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後編

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「……お慕いしております、ユーグ様」

誓いのキスの後に花嫁――俺の妻となったアレットが泣いた。ポロリと一粒溢した涙は美しくて、一瞬で目を奪われた。このまま人目も憚らず彼女の口を塞がなかった自分を褒めてあげたいぐらい、美しかった。
――ちょっと、美しく仕上げすぎてるな
心の中で舌打ちをしただけで、あとは彼女の涙を拭った。大きく首筋から肩が開いたドレスは彼女の白い肌を際立たせ、身体のラインに沿った白いウェディングドレスに施された刺繍は本物の女神のように思わず平伏してしまいそうになるほど神々しい。

――まさかこんなに夢中になるとはな
アレットを見たのは、別に本当に気まぐれだった。彼女の容姿を見ずに結婚を申し込む事も出来たが、一度だけ見てみるかと変な気を回したのだ。レティシア様が俺に彼女の予定を教えたのも、会おうと思った理由の一つだったけど。
月曜日に本屋にいる事は分かっていたが、何時・・に本屋にいるかは知らないと、いざ会いに行こうとした時に思った。勤務中に抜けようと思っていたが、その時間が分からないなら彼女に会えないじゃないか、という事で部下で俺の後輩である副団長に適当な理由を述べて――ガエルに呼び出された、とか何とか言って――勤務中に抜け出した。
軍服を着た騎士団員が来たら驚かれるから着替えるかな、と思ったが見回りしているといえばいいか、と胸元の勲章は外し一般の騎士団員として向かった。お昼前に着いた街にある唯一で大きな本屋では開店間もないのか、出入り口近くの扉で店員がいくつもある大きな木箱から本を取り出して忙しそうにしていた。一階部分に壁面いっぱいに並べられた本、店の中央には壁面の棚ほどではないが、いくつも本棚が並べられている。本棚には何のジャンルの本が並んでいるのか丁寧に書いてあり、この店に初めて来る人にもわかりやすい構造となっていた。
――アレット令嬢はまだ…か
開店直後だからそりゃそうだな、と思っていたら店の奥から出入り口付近にいた店員とは違う声がした。
「こちらが本日入荷した書物でごさいます」
「まぁ、こんなに」
「…では、ごゆっくりお選びくださいませ」
そう言って俺の側を通ったのは、この店の主人らしき人だった。俺は店の奥へと行くと、目を見張った。
大きなテーブルに本が積み上げられていた。ひと山10冊ほどの本が5つあるので、おおよそ50冊くらいの本を彼女は、大きなテーブルの横に置かれた丸いテーブルの上で湯気の立つ紅茶にも目もくれず、積まれている本の背表紙を見ていた。
大きなテーブルの隅には彼女の侍女だろうか、女性が彼女を見守っている。
「…こちらは…私が持っている本とは違う装丁だわ」
「きっと、改めて出されたのでしょう」
彼女は俺に背を向けていて、顔までは見えない。長い髪を一つに結び、グリーンの刺繍がなされたシンプルな白いワンピースは彼女の身体にフィットしていた。
「…買ってみようかしら、もしかしたら何かが変わっているかもしれないし」
「そうしますと、本日取り寄せしている本が買えなくなってしまいます」
「…そうよね、もうっ、私ったら、どうしてお金を余分に持ってこなかったのかしら」
「お嬢様が、お取り寄せした本のお金が入っているバッグしか持って来なかったからですわ」
「…ぅぅ…だって、入れたと思ったんだもの…次からはちゃんとお金がバッグに入っているか確認するわ」
酷く残念そうに気を落とす彼女の声に、どきんと胸が鳴る。
「…一旦落ち着いてください、御者に言って執事長に伝言を頼みましたから、温かい紅茶でも飲んで待ちましょう」
そうね、とくるりと振り返った彼女に目を奪われた。
小さな顔とは不釣り合いの大きなメガネ、小さい唇とすっとした鼻筋、黒い髪は手入れはされているが、無頓着なのか少しだけ前髪が長くてメガネの縁に当たっている。そして肌はもはや病的に白くて、心配してしまうほど細くて小さい。
今まで美しいと言われている人と関わった事があるが――彼女は大きなメガネで表情が良く読めないからはっきりと美しいとはいえないが――こんなに目を奪われたのは初めてだった。

――彼女が、欲しい
数度彼女を見たいがために月曜日に本屋へと行くようになり、毎週沢山の本を購入する彼女のために、本屋の主人がその日に入荷された本を1冊ずつ取り置いている事も知った。それからはもう、彼女の父――レヴィ侯爵に結婚の申出をしたのだ。


驚くほどゆったり過ごす時間は、思いの外心地よくかけがえの無い時間となっていた。彼女の好きそうな観劇を調べたり――アレットの侍女に聞けば、すぐさま彼女の好みを語られてすぐに知る事になる――あまりにも細いから太らせようとデザートでもと思い、彼女の好きそうなデザートをたまたま俺のそばにいた執事に聞けば、すぐに街の一角にある洋菓子店の名を言われた。
あとになって、彼女はハマったら飽きるまでか、気の済むまで同じ作品ばかり読み耽り、食べ物を取り続けてしまうらしく、使用人達はもう覚えてしまったのだ。


そんな彼女が、次第に俺といる様になっても本を読まなくなり、身だしなみを気をつけるようになると、今度は俺の心配が始まった。
初めて彼女の屋敷でお茶会をした時に、一瞬だけ見えたメガネの下は赤い宝石のように美しい大きな瞳に見惚れた。次第にメガネの大きさが小さくなるにつれて露わになっていくと、彼女本来の美しい顔立ちが見えていく。
病的だった真っ白な肌も次第に少しだけ焼けたみたいだが――それでも俺には白く見える――健康的になったと周りの人達は喜ぶ。エスコート以外は触れ合う事もなかったのに、彼女に触りたいと願うようになり、そばにいるだけじゃ我慢が出来なくなっていた。
気がついたら結婚の準備も始め、王家と公爵家へと報告も終わらせていた。
『旦那っ!この部屋の見取り図はこんな感じかい?』
彼女と会えない休日には、この屋敷に住む彼女のために屋敷の中で1番広い部屋を、彼女の屋敷にあるような図書室として使用する事に決めた。騎士団長という地位を得てからは、騎士団本部近くに屋敷を建てていて自分一人と使用人とで暮らしていたので、使用してない部屋がまだたくさんあるのだ。
結婚の準備が進むにつれて、使用人達も浮き足だってくる。俺しかいなかった――騎士団に泊まり込むこともあって、屋敷に帰らない日も多かった――殺風景な部屋が彼女好みの好きな花や彼女の好きな作品に出てきそうな小物を飾って華やかに変わっていくのを、みな楽しそうにしていた。

「とりあえず、正式な夫婦になるまでは君の純潔乙女は守るよ、それが紳士だから」

小さな声で呪文のように繰り返し、自分に言い聞かせる当主の気持ちなど知りもせず。


――それが、どうだ
彼女は式の最中に俺を好きだと言った。涙を流しながら。そんな事をされたら、この天にも昇る気持ちを抑えるなんて馬鹿らしいだろう。
結婚初夜を迎える準備のためアレットが湯に入り、執務室として使用している部屋で待っていたら、間もなく終わりそうだ、と報告を受けた。俺も身を清めるため、そわそわ落ち着かなかった身体を動かして、浴室へと向かった。



「ユーグ様」
これから一生二人で眠る寝室へと行くと、彼女がカチンコチンに緊張して固まってベッドの端に座っていた。部屋の電気は消され、両脇のベッドサイドにあるナイトテーブルにはランプが点いていて、彼女の姿が見える。真っ白なレースで編まれた夜着の上着の下は、少しだけこの女の身につける下着がうっすら見える。彼女の左隣に座ると、ぴくんと反応して身体が強張っているのがよくわかる。
「アレット…緊張しないで」
「…っ!…ですがっ」
彼女の肩に手を回して抱き寄せると、彼女のお風呂上がりの香りが鼻を掠める。彼女の頭部に口元を押し付けると、胸いっぱいに吸い込んだ。俺がしばらく動かないから、彼女は次第に身体の力を抜いて俺にもたれた。とは違う彼女の柔らかな膨らみのある胸は、俺の胸元に押し付けられ、もう理性が切れてしまいそうだ。
――どうかしてる
忍耐力は強いと自負していたが、俺の思い上がりだったらしい。彼女の頭から額やこめかみに触れるだけのキスを落としていくと、アレットは顔を上げて俺の肩に頭をつけた。俺を見上げる彼女の可愛さは、言葉に表せないほど胸を撃たれてしまったように強烈だ。
「…アレット、愛しているよ」
そう言って彼女の腰を抱きながら、彼女に覆い被さった。







***************




「…ぁっ、うっ…んっ、っ」
全身舐められ、口づけをされ、恥ずかしくて死ぬかと思った初夜。啜り泣いても、ユーグ様は、可愛い、逆効果だよ、と甘く囁く言葉は止めるつもりはないとはっきりと言われ残酷だ。彼がこの部屋にやってきた瞬間から――嘘だ、結婚式が終わってから――ずっと初夜の事を意識してしまっていた。式の後は日の暮れる前にこれから住む屋敷へとやってきた。本来なら式の後はパーティーを開くのだが、私が体力的に参加出来なそうなので別の日にガーデンパーティーにしようとユーグ様と決めていた。昼間からならお酒もそんなにないし、時間を気にせず話せるからと、ユーグ様が言ってくださった。屋敷の使用人達は皆優しく私を迎えてくれ、屋敷の案内はまた後日となって、式の準備で朝から何にも食べていない私とユーグ様に少し早い夕飯が出された。
その後は、新しく私に付く予定の侍女と一緒に初夜の準備のためにユーグ様と離れた。



それからはもう心臓が口から出そうなくらい恥ずかしくて、それなのにやめて欲しく無い悩ましい甘美な時間となった。彼は私の羽織ものの夜着の上着を脱がせると、下着姿になった私を目を細めてじっくりと見ていた。ベッドの上の中央へ仰向けになり、私の足を跨ぎ見下ろす彼の眼差しは、いつも優しい眼差しの彼ではなく、熱のこもった眼差しが私の身体を刺す。
「…綺麗だよ、アレット」
そう言って彼は自分の羽織っていたガウンを脱いだ。上半身は何も身につけていないシルクのズボンだけの姿になった。ベッドサイドの明かりだけだけど、厚い胸板と太い腕、割れたお腹、凸凹した筋肉に影が出来て、より一層彼の身体の作りが分かる。普段のシュッとしたスタイルからは想像もつかないほど、男らしい身体つきにうっとりと見惚れてしまう。
――この事を知っているのは、これからも私だけ
さっきまで下着姿だけになって恥ずかしいと思っていた私は、彼の裸を見ただけで身体までも美しいと見惚れて、その恥ずかしい気持ちも霧散した。手を伸ばすと、ユーグ様が私の手先を掴み、手の甲へ口づけを落とす。チラッと私を見ると少しだけ上目遣いのようになり、またドキドキした。

最初に彼の唇が触れたのは首元にある鎖骨だった。その後はだんだんと下にいき胸の膨らみに到達すると、彼の手が加わった。ブラを脱がされながら彼の口で転がされ始まると、擽ったいと思ったのは一瞬で、後は身体の奥からむずむずする居た堪れない感覚が私を満たしていった。下半身にどろりと溢れる蜜に気づかれたくなくて、脚に力を入れていたら彼に見つかり、脚を大きく広げさせられた。誰にもこんな姿を見せた事がなくて、最初は抵抗したのだが彼の愛撫が始まると全身が蕩けた。
「ああ、勿体無いな、もっと君を愛でたいのに、身体が我慢出来そうにない」
うっとりとする彼は私の下着を脱がすと、蜜壺から溢れた蜜を下生えに塗りつけながら、口を寄せた。汚いと思う前には彼の口は蜜を吸い取り、舌を這わしていた。一気に電流が身体を貫き、真っ白になった頭の中は何にも考えられずに声もなく達した事を後に知る。
「はっ…は」
ぱくぱくと口が動き、口で呼吸する。だんだんと意識がクリアになると、下半身に違和感を感じた。蜜壺の中に入った彼の指が私の中で動いていたのだ。
「ここ、好き?すごい触ると俺の指をぎゅうぎゅうに締め付けて指が千切れそうだ、アレット、気持ちいい?」
「はい…っ、は…んっ、気持ち…いいです」
彼の言葉がただの意味のない単語として耳から頭の中を素通りして、何故か口が彼の言葉を繰り返す。全身が自分の身体じゃないみたいにいう事を聞かない。彼の指が蜜壺の中で増やされ、指先を曲げられかき混ぜられ広げられる。自分が自分じゃなくなって、そのうち私はこのまま死んでしまうのかと、怖くなって溢れる涙がポロポロと頬を濡らす。ユーグ様は私の頬を舐めては私の口を塞ぎ、口の中がしょっぱく感じる。キスの仕方を教えられて、彼の舌を自分の口が吸い付くと、彼の目が嬉しそうに細くなった。
「さぁ、やっと一つになるよ、最初は俺を見てアレット」
ずるっと蜜壺から指が引き抜かれると、私の蜜壺はまるで行かないでと言っているように強く締まる。額を合わせて彼の鼻先が私の頬に当たった。
「…っ……っ、あっ!」
「…っ、アレットッ、俺の背中に手をっ」
脚を大きく広げたまま、ユーグ様の身体が私に体重を掛けると、重さよりも痛さが勝つ。何をされているのか、男女の閨は理解しているつもりだったのに、混乱して身体が強張ると、苦しそうなユーグ様の声でのろのろと彼の背中に手を伸ばした。ただ掴まるつもりだったが、ズズッと私の蜜壺の中に入っていくユーグ様の昂りに指先にも力が入り彼の背中に爪を立ててしまう。彼の鼻が私の頬に入ってしまいそうだ…苦しそうな吐息も、その中にある甘い彼の声もすぐ近くに感じる。
――こうしていつでも一つになれたらいいのに
繋がっている所は痛いのに、それよりもユーグ様とこうして一つになれることの方が嬉しい。ユーグ様との繋がりが深くなり、お互いの身体が完全に重なると、ユーグ様は私の頬に口づけをする。
「…ああ、幸せだ…やっと君と結婚したんだな」
動く気配のない彼は、痛さを感じている私のために待ってくれている。
「…っ、ユーグ様」
彼の頬に手を移動させて、お互いの唇を啄んでいる。
――私…この日を一生忘れないわ…この部屋の匂いと冷たいシーツ、彼の香りと熱さ…それでこのひと時を絶対に
大胆にも彼の腰の横に膝を寄せて――本当は足を彼の腰に巻きつけたかったけど、無理だった――足を上げるときにお腹に力が入ってしまって繋がっている箇所を軽く締め付けてしまうと、彼の身体がぴくりと動いた。
お互い鼻先を重ねたまま、熱い眼差しを絡ませると、ズンッと彼が動き出した。ズンッ、と私の蜜壺の最奥にいるのに、一度もっと奥へといくように腰を打ちつけて、彼の腰が引いて蜜壺から昂りが引くが、蜜壺からは抜けなくて、また蜜壺の最奥へと戻る。ゆっくり私の様子を見ながら抽送をするが、私の口から甘い快感に揺れる声に気がつくと、次第に抽送が早くなっていった。
「あっ、アッ、っん、あっ、あ」
声を出さないように我慢しようにも、揺さぶられた上に、唇を噛む度にユーグ様が私の口元を舐めてそのまま口を塞がれる。何度か同じ事を繰り返すと、ユーグ様は声を我慢して欲しくないんだ、と快感の中ぼんやりと思う。腕を上げ続ける力が入らなくなってベッドにぱたりと手が落ちて、横を向いて掴む所を探してシーツをなんとか摘むと、露わになった首筋にユーグ様が口を寄せて舌を這わす。その上にある耳を喰み舐めると、一度止まっていた抽送が始まる。
「っ、く…っ、っ」
直接吹き込まれる彼の吐息、彼も気持ちいいのかと思うと嬉しい気持ちが溢れてしまい、きゅんと繋がった箇所が締まる。すると、余計に抽送が激しくなっていった。
「あっ、やっ、んぁっ、っ…は、ぁっ!」
ズンとユーグ様の昂りが蜜壺の最奥に当たると、目の前がチカチカとひかり次第に何にも考えられない真っ白な思考になった。全身が何にも考えてられない自分の意思とは異なって強張ると、ユーグ様の唸り声とほぼ同時に蜜壺の中が熱い証で満たされた。





***************





「奥様、こちらはリラックス効果のあるハーブティーでございます」
「ん…ありがとう」
結婚式から一年も経つと、すっかり結婚生活に慣れた。私の生活は昼夜逆転してしまった。まず、私の1日は、この屋敷を取り仕切る執事長の奥さん、メイド長のメルからもらう一杯のお茶。それは大体お昼過ぎたらで、起き上がって軽く身体を拭うと部屋に運ばれてくる朝食兼昼食を食べる。その後は屋敷に掛かるお金や女主人にしか出来ない事務的作業を済ませ、嫁いできた私のために作られた図書室で少し過ごすと、夫の帰りを知らせる執事長に声をかけられて玄関へと向かう。
「ただいま、アレット」
「おかえりなさいませ、旦那様」
ユーグ様は私の腰に腕を回して、私は彼の首の後ろへと腕を伸ばすと、おかえりなさいのキスをする。以前は恥ずかしかったこの儀式も、今やしないと物足りなくなってしまったのだから不思議なものだ。軍服から楽な部屋着になった彼と一緒に食堂でご飯を食べて、一緒にお風呂へと入る。ほぼ毎夜愛されているユーグ様の所有の証――赤い印が付いている私の身体を見て彼は満足そうに微笑む。
最初は一緒にお風呂なんて恥ずかしくて、彼が帰ってくる前に入っていたけど、残念そうにしょんぼりとするのがかわいそうに思えて、一度ならいいかと思っていたら、いつの間にか一緒に入るのが当たり前となってしまった。ただし、毎月ある女性特有の一週間だけは一緒には入らない。
お風呂から上がったら一緒に部屋に戻って、二人きりの時間を過ごす。他愛のない話をしたりして、首筋に赤い所有印だけをつけられて眠るだけの日もあるが、ほとんど求められる。明け方近くに彼から解放されると、彼をベッドから見送り眠るのだ。
ほとんど寝ていないはずなのに、ユーグ様はなんでもないように出勤をする。
「寝なくて良いのですか?」
一度だけ一緒にいる時に寝ないものだから、心配になってそう聞くと、彼はなんでもないように笑った。
「騎士団にいると、いくらでも寝る機会はあるよ」
それはそれで問題なんじゃ、と思ったが、私の知らないところなので、そういうものなんだと一応納得した。





まだ仕事をしていたい彼が他の令嬢から誘われないために、見せかけの婚約者となったと思っていたのに、ついには結婚をしてしまった。しかも、ものすごく溺愛されている――部類だと思う。新婚だからかもしれないが、少なくも父がきっちり毎日同じ時間帯に帰ってくることは見たことがない。
使用人達に聞いても、結婚前はむしろ帰ってくる方がレアだったらしい。
レティシア様にその事を話すと、ガエルうちもそうだったわよ、といつもの美しい表情で言った。なのでレティシア様の夫のガエル様とユーグ様がそうなので、騎士団では働きすぎて結婚したら落ちつく…とかそういった風習があるのかもしれない。

「アレット、今日読んだ本の話を教えて」
「今日はですね…」
寝る前に読んだ本の感想を言うのが楽しい。そして毎週月曜日になると、ユーグ様と一緒に行く本屋へのお出かけもすごく楽しい。


こうして私は、本ばかり読むから一生結婚なんて無理だと思っていたのに、突然の婚約の申込から結婚出来た。だけどちょっとの不満があるとしたら…


「俺と一緒の時は本を読んだらダメだよ、すぐに俺の存在なんて忘れるんだから」


ユーグ様といる時はいかなる時も、本を読むのが禁止になったくらいだけど。
――不満…ううん、別にユーグ様と一緒にいる時は本を読む時と同じくらい…それ以上の幸せを感じるからいいか

と、私は本にまで嫉妬してしまうユーグ様を愛おしく思っていたのだった。
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みんなの感想(1件)

ちゃんみんママ

女性にも結婚にも興味の無い麗しのユーグ様が結婚に興味の無いアレット嬢を好きになって、アレット嬢がどんどん綺麗になっていくのが可愛らしくてたまりません😆
結婚してからのユーグ様の溺愛っぷりももうキュンキュンして💕

素敵なストーリーありがとうございました😊

解除
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