35 / 49
33話 瞳の魔法
しおりを挟む
翌日も俺たちは再び狩りに出かけることにした。アビスランドでの生活は常に食料の確保が最優先だ。
古代語の解読についてはあくまでついでだが、今日こそは運が味方してくれるかもしれないと期待するのは悪いことではない。
「ゼリルさん、今日はどの方向に行きますか?」
ミアが期待を込めた声で問いかけてきた。昨日のことを気にせず、前向きな姿勢を保っている。
「今日は南西の岩場へ向かう。あそこは狩りには適しているが、魔物が出やすい場所でもある。気をつけて進むんだ」
岩場に到着する前からフェンリスが鼻をひくつかせて警戒心を強めている。
南西の岩場は不規則な形の岩が点在し、視界が悪くなることが多い。そこで何が待ち受けているのかは予測がつかないが、俺たちはいつも通り慎重に進んでいくつもりだった。
岩場に到着すると周囲には微かな霧が立ち込めていた。冷たい風が岩の間から吹き抜けてくる。
互いに声を掛け合いながら、少しずつ進んでいく。
「ここも不気味な雰囲気ですね」
「アビスランドで不気味でない場所などそうはない。とはいえ……」
この場所には何かが潜んでいるような気配が感じられた。
フェンリスも同様に鼻をひくつかせ、何かを探っているようだ。
しばらく進んでいると、突然フェンリスが立ち止まって低い唸り声を上げた。
「何かいるな」
その瞬間。岩陰から突然、巨大な影が飛び出してきた。鋭い牙と爪。目は血走っていて理性の欠片もない。
その魔物は俺たちを見つけるなりすぐさま攻撃態勢を取り、猛然と突進してきた。
「ミア、下がれ! フェンリス、行くぞ!」
ミアに退避を命じ、フェンリスと共に魔物に立ち向かう。
その魔物は非常に速く力も強い。
だが、俺たちもアビスランドを生き抜いてきた戦士だ。簡単には負けない。
だが。
「なにっ……!?」
睨みつけられた瞬間、体が強張る。
だが、俺に流れる魔族の血が熱くなったかと思うと何かが弾けて自由になった。
「今のはまさか!」
おそらく瞳を介した魔法攻撃だ。
俺が魔族だったおかげで防ぐことができたが、禍獣であるフェンリスはともかく人間のミアに向けられたら大変なことになる。
ならばやるべきことはひとつ。
俺は地面の砂を握りこんで魔物に振りかけた。
奴がたまらず目を瞑る。
「フェンリス、左側から攻めろ!」
俺が指示を出すとフェンリスはすぐに反応して魔物の死角に回り込んだ。
その隙に俺は正面から攻撃を仕掛け魔物の動きを封じようと試みた。だが、魔物は素早く鋭い爪で反撃してくる。
「くそっ、こいつ!」
剣でその攻撃を防ぎながら、次の一手に施行を巡らせる。ミアも安全な距離を保ちながら、魔法の準備をしているのが見えた。
「ゼリルさん、今です!」
ミアが叫ぶと同時に黒炎を放った。魔物はその黒炎を避けようとしたが、フェンリスが素早くその動きを封じ、黒炎が命中した。魔物が苦痛の叫びを上げる。
「このまま押し切る!」
再び攻撃を仕掛けてフェンリスと共に魔物を追い詰めていった。ミアの魔法も加わり、魔物は次第に動きが鈍くなっていった。
最終的に俺たちは協力して魔物を倒すことに成功した。魔物は息絶え、岩場に静寂が戻ってくる。
「無事に終わったな」
深いため息とともに剣を納める。
フェンリスも疲れた様子で俺のそばに座り込み、ミアも少し息を切らしながら近づいてきた。
「ゼリルさん、大丈夫ですか?」
「ああ、問題ない。お前たちのおかげで、無事に倒せた。とはいえだいぶ消耗させられたな」
同じ強さの魔物が出てきたらミアを守り切れるとは限らない。
これ以上の散策はリスクでしかないだろう。
「収穫としては充分だろう。今日はもう引き上げるか」
俺が提案すると、ミアとフェンリスも同意して、俺たちはゆっくりと戻ることにした。
こんな狂暴な魔物がいるようでは知的生物が近くにいるとは思えない。
古代語の手がかりが得られる確率は低いだろう。
「少しずつ進めばいい。焦らず、慎重にな……」
俺は自分にそう言い聞かせて今日の狩りを終えた。
古代語の解読についてはあくまでついでだが、今日こそは運が味方してくれるかもしれないと期待するのは悪いことではない。
「ゼリルさん、今日はどの方向に行きますか?」
ミアが期待を込めた声で問いかけてきた。昨日のことを気にせず、前向きな姿勢を保っている。
「今日は南西の岩場へ向かう。あそこは狩りには適しているが、魔物が出やすい場所でもある。気をつけて進むんだ」
岩場に到着する前からフェンリスが鼻をひくつかせて警戒心を強めている。
南西の岩場は不規則な形の岩が点在し、視界が悪くなることが多い。そこで何が待ち受けているのかは予測がつかないが、俺たちはいつも通り慎重に進んでいくつもりだった。
岩場に到着すると周囲には微かな霧が立ち込めていた。冷たい風が岩の間から吹き抜けてくる。
互いに声を掛け合いながら、少しずつ進んでいく。
「ここも不気味な雰囲気ですね」
「アビスランドで不気味でない場所などそうはない。とはいえ……」
この場所には何かが潜んでいるような気配が感じられた。
フェンリスも同様に鼻をひくつかせ、何かを探っているようだ。
しばらく進んでいると、突然フェンリスが立ち止まって低い唸り声を上げた。
「何かいるな」
その瞬間。岩陰から突然、巨大な影が飛び出してきた。鋭い牙と爪。目は血走っていて理性の欠片もない。
その魔物は俺たちを見つけるなりすぐさま攻撃態勢を取り、猛然と突進してきた。
「ミア、下がれ! フェンリス、行くぞ!」
ミアに退避を命じ、フェンリスと共に魔物に立ち向かう。
その魔物は非常に速く力も強い。
だが、俺たちもアビスランドを生き抜いてきた戦士だ。簡単には負けない。
だが。
「なにっ……!?」
睨みつけられた瞬間、体が強張る。
だが、俺に流れる魔族の血が熱くなったかと思うと何かが弾けて自由になった。
「今のはまさか!」
おそらく瞳を介した魔法攻撃だ。
俺が魔族だったおかげで防ぐことができたが、禍獣であるフェンリスはともかく人間のミアに向けられたら大変なことになる。
ならばやるべきことはひとつ。
俺は地面の砂を握りこんで魔物に振りかけた。
奴がたまらず目を瞑る。
「フェンリス、左側から攻めろ!」
俺が指示を出すとフェンリスはすぐに反応して魔物の死角に回り込んだ。
その隙に俺は正面から攻撃を仕掛け魔物の動きを封じようと試みた。だが、魔物は素早く鋭い爪で反撃してくる。
「くそっ、こいつ!」
剣でその攻撃を防ぎながら、次の一手に施行を巡らせる。ミアも安全な距離を保ちながら、魔法の準備をしているのが見えた。
「ゼリルさん、今です!」
ミアが叫ぶと同時に黒炎を放った。魔物はその黒炎を避けようとしたが、フェンリスが素早くその動きを封じ、黒炎が命中した。魔物が苦痛の叫びを上げる。
「このまま押し切る!」
再び攻撃を仕掛けてフェンリスと共に魔物を追い詰めていった。ミアの魔法も加わり、魔物は次第に動きが鈍くなっていった。
最終的に俺たちは協力して魔物を倒すことに成功した。魔物は息絶え、岩場に静寂が戻ってくる。
「無事に終わったな」
深いため息とともに剣を納める。
フェンリスも疲れた様子で俺のそばに座り込み、ミアも少し息を切らしながら近づいてきた。
「ゼリルさん、大丈夫ですか?」
「ああ、問題ない。お前たちのおかげで、無事に倒せた。とはいえだいぶ消耗させられたな」
同じ強さの魔物が出てきたらミアを守り切れるとは限らない。
これ以上の散策はリスクでしかないだろう。
「収穫としては充分だろう。今日はもう引き上げるか」
俺が提案すると、ミアとフェンリスも同意して、俺たちはゆっくりと戻ることにした。
こんな狂暴な魔物がいるようでは知的生物が近くにいるとは思えない。
古代語の手がかりが得られる確率は低いだろう。
「少しずつ進めばいい。焦らず、慎重にな……」
俺は自分にそう言い聞かせて今日の狩りを終えた。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
婚約者は、今月もお茶会に来ないらしい。
白雪なこ
恋愛
婚約時に両家で決めた、毎月1回の婚約者同士の交流を深める為のお茶会。だけど、私の婚約者は「彼が認めるお茶会日和」にしかやってこない。そして、数ヶ月に一度、参加したかと思えば、無言。短時間で帰り、手紙を置いていく。そんな彼を……許せる?
*6/21続編公開。「幼馴染の王女殿下は私の元婚約者に激おこだったらしい。次期女王を舐めんなよ!ですって。」
*外部サイトにも掲載しています。(1日だけですが総合日間1位)
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
元悪役令嬢はオンボロ修道院で余生を過ごす
こうじ
ファンタジー
両親から妹に婚約者を譲れと言われたレスナー・ティアント。彼女は勝手な両親や裏切った婚約者、寝取った妹に嫌気がさし自ら修道院に入る事にした。研修期間を経て彼女は修道院に入る事になったのだが彼女が送られたのは廃墟寸前の修道院でしかも修道女はレスナー一人のみ。しかし、彼女にとっては好都合だった。『誰にも邪魔されずに好きな事が出来る!これって恵まれているんじゃ?』公爵令嬢から修道女になったレスナーののんびり修道院ライフが始まる!
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる