3 / 29
避暑地
しおりを挟む
夏になると、避暑地へ向かうために夜間に出発した父と母と私。馬車は3台使用し父と母が乗る馬車は、普段使っている物だ。私と侍女のマチが使用する馬車には、小窓にカーテンで真っ暗にしたまま移動し、夜になると休憩がてら歩いた。もう1台は、使用人と荷物が載っていた。
アールスライト王国の端にある、アーテラ領は大自然に囲まれ山と名水と名高いアーテラ川が流れていた。山を越えると結界の膜が薄ら張っているのが分かる。この膜を辿るように造られた境界線には、等間隔の監視塔があり、侵入者がいないかを見張っていた。この監視塔は、国王陛下の管轄になるので王国騎士団が指揮している。
今から向かっているアーテラ公爵所有の建物は、祖父が晩年過ごした場所でもあり、私が訪れるのも久しぶりだった。
本宅から馬車で移動する事、5日。
夜に着くように計算された馬車は、スムーズに屋敷のアーチを潜り、玄関前に止まった。
出迎えた使用人達は、一列に並びアーテラ公爵当主家族を歓迎した。
馬車から降りた美しい赤眼の女性に見惚れる使用人に、咳払いをした筆頭執事が荷物を下ろすように告げる。
「…ようこそいらっしゃいました、ミカド様…大きくなられ、爺やは嬉しいです」
白髪混じりの筆頭執事ーームルクが、目尻のシワを深め微笑む。
「…ムルク…久しぶりね…ミチは元気かしら」
「はい、お嬢様の到着を部屋でお待ちしております」
ミチとは、マチの母でありーー私の以前の侍女だ。
「ところで、マチはちゃんとしているのでしょうか」
優しい目が、私の背後からやってきたマチに向かうと、ギロリと鋭く低い声に変わる。
「ひっ…おっ…お父さ…いや、ムルクさん…しばらくお願いします」
久しぶりの親子の対面なのに、冷や汗が止まらないマチにミカドは首を傾げた。
「…ならいいのですが…さっ、お嬢様こちらへ」
納得いかない顔したムルクは、一転優しい顔に戻りミカドを室内へと案内した。
「まぁまぁ、お嬢様…すっかりお美しくなりまして」
以前会った時よりふくよかになったミチは、私の部屋で待っていてくれた。歓迎され抱きしめられると、相変わらずミチのお日様の匂いが私を包み、ホッと息を吐いた。
「ミチ、久しぶりね」
ギュッと抱き返すと、くすくすと笑う。
「マチはどうです?お嬢様に馴れ馴れしくしておりませんか?」
腕を解き、娘のマチのことを聞いてくる。先程のムルクとのやり取りを思い出し苦笑していると、勘違いしたミチは、目を吊り上げた。
「マチッ!」
名前を呼ばれたマチは、背筋を伸ばし「はぃぃぃ!」と条件反射で返事をした。
「…ミチ、マチはとても良くしてくれているわ」
ミチの腕に手を置くと、安心するように告げた。
「…ならいいのですが」
どうも納得いかなかないミチに、やっぱりムルクと同じだわとおかしくなる。
「さっ、今日は長旅でお疲れでしょうから、お湯を準備しております…マチ」
にっこり私に微笑み、お風呂へと誘う。
「はっはい!」
母の冷たい視線に急いで荷物を運び入れるマチを眺めて、私は出された椅子へと座った。
室内はシンプルなベッド、ナイトテーブルと数点の家具、ソファーとテーブル。多分大きな窓なのだろうけど、光を遮断する生地のカーテンで隠れ、外を見る事は出来ない。
床はふかふかの色とりどりの花が散りばめられた絨毯で、足が痛くならない。
ーーこのままひと月、ここで過ごすのね
先程馬車を降りた時に感じた、本宅の屋敷とは違う自然の木々の香りに頬が緩む。
「お嬢様、準備が整いました」
マチの声に顔を上げた私は、立ち上がってお風呂へと向かった。
アールスライト王国の端にある、アーテラ領は大自然に囲まれ山と名水と名高いアーテラ川が流れていた。山を越えると結界の膜が薄ら張っているのが分かる。この膜を辿るように造られた境界線には、等間隔の監視塔があり、侵入者がいないかを見張っていた。この監視塔は、国王陛下の管轄になるので王国騎士団が指揮している。
今から向かっているアーテラ公爵所有の建物は、祖父が晩年過ごした場所でもあり、私が訪れるのも久しぶりだった。
本宅から馬車で移動する事、5日。
夜に着くように計算された馬車は、スムーズに屋敷のアーチを潜り、玄関前に止まった。
出迎えた使用人達は、一列に並びアーテラ公爵当主家族を歓迎した。
馬車から降りた美しい赤眼の女性に見惚れる使用人に、咳払いをした筆頭執事が荷物を下ろすように告げる。
「…ようこそいらっしゃいました、ミカド様…大きくなられ、爺やは嬉しいです」
白髪混じりの筆頭執事ーームルクが、目尻のシワを深め微笑む。
「…ムルク…久しぶりね…ミチは元気かしら」
「はい、お嬢様の到着を部屋でお待ちしております」
ミチとは、マチの母でありーー私の以前の侍女だ。
「ところで、マチはちゃんとしているのでしょうか」
優しい目が、私の背後からやってきたマチに向かうと、ギロリと鋭く低い声に変わる。
「ひっ…おっ…お父さ…いや、ムルクさん…しばらくお願いします」
久しぶりの親子の対面なのに、冷や汗が止まらないマチにミカドは首を傾げた。
「…ならいいのですが…さっ、お嬢様こちらへ」
納得いかない顔したムルクは、一転優しい顔に戻りミカドを室内へと案内した。
「まぁまぁ、お嬢様…すっかりお美しくなりまして」
以前会った時よりふくよかになったミチは、私の部屋で待っていてくれた。歓迎され抱きしめられると、相変わらずミチのお日様の匂いが私を包み、ホッと息を吐いた。
「ミチ、久しぶりね」
ギュッと抱き返すと、くすくすと笑う。
「マチはどうです?お嬢様に馴れ馴れしくしておりませんか?」
腕を解き、娘のマチのことを聞いてくる。先程のムルクとのやり取りを思い出し苦笑していると、勘違いしたミチは、目を吊り上げた。
「マチッ!」
名前を呼ばれたマチは、背筋を伸ばし「はぃぃぃ!」と条件反射で返事をした。
「…ミチ、マチはとても良くしてくれているわ」
ミチの腕に手を置くと、安心するように告げた。
「…ならいいのですが」
どうも納得いかなかないミチに、やっぱりムルクと同じだわとおかしくなる。
「さっ、今日は長旅でお疲れでしょうから、お湯を準備しております…マチ」
にっこり私に微笑み、お風呂へと誘う。
「はっはい!」
母の冷たい視線に急いで荷物を運び入れるマチを眺めて、私は出された椅子へと座った。
室内はシンプルなベッド、ナイトテーブルと数点の家具、ソファーとテーブル。多分大きな窓なのだろうけど、光を遮断する生地のカーテンで隠れ、外を見る事は出来ない。
床はふかふかの色とりどりの花が散りばめられた絨毯で、足が痛くならない。
ーーこのままひと月、ここで過ごすのね
先程馬車を降りた時に感じた、本宅の屋敷とは違う自然の木々の香りに頬が緩む。
「お嬢様、準備が整いました」
マチの声に顔を上げた私は、立ち上がってお風呂へと向かった。
7
お気に入りに追加
786
あなたにおすすめの小説
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
日常的に罠にかかるうさぎが、とうとう逃げられない罠に絡め取られるお話
下菊みこと
恋愛
ヤンデレっていうほど病んでないけど、機を見て主人公を捕獲する彼。
そんな彼に見事に捕まる主人公。
そんなお話です。
ムーンライトノベルズ様でも投稿しています。
婚活に失敗したら第四王子の家庭教師になりました
春浦ディスコ
恋愛
王立学院に勤めていた二十五歳の子爵令嬢のマーサは婚活のために辞職するが、中々相手が見つからない。そんなときに王城から家庭教師の依頼が来て……。見目麗しの第四王子シルヴァンに家庭教師のマーサが陥落されるお話。
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
第二王子の婚約者候補になりましたが、専属護衛騎士が好みのタイプで困ります!
春浦ディスコ
恋愛
王城でのガーデンパーティーに参加した伯爵令嬢のシャルロットは第二王子の婚約者候補に選ばれる。
それが気に食わないもう一人の婚約者候補にビンタされると、騎士が助けてくれて……。
第二王子の婚約者候補になったシャルロットが堅物な専属護衛騎士のアランと両片思いを経たのちに溺愛されるお話。
前作「婚活に失敗したら第四王子の家庭教師になりました」と同じ世界観ですが、単品でお読みいただけます。
【本編完結】美女と魔獣〜筋肉大好き令嬢がマッチョ騎士と婚約? ついでに国も救ってみます〜
松浦どれみ
恋愛
【読んで笑って! 詰め込みまくりのラブコメディ!】
(ああ、なんて素敵なのかしら! まさかリアム様があんなに逞しくなっているだなんて、反則だわ! そりゃ触るわよ。モロ好みなんだから!)『本編より抜粋』
※カクヨムでも公開中ですが、若干お直しして移植しています!
【あらすじ】
架空の国、ジュエリトス王国。
人々は大なり小なり魔力を持つものが多く、魔法が身近な存在だった。
国内の辺境に領地を持つ伯爵家令嬢のオリビアはカフェの経営などで手腕を発揮していた。
そして、貴族の令息令嬢の大規模お見合い会場となっている「貴族学院」入学を二ヶ月後に控えていたある日、彼女の元に公爵家の次男リアムとの婚約話が舞い込む。
数年ぶりに再会したリアムは、王子様系イケメンとして令嬢たちに大人気だった頃とは別人で、オリビア好みの筋肉ムキムキのゴリマッチョになっていた!
仮の婚約者としてスタートしたオリビアとリアム。
さまざまなトラブルを乗り越えて、ふたりは正式な婚約を目指す!
まさかの国にもトラブル発生!? だったらついでに救います!
恋愛偏差値底辺の変態令嬢と初恋拗らせマッチョ騎士のジョブ&ラブストーリー!(コメディありあり)
応援よろしくお願いします😊
2023.8.28
カテゴリー迷子になりファンタジーから恋愛に変更しました。
本作は恋愛をメインとした異世界ファンタジーです✨
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる