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閑話4 魔術師と女
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ルナの叔母ダリアは鉱山奴隷として働かされていた。
どうして自分がこんな目に遭うのか。
そんな自問自答する日々が続いている。
ルナを呪ったり、バゾンドを罵っても、彼女の現状が変わることはない。
しかしそれでも、いつの日が自分を助け出してくれる者が現れるのだと妄想していたのである。
そんなある日、本当に面会者がやってきた。
「あなたがダリアさんですね」
鉄格子を挟んでダリアの前に現れたのは、赤いローブに身を包んだ二十代後半の魔術師。
リシアン・ヴァイス。
彼はエレイン侯からルナ追跡の任務を受けて、ダリアの尋問にやってきていた。
しかし色とりどりの装飾品に身を包むリシアンを目にしたダリアは、金持ちが自分を買い上げてくれるのだと誤解した。
「ありがとうございます」
ダリアがリシアンに伏して頭を垂れる。
「どうしたのですか?」
「あなたこそ、あたしの救い主であらせられます。なにとぞ、この地獄から解放してください」
ダリアの勘違いを察したリシアンの目が冷酷に細められた。
「いいでしょう。あなたが私の聞きたい情報を持っていたら、ここから出してあげましょう」
「はい!」
こうしてリシアンは極めて協力的になったダリアから情報を引き出していく。
「ほう? その青年はバゾンドを名乗ったのですか」
「はい、そうでございます」
すべての話を聞いたリシアンはしばし黙考する。
上司のエレイン侯は嘘だと決めつけていたが、この魔術師は違う考えを持っていた。
「なるほど。実に興味深い」
リシアン・ヴァイスは典型的な魔術師である。
この世界における魔術師は探求者であり研究者だ。
多くの者が自らの目的のため、さらなる魔法の研鑽のために行動する。
その中には人の倫理の枠から外れる者もいる。
リシアンもそのひとりだった。
彼の研究分野は赤き月ブラッディ・ムーンと、月に見初められた赤眼たちであった。
ある日、ルナの存在を知ったリシアンは、エレイン侯に彼女を手に入れるよう進言した。
侯爵もとても乗り気だったし、労さずして最高のモルモットを手に入れられるはずだったのだ。
「バゾンド。ククク、バゾンドですか。少なくとも、そう自称する青年が現れたのは事実のようですね」
早口野郎。
歴史の節目にさまざまな姿で現れては去っていく謎の怪人。
酒の席でのホラ話。あるいは「いたずらしてるとバゾンドが来るぞ」と子供をしつけるための御伽話だ。
「ほ、本当です。あいつの言ってることは、早口でワケがわからなかったし、目にも止まらない速さで動いてました!」
「自称バゾンド君がルナと協力関係を結んでいるのか、あるいは……ま、いいでしょう。ところで、あなたはルナのことを折檻し続けたと言いましたね?」
「はい、確かでございます。あまりにも聞き分けの悪い子供でしたのでしつけを……」
「それが不可解なんですよ」
「な、何がでございましょう?」
「あなたが生きていることがです」
「は?」
ダリアの反応を気にすることなくリシアンが続ける。
「より正確に言うと、あなたのいた村の住人が全員生きているのが不思議なんですよね。赤眼《ブラド》が虐げられ続けて暴れないはずがないので」
「えっ、でも……」
「赤い瞳は、ブラッディ・ムーンから与えられた御印。赤眼とは呪われし者。月に魅入られし者たちのことです。彼らは心に加虐衝動や異常性癖を抱えています。しかもルナは片赤眼じゃなくて両赤眼なんでしょう? その内に秘めたる衝動は計り知れないはずです」
「な、何かの間違いですよ! あいつはなんの反抗もできない無力なガキでした!」
リシアンがすぅっと目を細めた。
「ルナは魔法を暴走させました。私が彼女を知るきっかけとなった事件です。だから奴隷商人たちにも力を封じる首輪を渡しておいたくらいです。さて、正直に答えてください。何を隠しているんですか? どんな手を使ってルナに調教を施したんですか?」
「べ、別に何も隠してなんか……」
「パナベイグ」
「ぐがががが!!」
リシアンが呪文を唱えた途端、ダリアは体の内側を無数の針で何度も刺されるような痛みに襲われた。
「拷問に使用する魔法です。正直に喋らないと、もう一度かけますよ」
「や、やめて……本当に何も隠してなんて……」
「パナベイグ」
「うぎぎぎぎぎっ!」
あまりの苦痛にダリアは地面でのたうち回った。
「思ったより強情ですね。両赤眼の少女を従えた秘技……必ず吐いてもらいますよ」
「まって……たすけて…………ほんとに何も……………」
「パナベイグ」
「ばばばばばばっ!」
「残念です。あなたが喋れないなら、ここから出して上げるという約束は守れませんね」
いつ終わるとも知れぬ拷問が始まった。
どうして自分がこんな目に遭うのか。
そんな自問自答する日々が続いている。
ルナを呪ったり、バゾンドを罵っても、彼女の現状が変わることはない。
しかしそれでも、いつの日が自分を助け出してくれる者が現れるのだと妄想していたのである。
そんなある日、本当に面会者がやってきた。
「あなたがダリアさんですね」
鉄格子を挟んでダリアの前に現れたのは、赤いローブに身を包んだ二十代後半の魔術師。
リシアン・ヴァイス。
彼はエレイン侯からルナ追跡の任務を受けて、ダリアの尋問にやってきていた。
しかし色とりどりの装飾品に身を包むリシアンを目にしたダリアは、金持ちが自分を買い上げてくれるのだと誤解した。
「ありがとうございます」
ダリアがリシアンに伏して頭を垂れる。
「どうしたのですか?」
「あなたこそ、あたしの救い主であらせられます。なにとぞ、この地獄から解放してください」
ダリアの勘違いを察したリシアンの目が冷酷に細められた。
「いいでしょう。あなたが私の聞きたい情報を持っていたら、ここから出してあげましょう」
「はい!」
こうしてリシアンは極めて協力的になったダリアから情報を引き出していく。
「ほう? その青年はバゾンドを名乗ったのですか」
「はい、そうでございます」
すべての話を聞いたリシアンはしばし黙考する。
上司のエレイン侯は嘘だと決めつけていたが、この魔術師は違う考えを持っていた。
「なるほど。実に興味深い」
リシアン・ヴァイスは典型的な魔術師である。
この世界における魔術師は探求者であり研究者だ。
多くの者が自らの目的のため、さらなる魔法の研鑽のために行動する。
その中には人の倫理の枠から外れる者もいる。
リシアンもそのひとりだった。
彼の研究分野は赤き月ブラッディ・ムーンと、月に見初められた赤眼たちであった。
ある日、ルナの存在を知ったリシアンは、エレイン侯に彼女を手に入れるよう進言した。
侯爵もとても乗り気だったし、労さずして最高のモルモットを手に入れられるはずだったのだ。
「バゾンド。ククク、バゾンドですか。少なくとも、そう自称する青年が現れたのは事実のようですね」
早口野郎。
歴史の節目にさまざまな姿で現れては去っていく謎の怪人。
酒の席でのホラ話。あるいは「いたずらしてるとバゾンドが来るぞ」と子供をしつけるための御伽話だ。
「ほ、本当です。あいつの言ってることは、早口でワケがわからなかったし、目にも止まらない速さで動いてました!」
「自称バゾンド君がルナと協力関係を結んでいるのか、あるいは……ま、いいでしょう。ところで、あなたはルナのことを折檻し続けたと言いましたね?」
「はい、確かでございます。あまりにも聞き分けの悪い子供でしたのでしつけを……」
「それが不可解なんですよ」
「な、何がでございましょう?」
「あなたが生きていることがです」
「は?」
ダリアの反応を気にすることなくリシアンが続ける。
「より正確に言うと、あなたのいた村の住人が全員生きているのが不思議なんですよね。赤眼《ブラド》が虐げられ続けて暴れないはずがないので」
「えっ、でも……」
「赤い瞳は、ブラッディ・ムーンから与えられた御印。赤眼とは呪われし者。月に魅入られし者たちのことです。彼らは心に加虐衝動や異常性癖を抱えています。しかもルナは片赤眼じゃなくて両赤眼なんでしょう? その内に秘めたる衝動は計り知れないはずです」
「な、何かの間違いですよ! あいつはなんの反抗もできない無力なガキでした!」
リシアンがすぅっと目を細めた。
「ルナは魔法を暴走させました。私が彼女を知るきっかけとなった事件です。だから奴隷商人たちにも力を封じる首輪を渡しておいたくらいです。さて、正直に答えてください。何を隠しているんですか? どんな手を使ってルナに調教を施したんですか?」
「べ、別に何も隠してなんか……」
「パナベイグ」
「ぐがががが!!」
リシアンが呪文を唱えた途端、ダリアは体の内側を無数の針で何度も刺されるような痛みに襲われた。
「拷問に使用する魔法です。正直に喋らないと、もう一度かけますよ」
「や、やめて……本当に何も隠してなんて……」
「パナベイグ」
「うぎぎぎぎぎっ!」
あまりの苦痛にダリアは地面でのたうち回った。
「思ったより強情ですね。両赤眼の少女を従えた秘技……必ず吐いてもらいますよ」
「まって……たすけて…………ほんとに何も……………」
「パナベイグ」
「ばばばばばばっ!」
「残念です。あなたが喋れないなら、ここから出して上げるという約束は守れませんね」
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