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リクエスト 懐妊 独身皇帝と秘書

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今日も一日、愛おしい人の腕の中で目が覚める。

秘書官で働いていた時には感じなかった幸せな目覚めは、私――ナンシー・ベラドス。ダマヤ帝国の秘書官だった私は、ヨーク様にプロポーズをされ、三年前に結婚した。
朝の時間に目が覚めると、夫のヨーク・ベラドスはキリッとした眉、キツイ印象を与える強面の顔も今は和らぎ眠っている。だけど私を腕枕する左腕、私の腰の上に置いた右腕は、離れてしまわないように少し力が入っているみたいだ。
その上、何故か私のお臍辺りに当たる、固くてヤケドしてしまいそうなほど熱い塊も付いている。
――あっ…朝から…なんて
その固い物がなんなのか、知ってしまうと顔が熱くなる。結婚する前はこういう触れ合いなんて、無縁だったのに彼と結ばれてからは、見つめ合えばキスをして、そのまま盛り上がってしまう事もあれば、夜にと我慢をする事もあった。
実は私は以前勤めていたダマヤ帝国の政治の中枢にいる人物の秘書官をしていて――専属だったヨーク・ベラドス皇帝と結婚したのだ。彼の妻、つまり皇后となったので秘書官は退職したのだけど、最近では秘書官不足として彼の秘書官として駆り出されている。
きっと疲れているであろう、目の下のくぼみを左の親指の腹で辿れば、ぴくりとも動かない一向に起きる気配のない彼。それなのにお腹に付いた塊を意識してしまって、身体が勝手に火照ってしまう。
――昨日もしたのにっ
自分から求めてしまうのは、はしたないと、頭の中で警告音が鳴るが、ヨーク様なら仕方ないな、と言いながら受け入れてくれそうだ。彼の身体に近寄り眠る彼の顎に唇を付け、何だか物足りない気がして、少し起き上がり彼の唇へ自分の唇を押しつける。すると突然、私の首の後ろに大きな手が添えられ、いつの間に起きていたのか口を開けた彼の舌が私の口内に入り、深い口づけに変わる。
「んっ、んん」
彼の胸に力の抜けた身体を預けると、ヨーク様の手が私のお尻を揉み始めた。昨日の晩にも愛された身体は、あっという間に快感を呼び覚まし、横に傾けてピッタリと重なっている口から、爽やかな朝に不釣り合いな水音が響く。
口づけをしながら起き上がったヨーク様は、私に覆い被さり私の左足を持ち上げると、自分の腰に掛けるように置いた。すると開いた足の間に身体を入れたヨーク様は、私の蜜口に彼の昂りをくっつけた。ミチィと広がる蜜口は、昨日の晩も愛し合ったために柔らかく彼の昂りを包んでいく。
「あっ…っ、ん…あっ」
快感のために背がのけ反り腰がベッドへと沈むと、彼の腰は私の腰を追いかけて体重がかけられた。
「は…っ…ぐっ」
ぎゅうぎゅうと蜜壺の中に入っていく昂りを締め付けてしまうと、彼の腰に足を巻き付けた。繋がったままお互いの唇を貪り、夢中で舌を絡めている。
キスをするだけでも幸せな時間だが、やはりこうして繋がっている時間が1番好きかもしれない。
固くなった脈打つ彼の昂りを蜜壺の中で感じてると、私でこう・・なっていると実感するし、熱い昂りが蜜壺の中の温度を上げて全身が火照る。
ズンッとヨーク様はいきなり腰を引いて突き上げると、口づけをやめたくない私は、彼の首の後ろへと腕を回して抱きついた。上も下もくっついたまま、ぱんぱんと肌がぶつかり、ギシッギシッとベッドが軋み、結合部から水音が聞こえる。
口を塞がれているから声を出せないけど、突き上げられる速度が早くなると、全身に巡る快感の波が大きくなっていた。
彼の腰が突くたびに、私の蜜壺の中を色々な角度で入る。
「あっ、あ、あ、っ…んっふっ」
与えられる快感に耐えられず、彼の口から顔を背けてしまったが、すぐにまた塞がれる。
「~~~~~っ!!」
舌を強く吸われたと同時に、ズンッと大きく突き上げられると、頭が真っ白になり目の前がチカチカと光る。全身が強張り腰に巻いた足に力が入ると、ぐぬっ、と唸るヨーク様が私の蜜壺の中へと熱い証を注いだ。



***************


『…アスラ地方へと視察へ向かうから、3週間は戻らない』
そう言ってヨーク様がいなくなって、5日が過ぎた。
――ヨーク様が居ない夜は…まだ慣れない
結婚する前は長い間一人で寝ていたのに、たった5日…離れているだけで、寂しくて嫌になってしまう。

「――ですので、この後は」
城の庭園でお茶を飲んでいる時に聞こえた声に、考え事をしていてぼぅっとしていたと気がついた。
美しく手入れされた庭園は、ヨーク様が私のために整備してくれている。私の好きな花も並んで配置などの要望も入ったこの美しい庭園は、暇さえあればこうして庭園でお茶をしている。
「皇妃様、こちらは新作の洋菓子のクッキーです」
そう言って私の前のテーブルのお皿に新作のクッキーを乗せるのら、私付きの侍女のヘレンだ。
私には何名が侍女がいるが、彼女は庭園でお茶をする時に私の世話をする人で、結婚と同時に私専属となっている。
「…ふふ、よく眠ってるわ」
私の横に居るのは、去年生まれたばかりの娘のヨナ。庭園のお茶の時専用のベビーベッドを置いて、大の字ですやすや眠る娘。寝返りもうつし、ハイハイも始まって好奇心旺盛な子は、使用人たちの間で可愛いと、人気だ。
ヨーク様の彼の名の一文字と私の名の一文字を取った愛娘。私の髪の色の茶色を受け継ぎ、今は目を閉じているが、ヨーク様の黒い瞳とぱっちりと大きな目は零れそうなほどだ。まだ1歳にも満たない幼い娘に、ヨーク様はいつもは強面を和らげ、デレデレだ。もう既に「嫁にはやらんっ!!」と重役の集まる会議で何度か発言しているから、きっとヨナの結婚相手になる人は大変だろう。
「…皇妃様」
そこでまたヘレンとは違う低い男性の声で呼ばれ、私の斜め後ろにいるを思い出した。
「ごめんなさい、アクア」
背を正し、優雅に見えるように座り直すと、咳払いした彼が口を開いた。
「ゴホン、とんでもございません、皇妃様…では先ほどの話の続きですが…本日から3日間皇妃様のお部屋で検査をする予定ですので、その後は皇帝陛下に検査結果を報告し、今後の指示をいただきます、その間はヨナ様にもお会いする事は出来ますが、抱っこはご遠慮していただきます」
「…本当に3日間もかかるの?」
「いえ、実際には1日もあれば大丈夫なのですが、ヨナ様の時の事もありますし、大事を取って…という事です」
「…そう」
なんだか大事になったと、気が沈む。

ことの発端は、ヨーク様が地方へ視察に行った次の日。酷い倦怠感とまるで船の中にいるような眩暈と吐き気が、突然やってきた。すぐさま侍女の手により手配された皇妃専属の女医が、やってきた。しばらくの診察の後に下されたのは、妊娠の兆候。そのまま女医から不在の皇帝に代わり、秘書室へ伝達された。このアクアは、私が秘書室で働いていた時に入った新人で、私の行動を制限するように告げたのも理由があった。前回ヨナを妊娠が発覚する前、ヨーク様の秘書官として働いていた時に、私は妊娠したために起きた悪阻とは知らず、気つけ薬――体調を整える薬――を飲み、ヨーク様の側で働いていた。1週間ほど飲んでいた気つけ薬を口にする場面にヨーク様に見つかり、すぐさま女医を手配されたのだ。
『このまま気つけ薬を飲み続けていたら、赤ちゃんは死んでいました』
と女医に言われ、青ざめたヨーク様は私の絶対安静を指示し、即時皇帝付きの秘書官を解任したのだった。
その後安定期に入ってヨーク様から、どんな些細な違和感でも女医を呼び寄せるようにと、強く約束させられた。
出産をしてしばらくすると、侍女たちにも私の行動を注視するようにと伝えていたと知り、恥ずかしくて少しだけ嬉しかった。
私は秘書官としてまだ復帰していなかったが、ヨーク様と一緒に公務には出席していたので秘書官のメンバーも知っていたし、ヨーク様と"そろそろ秘書官として俺のそばに…"と言われていた矢先だったので、妊娠して嬉しいやらヨーク様のそばにいられないのが寂しいやら、この短期間で色々な感情が心の中で回る。
そしてヨーク様の不在の今、アクアは今はヨーク様との連絡係として私に付いている皇帝陛下専属の秘書官だ。
本来なら私に秘書官を置く理由などないのに、ヨーク様が『アクアを置かないなら視察に行かない』と、秘書長を困らせたためだ。
――視察に行かないなんてあり得ないのに…
思わずクスッとしてしまうのは、アクアは身持ちのしっかりした既婚者という事、他の要人との繋がりも深くない事を調べ上げた末のヨーク様の決断って事だ。
最近気がついたのは、ヨーク様の過保護ぶりは加速している気がしてならない。私を愛してくれているから故だと分かっていても、それじゃ公務が疎かになってしまう。そうしたら本末転倒で、国の平和が崩れてしまい争いが絶えない。
「アクア…やっぱり、この3日間は誰とも会わないわ、ヨーク様もまだ帰ってくる気配もないし」
「かしこまりました」
そう言って、最終確認をしてきます、と言ったアクアは、私達親子の前から居なくなってしまった。



***************


「…ナンシーは?」
「はい、ただ今お休みしております」
予定より早く帰ったダマヤ帝国の皇帝――ヨーク・ベラドスは、皇帝専属の秘書官が手配した皇妃の懐妊の手紙を受け取り、すぐに予定されていた日程を早め城へと戻った。
城に着くと彼女のいる主寝室へと向かった。その後に続くアクアは、不在の間起きた事の報告を皇帝へ伝えた。
「精密検査の結果、やはりご懐妊と診断されました」
「…そうか、変わりないか?」
「はい、相変わらず少しの匂いを嗅ぐだけで吐き気に見舞われます…なので食事は料理長と相談した結果――」
アクアの報告に耳を傾けながら、歩く速度を緩めず10日間も離れていた事を悔やんだ。
――今回はナンシーに秘書官を置いて正解だった
俺の中で今回の視察は、外遊の意味が強く挨拶回りとの位置づけだったが、終戦してから地方を巡回するのを後回しにしていたら結婚が決まり、新婚生活を楽しんでいるとヨナの妊娠が発覚して、初めての子に神経を尖らせているとナンシーの陣痛がやってきて出産した。あーでもない、こーでもないと子育てを一緒にしてると、また彼女との甘い結婚生活が始まった頃を見計らって、秘書長が持ってきたのは地方への視察。
「しかし、そろそろ視察をして国の現状を」
と、俺じゃなくナンシーに助けを求めた秘書長は、ナンシーの元上司で彼女の父親とも仲良くしているので、ナンシーは絶大なる信頼を寄せている。
そのため彼女から『ヨナとお留守番しています』と、送り出された訳だが…

「…ん…ヨーク…様…?」
部屋に入ると、ナンシーは眠っていた。しばらく寝顔を見ていたが、俺の気配に気がついた彼女の目が覚める。
「起こしたか」
と彼女の顔に掛かる髪を退けて彼女の耳に掛けた。
「…すいません…私」
「いい、そのままで」
彼女のお腹あたりの位置のベッドの上に座ると、ギシッと軋む。布団から手を出した彼女が、お腹の辺りに手を当てたので、俺も彼女の手の上に自分の手のひらを当てた。
「…赤ちゃんが」
「ああ、聞いた」
嬉しそうにそう告げた彼女が愛おしくて、上体を屈めて彼女の額に口づけを落とした。
「ヨーク様…心配しすぎですよ…?」
と上目遣いでそう言う彼女は、結婚する前なら知らなかった無防備な姿だった。
「心配しすぎの方がよい」
俺に体調不良を気づかせまいと薬を飲んでいたしな、とギロッと睨むと、彼女は心当たりがあるのか視線を彷徨わせる。
「どっちてもよい、ナンシーと子供が元気なら」
子供は嬉しい…だが、ナンシーも大事だと、告げると、彼女は、小さい声で、はい、と呟いたのだった。



ダマヤ帝国全土に知らされた、ヨーク・ベラドス皇帝の皇妃ナンシーの懐妊のニュースは瞬く間に広がり、市民が活気に溢れた。その中でも1番盛り上がったのは、ナンシー皇妃の実家のヤン侯爵家が統治する街だった。そしてその中の中心人物であるナンシーの家族が、実家でナンシーを迎い入れたいと強く申し出て、皇帝とナンシーの父である騎士団長と決闘をするのは、もう少し先の話である。
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