14 / 29
琥珀の鬼団長3
しおりを挟む「琥珀の鬼よ、我が娘の願い叶えよ」
声高々に告げられた言葉に、ニヤッと不気味に笑う顔を隠す事が出来なかった。
執務室でこの数ヶ月クランツに説教され、事務処理をしていた俺は、たったひと月仕事しなかっただけで、そこまで怒るなんて心が狭いなと他人事のように思っていた。
アーテラ領にひと月半滞在しーーまぁミカドに会うためだが、監視塔の側の結界調査とモンスター退治が主だった仕事だが、面白い事が分かった。
ミカドがアーテラ領の避暑地に訪れてから、結界が薄くなり半月で一部完全に消えた。反対に避暑地から離れたら、光のクリスタルの修繕が始まり元の強力な結界に戻った。
この調査結果は勿論アーテラ領現当主に報告された。本来なら王国にも報告義務があるのだが…アーテラ公爵の令嬢が、関わる問題は慎重に対処するようにと、先代の騎士団長から教わった。
ーーあの美貌の令嬢が関わっていると国王に知れたら、きっと研究という名の元に、城に軟禁されるだろう
美しい彼女を思い出し、また胸が熱くなる。
ーー早く…早く彼女を手に入れたい、俺だけを見て、俺だけのために生きていくんだ…そして…
そんな不穏なことを考えていると、ノックもなしに唐突に執務室の扉が開いた。
折角幸福な妄想を繰り広げていたのに、水を差され不快になる。ギロッと扉を乱暴に開けた人物を睨みつけると、その人物は俺の睨みなど気にした風でもなく、
「…我が娘が、お前に会いたいそうだ」
という不機嫌な声のアーテラ公爵が、仁王立ちしていた。
「…ミカドか」
ちっと舌打ちをしたアーテラ公爵は扉を閉めると、ずかずかと執務室の机に座る俺の前にある書類越しに俺を見下ろす。
「私の娘を呼び捨てにしないでもらいたい」
他の人なら失神してしまう冷めた目で睨まれるが、元から目つきが悪い俺からしたら可愛いものだ。
「ミカドにそう呼ぶように言われた…それに、どう呼ぼうが俺の勝手だ」
ひとまず俺も舐められたら困ると睨み返すと、むっとアーテラ公爵は黙った。
「…で、ミカドが俺に会いたいとは?」
先程言ったアーテラ公爵の言葉が気になり問いかける。
「…クランツ副団長から、娘が騎士団長に質問があるために、面会の許可が取れるか聞かれた…勿論反対したい所だが、娘の願いは叶えたい健気な親心をくんでいだだきたい」
ーーはっ健気な親心とはっ
笑いが込み上げてくるのを我慢し、公爵を見る。
「この城に到着した時までは変化の無かったミカドは、国王陛下を前にした途端に身体を強張らせ真っ青になっていた」
打って変わって真剣な表情になった公爵は、心配する父親の顔をしていた。
「…あの噂は本当だったのか」
まさかと、思い呆然と呟く俺に、頷き続きを促す
「国王陛下は、幼き令嬢に心を奪われて自我を失った」
城下町で酒のつまみにされたくだらない噂話も、ミカドが反応した事により真実味が帯びてくる。
国王陛下ならミカドの微かな変化も見逃さないはずだ。
そんな悪い予感に頷いた公爵は、俺に告げた。
「琥珀の鬼よ、我が娘の願い叶えよ」
悪から愛娘を守り抜くことを。
6
お気に入りに追加
794
あなたにおすすめの小説
稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています
水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。
森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。
公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。
◇画像はGirly Drop様からお借りしました
◆エール送ってくれた方ありがとうございます!
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定
【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った
五色ひわ
恋愛
辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。アメリアは真実を確かめるため、3年ぶりに王都へと旅立った。
※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話
贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる
マチバリ
恋愛
貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。
数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。
書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。

白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。
筋書きどおりに婚約破棄したのですが、想定外の事態に巻き込まれています。
一花カナウ
恋愛
第二王子のヨハネスと婚約が決まったとき、私はこの世界が前世で愛読していた物語の世界であることに気づく。
そして、この婚約がのちに解消されることも思い出していた。
ヨハネスは優しくていい人であるが、私にはもったいない人物。
慕ってはいても恋には至らなかった。
やがて、婚約破棄のシーンが訪れる。
私はヨハネスと別れを告げて、新たな人生を歩みだす
――はずだったのに、ちょっと待って、ここはどこですかっ⁉︎
しかも、ベッドに鎖で繋がれているんですけどっ⁉︎
困惑する私の前に現れたのは、意外な人物で……
えっと、あなたは助けにきたわけじゃなくて、犯人ってことですよね?
※ムーンライトノベルズで公開中の同名の作品に加筆修正(微調整?)したものをこちらで掲載しています。
※pixivにも掲載。
8/29 15時台HOTランキング 5位、恋愛カテゴリー3位ありがとうございます( ´ ▽ ` )ノノΞ❤︎{活力注入♪)
腹黒宰相との白い結婚
黎
恋愛
大嫌いな腹黒宰相ロイドと結婚する羽目になったランメリアは、条件をつきつけた――これは白い結婚であること。代わりに側妻を娶るも愛人を作るも好きにすればいい。そう決めたはずだったのだが、なぜか、周囲が全力で溝を埋めてくる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる