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42 誤解※

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「…本当に大丈夫?…疲れてるから今日は休んで明日の出発にしない?」
「平気だよ、心配しすぎ」
自分でもおかしいと思うが…くすくす笑ってしまうのは、駿平が私を心配してくれるのが嬉しいからだ。駿平が心配そうに何度も確認してきたのは、仕事終わりに駅に着いて、朝出勤前に預けた大きめのコインロッカーからキャリーケースを出していた時だった。
私の手からキャリーケースを奪うと、駿平は空いた方の左手で私の手と繋いだ。
──駿平も人が悪い…こんなに優しいから私が一番だと勘違いしちゃう
私に手を出して来ないのに、こうして手を繋いだりキスしたり抱きしめたり、重いものを私に持たせようとしない。彼の優しさに甘えながらも、自分のものと見せつけてしまうように彼の腕に抱きついてしまうようになってしまった。人前でこんな事をするなんて、以前の私なら信じられなかった。
──必死過ぎて笑っちゃってたと思う
そんなに公共の場で見せつけなくても取りませんよ、と前なら心の中で思っていたと思う。だけど、それくらい必死な自分が、違う自分になったみたいで不思議な気持ちでもある。
「…段差あるよ」
少しの気遣いと手のひらから伝わる彼の熱に、もう私以外の女なんていなくなればいいとまで思ってしまっているから重症だ。
飛行機に搭乗すると、彼はしきにり寒くないかとか辛くないかと聞いてくる。
──そんなのより、キスして好きと言って欲しい
うっとりとした視線を向けても、最近私の心配ばかりする駿平には伝わらない。ここが機内なんて最早私には関係ないとすら感じるフライトだった。




***************



日付が変わる直前に空港に到着すると、近くのビジネスホテルを予約していた。今日はここに泊まって、明日の朝に実家に行く。その後は結婚式に出席して、また実家に戻って泊まって日曜日の15時に飛行機の予約をしている。だから家に帰るのは日曜日の夜で、月曜日はまだ予定を決めてない休日となる。
「飛行機の中狭かったよね、早く休もう」
ささっと荷物を置いて、ダブルベッドの布団を退けた彼は、お風呂は明日でもいいんじゃない?と告げた。まるで私を早く寝かせたいみたいだ、と気がつくと、心の中に黒い想いが溢れてきた。
──私を寝かせて、スマホで誰かに連絡するつもり?そうはさせないんだからっ
私がピリピリと神経を尖らせていると、駿平はさっさとTシャツに備え付けの浴衣に着替えてしまい、バスルームへと行ってしまった。
「…なんなの」
バスルームで連絡しているのだろうか、と思っていたが、ベッドボードの近くにあるナイトテーブルには充電コードがコンセントに挿さった駿平のスマホがあった。
──私っ、本当どうしたのっ?!
自分の盛大な思い込みと勘違いにカッと顔が赤くなり、駿平がバスルームから出て来る前に私も浴衣に着替えた。


寝る準備が終わると、駿平と2人でベッドに入り並んで横になる。
「明日は早いから…おやすみ」
「…ん、おやすみ」
額にキスをされ、布団の中に入った彼の手が私のお腹の上に置かれた。ゆっくりとお腹を摩られると、心地よい睡魔がやってくる。
──お腹出てるって事かな…?痩せないと…
おやすみと、もう一度囁かれた疲れてた身体は、駿平の吐息が額に掛かると安心して意識を手放した。



***************



目覚ましが鳴って起きると、まだ駿平は寝ていた。昨日最後に覚えていた格好では寝ていなかったけど、駿平の無邪気な寝顔にほっとした。
「…そろそろ、起きないと…駿平」
彼を起こすのは忍びなかったが、駿平を呼ぶと少しだけ動いた後に目を覚ました。まだ出かける予定の時刻には2時間くらいあるけど、準備は早いに越した事なかった。
「…もう時間?おはよう」
そう言って彼は私を抱き寄せて、額や頬、最後に唇にキスをすると、名残惜しくベッドから起き上がった。


「…駿平?準備終わりそう?」
「終わった、そろそろ行く?…って、由紀ちゃんっ!」
私がメイクをしている間に、朝ごはんを買いに近くの売店に行きその後で駿平は着替えに行った。買ってきてもらったおにぎりを食べながら私も着替えが終わると、駿平はバスルームから出てきた。そして私の姿を見て驚きで目を見開いていた。
「…どうしたの?」
「そんな高いヒール履いたら危ないじゃん」
自分の足元を見ると確かに普段履いているものよりかは少しヒールが高いが、危ないかと言われたら疑問だ。駿平は私の元に早歩きで来ると、私の背後に回した手で腰を支えた。
「お腹もこんなに締め付けて、大丈夫?」
と言われて、自分の服装のシンプルなネイビーのドレスは、腰回りが綺麗なラインが見えるように、きゅっとしまっており、首と肩、そしてスカートの裾がレースが付いて肌を隠している。
「…お腹?やっぱり太って見える?だいぶ痩せたんだけど」
髪を後ろへ撫でつけて、額を露わにしている駿平のかっこよさに見惚れていたが、太っていると言われたと思ってショックを受けていたら、
「痩せたって、ダメじゃん、大事な身体なのに」
と、駿平は眉を寄せて、少し怒った口調になる。
「…大事な身体?」
駿平の言っている意味がわからなくて首を傾げると、
「そうでしょ?子供いるじゃん」
「…どこに?」
「由紀ちゃんのお腹の中に」
「誰の?」
「…俺以外いなくない?…まさか」
「ちょっ、それはないっ!」
初めて見る駿平の怒った口調であらぬ疑いをかけられたことを知り、首を横にぶんぶんと振ると、そう、と駿平は笑顔になった。だけど
「…私に子供なんていないよ?」
「なんで?先月シた時、俺避妊ゴムしてなかったし、何回もしたじゃん」
「…うん、でもあのあと…生理きたから妊娠はしてないよ」
「嘘っ、マジで?だってげっそりしてるから…つわりだって先輩が…」
「…悪阻?」
なんでも、私が急激に痩せたのは妊娠したからって噂が出来たらしく、駿平はそれを信じたらしい。
「そう、あの痩せ方は絶対に悪阻って」
「…違うけど」
「…ちょっと待って、なら…このひと月の俺の我慢はなんだったの?由紀ちゃん」
「はい」
駿平は私の肩を掴み、真剣な表情をして私の顔を覗き込んだ。
「…早くここを出て話そう」
空港に近いここから実家までは車で約2時間掛かる、今話していたら結婚式に間に合わないと気がついた駿平は、レンタカーを借りて運転しながら確認すると言った。
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