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49 駿平と会った日

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「よっ、元気?」
駅の改札前の柱にいたイケメンは、気怠げな雰囲気を漂わせすれ違う女性とその場にいる女性の視線を独り占めしていた。私を見ると手を上げた駿平は、私の背後にいる薫を見て驚いた。
「駿平こちらが私の彼氏の薫で、薫、こっちが友達の駿平だよ」
「…よろしく」
「うっす、よろしくお願いします」
駿平は薫の不機嫌なオーラに戸惑っていたが、私と手を繋ぎ周りにいる男に彼氏持ちだとアピールしているのに気がつくと、くすっ、と笑った。
「薫さん大変すね、茉白やばいでしょ」
「…本当だよ、牽制するの逆に楽しくなってきたな」
ひと睨みするだけで、男は顔を背け、女は顔を青くする。それが面白いと言い始めた薫に、駿平は大人だなーと感心する。
「うわっそこまでいったんですか!いやー、すごいですね」
「君もイケメンじゃないか、大変じゃないか」
「俺の場合は、由紀ちゃんしか見てないので、他の人の視線なんて何にも感じないっすわ…あっ、でも由紀ちゃんが見られていたら俺も牽制しないとなぁ」
「由紀ちゃん?駿平の彼女?」
「そそ、もうすぐ付き合って3ヶ月くらいで…いや、でも4ヶ月かな」
「そんな短期間で付き合ってる彼女と結婚するの?」
驚いてしまった私は思わず突っ込んでしまうと、駿平は照れたように頬を掻いた。
「…ここではなんだから、ご飯食べながらにしよう」
薫の提案で移動する事になった私達は、駅に併設されているデパートのレストランへと向かう事になった。




***************



「…俺、父親になるんだ…多分来年くらい」
「親⁈」
イタリア料理専門のレストランに入って注文が終わった後に、駿平の放った爆弾発言に驚いた。今日はずっと驚いている気がする、と思うと、私の隣に座る薫が口を開いた。
「不躾な質問で悪いが…それは…子供が出来たから?」
珍しく薫が聞くと、駿平はすぐに顔を横に振った。
「いずれは結婚しようと思ってましたが、子供が出来るって想像したらなら早い方がいいかなって」
「…駿平って子供好きだったっけ?」
付き合いが長いけど、そんな事聞いた事ないと思ったら、案の定駿平は
「好きでも嫌いでもない…けど由紀ちゃんの子供を見たいと思ったし、俺の子供だったらすごく嬉しいと思ったから」
照れた顔をしていたのに、彼女を思い出したのか、ここにいない彼女を想って優しい顔つきになっている。
そこから仕事の話や、駿平の彼女と付き合い始めた馴れ初めを聞いていたら、薫の電話が鳴って席を立った。

「でも、すごい決断…私には出来ないや」
肘をテーブルに付けて、そう言うと、駿平はにやっと笑った。
「言われてるんでしょ、あの彼氏に結婚しようって」
「…うん」
「やっぱりねー、すごい独占欲強そうだもんなー」
「…やっぱりそう見えるよね…まだ返事はしてないんだけど」
早く返事をしなきゃって焦って、最近では仕事中も薫のプロポーズの言葉を思い出してしまう。仕事にも影響が出てきてると、ため息を吐くと、駿平はあははっとお気楽に笑った。
「茉白は考えすぎて失敗ばかりするから、たまには一緒に住むところから考えてみれば?」
「…もうしてる」
「マジ?マンション解約したの?」
「それはまだ…よく使う荷物は同棲先に持って行ってるけど」
「……うーん、なら思い切ってマンション解約して一緒に住んでみたら?生活費浮くし、その分貯金出来るし、嫌な事あったらそのお金でマンション借りたら良いよ」
駿平の提案は魅力的だけど、私の中でネックな事がある。
「…でも同じ会社内だからバレたらって思うとさ」
「そんなの、誰も気が付かないよ、隣の課の人と同じ住所なんて、総務部でも気が付かないよ」
「…そうなの?」
「そうそう、それに同じだからって言いふらすなんて、コンプライアンスコンプラがなってないよ、大手ならそこら辺ちゃんとしてるでしょ?」
「…多分…コンプラの課題毎月提出あるから、情報漏洩とかないと思うけど」
駿平に言われて、深く考えすぎていると気がついたら、一気に気持ちが軽くなった。
「そういえば、茉白にしつこく付き纏ってた同期はどうなったの?」
「んー、なんかわかんないけど、最近見ないんだよね、同じ同期の人にはも、私の連絡先を教えるような連絡はないみたい」
「…ふーん、良かったじゃん」
「そうなんだけど、ね」
このまま何事もなく終わりだといいけど、あんなにしつこかった安藤くんの絡みがなくなって不安がないと言ったら嘘になる。
「…悪いな」
電話が終わったのか薫が帰ってくると私の横に座り、駿平の恋人の話に戻った。

注文していた料理が届くと、やっとお互いの近況報告となって、私と薫の出会ったきっかけを聞いて、駿平は『俺のおかげじゃん』と突然鼻高々になって、薫は『その点は感謝してる』と言って、駿平に高いお酒をご馳走する。

「結婚式は由紀ちゃんと相談するけど、やる事になったら2人に招待状を送るね」
上機嫌で駿平と別れたら、私と薫は同棲しているマンションへと帰る事にした。


***************



お風呂に入ってソファーで寛いでいると、私の後にお風呂に入った薫がリビングにやってきて、缶ビール片手で私の隣に座った。
「…そろそろ寝るか?」
私の髪先を弄びながら、缶ビールを口にして飲む薫の姿は、見惚れるほどカッコいい。
「…もう少ししたら」
今立ち上がりたくなくて、薫の肩に頭を乗せると、彼の腕が私の肩に回って抱き寄せられた。そして彼の手が私の頭につくと、私の頭を撫で始めた。
「どうした?」
私の様子がおかしいのに気がついた薫は、私の額に唇をつけて話す。
「別に…ううん、なんかもう悩むのがバカらしくなっちゃった」
「そうなのか」
「うん、そうだ!ねぇ、今度の火曜日に…あのスポーツBARに行こうよ」
しんみりとした空気を変えたくて、前から考えている事を伝えると、薫は片方の眉を上げた。
「スポーツBAR?」
「そう、もうすぐ…」
「俺達が初めて会った日だからか?」
「そう…気がついてたの?」
「そりゃな」
「もうすぐで一年だね」
駿平の就活の祝いで行ったら…そこに薫がいて、出会ったのだ。それが去年の今頃の季節で、会わない時期もあったが、再会してからは蜜月だ。薫が出会った日を覚えているなんて、嬉しくてにっこりと笑うと、薫は私の唇に自分の唇を触れるだけのキスで重ねた。
「長かったな、再会するまでが」
「うん…長かった」
心が死んだように辛い日々だったのを思い出し、今ある幸せが夢のような時間だと痛感した。だから…
──ちゃんと、しないとね
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