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第7話 サラリーマンの経験が生きたな!
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「見てませんね」
涼しい顔で嘘を吐いた。
「ホントかい? あいつはいつもこっちの方で遊んでたんだけどねぇ」
間違いない。
この人がルナの叔母だ。
ルナをあんなふうにした張本人……。
「迷子ですか? それは心配ですね。見かけたら知らせますので、お名前をうかがっても?」
心の中で怒りを燃やしながら、長年鍛え上げた営業スマイルで応対する。
「ルナっていうんだよ。あたしはダリアっていうから、見かけたら知らせとくれ」
ここでダリアと名乗った叔母は、うさん臭そうに俺を睨みつけてきた。
「それにしてもアンタ、ずいぶんと寒そうな格好をしているねぇ?」
服か。
今のスーツはあちこち焼け落ちたままだしな。
ステータスのおかげなのか寒さは感じないけど、森猪の毛皮でちょっとしたコートぐらいは作っておこうかな。
「盗賊に身ぐるみをはがされまして」
「ふぅん、そいつは災難だったねぇ」
まるっきり他人事だという顔で、別れの挨拶もなくダリアは去っていった。
「……なんとか誤魔化せたかな?」
『はい。気づいた様子はありませんでした。』
「ルナを探してるのか。あの子の体力がもう少し回復したら、移動を考えないとな……」
◇
そんなことがあって二日ほど。
朝昼夕と食べて睡眠もたっぷり摂ったルナは、ずいぶん血色がよくなってきた。
森猪の毛皮で布団も作ったので、あたたかくして眠れてるみたい。
とはいえ衛生環境は良くないし、ルナにもちゃんとした服を用意してあげたい。
そのために――
「えっ。お出かけ、です?」
「うん、ちょっと大きい街にね。いっしょに行く?」
「街は、こわい、です」
「人ごみが怖いの?」
ルナはフルフルと首を横に振った。
「いっぱい、ぶたれる、ます」
……つまり、ルナをいじめるのはダリアだけじゃないのか。
そういえば赤い目がどうって言ってたし、もしかしたらみんなに差別されてる?
「わかった。だったらお留守番、できる?」
しゃがみこんでルナと目を合わせた。
「あい。いってらっし……」
ルナがとっさに口をふさぐ。
「どうした?」
「なんでも、ないです」
いや、絶対なんかあんだろ!
「怒ったりしないから、言いたいことがあったらちゃんと教えて」
すると赤色の瞳がジッと見つめ返してくる。
「いってらっしゃい、って、言ったら、タカシさんが、死んじゃう」
「……は?」
「おとうさんも、おかあさんも、わたしが、見送って、帰ってこなかった、です」
うっそだろ、オイ……!
ここでそんなヘビーな話をぶっ込んでくるの!?
「おばさんは、ふたりとも、もう死んだ、言うます」
あんのおばさん、マジで一回泣かせたろか……。
てゆーかこの異世界、ルナにだけハードモード過ぎるでしょ!
ゆるふわスローライフワールドに生まれ変わってあげて! 今すぐに!
「行かないで……」
好きとか嫌いとか、そういう気持ちじゃないのはわかってる。
俺がいなくなったら生きられない。
きっとルナも本能的にわかってるんだ。
「約束する。必ずここに戻ってくる。俺は君を絶対に見捨てたりしない。指切りもするよ」
「ゆびきり?」
あ、そっか。
ここは異世界だから、指切りなんてないよな。
「こんなふうに指を立ててみて」
「……こう?」
「指切りげんまん嘘吐いたら針千本のーます。指切った!」
ルナが俺と結ばれてた小指をジッと見つめる。
「これで俺は約束破れない! だから、ね?」
しばらくするとルナはコクッとうなずいて、こちらをチラチラと振り返りながら木の中に隠れてしまった。
「ぬおお……」
謎の罪悪感に胸が痛くなる。
手製の毛皮コートを着込んでから、最低限の防腐対策をした森猪を背負って、マキナに聞いておいた街の方角に走り出した。
「マキナ! 街で情報収集するつもりだったけど、できるだけ速攻で帰るぞー!」
『了解しました。情報収集は大切ですが、今はルナさんのケアが優先ですからね。』
涼しい顔で嘘を吐いた。
「ホントかい? あいつはいつもこっちの方で遊んでたんだけどねぇ」
間違いない。
この人がルナの叔母だ。
ルナをあんなふうにした張本人……。
「迷子ですか? それは心配ですね。見かけたら知らせますので、お名前をうかがっても?」
心の中で怒りを燃やしながら、長年鍛え上げた営業スマイルで応対する。
「ルナっていうんだよ。あたしはダリアっていうから、見かけたら知らせとくれ」
ここでダリアと名乗った叔母は、うさん臭そうに俺を睨みつけてきた。
「それにしてもアンタ、ずいぶんと寒そうな格好をしているねぇ?」
服か。
今のスーツはあちこち焼け落ちたままだしな。
ステータスのおかげなのか寒さは感じないけど、森猪の毛皮でちょっとしたコートぐらいは作っておこうかな。
「盗賊に身ぐるみをはがされまして」
「ふぅん、そいつは災難だったねぇ」
まるっきり他人事だという顔で、別れの挨拶もなくダリアは去っていった。
「……なんとか誤魔化せたかな?」
『はい。気づいた様子はありませんでした。』
「ルナを探してるのか。あの子の体力がもう少し回復したら、移動を考えないとな……」
◇
そんなことがあって二日ほど。
朝昼夕と食べて睡眠もたっぷり摂ったルナは、ずいぶん血色がよくなってきた。
森猪の毛皮で布団も作ったので、あたたかくして眠れてるみたい。
とはいえ衛生環境は良くないし、ルナにもちゃんとした服を用意してあげたい。
そのために――
「えっ。お出かけ、です?」
「うん、ちょっと大きい街にね。いっしょに行く?」
「街は、こわい、です」
「人ごみが怖いの?」
ルナはフルフルと首を横に振った。
「いっぱい、ぶたれる、ます」
……つまり、ルナをいじめるのはダリアだけじゃないのか。
そういえば赤い目がどうって言ってたし、もしかしたらみんなに差別されてる?
「わかった。だったらお留守番、できる?」
しゃがみこんでルナと目を合わせた。
「あい。いってらっし……」
ルナがとっさに口をふさぐ。
「どうした?」
「なんでも、ないです」
いや、絶対なんかあんだろ!
「怒ったりしないから、言いたいことがあったらちゃんと教えて」
すると赤色の瞳がジッと見つめ返してくる。
「いってらっしゃい、って、言ったら、タカシさんが、死んじゃう」
「……は?」
「おとうさんも、おかあさんも、わたしが、見送って、帰ってこなかった、です」
うっそだろ、オイ……!
ここでそんなヘビーな話をぶっ込んでくるの!?
「おばさんは、ふたりとも、もう死んだ、言うます」
あんのおばさん、マジで一回泣かせたろか……。
てゆーかこの異世界、ルナにだけハードモード過ぎるでしょ!
ゆるふわスローライフワールドに生まれ変わってあげて! 今すぐに!
「行かないで……」
好きとか嫌いとか、そういう気持ちじゃないのはわかってる。
俺がいなくなったら生きられない。
きっとルナも本能的にわかってるんだ。
「約束する。必ずここに戻ってくる。俺は君を絶対に見捨てたりしない。指切りもするよ」
「ゆびきり?」
あ、そっか。
ここは異世界だから、指切りなんてないよな。
「こんなふうに指を立ててみて」
「……こう?」
「指切りげんまん嘘吐いたら針千本のーます。指切った!」
ルナが俺と結ばれてた小指をジッと見つめる。
「これで俺は約束破れない! だから、ね?」
しばらくするとルナはコクッとうなずいて、こちらをチラチラと振り返りながら木の中に隠れてしまった。
「ぬおお……」
謎の罪悪感に胸が痛くなる。
手製の毛皮コートを着込んでから、最低限の防腐対策をした森猪を背負って、マキナに聞いておいた街の方角に走り出した。
「マキナ! 街で情報収集するつもりだったけど、できるだけ速攻で帰るぞー!」
『了解しました。情報収集は大切ですが、今はルナさんのケアが優先ですからね。』
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