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第6話 ルナを満腹にしてあげよう!
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「君は……」
出かかった言葉の続きをぐっと呑み込む。
「俺はルナをぶったりしない。絶対に」
できるだけ真剣にそう伝えると、ルナは不思議そうな顔をしていた。
喜ぶでもなく、怖がるでもなく。
ただ単にわからない、という表情を浮かべていた。
「わたしも、はたらく、ます。はたらかして、ください」
ルナがぺこっと頭を下げる。
「……ルナはえらいね」
「えらい、ですか?」
頭をあげたルナが小首をかしげた。
「うん、わかった。俺の負け。薪は俺がなんとかするから、ルナは火の番をお願いできる?」
「あい」
ルナが安心したようにうなずく。
「じゃあ、いってくるから」
俺が軽く手をあげると、ルナも小さく手を振り返して見送ってくれた。
「マキナ、水分を含んでない木の場所を教えてくれ。なんなら俺の視界にマーカーを表示してもいい」
『はい、タカシさん。五百メートル以内の水分を含んでいない木をマーカー表示します。』
視界内に無数の矢印が表示される。
「ルナ……いつかわかってもらえるといいな」
俺の心は静かに燃えた。
◇
薪を手に入れてきた俺は早速、おかゆを作り始めた。
「ルナには先見の明があったね」
鋳鉄製の鍋に、木製のしゃもじと食器一式。
ルナが馬車で調達した道具類が大活躍だ。
「せんけん?」
「先を見通す力があるってことだよ」
「よく、わからない、です。ごめん、なさい」
「褒めただけだから謝らないでー!」
マキナの指示どおりにカラムシ麦の灰汁を取ってから、血抜きとかの下処理をした猪肉を入れた。
しばらく煮込んでるといい臭いがしてくる。
ルナがごくんと生唾を飲みこんだ。
「うん、いい感じだな」
軽く味見をしてから、皿におかゆをよそった。
「はい、どうぞ! 熱いからフーフーして食べてね」
「タカシさん、先に、食べて。わたし、残り、食べる、ます」
「えっ、なんで?」
「おばさん、いつも、食べて、わたし、残り」
またおばさんかーい!
いったいルナにどんな教育してんだよ……!
「俺といるときは大丈夫だから、ルナが先に食べて」
ちょっと強引に皿を渡した。
「あちゅっ!」
「おっと、危ない!」
ルナがお皿を落としそうになったのを、かろうじて支えてあげる。
どうやらお皿が熱くてびっくりしちゃったみたいだ。
「あう、ごめ……」
「いいから、食べて。俺は本当にぶたないから」
たぶん、こう言わないとルナは食べてくれない。
「……いただくます。ふーっ、ふーっ」
ルナが木さじを逆手に握り込んで、おかゆをすくいとる。
そのまま口に含んだ途端に動きがピタッと止まった。
「どう?」
返事はない。
しばらくすると動き出して黙々とおかゆをたいらげていく。
最後のひとさじを名残惜しそうに見つめてから、パクッと口に含んだ。
たっぷり味わうようにもぐもぐしてから、ごっくんする。
「ごそさまでした」
「もういいのかな? もっと食べない?」
「えっ!」
ルナがこれまでの中で一番の驚き顔を見せた。
「まだまだたくさんあるし、俺ひとりじゃ食べ切れないよ」
「うそ。ほんと、に?」
「嘘じゃない。ホントだよ。ほら、お皿ちょうだい」
手を伸ばすとルナはためらいがちに皿を差し出してきた。
再びおかゆをよそって渡すと、今度は迷わず始める。
「あった、かくて。おい、しい、です」
ルナが味の感想を噛みしめるようにつぶやく。
「そっか」
「ほんとに、おい、しい……」
ルナが泣き始めた。
ぽろぽろと大粒の涙をこぼしていく。
「おかわり、食べる?」
「おねが、します」
この日、ルナはたくさんおかわりした。
見てるこっちが幸せな気分になるくらいの、気持ちいい食べっぷり。
この子は美味しかったから泣いたんじゃない。
あたたかいご飯をお腹いっぱい食べること自体が、きっと初めての経験だったんだ。
「好きなだけ食べていいから」
そう言ったら、ルナがまた泣いてしまった。
今夜食べてるおかゆは、ちょっと塩味が効きすぎるかもね。
◇
早朝。
ルナの様子を見てから出かける。
考え事しながら薪集めだ。
「森猪の毛皮は服や布団にできそうか?」
『はい。ただし毛皮も今のうちに塩などをつかって保存処理をしなければなりません。肉も塩漬けにしたり燻製にしないといけません。』
「そうだよなぁ。塩とか香辛料を早く買わなくっちゃ。ていうか、森猪は街とかで売れるんじゃない?」
『そうですね。モンスターですので各部位を冒険者ギルドの解体所に持ち込めば換金できると思います』
「そっか! だったらすぐ食べる分以外は売ろうかなー」
雑木林でマキナと会話しながら服を燃やさないように普通の速度で薪を拾っていると。
「もし、そこの人!」
いきなりおばさんが声をかけてきた。
身なりもボロボロで、なんだか必死そうに息を切らしている。
「どうしました? 何かお困りですか?」
何か力になれるかと思って聞いてみると、おばさん……というより老婆に見えるその人は、目を血走らせながら、こう叫んだ。
「この辺で、目の赤い子供を見なかったかい!?」
出かかった言葉の続きをぐっと呑み込む。
「俺はルナをぶったりしない。絶対に」
できるだけ真剣にそう伝えると、ルナは不思議そうな顔をしていた。
喜ぶでもなく、怖がるでもなく。
ただ単にわからない、という表情を浮かべていた。
「わたしも、はたらく、ます。はたらかして、ください」
ルナがぺこっと頭を下げる。
「……ルナはえらいね」
「えらい、ですか?」
頭をあげたルナが小首をかしげた。
「うん、わかった。俺の負け。薪は俺がなんとかするから、ルナは火の番をお願いできる?」
「あい」
ルナが安心したようにうなずく。
「じゃあ、いってくるから」
俺が軽く手をあげると、ルナも小さく手を振り返して見送ってくれた。
「マキナ、水分を含んでない木の場所を教えてくれ。なんなら俺の視界にマーカーを表示してもいい」
『はい、タカシさん。五百メートル以内の水分を含んでいない木をマーカー表示します。』
視界内に無数の矢印が表示される。
「ルナ……いつかわかってもらえるといいな」
俺の心は静かに燃えた。
◇
薪を手に入れてきた俺は早速、おかゆを作り始めた。
「ルナには先見の明があったね」
鋳鉄製の鍋に、木製のしゃもじと食器一式。
ルナが馬車で調達した道具類が大活躍だ。
「せんけん?」
「先を見通す力があるってことだよ」
「よく、わからない、です。ごめん、なさい」
「褒めただけだから謝らないでー!」
マキナの指示どおりにカラムシ麦の灰汁を取ってから、血抜きとかの下処理をした猪肉を入れた。
しばらく煮込んでるといい臭いがしてくる。
ルナがごくんと生唾を飲みこんだ。
「うん、いい感じだな」
軽く味見をしてから、皿におかゆをよそった。
「はい、どうぞ! 熱いからフーフーして食べてね」
「タカシさん、先に、食べて。わたし、残り、食べる、ます」
「えっ、なんで?」
「おばさん、いつも、食べて、わたし、残り」
またおばさんかーい!
いったいルナにどんな教育してんだよ……!
「俺といるときは大丈夫だから、ルナが先に食べて」
ちょっと強引に皿を渡した。
「あちゅっ!」
「おっと、危ない!」
ルナがお皿を落としそうになったのを、かろうじて支えてあげる。
どうやらお皿が熱くてびっくりしちゃったみたいだ。
「あう、ごめ……」
「いいから、食べて。俺は本当にぶたないから」
たぶん、こう言わないとルナは食べてくれない。
「……いただくます。ふーっ、ふーっ」
ルナが木さじを逆手に握り込んで、おかゆをすくいとる。
そのまま口に含んだ途端に動きがピタッと止まった。
「どう?」
返事はない。
しばらくすると動き出して黙々とおかゆをたいらげていく。
最後のひとさじを名残惜しそうに見つめてから、パクッと口に含んだ。
たっぷり味わうようにもぐもぐしてから、ごっくんする。
「ごそさまでした」
「もういいのかな? もっと食べない?」
「えっ!」
ルナがこれまでの中で一番の驚き顔を見せた。
「まだまだたくさんあるし、俺ひとりじゃ食べ切れないよ」
「うそ。ほんと、に?」
「嘘じゃない。ホントだよ。ほら、お皿ちょうだい」
手を伸ばすとルナはためらいがちに皿を差し出してきた。
再びおかゆをよそって渡すと、今度は迷わず始める。
「あった、かくて。おい、しい、です」
ルナが味の感想を噛みしめるようにつぶやく。
「そっか」
「ほんとに、おい、しい……」
ルナが泣き始めた。
ぽろぽろと大粒の涙をこぼしていく。
「おかわり、食べる?」
「おねが、します」
この日、ルナはたくさんおかわりした。
見てるこっちが幸せな気分になるくらいの、気持ちいい食べっぷり。
この子は美味しかったから泣いたんじゃない。
あたたかいご飯をお腹いっぱい食べること自体が、きっと初めての経験だったんだ。
「好きなだけ食べていいから」
そう言ったら、ルナがまた泣いてしまった。
今夜食べてるおかゆは、ちょっと塩味が効きすぎるかもね。
◇
早朝。
ルナの様子を見てから出かける。
考え事しながら薪集めだ。
「森猪の毛皮は服や布団にできそうか?」
『はい。ただし毛皮も今のうちに塩などをつかって保存処理をしなければなりません。肉も塩漬けにしたり燻製にしないといけません。』
「そうだよなぁ。塩とか香辛料を早く買わなくっちゃ。ていうか、森猪は街とかで売れるんじゃない?」
『そうですね。モンスターですので各部位を冒険者ギルドの解体所に持ち込めば換金できると思います』
「そっか! だったらすぐ食べる分以外は売ろうかなー」
雑木林でマキナと会話しながら服を燃やさないように普通の速度で薪を拾っていると。
「もし、そこの人!」
いきなりおばさんが声をかけてきた。
身なりもボロボロで、なんだか必死そうに息を切らしている。
「どうしました? 何かお困りですか?」
何か力になれるかと思って聞いてみると、おばさん……というより老婆に見えるその人は、目を血走らせながら、こう叫んだ。
「この辺で、目の赤い子供を見なかったかい!?」
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