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後編

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ありえないと、私、イリト王国の第一王女のレティシア・モニク・オルガ・モルコは怒っていた。
銀色の髪は毎日丁寧に手入れされ、自分で言うのもなんだけど、肌ももちもちで柔らかくて弾力がある。身体は引き締まっているし、胸はしっかり出てるし腰は細くてお尻も理想的な大きさのはずだ。老若男女誰もが羨望の眼差しを向けるのに、ただ一人…私の護衛だった男はいつもと変わらない、何を考えているのか分からない表情をしていた。
久しぶりに再会した時はもっと酷かったけど、最近では見た目に気をつけている…本当に最低限って感じだ。
――護衛と同じ服装だけど…
大きな身体に見合う逞しい胸板と腕と脚。護衛としてやってきた当初は身長の低かった私を持ち上げてくれたが、今はそんな事はしない…むしろ触れないようにしてるみたいで、少しガエルとの距離を感じている。
「王女様、どうかなされましたか」
「ドーラ…ありえないわっ!あの堅物男っ私の事空気か何だとだと思ってるわっ!」
王女の私室として与えられた部屋で、大きな壁に置かれた鏡の前で椅子に座って夜の眠る準備をする。テーブルの上に並べられた肌に付けると良いとされるクリームを塗られながらぷりぷりと怒る私に、ドーラはまたか、と苦笑する。
「…きっと、王女様があまりにも美しいので団長は変な噂が立たないように気をつけているんですわ」
「…そうかしら」
「ええ、そうですわ…でないと、こんなに美しい王女様に恋しないはずがありませんもの」
ムカムカしていた気持ちがドーラの言葉でなくなっていく。
――なんだ、噂にならないようにしていたのねっ
確かに第一王女という立場で、成人も迎えてるし婚約者を決める時期に差し掛かっている。幸いにも、イリト王国は発展していて、私があえて他国へ嫁ぐ理由はない。それに、兄や弟達もいるから、私が王位を継ぐわけでもない。
王家主催の舞踏会や公爵家の主催のイベントに参加するたびに、婚約者候補を聞かれるが決まっていつも『まだ決まっておりませんわ』と言っている。
――出来るなら…ううん、絶対にガエルがいい
鏡を見ると、鏡の中に髪をとかされている美女がそこにいた。その顔は少しだけ悲しそうだ。
「王女様、この国一番の憧れの華ですから自信を持ってください」
「うん…ありがと」
なんとか声を出すが、やはり発展しない関係にヤキモキしてしまう。
ーー他の貴族だったら、すぐに息子を紹介され、好意をはっきり感じる事が出来るのに…

12歳の時に私に付いた護衛。今までは女という事もあり城の外へ出ない生活だったが、公務もこなさなくてはいけなくなった。城の中にはいつもある程度訓練された付き人がいたが、外へと出るとなるとそうは言ってられない。それからお父様にお願いして、城の中でもそばに居てもらった。
どんな経緯で私の護衛が、ガエルになったのかは知らない。初めて会った時は、とても顔が怖い人って思った。けど、王族としてのプライドが感情を表に出せなかった。だけど12歳で幼かった私は、少々のいたずらや嫌な事や人をはっきりと口にしては、無表情に見えたガエルの困ったように戸惑う変化を見るのが楽しくて、いつの間にか嘘偽りもなく素直に生きるのが当たり前になっていた。
ーー流石に14歳でイタズラはやめたけど…
彼への気持ちをはっきりと認識したのは、護衛の任が解かれると知った時だった。永遠に私のそばにいると思っていたのに、どんなに行かないでとお願いをしても結局彼は私から去ったのだ。
お父様は私の気持ちが一時の迷いだと仰っていたが、上辺だけの化かし合いの会話で他家の子息と交流しても私の気持ちは変わらなかった。



「…好きって言うつもりだったのよ」
ぽつんと私しか居なくなった部屋で、たまらず声が出てしまった。
成人式には来てくれるっ、そうしたら告白するんだって思っていたのに、やって来たのは副団長殿だった。ガエルの名前で届いたお花とお祝いの言葉が綴っているカードを受け取ったが、カードに書かれていた文字が彼の字ではなかったから誰かに頼んだのだろう。捨てる気など毛頭なく、ちゃんとしまっているけど、その日だけはこっそり夜に泣いたのは誰も知らない。
ーーなんで来るって信じて疑わなかったのだろ…あんなにわがまま三昧してたもの、嫌になって当然だわ
だけど私の前にいるガエルの無表情が気に食わなくて、頭で考えるより先に口が動いてしまう。
ーー本当嫌になる
『王女様』
どこからともなく声が聞こえて私は、公の場で出している表情にスッと戻した。
「もう下がって、寝るわ」
『かしこまりました』
本当は護衛なんてクビにしていない。護衛はちゃんと鍛錬された武術の達人だから、ガエルが同行する時以外は私についている。ガエルは騎士団長だからわざわざ護衛をつける必要はないし、その上気配には敏感らしく護衛の気配を感じたら来てくれなくなってしまう。それだけは、絶対に避けたい事だ。
――私の事そういう・・・・対象にしていないのよね、きっと
一番にイライラするのは気を引きたくて子供みたいにわがままを言った自分の事だけど、なんでも寛容に受け入れたガエルにも責任があると思う。
「いっそのこと…」


この時、王女はある決意をしたが、きっと周りが聞いたら反対する内容であったが、自分の意見を周りに反対されたからと言って曲げられるなら、こんなにもガエルを困らせはしなかっただろう。





***************




「今度開かれる舞踏会でガエルにエスコートして欲しいの」
いつものお出かけの帰りに馬車の中でガエルにそうお願いすると、彼は珍しく眉を顰めた。
「…私が…ですか…?しかし、私が王女様をエスコートしたら勘違いされるのではないでしょうか」
――むしろ勘違いして欲しいけど…
私の本当の想いとは反対に彼が難色を示すのはある程度予想は出来たけど、実際にその通りにされると悲しい。だけどそんな感情を出さずに元から考えていた言い訳を告げた。
「そんな事はないわ、だって成人したといっても公務を続けているし…それこそ他の誰かにエスコートを頼んだら争いの元になるわ、その点ガエルと一緒だと護衛していた時を覚えてる貴族もいるわけだから」
「…そう…ですね、最近まで王女様を護衛をしてましたから、見知った貴族もいるでしょう」
ガエルにもっともらしい理由を告げると、ほんの4年前まで成人前の貴族の集まりやお茶会などに参加していた時に同行したのを思い出したらしい。舞踏会に参加するのを了承をもらったら、その話は終わった。
――ふふっ、楽しみだわっ舞踏会・・・じゃなくて、舞踏会への参加・・・・・・・





***************



舞踏会当日は、レティシアにとって特に問題もなく始まって終わった…といっても、王女様の体調が優れないため早めに退場したから終わってはいない。銀色の髪が緩く結ばれ、耳元と首飾り、そして手首に付けられた装飾物は王族に相応しく豪華で美しい。胸元が開いたドレスは、彼女の白い肌を引き出す瞳の色と同じ灰色がかった青のベビーブルーのAラインのドレス。
顔だけだしてしばらくすると、王女が帰るとの報告を受けた主催者が王女の元へ行くと、ただ王女の体調が悪くなったとの事で部屋を取ると言われたが、王女を安全な場所で護衛できないと強面の騎士団長に強く言われ、なくなく帰ってもらう事になった。
ソファーに座る王女は具合の悪そうに扇子で顔を半分隠して、ぐったりとソファーの背もたれに身体を預けていた。大きな身体の騎士団長の後ろから、誰も見ていないのをいい事に扇子の下は口元が緩んでいたけども。



「ガエル、私が来るまで待っていなさい」
王城の王女様の私の部屋に入るまでガエルがついてくると、このままこの部屋で待つように指示をして、私は侍女と共にお風呂へと入った。外出した私がいきなり帰ってきてお風呂に入ると言っても、すでに準備が整っているため、ガエルをそんなに待たす事はないと思うが、はやる気持ちを抑えるのが難しかった。
――帰ってしまったら、どうしましょう
そんな事はありえないと思うが、彼は私が外出する時だけに付く護衛だから帰ってしまっても不思議ではない。
「レティシア様、本日も大変お美しいですわ」
「ありがと、ドーラももう休んで、あとはガエルがいるから」
「かしこまりました、おやすみなさいませ」
幼き頃から私のそばにいた知った仲だと、王女の部屋に護衛以外の男がいるなんてあり得ないのに、ガエルがいる事をみんなすんなり受け止めている。
――それぐらい、私が彼に恋をしているって気づかれてないのね
ガエルからはわがまま三昧と言われているが、わがままをいうのはいつもガエルに対してだけだ。他の人にはちゃんと王女という立場をわきまえて過ごしている。

部屋に戻ると、ガエルは窓の外を見ていた。ソファーに座る事も出来たのに、怪しい者がいないかチェックするのは彼らしい。
「レティシア王女、では私はそろそろ…っ」
私が部屋に入ったのに気がついたガエルは、窓の外から私の方へ視線を戻しながらそう言うと、びっくりして目を見開いて固まっていた。それもそのはずだ、私が着ているのは薄手のナイトガウンとワンピースタイプの夜着で、お化粧もしていない素の自分なのだ。ガエルの前ではこうした無防備な姿を見せた事はない。いつもしっかりメイクもしていたし、服装も気をつけていたのだ。そんな私が彼の前まで歩くと、ガエルが金縛りから解けたように窓際に一歩下がった。
「あっ、王女さまっ…そちらの格好はっ」
「貴方が悪いのよ、私の気持ちを弄ぶから」
「はっ…?どういう?」
彼の頬に手を伸ばして添えると、窓からの月明かりで彼の顔がよく見えないけど、手のひらに感じる温度は熱い。ザラザラとした肌、自分の肌ともドーラの肌とも違う感触。彼の目の下を親指の腹でなぞると、突然手を掴まれた。
「…痛いわ」
「…お戯れは…これ以上いけません」
ぐるっと低く唸る声は聞いたことのない野獣のような声、掴まれた腕は痛くはないけど、ガエルにこんなに強く掴まれたのは初めてだ。
「屈みなさい、ガエル」
私が命令すると彼は条件反射で屈み、私は彼の首のうしろへと腕を回して抱きついた。成人前に無邪気に抱きついていたガエルの身体は変わらずに固い。固いコルセットで締め付けていた胸元や、スカートの裾が広いドレスも身につけていない今、ガエルの身体と私の身体を阻むものは薄手の夜着のみだ。
「…連れて行って」
ベッドに、と彼の耳に口を寄せて囁くと、彼の身体が強張った。足の後ろに手を回されて横抱きに持ち上げられ、ガエルが無言で私をベッドへと連れて行く。
そっとベッドの上に下ろされると、彼の首の後ろへ回した手に力を込めた。
「…レティシア王女」
「レティと、ガエル」
私が誘っているのに、拒むようにガエルはベッドに両手を置いて踏ん張る。彼の顔に自分の顔を寄せて、カサついた頬に自分の頬を押し付けて名前を呼ぶように言うと、
「いい加減にしてくださいっ!揶揄うのも大概にしないとっ本当に怒りますよっ!」
今まで見たことのないガエルの鋭い眼差しと、怒った低い声も素敵と場違いだと思っていてもうっとりする。
「怒るの?なら早く怒って」
そう言って彼の口元に唇を寄せてくっつけて離すと、すぐに厚い唇が私の口を追いかけて私の口を塞いだ。息もままならない口づけは乱暴で性急で熱い。彼の首の後ろへ回した腕の力を緩め、ちくちくとする短髪の髪に手のひらをつけた。顔の角度を何度も変えては、舌を強く吸われて甘噛みされ、彼の分厚い舌が私の口内を隈なく探り、その時にガエルの唾液が私の口内へ移りいっぱいに満たされる。ごくんと嚥下する時に彼の舌に吸い付いて、それをまたガエルが怒ったように私の舌に強く吸い付く。
まるで俺の舌を吸うなんて悪いヤツだ、と言っているかのように。
「っ、ガエッ…ル…ッ、苦しっ」
「貴方が悪いんですよ、レティ、を挑発なんてするから」
荒い息を整えながら、お互いの鼻先が重なりお互いの鼻の横に当たる。幼い頃に全力疾走した時みたいに、鼻から息が出来なくて口を開いて呼吸をする。彼も呼吸が荒く彼が喋るたび、彼の吐息が私の口に入り込み、まだ口づけをしているみたいな甘美な気持ちになる。
――素の彼は、いつも私の前で使っていた"私"じゃなくて、俺なのね
胸がきゅんとしてガエルの両頬に両手を添えると、私の座っていた右側のベッドが凹み、私のバランスが崩れると背中にガエルの左手が回されて支えられた。
「もし、結婚をする相手がいなくて、心を通わせている相手もいないなら抱いてガエル」
「レティシア王女」
「レティと呼んでと言ったじゃない」
拗ねて口を尖らせると、彼は黙ってしまう。
私の護衛から離れた時からすでに、ガエルの身辺は調査されている。毎日騎士団本部か訓練所、それか討伐遠征以外は真っ直ぐ騎士団の寮へと帰っている。私の護衛もまたするようになっても、変わらない生活をしているから他の女の影はない。しかしだからと言って、好きな人までは調べられなかった。
「…私に想い人など」
に戻ってるわ、さっきのように言って、俺と」
想い人がいないと知ってほっとする反面、私の事は好きじゃないのね、と彼が私を恋愛対象として見ていないのを痛感する。なんだかガエルが冷静になり始めている気がして、もう一度彼の首の後ろへと腕を回して彼の口元に自分の唇を押し当てた。
「レティ、レティシア王女、これは許される事ではないです、貴方様はこの国の王女であり」
「許すも許さないもないわ、私がいいと言ったら全ていいのよ、私が承諾したのだから問題ないわ」
「ですが…っ」
王女である私がいいと言っているのに、今だにここから逃げ出そうとしているのか部屋の扉をチラッと見たガエルに、だんだん腹が立ってくる。
「っええいっ!それでもこの国の騎士団長なのかしらっ!全くっ…もうっ!」
「えっ、あ」
彼の襟元を掴み、勢いよく引くとガエルは私の横で仰向けになってベッドの上で倒れ、私はガエルのお腹の上を跨いだ。
「おっ、王女っ」
レティ・・・よ、このヘタレ!次は返事をしないわっ」
ビシッと彼の顔の前に人差し指を出すと、彼は石になったみたいに動かない。勢いよく彼の上に座ったから、髪が揺れて顔の横から出てきた。その髪を耳に掛けた後、薄手のナイトダウンを脱ぎ捨てた。
「レッ、レティ」
焦った彼が動こうと身体を揺らすが、彼のお腹の上で私は一度だけ腰を揺らした。すると、彼の動きがぴたりと止まり、私をじっと凝視する。それはもう、私を射抜いてしまうほどの、強烈な眼差しで私を見上げる。
「やっと、私の本気が分かったかしら」
細い肩紐の二つの柔らかな膨らみと谷間が見える胸元が開いた真っ白な夜着と白い丈の短いパンツから私の日に焼けていない白い生足を彼の前に晒している。私がふぅ、と息を吐きながら、乱れた髪をいじっていると、お尻に固い感触を感じた。何かしら?と思って背後を振り返ると、ガエルの手によってガッチリと腰を掴まれた。
「…俺を挑発するな、レティ・・・、今ならまだ引き返せる、そうすれば今までと同じ護衛として貴方をお守りします」
最後の忠告だ、と唸るガエルは、今なら引き返せるといまだに言う。
「…もし、嫌だと言ったら?」
「もう貴方を離さない、これからレティに近づく男を殺すし、なんなら離れようとしても地の果てまで追いかけ一生俺のモノにする」
彼なりの脅しなのだろうが、生憎私は彼の事が大好きなのだ。全然脅しにもならない。
「…ならそうして、私を他の男にやろうとしないで、私はガエルあなたのモノになりたいの」
ガエルの顔に唇を寄せようと身を屈めると、私の首の後ろがガエルの大きな右手で掴まれた。その後すぐに彼の口によって私の口が塞がれ、さっきしていた濃厚な口づけが始まった。さっきと違うところは、私はもうコツを掴んで全然苦しくないところ。サラッと髪が揺れてガエルの身体に掛かるのも気にせず、お互いの口を貪る。私の腰を掴んでいたガエルの左手が私を抱きしめながら、体勢を変えさせられ今度は私がベッドへと仰向けになった。それでもまだお互いの口を離すつもりはなく、お互いの舌を求めて絡めている。私が彼の両頬に手を添えると、彼は私の脚の間に膝をついた。大きな手が私の身体を弄り、夜着以外身につけていない胸を揉む。
「はっ、ぁっ」
愛撫の経験がなく、突然の事で唇を離すと口から零れる聞いたことのない自分の甘い声。
「レティ」
低い声が、勝手に唇を離すなと、怒っているみたいだ。顔を背けた私の露わになった首筋に顔を埋めて、舌を這わし甘噛みをして、ちゅぅっと強く吸われた。チクリとした痛みを一瞬感じるが、また舌を這わされてなかった事にされる。固くちくちくする短髪は私の頬に当たり、胸を揉まれ首筋を舐められて噛まれて吸われているだけなのに、込み上げてくる痺れるこの電流のようなものはなんなのだろう。
手に力が入らなくなっていき、彼の首の後ろからパタリと顔の横へ置けば、ガエルは私の頬を舐める。
「…もう、嫌と泣き喚いても離しませんからね」
敬語なのは、まだ彼の理性が残っているからなのかもしれない。こっちはもうわけの分からない気持ちが流れているのに、余裕のガエルが憎らしい。
「私を離さないでと言ったはずよ、ガエル、貴方はもう私のものになるんだから」
私だけが彼を求めて、私だけが彼を好きなんだ。
――全てが上手くいかない
私の身体を差し出すといってるのに、ガエルの目には魅力的に映らないのか。どうすれば彼を独り占め出来るのだろうか、もっと過激な服装をすればいいのか、もっとわがままを言えば私のことしか考えられなくなるのか。ぐるぐると同じ思考パターンしか出てこない。
私を覆う巨大な身体は、私をすっぽりと隠す。
「…抱いてガエル、今抱かなかったら一生後悔させるわ」
「一生…?それは」
「たとえ何にもなくても、お父様にはガエルと結婚すると言うし、他の令嬢との縁談が上がるたびに私の王女の権力で必ず破談にするわ」
部屋の窓から月の明かりが僅かに入るが、ガエルの表情までは見えない。
――ねぇ、何を考えているの?
「…俺なんかにそこまでする必要なんかない」
彼の声は落ち着いているのに、表情が見れないから本心が読み取れない。
「するわ、だって私の運命の王子様だもの、振り向かせたいのっ永遠に私だけを見てほしいの」
「王子様…それは…レティ」
「たとえ私の事愛してなくてもいいの、今はねっでも、いつかはっ…っんぅ」
返事を聞くのは怖い、だってこれで分かってしまうから、ガエルに好かれていないって事を。それなのにガエルは私の口を塞ぎ、私の叫びを封じ込める。
「俺が何故、成人となった貴方のいう事を聞くと思いますか」
「っ、はっぁ…ガエルッ」
「王女だからって騎士団を纏める俺にっ、本来なら貴方は命令だって出来やしないんだよっ貴方にっ…くそっ、レティッ」
ベッドが揺れ、ガエルが私を跨ぎ直し起き上がりきっちり着ていた服に手をつけて勢いよく脱ぐと、ボタンが幾つか取れて弾け飛び、彼が裸になっていく。
鍛え抜かれた胸板、お腹が割れていて固そうだ。ズボンの上は盛り上がり、ズボンを押し上げている。
「ん、ガエル」
「後悔するのは、レティ、貴方だよ」
上半身裸の彼はまた私に覆い被さると、私の耳元で囁いた。両手を上げて彼の胸板に手を置くと、ガエルは体温の高い熱い身体だと初めて知る。私の首筋にまた顔を埋めた彼は、私の身体に愛撫を再開させた。
「貴方を今から俺のモノにする、永遠に」
そう言って吐息までも熱いと、知った。


「あっ、あっ」
まるで魔術師のようにあっという間に服を脱がされ裸になると、恥ずかしいと思う暇もなく愛撫された。首筋からだんだんと下に行くにつれ、ちくりとした痛みが増えていく。つんと乳房の中心にある薄ピンク色の粒が天井を向き、ガエルは愛おしそうに口に含み舌で転がした。口にしない方の乳房には彼の手で入念に揉まれて、粒を摘まれてこねられる。最初のほうは彼の首や胸に手を置いていたが、手を上げっぱなしにするのにも疲れてしまったのでベッドシーツを握って耐えていた。何をって――
「レティ、可愛い声を聞かせてくれ」
私の乳房の粒を口に含みながら、ガエルは意地悪く喋る。その息と歯が乳房に当たり、身体に流れる電気が強くなる。
「あっ、ガエルッ…んぁっ」
名残惜しく私の乳房から顔を離し、くびれやおへそへと順に口先と手の愛撫へと移った。髪の色と同じ銀色の下生えを舌で舐められ、彼の頭が私の視界から消えた。
「はっぁっ、んんっ!」
ピリッと頭が痺れて、頭が真っ白になり一瞬だけ息も止まる。
「っ、あぁっ」
それなのに、ガエルは下生えの奥にある蜜口に舌を這わせた後、私の下生えに鼻を押し付けてガエルの唇を私の蜜口にくっつけた。蜜口から溢れていく蜜にじゅるっと吸い付き、蜜壺の中へ舌を侵入させた。
「は、ん、ぁっ」
ぱたぱたと足を動かして逃げたいのに、たったひとつの彼の左手によりあっさりと掴まり身動きが取れない。彼の唇が蜜口の縁にハマり、彼の舌が誰も触れたことのない領域へと入る。
さっきからずっと波が身体の中にあるみたいだ、快感はこんなにも苦しくて恥ずかしくて気持ちいい。
「ガエルッ、ガエ…ッ…ルッ」
もう彼の名前しか単語として口から出ない、ずっと自分の声じゃない気がする甘い女の人の声。
「あぁ、ここにいる」
下生えから顔を上げた彼は、私の顔の横に肘をついて私の口を塞いだ。今までのキスとは違い、私の蜜口に付いていた口で味の違う口づけをされた。そんな事お構いなしに、数分ぶりのキスが嬉しくてガエルの舌に吸い付いた。ベッドが揺れて足を開かせられると、熱い棒が下生えに当たる。
「悪い、もう限界だ」
「んっぅ」
ミチミチと熱い塊が私の蜜口を広げていき、下半身が圧迫されている感覚となる。
「レティシア、レティ、ぁっ…ぐっ、っ」
「あっぁあっ!」
彼の苦しそうな声と眉を寄せた顔が色っぽくて、ドキドキする。きゅんと下半身が意図せず締まり、彼の昂りを締め付けてしまった。すると、熱い液体が私の蜜口から蜜口に近い蜜壺に注がれ、あまりの熱さに私も達した。
「くッ、…はっ」
「っ…っ…っ!!」
はぁっはぁっ、と荒い息を吐きながら、私は全身の力が抜けていくと、彼の昂りは固さを取り戻していて一気に貫かれた。
チカチカと目の前が光り、頭がまた真っ白になる。
「はっ、俺が最初に注いだコレ・・のおかげで、ひとつになれたな」
コレと言いながら彼は腰を一度揺らすと、私の下半身から快感が溢れ出る。
「っ、ん、あ」
反論する前に彼の抽送が始まり、今まで聞いた事のないベッドの軋みが聞こえている気がする。起き上がったガエルは私の腰を上げて掴んで固定すると、想いの丈をぶつけて自分の腰を揺らし、私の蜜壺を入ったり抜けそうになるギリギリまで引いては思いっきり蜜壺の中へ戻る。ぱんぱんと肌がぶつかり、繋がっている箇所から粘音が聞こえる。体格の違う彼から揺らされた身体は、抵抗する事なくその通りに動かされて、全身がおもちゃになったみたいだ。胸が前後にぷるんぷるんと揺れ、広げられた足の間には彼の身体がある。
「ガエルッ、ぁっ、ん、ん、んっ」
「レティ、はっ、ぐっ、っ」
私の腰から私の顔の横に両肘をつくと、私はベッドのシーツを握っていた手を解き、ガエルの首の後ろへと回して、両足を彼の腰に回した。ガエルの身体の重さで下半身をぺたりとベッドへと押さえつけられたけど、器用に彼は腰を動かすのをやめない。彼のもみあげ、頬に唇をつけると、すぐに口を塞がれた。二人分の荒い息と微かな粘音、ベッドの軋みしかしない部屋で、結ばれた二人は絶頂へと向かう。
ギシッギシッ、ギシギシ――
だんだんと早くなっていったベッドの軋みが無くなると、レティシア王女の部屋はシンと静まり返った。

「熱いわ」
「ああ」
何が熱くて、何をわかっているのか、囁く声は小さく、くすくすと笑う声は次第に甘い吐息へと変化していった。今度は二人の声がまた漏れてしまうのかと思われたが、二人しかいない部屋なのにお互いの声を誰にも聞かせたくないように嫉妬して、お互いの口は重なったまま何度も何度も熱い時間はやってきたのだ。


それこそ、日が昇ってもそれは続いた。





***************




「しっ信じられませんっ、この朴念仁!そんな巨体な身体のくせにっレティシア王女様に無体を働かせるなんてっ!貴方は本当に騎士団長なんですか?忍耐力は国一番と言われているくせにっ!その何にもやましい事は考えてませんみたいな強面のくせにっ」
あれからドーラがやって来る朝の前に、ざっと綺麗にはしたが、やはり優秀な侍女の目を誤魔化せる事は出来なかった。
レティシアが熱を出し数日間寝たきりになった後でも、ドーラから毎回こうしてガエルは罵倒されていた。
「…」
その度に無言でいるのは、ちっとも悪いとは思っていないから謝ってもしょうがないと、ガエルは開き直っているからだ。
「ドーラ、もういいわ」
レティの鈴の音のような声が聞こえて、視線を向けるとそこにいたのは、先日ガエルが彼女へ送った外出用のドレスを身につけた熱の下がったレティシアだった。
「さっ今日も出かけるわよっ、ガエルッ」
そう言って彼女はガエルの腕に自分の腕を絡めて身を寄せた。
今までは強制的に一緒に出かけていたが、いつもレティシアはガエルとデートをしていると思っていた。久しぶりのデートだと意気込むレティシアに、ガエルは、はい、と頷く。
「予定してる場所は何個か省きましたので、デートは早めに切り上げて、二人きりの時間を楽しみましょう」
彼女の耳元で低く囁くと、途端にレティシアの顔は真っ赤に茹で上がる。
「ちょっ、ちょっまさかっ!騎士団長っ!あなたっ」
レティシアの様子を見て、どんな言葉を言ったのか察したドーラはガエルを睨むが、
「これは、レティシア王女のご希望なので」
しれっとした強面は何を考えているのか読めない。
「レティシア王女様がそんなわがままをいうわけないでしょっ!」
「へっ?私?」
ありえないと怒り狂うドーラと、不思議そうにキョトンとするレティシアに、ガエルは彼女に聞こえる声で言った。


「永遠に貴方を見ると約束しましたから」

と。
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