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33話 瞳の魔法

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 翌日も俺たちは再び狩りに出かけることにした。アビスランドでの生活は常に食料の確保が最優先だ。
 古代語の解読についてはあくまでついでだが、今日こそは運が味方してくれるかもしれないと期待するのは悪いことではない。

「ゼリルさん、今日はどの方向に行きますか?」

 ミアが期待を込めた声で問いかけてきた。昨日のことを気にせず、前向きな姿勢を保っている。

「今日は南西の岩場へ向かう。あそこは狩りには適しているが、魔物が出やすい場所でもある。気をつけて進むんだ」

 岩場に到着する前からフェンリスが鼻をひくつかせて警戒心を強めている。
 南西の岩場は不規則な形の岩が点在し、視界が悪くなることが多い。そこで何が待ち受けているのかは予測がつかないが、俺たちはいつも通り慎重に進んでいくつもりだった。
 岩場に到着すると周囲には微かな霧が立ち込めていた。冷たい風が岩の間から吹き抜けてくる。
 互いに声を掛け合いながら、少しずつ進んでいく。

「ここも不気味な雰囲気ですね」

「アビスランドで不気味でない場所などそうはない。とはいえ……」

 この場所には何かが潜んでいるような気配が感じられた。
 フェンリスも同様に鼻をひくつかせ、何かを探っているようだ。

 しばらく進んでいると、突然フェンリスが立ち止まって低い唸り声を上げた。

「何かいるな」

 その瞬間。岩陰から突然、巨大な影が飛び出してきた。鋭い牙と爪。目は血走っていて理性の欠片もない。
 その魔物は俺たちを見つけるなりすぐさま攻撃態勢を取り、猛然と突進してきた。

「ミア、下がれ! フェンリス、行くぞ!」

 ミアに退避を命じ、フェンリスと共に魔物に立ち向かう。
 その魔物は非常に速く力も強い。
 だが、俺たちもアビスランドを生き抜いてきた戦士だ。簡単には負けない。

 だが。

「なにっ……!?」

 睨みつけられた瞬間、体が強張る。
 だが、俺に流れる魔族の血が熱くなったかと思うと何かが弾けて自由になった。

「今のはまさか!」

 おそらく瞳を介した魔法攻撃だ。
 俺が魔族だったおかげで防ぐことができたが、禍獣であるフェンリスはともかく人間のミアに向けられたら大変なことになる。

 ならばやるべきことはひとつ。
 俺は地面の砂を握りこんで魔物に振りかけた。
 奴がたまらず目を瞑る。

「フェンリス、左側から攻めろ!」

 俺が指示を出すとフェンリスはすぐに反応して魔物の死角に回り込んだ。
 その隙に俺は正面から攻撃を仕掛け魔物の動きを封じようと試みた。だが、魔物は素早く鋭い爪で反撃してくる。

「くそっ、こいつ!」

 剣でその攻撃を防ぎながら、次の一手に施行を巡らせる。ミアも安全な距離を保ちながら、魔法の準備をしているのが見えた。

「ゼリルさん、今です!」

 ミアが叫ぶと同時に黒炎を放った。魔物はその黒炎を避けようとしたが、フェンリスが素早くその動きを封じ、黒炎が命中した。魔物が苦痛の叫びを上げる。

「このまま押し切る!」

 再び攻撃を仕掛けてフェンリスと共に魔物を追い詰めていった。ミアの魔法も加わり、魔物は次第に動きが鈍くなっていった。
 最終的に俺たちは協力して魔物を倒すことに成功した。魔物は息絶え、岩場に静寂が戻ってくる。

「無事に終わったな」

 深いため息とともに剣を納める。
 フェンリスも疲れた様子で俺のそばに座り込み、ミアも少し息を切らしながら近づいてきた。

「ゼリルさん、大丈夫ですか?」

「ああ、問題ない。お前たちのおかげで、無事に倒せた。とはいえだいぶ消耗させられたな」

 同じ強さの魔物が出てきたらミアを守り切れるとは限らない。
 これ以上の散策はリスクでしかないだろう。

「収穫としては充分だろう。今日はもう引き上げるか」

 俺が提案すると、ミアとフェンリスも同意して、俺たちはゆっくりと戻ることにした。
 こんな狂暴な魔物がいるようでは知的生物が近くにいるとは思えない。
 古代語の手がかりが得られる確率は低いだろう。

「少しずつ進めばいい。焦らず、慎重にな……」

 俺は自分にそう言い聞かせて今日の狩りを終えた。
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