ヤクザの監禁愛

狭山雪菜

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リクエスト 可愛い娘と夫 ヤクザの監禁愛

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――何もかも気に入らねぇ

チッと舌打ちをしたいのを、ぐっと堪えていた。
「パパお顔が怖いよ?」
部下なら、今の俺の機嫌を読み取り、ひっと声をあげて逃げ出すのに、この・・子供は無邪気に顔が怖いと笑う。俺のうしろに控えるテツが微かに動いた気配がしたが、俺がなにも言わないのでどうするか様子を見る事にしたらしい。この子供は俺の膝の上に乗せたはいいが、俺のネクタイを引っ張ってキャッキャッと遊んでいたかと思えば、俺とは違うさらさらとした黒い髪の頭を左右に揺らしてうとうととし始めた。
――これ・・が自分の子だとしても、何の感情も湧かないものだと思っていた

あの女――絵梨奈えりなに請われるまで、子供なんていらないと思っていた。

セクハラ上司に困っていた絵梨奈を助けてから、俺の世界は一変した。
たまに一緒に食べる食事とその後の男と女の関係から、目の前から居なくなった彼女を探して、辛抱強く戻ってくるのを待ったが、先に俺の方がキレて彼女を攫うように迎えに行った。自分の中にドロドロとした執着の全てを彼女に注ぎ、2人の棲み家として与えたこのマンションから決して一歩も――それこそ玄関から出さずに――俺の帰りを待つ、ただそれだけのために生かした。

日中は見張りをつけた部下と話していると聞いて面白くない感情を抱き、腹心の部下がに逆らうはずがないと分かっていても部下を彼女の見張りから外した。
――それじゃ、気ぃ狂うか
日中誰とも話さないのは酷だと、そう思って部下の女を手配したら、その女とも仲良くなって部下ほどではなかったが面白くはなかった。
帰ったら止まる事のない女の話に付き合うと、以前の俺なら考えられない生活になった。過去に付き合った女の声はキャンキャンうるさく煩わしいだけだったのに、不思議と絵梨奈だけは違った。
――そんな俺に、子供ガキとはね


俺の胸に許可なく頭を付けた子供が、安らかな表情で俺の腕の中で眠っている。ただ寝てるだけの顔なのに、じっと見てしまうのは何故だろうか。俺の髪質とは違う黒い髪、目を開けるとぱっちりとした瞳と全てが小さいパーツで出来た顔と強く掴んだら折れそうな身体。どこか絵梨奈の面影のある子供は、今大好きだという日曜日の昼にやっている女の子が変身して悪を成敗するアニメのキャラクターが描かれた白と腕がピンク色のシャツを着ている。その下は膝丈ぐらいのピンクのスカートで、白い靴下を履いている。頭には両耳の横に付けた白いボンボンで、髪を結んでいる。綺麗に結ばれているから、きっと絵梨奈がやったのだろう。
「テツ」
「はい」
俺のうしろにいたテツを呼ぶと、テツはすやすや眠る俺の娘を受け取り、娘専用に作らせた部屋へと寝かせにいく。
胸の中にいた温かい存在がなくなると、僅かに違和感を感じるが、そんな事はどうでもいいと、俺の座るソファーの前にあるローテーブルの上のウィスキーの入ったグラスを取ろうとして、さっきまでチョコクッキーのお菓子やオレンジジュースの入ったプラスチックの娘の好きなアニメのキャラクターのコップが目に入り、ガラリと変わってしまった生活を目の当たりにして手が止まる。
――絵梨奈に歯磨きさせなかったのね、と言われるな
母になった彼女は基本的に娘を溺愛をするが、叱るときはちゃんと叱る。そして、以前にはなかった娘に関する事だけは、直して欲しい所を俺にさり気なく言ってくるのだ。
うんざりする気持ちもなくはないが、いちいち反論するのも面倒だと学んだ。
「テツ、今日はもう下がれ」
娘を置きに行ったテツが帰ってくると、俺はそう言って部下を見る事なくリビングの横にある部屋へと足を進めた。


先ほど胸の中にいた娘とは別の女が、広々としたベッドの隅で眠る。年中空調が効いているため、薄手の布団を掛けて眠る女の身体のラインがはっきりと見て取れる。4年前に子供を産んだと思えないほど、白いシャツしか布団から出ていないが腰回りは細くスタイルの良い女――俺の女の絵梨奈だ。
胸だけは俺のおかげか妊娠したからなのかわからないが、出会った頃より二回りほど大きくなっているのを除けばずっと変わらない。
まだ日中の陽も沈んでいないこの時間帯に眠るのは、昨日の夜から朝にかけて彼女を求めたからだ。妊娠が発覚すると約半年ほど絵梨奈と繋がって寝る事を許されず、今までの俺だったら他の女の元へと行っていたが、絵梨奈以外とそんな関係を持つつもりはなかった。彼女の手や足、脇や口を使い宥めた性欲はますます燻り、また妊娠中の行為は負担が掛かると一度しか彼女の中へ入れられなかった。
――二度と子供ガキなんて作るかっ
悶々とした日々を過ごし、やっと生まれたかと思ったら俺の我慢していた欲情が爆発した。
出産後しばらくは彼女が赤ん坊の対応で寝ないのをいい事に、俺が連日満足するまで付き合って貰った。日中はテツの所で生まれた赤ん坊と過ごしたり、シッターを――もちろん女だ――雇って寝る時間を確保していたみたいだが、もう3歳になった娘は夜泣きもそうそうしないから、俺が絵梨奈を独占する時間が増えた。
今日は珍しく午前中に仕事が終わり、眠そうな絵梨奈を寝室へと追いやり久しぶりに娘との時間を過ごした。
時間にすると、2時間くらいだろうか。とにかく絵梨奈に似ておしゃべりだが舌ったらずで、不思議と不快な気持ちは起こらず、ただ頷いていれば幼い娘は満足する。
俺が気に入らないのは、そんな俺を見る部下のテツの視線だ。背後から感じる心配そうな雰囲気は、俺の腹心の部下として名高い残忍で無表情のテツからは想像もつかない。
娘が生まれる数ヶ月前にテツの所にも子供ガキが生まれたからだろう、テツも子供を心配する親心があったとは驚きだ。
「ふんっ」
娘みたいにすやすや眠る絵梨奈の横で寝ようと、手を伸ばすとスーツを着たままなのを思い出した。しょうがなくベッドに腰掛けると、物音一つしない静かな室内になっている事に気がついた。
――アイツ…が寝てるだけで静かなもんだ
絵梨奈が産んだ俺の子供――花奈はな。最初は絵梨奈から産まれてくる名前を決めて欲しい、と言われたが、別に子供が欲しくて避妊しなかったわけじゃないし、柄じゃないから断った。そうすると絵梨奈は、わかりました、と了承してから数日後に「花奈にしました」と俺に報告してきた――それから3年と少し、猿みたいだった赤ん坊は言葉を発し、歩き出すようになった。
「静かなもんだ」
もう一度、思っていた同じ言葉を今度は声に出すと、やる事もなくスーツのシワなんてどうでもよくなって絵梨奈の隣に横になり、絵梨奈の背後から抱きしめた。


「ぱぱ、おきて」
弱々しい声と頬を軽く叩かれ、自分が眠っていた事に気がついた。ゆっくりと目を開けると、俺が眠るベッドの側で眉をハの字にした泣きそうな情けない顔の花奈が立っていた。
「どうした」
何かおきたのか、と瞬時に目が覚めた俺は、素早く周りを見渡すが、いつも通りの室内で特に異変を感じなかった。
「…はなちゃん、おなかすいたの」
本当に心底どうでも良いことで、死にそうだと訴える花奈は、ふざけているわけじゃなく本気だ。
「…そうか、テツは…そうか下がらせてたな」
いつも側にいるテツは、花奈が寝たから外で待つように言った事に気がついて起き上がると、絵梨奈はまだ横で寝ていた。
スーツのままだったのも思い出し、ベッドに座り床に足を付けて立ち上がると、花奈が大きく手を広げたのでいつものように小さな身体を抱き上げた。


「これは、はんばーぐなの?」
「…たぶんな」
あいにく料理なんて出来ないし、する必要もなかったので、それに時計を見たらまだ16時を少し過ぎた所だったので、花奈を連れて外食をする事にした。来年から幼稚園へと通う予定だが、あまり外へ出る事のない花奈は嬉しそうにお店の中を見ていた。ただ、1人であちこち行動するのは、まだ怖いのか俺の腕の中で大人しくしている。
「こちらは、低アレルゲンのビーフシチューですよ」
「びーふしちゅー?しちゅーはままがつくるとまっしろだよ」
「シチューにもたくさんの種類がありますよ」
お子様に合う料理を出すところなんて知らないため、顔馴染みの――絵梨奈もよく連れてきた洋食レストランへとやってきた。俺の膝の上にいた花奈は、出てきた料理に首を傾げた。給仕をする男はオーナーで、俺が来たのを知り出てきた。その目には幼い花奈の無邪気な愛嬌に目尻を下げて、何店舗も店を構えて拡大させているやり手のオーナーを間抜けな顔にさせている。
「…おい」
見過ぎだ、とギロッと睨むと、オーナーは、ははっ、と笑う。
「今日は奥様はいらっしゃらないのですね」
「…休んでる」
オーナーは絵梨奈の事を覚えていて、俺となら外出の許可を出していて、時々この店に来てご飯を食べた。昨日は久しぶりに会えたから執拗に求めてしまった結果、早く帰れたから日中は眠そうで休ませたのだ。
――まぁ、今日もするが
俺の中の選択肢には"しない"という事はないため、体力が回復するようにしてる。
そんな俺の考えなど知らぬ娘は、
「しちゅーはちゃいろもあるのね」
と、頭を上下に動かして勝手に納得して頷いている。
「助かった」
「いえ、いつもご贔屓にしていただいておりますから」
高級レストランではお子様向けの料理など提供していないが、オーナーは何も言わずに花奈が食べられそうな物を出してくれた。
「ほら」
「うん!いただきますっ!」
顎の下の服の襟に大きなナプキンを挟むと、花奈は渡されたティースプーンで世界で一番高級のビーフシチューを食べ始めた。


***************


「ままー!ただいまー!」
「おかえりなさい、すいません眠ってしまって」
家に帰ると絵梨奈は起きていた。一目散に絵梨奈の元へ行って、今日俺とレストランに行ったこと、いつも食べている白いシチューじゃなくて茶色いビーフシチューがあること、デザートにバニラアイスと俺が食べたステーキを味見したこと、帰りにおもちゃを買ってくれたことを報告していた。
おもちゃは今ハマっているアニメキャラの変身セットで、おもちゃ屋に入ったことがなかった花奈は終始興奮しっぱなしだった。花奈はあれもこれも目移りするので、最後は面倒になって手に取ったものを片っ端から購入したら膨大な量になり、店の外で待っていた部下を総動員させて荷物を運ばせた。
興奮する花奈を宥めてお風呂へと向かった絵梨奈と花奈を見送り、俺はリビングへと向かった。



「ぱぱ、あたしはぱぱみたいに、つよいひとじゃないとすきにならないの」
お風呂から上がった花奈は、もう慣れたもので俺の膝の上に座り、絵梨奈から一つだけ開けていいと言われたおもちゃを手にしていた。そのキャラクターが好きなの、と絵梨奈が俺に向かってそう言うと、花奈は俺みたいに強い人が好きと言い出した。
「そうか、なら一生現れないな」
「そうなの?ゲンゴくんは、ぱぱよりつよいかな?」
目をキラキラさせていた花奈は、俺の言葉を聞いて青くなり、今一番娘の口から聞きたくない名前を出した。
ゲンゴ――テツとその女の子供で、絵梨奈の話し相手のテツの女が産んだ男の子ガキだ。絵梨奈と一緒に子育てをして、兄妹同然で仲良く育っていると聞いていたが、実際には違うらしい。子供とはいえ、男だと聞いて、絵梨奈と花奈に近づくのをただ黙って見てられるほど、俺の心は広くない。
「…そうだな、ゲンゴと一度手合わせをしよう、なぁテツ」
「…兄貴、勘弁してください」
「困らせないでくださいね、花奈のお友達なんですから」
背後にいるテツにそう言うと、テツは微かに困った声を上げるが、顔は強張ったままだ。それに絵梨奈は俺が冗談を言ったと勘違いして、苦笑する。
「その、ゲンゴとやらに酷い事されたら、すぐに言えよ」
「うんっ!」
とっちめてやるからな、と低い声で凄んでも、娘は俺の声の変化など気づかずに、元気いっぱいに返事をするのだった。
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感想 1

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みんなの感想(1件)

🍎
2022.06.26 🍎

面白かったです!
二人の誤解を解いた続きも読みたいと思いました!

解除

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