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5話 底辺少女の第一歩
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その日の午後時間帯、ミアは洞窟の中をゆっくりと散策し始めた。
少女はまだ、この環境に慣れていないのが明らかだ。
暗い空間、異様な静けさ、そして照明の加減であちこちに見える不気味な影が、ミアを怯えさせているようだった。
そんなミアの様子を見守りながら、俺は洞窟の奥で干していた獣の肉を保管用のずた袋に詰めていた。
案の定フェンリスはというとミアの近くに寄り添い、少しでも少女が安心できるようにと心がけている。
あいつなりに気を遣っているつもりなんだろうが、ミアはまだ巨大な狼の威容に慣れていないようだ。
「怖いか?」
こちらの問いかけにミアが小さく頷いた。
「……少し。でも、少しだけ怖くなくなったかもしれません」
そう言いながらも、まだどこか不安そうだ。
無理もない。禍獣なんて地上では見かけるほうが珍しい。
むしろ見たことがあったら死んでいる可能性が高い。
「お前に無理強いはしない。少しずつでいい。俺たちに慣れておけ」
俺の再三の忠告にもミアは真剣な表情で頷いた。
「私、もっとアビスランドのことを知りたいです。ここで生きていくために、何が必要かを知っておきたい」
その言葉に、俺は少しばかり驚いた。
普通なら恐怖で叫びだしてもおかしくないのに、ミアはいまだに悲鳴のひとつもあげない。
それどころか現実に向き合おうとしている。
少しずつ少女の隠された内面が見えてきた気がした。
「そうか。だったらまずは、俺の口でアビスランドについて話しておいてやる。知識を得るのがここで生きるための第一歩だ」
俺は洞窟の壁を指し示した。
そこにはよく見ると古代の文字や絵が描かれているのだ。
「改めて言っておこう。この岩と塩だらけの世界は、地上で見捨てられた者たちが最後に行きつく奈落の底だ。地上の光が届かない深淵の地で、俺たちのような魔族や禍獣はもちろんのこと、かつて栄華を極めた文明の遺跡や遺物、忘れられた古代の魔物が蠢いてる」
壁に刻まれた古い紋章や岩に染み付いた錆の跡をじっと見つめるミア。
黒い瞳には困惑だけではない、この世界に対する興味が浮かび始めている。
「アビスランドには、いくつかのエリアがある。俺たちがいるこの洞窟は比較的安全な場所だが、外に出れば食人鬼や影獣がうろついている。光が少ない分、目に見えない脅威が潜んでいることもある。だからこそ、何よりも慎重さが求められる」
頷きながらミアは真剣に俺の話を聞いていた。
既に昨日のような怯えは消えつつある。恐怖を乗り越え、ここで生きるための覚悟が少しずつ芽生えているようだ。
「それから意外なことにアビスランドで最も重要なのは、仲間を見つけることだ。ここでは、誰もが生き残るために手を取り合う必要がある。俺たちは今、そうしてお前を迎え入れた」
ミアは少し戸惑った表情を見せた。
「私みたいなのでも仲間が見つかるんでしょうか?」
どことなく自虐を感じる質問に俺は笑って答える。
「すべてお前次第だ。信頼関係を築ければ自然と仲間ができる。俺たちでもいいし、他の誰かでもいい。まずは自分や仲間のためにできることを探すんだ」
「……はい!」
強く頷いたミアは、意を決したようにフェンリスの頭を撫でた。厄災を喚ぶ禍獣は静かにその手に応え、寄り添うようにしている。彼女の小さな手がフェンリスの柔らかな毛を撫でるたびに、少女の表情が少しずつ和らいでいく。
「まずは、ここでの生活に慣れろ。それから先のことは、考えなきゃいけなくなったときに考えればいい」
そう言ってからフェンリスを連れだって歩き出す。
洞窟の外に出ると、冷たい風が肌を刺すように吹いてきた。アビスランドの風はいつだって冷たい。まるで俺たちを試し続けているのようだ。
フェンリスが後ろを振り返ってミアが向かって歩いてくるのを確認すると、満足げに鼻を鳴らした。
ずっと洞窟の中にいたミアが初めて外に出たのだ。
「よし、まずは第一歩だ。ミアを守ってやれ、フェンリス」
フェンリスが静かに頷き、ミアへと寄り添う。
岩の上を歩く少女の足取りはおぼつかないが、その瞳には確かな意思が宿っている。
ミアがこの地下世界でどんな生き方を選んだとしても、今は俺たちが支えよう。
ミアの選択がどんな結果をもたらすのか。
見届けるのも、俺たちの役目だ。
少女はまだ、この環境に慣れていないのが明らかだ。
暗い空間、異様な静けさ、そして照明の加減であちこちに見える不気味な影が、ミアを怯えさせているようだった。
そんなミアの様子を見守りながら、俺は洞窟の奥で干していた獣の肉を保管用のずた袋に詰めていた。
案の定フェンリスはというとミアの近くに寄り添い、少しでも少女が安心できるようにと心がけている。
あいつなりに気を遣っているつもりなんだろうが、ミアはまだ巨大な狼の威容に慣れていないようだ。
「怖いか?」
こちらの問いかけにミアが小さく頷いた。
「……少し。でも、少しだけ怖くなくなったかもしれません」
そう言いながらも、まだどこか不安そうだ。
無理もない。禍獣なんて地上では見かけるほうが珍しい。
むしろ見たことがあったら死んでいる可能性が高い。
「お前に無理強いはしない。少しずつでいい。俺たちに慣れておけ」
俺の再三の忠告にもミアは真剣な表情で頷いた。
「私、もっとアビスランドのことを知りたいです。ここで生きていくために、何が必要かを知っておきたい」
その言葉に、俺は少しばかり驚いた。
普通なら恐怖で叫びだしてもおかしくないのに、ミアはいまだに悲鳴のひとつもあげない。
それどころか現実に向き合おうとしている。
少しずつ少女の隠された内面が見えてきた気がした。
「そうか。だったらまずは、俺の口でアビスランドについて話しておいてやる。知識を得るのがここで生きるための第一歩だ」
俺は洞窟の壁を指し示した。
そこにはよく見ると古代の文字や絵が描かれているのだ。
「改めて言っておこう。この岩と塩だらけの世界は、地上で見捨てられた者たちが最後に行きつく奈落の底だ。地上の光が届かない深淵の地で、俺たちのような魔族や禍獣はもちろんのこと、かつて栄華を極めた文明の遺跡や遺物、忘れられた古代の魔物が蠢いてる」
壁に刻まれた古い紋章や岩に染み付いた錆の跡をじっと見つめるミア。
黒い瞳には困惑だけではない、この世界に対する興味が浮かび始めている。
「アビスランドには、いくつかのエリアがある。俺たちがいるこの洞窟は比較的安全な場所だが、外に出れば食人鬼や影獣がうろついている。光が少ない分、目に見えない脅威が潜んでいることもある。だからこそ、何よりも慎重さが求められる」
頷きながらミアは真剣に俺の話を聞いていた。
既に昨日のような怯えは消えつつある。恐怖を乗り越え、ここで生きるための覚悟が少しずつ芽生えているようだ。
「それから意外なことにアビスランドで最も重要なのは、仲間を見つけることだ。ここでは、誰もが生き残るために手を取り合う必要がある。俺たちは今、そうしてお前を迎え入れた」
ミアは少し戸惑った表情を見せた。
「私みたいなのでも仲間が見つかるんでしょうか?」
どことなく自虐を感じる質問に俺は笑って答える。
「すべてお前次第だ。信頼関係を築ければ自然と仲間ができる。俺たちでもいいし、他の誰かでもいい。まずは自分や仲間のためにできることを探すんだ」
「……はい!」
強く頷いたミアは、意を決したようにフェンリスの頭を撫でた。厄災を喚ぶ禍獣は静かにその手に応え、寄り添うようにしている。彼女の小さな手がフェンリスの柔らかな毛を撫でるたびに、少女の表情が少しずつ和らいでいく。
「まずは、ここでの生活に慣れろ。それから先のことは、考えなきゃいけなくなったときに考えればいい」
そう言ってからフェンリスを連れだって歩き出す。
洞窟の外に出ると、冷たい風が肌を刺すように吹いてきた。アビスランドの風はいつだって冷たい。まるで俺たちを試し続けているのようだ。
フェンリスが後ろを振り返ってミアが向かって歩いてくるのを確認すると、満足げに鼻を鳴らした。
ずっと洞窟の中にいたミアが初めて外に出たのだ。
「よし、まずは第一歩だ。ミアを守ってやれ、フェンリス」
フェンリスが静かに頷き、ミアへと寄り添う。
岩の上を歩く少女の足取りはおぼつかないが、その瞳には確かな意思が宿っている。
ミアがこの地下世界でどんな生き方を選んだとしても、今は俺たちが支えよう。
ミアの選択がどんな結果をもたらすのか。
見届けるのも、俺たちの役目だ。
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