上 下
110 / 116

第110話 徴収

しおりを挟む
 それから五分後。

「お前たち」

 物品探査ロケート・オブジェクトでピケルの武具を追跡した俺は、人気ひとけのない路地を選んで連中を待ち伏せた。

「はぁ? お前、わざわざ先回りしてきたわけ?」
「マジうっざ」
「なになに? 見逃されてたの理解できなかった感じ?」
「装備の代金を払え」

 連中を無視して用件を告げると、連中は一様に面倒臭そうな顔をした。

「なんなのお前。ピケルちゃんの何?」
「そもそもなんの権利があって、俺等に絡んできてるわけ?」
「そーそー、お前無関係じゃん」
「いいや、俺は関係者だ」

 連中の言葉を否定してから、今度は一枚の書面を提示する。

「これは権利書だ。ピケルと契約して『太陽炉心』の権利と土地を買い上げた」
「は?」
「なんだこいつ、何言って――」
「つまり『太陽炉心』はもはや俺の店だ。だからオーナーとして不採算要因を排除しなければならない」

 権利書を虚空へ放ると、自動で次元倉庫《インベントリ》に収納された。

「今までのような甘い経営方針は破棄された。ツケは一切認めない。だから、お前たちが持っていった装備品の代金をすべて払え。拒否するなら、装備をすべて没収した上で法的手段に訴える」

 ここまで脅せばさすがに装備を返してくるだろうと淡い希望を抱いていたのだが、そう甘くはなかった。

「お前、マジでイカれてんの?」
「ドワーフの店とか、搾取するためにあんだろ」
「共有財産じゃん」
「つーかお前、今の立場わかってんの?」
「こっちは六人だぜ」
「そもそもどこ支部よ?」

 どうやら俺の説明では理解できなかったらしく、どうでもいいことを聞いてくる。

「俺の拠点ホームは十三支部だ」

 素直に答えてみると、連中のひとりが「プッ」と吹き出したのを皮切りに全員が腹を抱えて笑い出した。

「馬鹿だこいつ、マジで馬鹿だ~!」
「ウケる~っ!」
「あのね、俺等は第九支部なわけ!」
「お前ら底辺とは違って日々を明るく暮らすなわけよ!」
「どうせピケルちゃんから店を買ったって話もハッタリだろ」
「帰れ帰れ。痛い目に遭いたくなかったらな!」

 この期に及んで自分たちの立場を理解できていないのか?
 まさか、ここまで愚かな連中とは思わなかった。

「お前たちの意見は聞いていない。払うのか? 払わないのか?」

 最後通牒を突き付ける。
 すると連中はやる気満々の様子で俺を取り囲んだ。

「もう面倒だ」
「やっちまおうぜ」

 武器を構えているということは、どうやらここで俺を殺すつもりらしい。

「そうか。代金を踏み倒すというのだな。それなら、オーナーとして国に認められた権利を執行する。これは冒険者同士のいさかいではないため、以後お前たちは犯罪者として扱われる」
「言ってろよ」

 どうでもよさげな声とともに長剣による斬撃が俺めがけて振りおろされる。
 こちらを殺しに来ているのかと思いきや……足運びの基礎すらなってない、完全に舐めきった攻撃だ。
 避けてくれと頼まれているようにしか感じられない。

 ならば遠慮なく、すれ違いざまに奴の振るった長剣に触れる。

 すると――

「まずひとつ」

 奴の手から長剣が消えた。

「えっ、俺の剣、どこに! この野郎、何しやがった!」
「ふたつ」

 無視して次は別の戦士の斧を。

「みっつ」

 槍を。

「よっつ、いつつ、むっつ」

 盾を。
 篭手こてを。
 肩当てを。

 連中が『太陽炉心』から持ち出した武具を立て続けに回収していく。
 ついでに全員の毛髪も抜き取っておいた。

「なんだ……こいつ、何しやがった!?」
「動きがまったく見えねえ……」
「暗黒魔導士がどうしてこんなに素早いんだよ!」
「ていうか、俺らの装備はどこいったんだ!?」

 混乱する輩ども。
 俺は空間から武具の一部を露出させてタネを明かした。

「お前たちの武具は『太陽炉心』の未清算品。いわば俺の持ち物だから、触れさえすれば次元倉庫インベントリに回収可能だ。もちろん、こんなこともできる」

 パチンと指を鳴らして転送アポートを発動。
 連中のひとりから兜が消えて俺の手元へ。
 そのまま他の武具と一緒に収納した。

「これで今日の分は全部だが。お前たちの装備している他の武器防具もほとんどが『太陽炉心』の商品だ。とはいえ、もう売り物にはできないから……そうだな。有り金から代金分を徴収させてもらうとしよう」
「ふ、ふざけんな!」
「俺らの武器を返しやがれ!」

 当然の権利を主張しただけなのに、素手になった連中のうちふたりが殴りかかってきた。

「……返せだと?」

 すれ違いざまにふたりの首筋に手刀を打ち込む。

「それはこちらのセリフなんだがな」

 気絶したふたりがどさりと倒れた。
 残りの四人が啞然あぜんとする。

「な、なんだこいつ」
「何者なんだ……」
「ああ、自己紹介が遅れたな。俺の名はアーカンソーという」

 どうせ信じないだろうと思いきや、連中は血相を変えて騒ぎ出した。

「“全能賢者”アーカンソーだと?!」
「いや、そんな、まさか!」
「国家英雄がどうしてこんなひどい取り立てを!」
「装備を取り上げられたら冒険者としてやっていけねえ!」

 ふむ?
 イッチーたちのときもそうだったが、力を見せた後だと信じてもらえる傾向にあるようだ。
 今後はそうしていこう。

「どっちみちお前たちは犯罪者だ。冒険者は続けられん」
「それじゃ金なんて払いようが……」
「何を言う。お前たちの体があるじゃないか。幸い奴隷商人にはいいツテがあってな。きっと高く買い取ってもらえるだろう」
「ひいいいい!!」
「売り飛ばすのだけはご勘弁を~!!」

 少しばかり脅しただけのつもりが、残りの四人はほうほうの体で逃げ出した。
 このまま追いかけてもいいのだが……。

「まあいい。装備も戻ったし、このふたりを捕まえただけでもよしとしよう。連中の毛髪もある。もう、どこにものがれられん」

 生命探査ロケートライフで居所を突き止めてから当局に知らせれば、連中の手は後ろに回る。
 俺の言葉を信じてもらえない可能性もあるが、そのあたりはシエリにも協力をあおいで王権から圧力をかけてもらおう。

「さて、帰るか」

 もしかしたらウィスリーたちを待たせてしまっているかもしれない。
 気絶したふたりを窃盗犯として突き出してから『太陽炉心』に戻ろう。
しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

無限初回ログインボーナスを貰い続けて三年 ~辺境伯となり辺境領地生活~

桜井正宗
ファンタジー
 元恋人に騙され、捨てられたケイオス帝国出身の少年・アビスは絶望していた。資産を奪われ、何もかも失ったからだ。  仕方なく、冒険者を志すが道半ばで死にかける。そこで大聖女のローザと出会う。幼少の頃、彼女から『無限初回ログインボーナス』を授かっていた事実が発覚。アビスは、三年間もの間に多くのログインボーナスを受け取っていた。今まで気づかず生活を送っていたのだ。  気づけばSSS級の武具アイテムであふれかえっていた。最強となったアビスは、アイテムの受け取りを拒絶――!?

処理中です...