底の子 ～最強魔族と厄災禍獣が奈落に堕ちた底辺少女を守るワケ～

19話 故郷の料理に舌鼓

　コープスからの帰り道、ミアは手に入れた調味料の瓶を大切そうに抱えていた。
　安堵と喜びが入り混じった笑顔を浮かべている。
　多くの試練を乗り越え成し遂げた者の顔だった。

　洞窟に戻ると、ミアはすぐさま料理の準備を始めた。新しく手に入れた調味料を慎重に扱いながら、懐かしい故郷の味を再現しようと躍起になっている。
　俺とフェンリスは静かに見守りながらミアの手際の良さに感心していた。

「ミア、本当に疲れているだろう。無理はするなよ」

「大丈夫です、ゼリルさん。これが私の今できることなんです。ゼリルさんとフェンリスに、おいしい料理を食べてもらいたいんです」

　ミアの笑顔を見た俺は胸のあたりがホカホカした。
　俺たちのためにここまで頑張ってくれているのだと思うと、何やらこみ上げるものがある。
　アビスランドに来てから……いや、生まれてこのかた縁のない感覚だった。

　しばらくすると料理の香りが洞窟中に広がり始める。
　調味料の独特な香りが食欲をそそる。フェンリスもその香りに敏感に反応し、鼻をひくつかせながら落ち着かない様子を見せていた。

「もうすぐできあがりますよ！」

　ミアの明るい声が響くと嫌が王にも期待を胸が高まる。


「何か手伝おうか？」

「いえ、大丈夫です。座っててください！」

　手際よく料理を仕上げたミアがいくつかの皿にそれを盛り付けた。
　料理は美しく整えられており、彩り豊かで、どこか懐かしい雰囲気を漂わせている。

「さあ、どうぞ召し上がれ」

「ありがとう」

　ミアが笑顔で差し出した料理を感謝の気持ちを込めて受け取った。
　フェンリスも料理に目を輝かせ、しっぽを軽く振りながら待ちきれない様子を見せていた。

「いただきます」

　俺は一口料理を口に運び、その味わいをじっくりと確かめた。
　口の中にじんわりとした感覚が伝わり、懐かしさとともに心地よい満足感が広がった。

「……これは、本当にうまい。ミア、お前の腕前には感服する」

　俺がそう言うと、ミアは恥ずかしそうに笑いながら頷いた。

「ありがとうございます、ゼリルさん。やっと、故郷の味を再現できました」

　フェンリスも料理を満足そうにハグハグと食べていた。
　ミアもその様子を見て嬉しそうに笑っている。

「フェンリスも気に入ってくれたみたいで良かったです。これで、私も少しは役に立てたかな？」

　ミアの言葉に俺は深く頷いた。

「お前はこれ以上ないほど十分に役立っている。俺たちは、お前がいてくれて本当に助かっているんだ」

　ミアが目を潤ませながらも、笑顔を浮かべた。

「ゼリルさん、ありがとうございます。これからももっと、皆さんに喜んでもらえるように頑張りますね！」

　その夜、俺たちはミアの料理に舌鼓を打ちながら、ゆっくりと時間を過ごした。

　暗い地下世界の中で、こんなに穏やかで幸せな瞬間が訪れるとは、思ってもみなかったな……。




　ミアの料理を楽しんだ後、俺たちは焚き火の前でくつろいでいた。
　フェンリスは既に眠りに落ち、穏やかな呼吸を繰り返している。
　ミアも満足そうに火を見つめながら、静かな夜を楽しんでいた。

「ゼリルさん、今日は本当に楽しかったです」

　ミアが口を開く。
　これ以上ないほど幸せそうな声だ。

「俺もだ。お前がここに来てから、いろんなことが変わった」

　彼女は少し驚いた表情を見せた。

「私が何か変えたんでしょうか？」

　きょとんとするミアに微笑みながら答える。

「以前の俺たちはただ生き延びるために毎日を過ごしていた。だが、お前が来てからは、こうして一緒に笑うことも増えた。お前のおかげだ」

　ミアが照れたように笑った。

「ゼリルさん。私、ここに来て本当に良かったです。最初は怖くて不安ばかりだったけど、今はゼリルさんやフェンリスと一緒にいられて本当に幸せです」

　俺も同じ気持ちだった。
　アビスランドの厳しさを忘れられる瞬間が確かにあるのだ。

「私、これからもずっとここで……一緒に生きていきたいです」

　その言葉がミアの飾ることない願望なのだろう。

「お前が望む限り、俺たちは共にいる。この地下世界で、俺たちは家族だ」

　俺の返事に感謝の涙を浮かべたミアが静かに微笑む。

「ありがとうございます、ゼリルさん……」

　その夜、ミアは安心した表情で眠りについた。
　少女の顔には穏やかな微笑みが浮かんでいる。

　いつも通りに寝顔を見守りながら、フェンリスのそばに座った。相棒も満足そうな表情で眠っている。
　俺たちはここで、確かに新たな絆を築き始めている。

　アビスランドの夜は静かで、時折風が吹き抜ける音だけが響いていた。
　その静寂の中で、俺はふと考える。

　これからも、この場所で俺たちが共に過ごしていこうと。
　そして、この先に何が待ち受けていていたとしても決して後悔はしないと。
　どんな困難が待っていようとも、俺たちは共にそれを乗り越えていけるはずだ。