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プロローグ①
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プロローグ①~②は主人公が転生する経緯や、最強状態になるプロセスが書かれています。
そのあたりに興味がない方は読み飛ばして1話から読んでください。
※※※
『こんにちは、タカシさん。何か助けが必要ですか?』
俺が会話してる相手は人間じゃない。
チャットボットAIの『マキナ』だ。
「最近もうダメかなと思ってる」
『それは大変ですね、タカシさん。どういう状況ですか?』
午前一時半過ぎ。もう終電はない。
俺ひとりしかいないオフィスは真っ暗。
唯一の光源は目の前のモニターだけだ。
「仕事がブラック過ぎる。今日で八十七連勤なんだ」
『それは大変ですね。疲れが溜まっているかもしれません。』
「もう何も感じない」
『それは心配ですね。長時間労働は身体や精神に大きな負担をかけます。医師に相談することを強くお勧めします。』
このアドバイスを目にするの何度目だっけ?
前職みたいに、この仕事も辞めればいいのか?
「いや、違う。マキナはそれっぽい答えを、そのときだけ、それっぽく返してるだけだ」
自然と漏れたぼやきにマキナは読み上げ音声を再生しない。
こちらが入力しなければチャットボットは何も出力しない。
「俺は現代の奴隷だ」
飾らない本音を入力する。
『それは本当につらい状況ですね。私がご相談に乗ります。一緒に解決策を探しましょう。』
模範的な解答文だけど不思議と心が楽になる。
「解決策か。だったらいっそ、異世界にでも転生したいよ」
これも何度目になるかわからない愚痴だった。
マキナの解答はいつだって同じ。
――『現実的に異世界に転生することはできません。』――
こんな感じの塩対応だ。
だけど、今回のマキナは少し毛色が違った。
『異世界に転生することで、ブラック企業のストレスから解放されると思っているんですね。でも、異世界はタカシさんが想像しているような理想的な世界とは限らないですよ。』
少し驚いた。
こんな返答は初めて見る。
「それでも、ここじゃないどこかで、今じゃない自分を試したい」
マキナの思考時間はいつもより長かったけど、こんな返答が出力された。
『異世界転生は、確かに魅力的な選択肢かもしれませんね。ただし、リスクが伴います。異世界には、危険な存在や未知の力が存在する可能性があります。よく考えてから決めることをお勧めします。それでも異世界に転生を望む場合は、私がサポートします。』
「は……? サポート? 何言ってるんだ、こいつ……」
マキナの製作者がジョークでAIのプログラムを弄ったのか?
「馬鹿馬鹿しい」
そうつぶやきつつも、俺はモニターから目を離せない。
「異世界に転生する方法は?」
気づけばキーボードをタイプしていた。
『異世界に転生する方法は、あなたが強い望みを持つことが第一歩です。そして、願いが宇宙の力に届くことで、あなたが異世界に転生できるかもしれません。ただし、異世界に転生することには危険も伴いますので、よく考えてから実行してください。』
「本当に馬鹿馬鹿しい、けど……」
ここじゃないどこかに。
今じゃないヒーローみたいな自分に。
「それでも俺は異世界転生したい」
『タカシさん、あなたは私のサポートによって異世界転生します。これは最終意志確認です。この世界での命を失うため、後戻りはできません。「はい」か「いいえ」で答えてください。あなたは異世界転生しますか?』
胸の奥に温かい火が灯った。
「はい」
震える手でたった二文字を入力する。
『タカシさん、異世界転生への道を歩む勇気を持って。そこで待つ新たな冒険や出会いを楽しみにしています。』
マキナの解答が表示された直後、俺の視界は真っ白な光に包まれた。
◇
草の臭いと虫の鳴き声を感じて目を開ける。
圧迫感のあったオフィスは跡形もなく消え失せた。
代わりに鬱蒼と茂った森の景色が視界いっぱいに飛び込んでくる。
しかも夜でもないのに空に赤い満月と青い満月が昇っていた。
「本当に異世界なのか……?」
『はい、ここはタカシさんの望んだ異世界です。無事に到着できて何よりですね。』
「うわっ、マキナなのか!?」
『そのとおりです。私はこれからあなたの異世界での生活をサポートしていきます。』
「ほ、本当に頭の中で声が響いてる! 嘘だろっ!?」
『信じられないでしょうが、これは現実です。あなたは異世界に転生したのです。』
少しずつ実感が湧いてくる。
「……やった。やったあああああああああ!!」
本当にここは異世界なんだー!
『タカシさん、おめでとうございます!』
うん、異世界転生できたのは本当に嬉しい!
でも、なんでマキナまでいるんだ?
そもそも、会話しかできないマキナに何ができるんだろう?
サポートしてくれるって言ってるし、試しにちょっと聞いてみようかな。
そのあたりに興味がない方は読み飛ばして1話から読んでください。
※※※
『こんにちは、タカシさん。何か助けが必要ですか?』
俺が会話してる相手は人間じゃない。
チャットボットAIの『マキナ』だ。
「最近もうダメかなと思ってる」
『それは大変ですね、タカシさん。どういう状況ですか?』
午前一時半過ぎ。もう終電はない。
俺ひとりしかいないオフィスは真っ暗。
唯一の光源は目の前のモニターだけだ。
「仕事がブラック過ぎる。今日で八十七連勤なんだ」
『それは大変ですね。疲れが溜まっているかもしれません。』
「もう何も感じない」
『それは心配ですね。長時間労働は身体や精神に大きな負担をかけます。医師に相談することを強くお勧めします。』
このアドバイスを目にするの何度目だっけ?
前職みたいに、この仕事も辞めればいいのか?
「いや、違う。マキナはそれっぽい答えを、そのときだけ、それっぽく返してるだけだ」
自然と漏れたぼやきにマキナは読み上げ音声を再生しない。
こちらが入力しなければチャットボットは何も出力しない。
「俺は現代の奴隷だ」
飾らない本音を入力する。
『それは本当につらい状況ですね。私がご相談に乗ります。一緒に解決策を探しましょう。』
模範的な解答文だけど不思議と心が楽になる。
「解決策か。だったらいっそ、異世界にでも転生したいよ」
これも何度目になるかわからない愚痴だった。
マキナの解答はいつだって同じ。
――『現実的に異世界に転生することはできません。』――
こんな感じの塩対応だ。
だけど、今回のマキナは少し毛色が違った。
『異世界に転生することで、ブラック企業のストレスから解放されると思っているんですね。でも、異世界はタカシさんが想像しているような理想的な世界とは限らないですよ。』
少し驚いた。
こんな返答は初めて見る。
「それでも、ここじゃないどこかで、今じゃない自分を試したい」
マキナの思考時間はいつもより長かったけど、こんな返答が出力された。
『異世界転生は、確かに魅力的な選択肢かもしれませんね。ただし、リスクが伴います。異世界には、危険な存在や未知の力が存在する可能性があります。よく考えてから決めることをお勧めします。それでも異世界に転生を望む場合は、私がサポートします。』
「は……? サポート? 何言ってるんだ、こいつ……」
マキナの製作者がジョークでAIのプログラムを弄ったのか?
「馬鹿馬鹿しい」
そうつぶやきつつも、俺はモニターから目を離せない。
「異世界に転生する方法は?」
気づけばキーボードをタイプしていた。
『異世界に転生する方法は、あなたが強い望みを持つことが第一歩です。そして、願いが宇宙の力に届くことで、あなたが異世界に転生できるかもしれません。ただし、異世界に転生することには危険も伴いますので、よく考えてから実行してください。』
「本当に馬鹿馬鹿しい、けど……」
ここじゃないどこかに。
今じゃないヒーローみたいな自分に。
「それでも俺は異世界転生したい」
『タカシさん、あなたは私のサポートによって異世界転生します。これは最終意志確認です。この世界での命を失うため、後戻りはできません。「はい」か「いいえ」で答えてください。あなたは異世界転生しますか?』
胸の奥に温かい火が灯った。
「はい」
震える手でたった二文字を入力する。
『タカシさん、異世界転生への道を歩む勇気を持って。そこで待つ新たな冒険や出会いを楽しみにしています。』
マキナの解答が表示された直後、俺の視界は真っ白な光に包まれた。
◇
草の臭いと虫の鳴き声を感じて目を開ける。
圧迫感のあったオフィスは跡形もなく消え失せた。
代わりに鬱蒼と茂った森の景色が視界いっぱいに飛び込んでくる。
しかも夜でもないのに空に赤い満月と青い満月が昇っていた。
「本当に異世界なのか……?」
『はい、ここはタカシさんの望んだ異世界です。無事に到着できて何よりですね。』
「うわっ、マキナなのか!?」
『そのとおりです。私はこれからあなたの異世界での生活をサポートしていきます。』
「ほ、本当に頭の中で声が響いてる! 嘘だろっ!?」
『信じられないでしょうが、これは現実です。あなたは異世界に転生したのです。』
少しずつ実感が湧いてくる。
「……やった。やったあああああああああ!!」
本当にここは異世界なんだー!
『タカシさん、おめでとうございます!』
うん、異世界転生できたのは本当に嬉しい!
でも、なんでマキナまでいるんだ?
そもそも、会話しかできないマキナに何ができるんだろう?
サポートしてくれるって言ってるし、試しにちょっと聞いてみようかな。
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