
いや、周囲の景色は相変わらずゆっくり動いてる。
つまり、俺とこいつだけが超高速で動いているってことか!
本物が早口野郎って呼ばれていたのは、俺と同じ高ステータスだったからなのか?
筋力と体力が高いから鎧を着てても普通に動けて疲れないし、知力と素早さが高いから超速度で動いても障害物にぶつかったりしない、と。
……それは本当にまずい。
マジで余裕ぶっこいてる場合じゃないぞ。
俺なんて所詮は戦いの素人なんだから、ステータスが同等なら本物に対する優位性はこれっぽっちもない。
「待てっ! せっかくのバゾンド同士じゃないか! 話せばわかるって!」
「いいや、わからん!」
フルフェイス兜の隙間から見える赤い光がテールランプのように尾を引いていた。
「月の声に選ばれた英雄は私だ! 断じてお前などではない!」
「月の声……?」
「英雄はただひとりでいいのだ!」
「ワケのわからないことをっ!」
駄目だこいつ、まるで話にならない!
こうなったら、ステータスを上げて対抗するしか!
「マキナ、俺のステータスを――」
「無拍子」
あれっ?
後ろのあいつが何かつぶやいたと思ったら、その姿が消えて――
「ごふっ!?」
いつの間にか吹っ飛ばされて木の幹に叩きつけられた。
「かはっ!」
倒れこんで血を吐く。
熱い、熱い熱い熱い!
胸と背中が焼けるように熱い!
マ、マキナ……。
クッ、駄目だ、声が出ない。
肺をやられたのか?
呼吸しづらい。
まさか一撃食らっただけで、指一本動かせなくなるなんて……。
「フン。バトルスキルには対応できんのか。素人め!」
とどめを刺すつもりなのか、鎧のバゾンドがのっしのっしと近づいてくる。
勝利を確信したのか、超高速ではなく普通の歩みで。
死ぬのか?
俺は、こんなところで。
せっかく異世界転生したのに、ルナとの約束も果たせず……。
いや、冗談じゃない!
そんなことだけは、絶対に――
「やめて!」
視界にひとりの少女が飛び込んできた。
俺を庇うように両手をひろげて鎧のバゾンドの前に立ちはだかる。
「ころさ、ないで! おねがい!」
ルナ……そんな……隠れてろって言ったのに……。
「両赤眼の少女。そうか、君がそうなのか!」
ルナを見下ろす鎧バゾンドが興奮した様子で叫んだ。
「クフフフ……会いたかったよ、ルナちゃん」
鎧のバゾンドがフルフェイスの兜を脱ぐ。
中身は壮健な中年男性の顔だった。
立派なヒゲを生やしていて、右眼が燃えるように赤く輝いている。
「あなた、だれ……?」
怯えるルナに向かって、男は歪んだ笑顔を浮かべてみせた。
「私はザルディス・エレイン侯爵。君の新しいご主人様だヨ♪」
マキナの緊急警報があって、新しく見えたマーカーを確認しようとしたら、いきなり目の前に現れたぞ?
「お前がバゾンドか?」
フルフェイスの兜のせいでくぐもっているけど、確かに男の声だった。
いや、それよりこいつの言葉……普通の速度で聞こえたな。
【知力】200のせいで、普通の人の声はみんなスロー再生みたいになるのに。
「そうだと言ったら?」
試しにこちらも同じ速度……つまり超早口で答える。
もし、これが聞き取れるなら――
「奇遇だな、私もバゾンドだ」
まあ、そうだよなぁ……。
バゾンドごっこで調子に乗ってたら、まさかの本物登場とは。
「外野のバゾンドがわざわざ乱入してきて、いったい何のつもりだ?」
謎の気まずさを感じつつも冷静を装って問いかける。
敵意をビンビンに感じるし、文句を言いに来ただけではないはずだ。
「ひとつの時代にふたりのバゾンドはいらない」
鎧のバゾンドが手を掲げると篭手に描かれた紋様が輝いて、虚空から巨大なハンマーが現れた。柄の部分をがっちり両手で掴んでから、深く腰を落とす。
「だから、お前はここで死ね」
「なっ!?」
鎧のバゾンドが問答無用で突進してきた。
巨大なハンマーを振り下ろしてくるけど、大きく後ろに跳んで避ける。
ハンマーを叩きつけられた地面がすさまじい轟音とともにクレーターみたく抉れてた。とんでもない攻撃力だ。
食らったらたまったもんじゃないし、遮蔽物を利用しながら距離を取ろうとしてみる。
「逃がさん!」
だけど、鎧のバゾンドはすかさず追いかけてきて、巨大なハンマーを軽々と振り回してきた。
なんとか回避してから、状況を立て直すために全速力で森を駆け抜ける。
肩越しに見やると、後ろに鎧のバゾンドがぴったりとついてきていた。
「クッ! 速度はこっちと同じか、それ以上ってことか!」
あんな重そうな鎧を着込んでるのに、なんて速さなんだ。
普段ならどんな相手の動きもスローに見えるっていうのに。
いや、周囲の景色は相変わらずゆっくり動いてる。
つまり、俺とこいつだけが超高速で動いているってことか!
本物が早口野郎って呼ばれていたのは、俺と同じ高ステータスだったからなのか?
筋力と体力が高いから鎧を着てても普通に動けて疲れないし、知力と素早さが高いから超速度で動いても障害物にぶつかったりしない、と。
……それは本当にまずい。
マジで余裕ぶっこいてる場合じゃないぞ。
俺なんて所詮は戦いの素人なんだから、ステータスが同等なら本物に対する優位性はこれっぽっちもない。
「待てっ! せっかくのバゾンド同士じゃないか! 話せばわかるって!」
「いいや、わからん!」
フルフェイス兜の隙間から見える赤い光がテールランプのように尾を引いていた。
「月の声に選ばれた英雄は私だ! 断じてお前などではない!」
「月の声……?」
「英雄はただひとりでいいのだ!」
「ワケのわからないことをっ!」
駄目だこいつ、まるで話にならない!
こうなったら、ステータスを上げて対抗するしか!
「マキナ、俺のステータスを――」
「無拍子」
あれっ?
後ろのあいつが何かつぶやいたと思ったら、その姿が消えて――
「ごふっ!?」
いつの間にか吹っ飛ばされて木の幹に叩きつけられた。
「かはっ!」
倒れこんで血を吐く。
熱い、熱い熱い熱い!
胸と背中が焼けるように熱い!
マ、マキナ……。
クッ、駄目だ、声が出ない。
肺をやられたのか?
呼吸しづらい。
まさか一撃食らっただけで、指一本動かせなくなるなんて……。
「フン。バトルスキルには対応できんのか。素人め!」
とどめを刺すつもりなのか、鎧のバゾンドがのっしのっしと近づいてくる。
勝利を確信したのか、超高速ではなく普通の歩みで。
死ぬのか?
俺は、こんなところで。
せっかく異世界転生したのに、ルナとの約束も果たせず……。
いや、冗談じゃない!
そんなことだけは、絶対に――
「やめて!」
視界にひとりの少女が飛び込んできた。
俺を庇うように両手をひろげて鎧のバゾンドの前に立ちはだかる。
「ころさ、ないで! おねがい!」
ルナ……そんな……隠れてろって言ったのに……。
「両赤眼の少女。そうか、君がそうなのか!」
ルナを見下ろす鎧バゾンドが興奮した様子で叫んだ。
「クフフフ……会いたかったよ、ルナちゃん」
鎧のバゾンドがフルフェイスの兜を脱ぐ。
中身は壮健な中年男性の顔だった。
立派なヒゲを生やしていて、右眼が燃えるように赤く輝いている。
「あなた、だれ……?」
怯えるルナに向かって、男は歪んだ笑顔を浮かべてみせた。
「私はザルディス・エレイン侯爵。君の新しいご主人様だヨ♪」
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