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閑話5 魔術師と赤眼狩り
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私の名はリシアン・ヴァイス。
赤き月を研究する魔術師だ。
赤き月ブラッディ・ムーンは、双子月の片割れで、古くから不吉の象徴とされている。
理由は明白。
赤き月を思わせる瞳を持つ者たちが様々な衝動を抱えているからだ。
破壊衝動、食人衝動、吸血衝動、性衝動……個体によってさまざまだが、まともな社会生活を送ることは困難である。
だからこそ彼らは赤眼と蔑まれ、同時に恐れられてもいるのだ。
厄介なことに赤眼は生まれつきとは限らない。
むしろ赤眼のほとんどは後天的に瞳が赤くなっている。
だから両赤眼の子供……ルナの話を聞いたときは、私も耳を疑った。
子供の赤眼は王都だとすぐ葬られるのが常だからだ。
王都から遠い寒村では赤眼に関する伝承が広まっていないこともある。
だからといって赤眼より強力な力と衝動を持つ両赤眼が、暴れることなく普通に暮らしているなんて、まず考えられない。
さらに調べてみるとルナは魔法の暴走事件のときに、死者を出していなかった。
その後もおとなしく、村人たちから石を投げられても反撃しないのだという。
叔母のダリアとかいう女が特殊な調教を施しているのかと思ったが、どうやらそれも違ったらしい。
ならば、何故?
どうしてルナは理性を失わない?
そんな疑問を胸に懐いたまま、私は第一人者の意見を聞くために、とある街へ寄った。
「オレに用があるって魔術師は、アンタか?」
私の前に現れたのは、スキンヘッドの大男。
まるで山賊の頭領のような顔つきだ。
「あなたが元A級冒険者ザルバックですね。かつては赤眼狩りとして名を馳せていたと聞きました」
ザルバックの表情がわずかに曇った。
「あいにくと今は引退して、ただの門番だがな。それで?」
私はルナについての情報を開示できる範囲で明かした。
「その子供は、もしかしたら月の御子かもしれねぇ」
「月の御子?」
「オレも詳しくは知らねえ。遺跡を探索していたときに、パーティメンバーの魔術師が見つけた書物の中に、そういう記述があったんだ」
なんと!
その書物、ぜひ手に入れたい!
……いや、今はルナの捜索を優先しなくては。
「月の御子は普通の赤眼どもと違って、理性を失わないというのですか? どうして?」
「オレも眉唾だと思って話半分に読ませてもらったから、それ以上の話はさっぱりだ」
無理もない。
私もルナの情報を知らなければ笑い飛ばしていただろう。
「その書物を買い取りたいのですが、その魔術師殿は今どちらに?」
「とっくの昔にくたばってるよ。本も財産と一緒に処分したらしいから、どこにあるかわからん」
「そうですか……」
ザルバックが嘘を吐いている可能性もあるが、さすがに昔の仲間を売るような真似はしないはず。
仕方がない。書物については諦めよう。
「ところで、そのルナとかいう子供……今から狩るのか?」
「殺しはしませんよ。捕獲して研究するつもりです」
もしルナが月の御子なのだとしたら、エレイン侯の玩具にするのはもったいない。
しかし、彼の資金援助がなくなったら研究を続けるのが厳しくなる。
実に悩ましい。
「だったら、オレを雇わないか?」
ザルバックが意外な申し出をしてきた。
「いいのですか? あなたは引退しているのでしょう?」
「そのルナって子供は、この辺りに潜伏してるんだろ? だったら放置するわけにもいかねぇからな」
「ですが、簡単にはいきませんよ。何しろ今回はバゾンドが絡んでいますからね」
「……バゾンドだと? おい、ちょっとその話、詳しく聞かせろ!」
意外なことにバルザックはルナ以上にバゾンドに興味を示してきた。
不思議に思いつつも、私はバゾンドがルナをさらっていった顛末を話す。
もちろん、ルナを奴隷商人に買わせたことは伏せたが。
「……なるほど。子供用の服を買っていたのは、そういうことか」
「もしかして、何か知ってるのですか?」
「いいや? 別に何も――」
ザルバックは鮫のような笑みを浮かべて答えた。
「単に狩りの楽しみが増えたってだけだ」
赤き月を研究する魔術師だ。
赤き月ブラッディ・ムーンは、双子月の片割れで、古くから不吉の象徴とされている。
理由は明白。
赤き月を思わせる瞳を持つ者たちが様々な衝動を抱えているからだ。
破壊衝動、食人衝動、吸血衝動、性衝動……個体によってさまざまだが、まともな社会生活を送ることは困難である。
だからこそ彼らは赤眼と蔑まれ、同時に恐れられてもいるのだ。
厄介なことに赤眼は生まれつきとは限らない。
むしろ赤眼のほとんどは後天的に瞳が赤くなっている。
だから両赤眼の子供……ルナの話を聞いたときは、私も耳を疑った。
子供の赤眼は王都だとすぐ葬られるのが常だからだ。
王都から遠い寒村では赤眼に関する伝承が広まっていないこともある。
だからといって赤眼より強力な力と衝動を持つ両赤眼が、暴れることなく普通に暮らしているなんて、まず考えられない。
さらに調べてみるとルナは魔法の暴走事件のときに、死者を出していなかった。
その後もおとなしく、村人たちから石を投げられても反撃しないのだという。
叔母のダリアとかいう女が特殊な調教を施しているのかと思ったが、どうやらそれも違ったらしい。
ならば、何故?
どうしてルナは理性を失わない?
そんな疑問を胸に懐いたまま、私は第一人者の意見を聞くために、とある街へ寄った。
「オレに用があるって魔術師は、アンタか?」
私の前に現れたのは、スキンヘッドの大男。
まるで山賊の頭領のような顔つきだ。
「あなたが元A級冒険者ザルバックですね。かつては赤眼狩りとして名を馳せていたと聞きました」
ザルバックの表情がわずかに曇った。
「あいにくと今は引退して、ただの門番だがな。それで?」
私はルナについての情報を開示できる範囲で明かした。
「その子供は、もしかしたら月の御子かもしれねぇ」
「月の御子?」
「オレも詳しくは知らねえ。遺跡を探索していたときに、パーティメンバーの魔術師が見つけた書物の中に、そういう記述があったんだ」
なんと!
その書物、ぜひ手に入れたい!
……いや、今はルナの捜索を優先しなくては。
「月の御子は普通の赤眼どもと違って、理性を失わないというのですか? どうして?」
「オレも眉唾だと思って話半分に読ませてもらったから、それ以上の話はさっぱりだ」
無理もない。
私もルナの情報を知らなければ笑い飛ばしていただろう。
「その書物を買い取りたいのですが、その魔術師殿は今どちらに?」
「とっくの昔にくたばってるよ。本も財産と一緒に処分したらしいから、どこにあるかわからん」
「そうですか……」
ザルバックが嘘を吐いている可能性もあるが、さすがに昔の仲間を売るような真似はしないはず。
仕方がない。書物については諦めよう。
「ところで、そのルナとかいう子供……今から狩るのか?」
「殺しはしませんよ。捕獲して研究するつもりです」
もしルナが月の御子なのだとしたら、エレイン侯の玩具にするのはもったいない。
しかし、彼の資金援助がなくなったら研究を続けるのが厳しくなる。
実に悩ましい。
「だったら、オレを雇わないか?」
ザルバックが意外な申し出をしてきた。
「いいのですか? あなたは引退しているのでしょう?」
「そのルナって子供は、この辺りに潜伏してるんだろ? だったら放置するわけにもいかねぇからな」
「ですが、簡単にはいきませんよ。何しろ今回はバゾンドが絡んでいますからね」
「……バゾンドだと? おい、ちょっとその話、詳しく聞かせろ!」
意外なことにバルザックはルナ以上にバゾンドに興味を示してきた。
不思議に思いつつも、私はバゾンドがルナをさらっていった顛末を話す。
もちろん、ルナを奴隷商人に買わせたことは伏せたが。
「……なるほど。子供用の服を買っていたのは、そういうことか」
「もしかして、何か知ってるのですか?」
「いいや? 別に何も――」
ザルバックは鮫のような笑みを浮かべて答えた。
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