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閑話2 いじわる叔母の末路
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ダリアが目を醒ますと、納屋ではなく自宅の天井が見えた。
「あれ? あたしは……」
「ようやく起きたかババァ」
「借りてんぜ」
ダリアが横を見ると、奴隷商人たちが自宅に上がりこんで朝食のパンを食べていた。
「アンタたち、人の家で勝手に――」
そう文句を言いかけてからダリアは自分が簀巻き状態で床に転がされていることに気づいた。
「なんだいこりゃ! ほどいとくれ!」
「うるせえ! 俺らもこれからどうなっちまうか、わかんねえんだ! どうやったって納期までに商品を納められねぇ!」
「落ち着けって相棒。バゾンドの邪魔があったってお伝えすればワンチャンあるかもしれねえ……」
「エレイン侯がまともに話を聞いてくれっかなぁ……」
「そこなんだよな。何しろ赤眼の幼女を所望するようなトンデモ変態様だからなぁ……」
奴隷商人たちの表情は悲壮感にあふれていた。
バゾンドを名乗る男にルナを連れ去られた。
つまり、奴隷商人たちも貴族の注文の品を確保できなかったということ。
ここで、ようやくダリアも自分に待ち受ける運命を思い出した。
「金なら返すから、奴隷だけは勘弁しとくれよ!」
奴隷商人がダリアを睨みつける。
「あのガキの代金ならとっくに回収しようとしたさ」
「でも、どこにもなかった。バゾンドが持っていったんだろうよ」
ダリアの頭が真っ白になった。
「あたしの金……あの盗っ人めぇ~!」
「テメェの金じゃねえ!
とにかく俺らのケツにもやっべぇ火がついてんだよ!」
「お前を売って少しはタシにしなきゃならねぇ。まあ、クズ値だろうがな」
「あ、あたしを娼館に売り飛ばして性奴隷にする気かい!」
ダリアの発言に奴隷商人のふたりがあっけに取られる。
「は? お前を性奴隷に? 本気で務まると思ってんのか?」
「客がつくわけねぇだろ。鏡見てから言えよ、ババァ!」
「失礼だね! あたしはこれでも二十七だよ!」
ギャーギャーわめくダリアを見て、奴隷商人たちは呆れたように首を横に振った。
「お前は鉱山奴隷送りだよ。そんだけ元気ならそこそこ長生きできんだろ?」
「ま、そういうことだから毎日鞭打たれながら死ぬまで働きな。お前みたいな強欲ババァには似合いの末路だろうよ」
「イヤだ! どうして! なんであたしだけがこんな目に!」
こうしてダリアは奴隷商人たちの馬車に乗せられて、鉱山に売り飛ばさたのだった。
◇
陽の光が届かない石造りの地下室。
ひとりの男が楽しそうに何度も何度も鞭を振るっている。
「ンッン~♪ さあ、もっといい声で泣いてくださいネ!」
「ううっ!」
無理やり石床に座らされている女性の背中はたくさんの鞭跡があった。
両手首の枷から伸びた鎖が壁の中に埋め込まれている。
足の枷には重りまでつけられていた。
「ン~……だいぶ反応が鈍くなってきましたネェ」
鞭を振るっていた男が不満そうにつぶやく。
顔の上半分には道化師のようなデザインの仮面をつけている。
均整のとれた肉体はよく鍛え上げられていた。
「どうして、こんな非道な真似ができるのですか……」
女性が仮面の男に力なく訴える。
「ええっと。貴女はたしか、聖教国を追放された聖女サマでしたっけネ? いやあ、貴女にはとっても同情してるんですヨ。正しい加護の力を持っていたのに教皇が据えた偽聖女のせいで追放されてしまうなんて。そんな貴女が奴隷にまで落とされて、私のもとにまで落ちぶれてしまうなんて……ああ、まさに悲劇! 本当にかわいそうでかわいそうで仕方がないっ!」
「なら、どうして……!」
「私が楽しいっ!」
仮面の男がいつの間にか持ち替えていた巨大なハンマーを振るうと、グシャリという音とともに何かが弾けた。
「やっぱり赤はいいですネェ。実に映えます」
全身を赤く染めた仮面の男が気持ちよさそうに汗を拭う。
「エレイン侯。お楽しみ中に失礼します」
ローブを全身で覆った人物が、仮面の男に声をかける。
「いえいえ、かまいませんヨ。ちょうど今、終わったところでしたから。それでどうしました?」
「どうやら奴隷商人たちが王都に戻ったようです」
「おお、素晴らしい!」
エレイン侯と呼ばれた仮面の男が歓喜に震える。
「それで彼女は!?」
「それはまだ。しかし帰還したということは成果があったものかと」
「いやあ、赤眼の女の子を飼えるなんて思いもしませんでしたヨ。きっと、ものすごくかわいそうな目に遭ってきたんでしょうネェ!」
まるで初恋に浮かれる少年のように頬を染めるエレイン侯。
「ルナちゃん。会えるのがとっても楽しみです♪」
「あれ? あたしは……」
「ようやく起きたかババァ」
「借りてんぜ」
ダリアが横を見ると、奴隷商人たちが自宅に上がりこんで朝食のパンを食べていた。
「アンタたち、人の家で勝手に――」
そう文句を言いかけてからダリアは自分が簀巻き状態で床に転がされていることに気づいた。
「なんだいこりゃ! ほどいとくれ!」
「うるせえ! 俺らもこれからどうなっちまうか、わかんねえんだ! どうやったって納期までに商品を納められねぇ!」
「落ち着けって相棒。バゾンドの邪魔があったってお伝えすればワンチャンあるかもしれねえ……」
「エレイン侯がまともに話を聞いてくれっかなぁ……」
「そこなんだよな。何しろ赤眼の幼女を所望するようなトンデモ変態様だからなぁ……」
奴隷商人たちの表情は悲壮感にあふれていた。
バゾンドを名乗る男にルナを連れ去られた。
つまり、奴隷商人たちも貴族の注文の品を確保できなかったということ。
ここで、ようやくダリアも自分に待ち受ける運命を思い出した。
「金なら返すから、奴隷だけは勘弁しとくれよ!」
奴隷商人がダリアを睨みつける。
「あのガキの代金ならとっくに回収しようとしたさ」
「でも、どこにもなかった。バゾンドが持っていったんだろうよ」
ダリアの頭が真っ白になった。
「あたしの金……あの盗っ人めぇ~!」
「テメェの金じゃねえ!
とにかく俺らのケツにもやっべぇ火がついてんだよ!」
「お前を売って少しはタシにしなきゃならねぇ。まあ、クズ値だろうがな」
「あ、あたしを娼館に売り飛ばして性奴隷にする気かい!」
ダリアの発言に奴隷商人のふたりがあっけに取られる。
「は? お前を性奴隷に? 本気で務まると思ってんのか?」
「客がつくわけねぇだろ。鏡見てから言えよ、ババァ!」
「失礼だね! あたしはこれでも二十七だよ!」
ギャーギャーわめくダリアを見て、奴隷商人たちは呆れたように首を横に振った。
「お前は鉱山奴隷送りだよ。そんだけ元気ならそこそこ長生きできんだろ?」
「ま、そういうことだから毎日鞭打たれながら死ぬまで働きな。お前みたいな強欲ババァには似合いの末路だろうよ」
「イヤだ! どうして! なんであたしだけがこんな目に!」
こうしてダリアは奴隷商人たちの馬車に乗せられて、鉱山に売り飛ばさたのだった。
◇
陽の光が届かない石造りの地下室。
ひとりの男が楽しそうに何度も何度も鞭を振るっている。
「ンッン~♪ さあ、もっといい声で泣いてくださいネ!」
「ううっ!」
無理やり石床に座らされている女性の背中はたくさんの鞭跡があった。
両手首の枷から伸びた鎖が壁の中に埋め込まれている。
足の枷には重りまでつけられていた。
「ン~……だいぶ反応が鈍くなってきましたネェ」
鞭を振るっていた男が不満そうにつぶやく。
顔の上半分には道化師のようなデザインの仮面をつけている。
均整のとれた肉体はよく鍛え上げられていた。
「どうして、こんな非道な真似ができるのですか……」
女性が仮面の男に力なく訴える。
「ええっと。貴女はたしか、聖教国を追放された聖女サマでしたっけネ? いやあ、貴女にはとっても同情してるんですヨ。正しい加護の力を持っていたのに教皇が据えた偽聖女のせいで追放されてしまうなんて。そんな貴女が奴隷にまで落とされて、私のもとにまで落ちぶれてしまうなんて……ああ、まさに悲劇! 本当にかわいそうでかわいそうで仕方がないっ!」
「なら、どうして……!」
「私が楽しいっ!」
仮面の男がいつの間にか持ち替えていた巨大なハンマーを振るうと、グシャリという音とともに何かが弾けた。
「やっぱり赤はいいですネェ。実に映えます」
全身を赤く染めた仮面の男が気持ちよさそうに汗を拭う。
「エレイン侯。お楽しみ中に失礼します」
ローブを全身で覆った人物が、仮面の男に声をかける。
「いえいえ、かまいませんヨ。ちょうど今、終わったところでしたから。それでどうしました?」
「どうやら奴隷商人たちが王都に戻ったようです」
「おお、素晴らしい!」
エレイン侯と呼ばれた仮面の男が歓喜に震える。
「それで彼女は!?」
「それはまだ。しかし帰還したということは成果があったものかと」
「いやあ、赤眼の女の子を飼えるなんて思いもしませんでしたヨ。きっと、ものすごくかわいそうな目に遭ってきたんでしょうネェ!」
まるで初恋に浮かれる少年のように頬を染めるエレイン侯。
「ルナちゃん。会えるのがとっても楽しみです♪」
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