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第29話 心の傷までは治ってないもんな
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次の日の朝。
「おはよう、ルナ」
「お、おあよ……」
朝食の支度してるときに挨拶したら、サッと目をそらされてしまった。
「えっ、ルナ?」
「歯、みがく、ますっ」
ルナが顔を赤くして走っていく。
「うーん? どうしちゃったんだろ」
鍋の中身をかき混ぜながらルナのほうを見る。
歯磨きしながらチラチラこっちを気にしてて、ちょっとかわいい。
照れてるというか、恥ずかしがってるようにも見える。
ちゃんと挨拶を返してくれたし、嫌われたわけじゃないみたいだけど。
『おそらく、ルナさんは消えた傷について、タカシさんに相談したいのだと思います。』
マキナに聞いたつもりはなかったけど、俺のつぶやきにコメントを返してくれた。
「相談?」
『はい。ルナさんはタカシさんに傷のことを話したくないので、ああいう態度になってしまっているのだと思います。』
「傷がなくなったのに?」
『はい。幼少期につけられた傷は、心にもダメージを残します。タカシさんの魔法は、ルナさんの体の傷を消せても、心の傷までは癒やせません。』
「それはそっか……」
『心の傷については、ゆっくり癒やしていくしかありません。それでも、体の傷痕が消えたことは、ルナさんの未来にいい影響を与えるのは間違いありません。ですから、タカシさんはあまり気に病まないでください。』
「そうだね。ありがと、マキナ」
そういうことならルナからのアクションを待つしかないか。
◇
その日の夜。
ルナを寝かしつけてから、外で新しい魔法の練習をしてたときのこと。
「いやぁぁッ!!」
山小屋からルナの悲鳴が聞こえてきた。
「ルナ!?」
速攻で駆けつけると、ルナが泣き顔で半身を起こしるのが見える。
息遣いも荒いし、顔も汗でびっしょりだ。
「どうした!?」
「ハァ、ハァ……ゆめ?」
どうもルナは俺の呼びかけに気付いてないみたいだった。
何かを思い出したように服の襟を引っ張って、自分の体を覗き込む。
ホッと息をついたところで、初めて俺の方を向いた。
「……タカシ?」
「何か怖い夢を見ちゃったの?」
ルナが寝ぼけた顔のままコクッとうなずいた。
「そうなんだね。じゃあ、怖くないように手を握っててあげようか?」
「……あい」
手を握ってあげると、ルナが嬉しそうな顔で横になった。
よっぽど安心したのか、すぐに寝息を立て始める。
気になって入り口から顔をのぞかせたガロに「お前のご主人は大丈夫だよ」と合図する。
「マキナ。ルナが見てた悪夢って、もしかしなくてもさ……」
ルナを起こさないよう、ひそひそ声でマキナに話しかけた。
『あくまで推測になりますが、起きた直後の行動からして古傷に関わる夢でしょう。例えば、叔母にふたたび虐められる夢や、古傷が再び浮かび上がってくるような悪夢が考えられます。』
「そうだよなぁ……」
古傷が消えた理由がわからないんだから、傷痕がふとした拍子に戻ってくる恐怖に囚われちゃうのも、わかる話だ。
「やっぱり、俺が魔法を使ったって素直に話したほうがいいのかな」
『難しいところです。ルナさんは、魔法にもトラウマをもっています。魔法を使ったことを明かしたら、取り返しがつかなくなるかもしれません。慎重に見極めるべきでしょう。』
「俺が良かれと思ってやった行動が裏目に……?」
ただ単に傷を消しただけじゃ、ルナの心を助けられない。
やっぱり結果を求めるだけじゃ駄目ってことか……。
『タカシさん。ルナさんの古傷を消したこと自体は、決して間違いではありません。ルナさんが古傷が戻る悪夢を見るのは、傷がなくなったことが嬉しいからのはずです。ルナさんが心に負った傷は、そう簡単に癒すことができないのですから、慌ててはいけません。ルナさんのそばに寄り添い、安心できる環境を作ることが何よりも重要です。』
「……本当にありがとう、マキナ。俺だけだったら、きっとこんなにうまくやれなかった」
『どういたしまして、タカシ。私の存在意義は、あなたをサポートすることです。それはあなたが異世界に来る前から変わっていません。』
マキナからありがたい励ましを受けながら毛皮布団をかぶる。
ルナの手をきゅっと握りしめた。
「魔法の練習はお預けだな」
『はい。それがいいと思います。』
「おはよう、ルナ」
「お、おあよ……」
朝食の支度してるときに挨拶したら、サッと目をそらされてしまった。
「えっ、ルナ?」
「歯、みがく、ますっ」
ルナが顔を赤くして走っていく。
「うーん? どうしちゃったんだろ」
鍋の中身をかき混ぜながらルナのほうを見る。
歯磨きしながらチラチラこっちを気にしてて、ちょっとかわいい。
照れてるというか、恥ずかしがってるようにも見える。
ちゃんと挨拶を返してくれたし、嫌われたわけじゃないみたいだけど。
『おそらく、ルナさんは消えた傷について、タカシさんに相談したいのだと思います。』
マキナに聞いたつもりはなかったけど、俺のつぶやきにコメントを返してくれた。
「相談?」
『はい。ルナさんはタカシさんに傷のことを話したくないので、ああいう態度になってしまっているのだと思います。』
「傷がなくなったのに?」
『はい。幼少期につけられた傷は、心にもダメージを残します。タカシさんの魔法は、ルナさんの体の傷を消せても、心の傷までは癒やせません。』
「それはそっか……」
『心の傷については、ゆっくり癒やしていくしかありません。それでも、体の傷痕が消えたことは、ルナさんの未来にいい影響を与えるのは間違いありません。ですから、タカシさんはあまり気に病まないでください。』
「そうだね。ありがと、マキナ」
そういうことならルナからのアクションを待つしかないか。
◇
その日の夜。
ルナを寝かしつけてから、外で新しい魔法の練習をしてたときのこと。
「いやぁぁッ!!」
山小屋からルナの悲鳴が聞こえてきた。
「ルナ!?」
速攻で駆けつけると、ルナが泣き顔で半身を起こしるのが見える。
息遣いも荒いし、顔も汗でびっしょりだ。
「どうした!?」
「ハァ、ハァ……ゆめ?」
どうもルナは俺の呼びかけに気付いてないみたいだった。
何かを思い出したように服の襟を引っ張って、自分の体を覗き込む。
ホッと息をついたところで、初めて俺の方を向いた。
「……タカシ?」
「何か怖い夢を見ちゃったの?」
ルナが寝ぼけた顔のままコクッとうなずいた。
「そうなんだね。じゃあ、怖くないように手を握っててあげようか?」
「……あい」
手を握ってあげると、ルナが嬉しそうな顔で横になった。
よっぽど安心したのか、すぐに寝息を立て始める。
気になって入り口から顔をのぞかせたガロに「お前のご主人は大丈夫だよ」と合図する。
「マキナ。ルナが見てた悪夢って、もしかしなくてもさ……」
ルナを起こさないよう、ひそひそ声でマキナに話しかけた。
『あくまで推測になりますが、起きた直後の行動からして古傷に関わる夢でしょう。例えば、叔母にふたたび虐められる夢や、古傷が再び浮かび上がってくるような悪夢が考えられます。』
「そうだよなぁ……」
古傷が消えた理由がわからないんだから、傷痕がふとした拍子に戻ってくる恐怖に囚われちゃうのも、わかる話だ。
「やっぱり、俺が魔法を使ったって素直に話したほうがいいのかな」
『難しいところです。ルナさんは、魔法にもトラウマをもっています。魔法を使ったことを明かしたら、取り返しがつかなくなるかもしれません。慎重に見極めるべきでしょう。』
「俺が良かれと思ってやった行動が裏目に……?」
ただ単に傷を消しただけじゃ、ルナの心を助けられない。
やっぱり結果を求めるだけじゃ駄目ってことか……。
『タカシさん。ルナさんの古傷を消したこと自体は、決して間違いではありません。ルナさんが古傷が戻る悪夢を見るのは、傷がなくなったことが嬉しいからのはずです。ルナさんが心に負った傷は、そう簡単に癒すことができないのですから、慌ててはいけません。ルナさんのそばに寄り添い、安心できる環境を作ることが何よりも重要です。』
「……本当にありがとう、マキナ。俺だけだったら、きっとこんなにうまくやれなかった」
『どういたしまして、タカシ。私の存在意義は、あなたをサポートすることです。それはあなたが異世界に来る前から変わっていません。』
マキナからありがたい励ましを受けながら毛皮布団をかぶる。
ルナの手をきゅっと握りしめた。
「魔法の練習はお預けだな」
『はい。それがいいと思います。』
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