不遇幼女とハートフルなもふもふスローライフを目指します! ~転生前の【努力値】で異世界無双~

epina

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第29話 心の傷までは治ってないもんな

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 次の日の朝。

「おはよう、ルナ」

「お、おあよ……」

 朝食の支度してるときに挨拶したら、サッと目をそらされてしまった。

「えっ、ルナ?」

「歯、みがく、ますっ」

 ルナが顔を赤くして走っていく。

「うーん? どうしちゃったんだろ」

 鍋の中身をかき混ぜながらルナのほうを見る。

 歯磨きしながらチラチラこっちを気にしてて、ちょっとかわいい。  
 照れてるというか、恥ずかしがってるようにも見える。
 ちゃんと挨拶を返してくれたし、嫌われたわけじゃないみたいだけど。

『おそらく、ルナさんは消えた傷について、タカシさんに相談したいのだと思います。』

 マキナに聞いたつもりはなかったけど、俺のつぶやきにコメントを返してくれた。

「相談?」

『はい。ルナさんはタカシさんに傷のことを話したくないので、ああいう態度になってしまっているのだと思います。』

「傷がなくなったのに?」

『はい。幼少期につけられた傷は、心にもダメージを残します。タカシさんの魔法は、ルナさんの体の傷を消せても、心の傷までは癒やせません。』

「それはそっか……」 

『心の傷については、ゆっくり癒やしていくしかありません。それでも、体の傷痕が消えたことは、ルナさんの未来にいい影響を与えるのは間違いありません。ですから、タカシさんはあまり気に病まないでください。』

「そうだね。ありがと、マキナ」

 そういうことならルナからのアクションを待つしかないか。





 その日の夜。
 ルナを寝かしつけてから、外で新しい魔法の練習をしてたときのこと。

「いやぁぁッ!!」

 山小屋からルナの悲鳴が聞こえてきた。

「ルナ!?」

 速攻で駆けつけると、ルナが泣き顔で半身を起こしるのが見える。
 息遣いも荒いし、顔も汗でびっしょりだ。

「どうした!?」

「ハァ、ハァ……ゆめ?」

 どうもルナは俺の呼びかけに気付いてないみたいだった。
 何かを思い出したように服の襟を引っ張って、自分の体を覗き込む。
 ホッと息をついたところで、初めて俺の方を向いた。

「……タカシ?」

「何か怖い夢を見ちゃったの?」

 ルナが寝ぼけた顔のままコクッとうなずいた。

「そうなんだね。じゃあ、怖くないように手を握っててあげようか?」

「……あい」

 手を握ってあげると、ルナが嬉しそうな顔で横になった。
 よっぽど安心したのか、すぐに寝息を立て始める。
 気になって入り口から顔をのぞかせたガロに「お前のご主人は大丈夫だよ」と合図する。

「マキナ。ルナが見てた悪夢って、もしかしなくてもさ……」

 ルナを起こさないよう、ひそひそ声でマキナに話しかけた。

『あくまで推測になりますが、起きた直後の行動からして古傷に関わる夢でしょう。例えば、叔母にふたたび虐められる夢や、古傷が再び浮かび上がってくるような悪夢が考えられます。』

「そうだよなぁ……」

 古傷が消えた理由がわからないんだから、傷痕がふとした拍子に戻ってくる恐怖にとらわれちゃうのも、わかる話だ。

「やっぱり、俺が魔法を使ったって素直に話したほうがいいのかな」

『難しいところです。ルナさんは、魔法にもトラウマをもっています。魔法を使ったことを明かしたら、取り返しがつかなくなるかもしれません。慎重に見極めるべきでしょう。』

「俺が良かれと思ってやった行動が裏目に……?」

 ただ単に傷を消しただけじゃ、ルナの心を助けられない。
 やっぱり結果を求めるだけじゃ駄目ってことか……。

『タカシさん。ルナさんの古傷を消したこと自体は、決して間違いではありません。ルナさんが古傷が戻る悪夢を見るのは、傷がなくなったことが嬉しいからのはずです。ルナさんが心に負った傷は、そう簡単に癒すことができないのですから、慌ててはいけません。ルナさんのそばに寄り添い、安心できる環境を作ることが何よりも重要です。』

「……本当にありがとう、マキナ。俺だけだったら、きっとこんなにうまくやれなかった」

『どういたしまして、タカシ。私の存在意義は、あなたをサポートすることです。それはあなたが異世界に来る前から変わっていません。』

 マキナからありがたい励ましを受けながら毛皮布団をかぶる。
 ルナの手をきゅっと握りしめた。

「魔法の練習はお預けだな」

『はい。それがいいと思います。』
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