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接近3

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「…なぁ…坂本」

食べ終わってあとは飲み物のみとなった頃、渡辺が目の前のトレーを見たままぽつりと呟いた

「うん?何?」
渡辺に視線を合わせたら
また黙ってしまう渡辺



口を何度か開けては閉めを繰り返して何か言いたいことがあるのか知りたくて、待った



「………あの……俺と……居てもつまら…ないよな……いや、いい…忘れて」

と渡辺は私の目を見ては、逸らし改めて忘れてと言った


「ううん、つまらなくないよ」
考えるより先に言葉が口から出た


ーーつまらない?…渡辺と…居ると…?

うん、つまらなくない
だって

「いつも渡辺といると楽しいし、放課後守ってくれるし……手も繋いでる…し」
と後半照れてしまったが、しっかりと伝えねば!と意気込んだ
うん!としっかりと渡辺を見たら
渡辺は私を眩しそうな目で見て、ぽりぽりと頬を掻き
そうか
とひと言言ったまま黙ってしまった




しばらくするとまた他愛のない話になったのだが、ハッとしたら渡辺と肩と腕が触れ合っていた事に気がついた
「あっ…ごめん」
と慌てて少し離れると
「別に、平気だよ」
と、渡辺が私の肩に腕を回し自分の方へ引き寄せた

「わっ…渡辺っ…っ」
と私が赤くなるとニヤリと笑う渡辺を見てムッと口を尖らせ抗議のパンチをポスンと胸にお見舞いした

ははと笑う渡辺に私も可笑しくなってしばらくお互い笑っていた








帰り道、相変わらず手を繋いで帰る


いつもと違うなら日も沈み薄暗くなっていた



お店に出てすぐにお互いの距離を縮め、自然と繋がる手
それもまたくすぐったくて、嬉しくてお互い見つめ合いながら笑う


ゆっくり歩き始めて少し、また沈黙が続いてしばらくすると他愛のない話を始める

それを繰り返すと、もうすぐ家の前に着いてしまう

なんだか離れ難く繋いだ手に力を入れてしまう

ーー渡辺も同じ気持ちだといいな…

すると渡辺も私の手を握り返してくれて、歩道の隅に連れて行く

電車の時みたいに壁と渡辺の間に挟まれ、ぎゅうと握られる手に近付く渡辺の顔

ーーわっわっ!

と慌てて目を閉じれば、額に落とされたキス

「ほぇっ?」
と変な声が出れば、ぷっと笑い私の頭を撫でる渡辺にムッとしたが嬉しくてつい抱きついてしまった

反対に固まった渡辺に溜飲が下がった気がして
ふふんっとご機嫌になったので離れようとしたら、逆に引き寄せられ抱きしめ返された

その時になって抱きしめた事実に気がついた私は顔を真っ赤にして渡辺の顔を見れず、渡辺の胸に顔を押し付けた




しばらく抱き合っていた2人は、渡辺の力が抜け腕が外れ離れたのだが、恥ずかしくてお互いの顔を見れなかったが、もう一度繋いだ手だけは離さなかった



「…帰るか」


「……うん」

静かな住宅街で、2人きりしかいない錯覚に陥るがそんなわけないと変な考えを止めた



名残惜しく、家の前に着いても渡辺の人差し指を最後まで握ってしまっていた

「…帰れない」
とふっと苦笑する渡辺
「…うん」



分かっているけど…手が…

と私の頭を撫でる渡辺が
「…後で連絡する」
「…うん」
俯く私に向かって優しい声が聞こえる
「…また明日会える」
「…うん」

ゆっくりと渡辺の人差し指を離す


「…後で連絡ね」
と顔が見れなくて恥ずかしくて早口で言う



「ああ」
とポンポンと頭を撫でると、私が家の中に入るまで家の前で待っていてくれた






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