今日(こんにち)まで独身を貫いた漢は新入社員に惚れる

41 主任の病み※

妹の結婚式に出席すると言ってから、駿平が私に手を出さなくなった。時間が出来る限り会うことは会うし、キスもするけど、それだけだ。
自分からはなかなか言い出せないから、泊まる時に抱きついてそれとなくえっちをするのかを聞いたら、駿平は困った顔をして寝ようかと言って眠ってしまった。
──飽きられた…？
そう思うには十分な証拠はなかった。だって飽きたら、電話も少なくなるし、会うのもなくなっていくはずだからだ。
彼の考え出ることがわからなくなり混乱をしていた時に、珍しく駿平が友達と会うから一緒に帰れないと言ってきた。仕事が残っていた私は、駿平にそう言うと彼は少し怒って、
「あんまり無茶しないでよ」
と言って、先に帰って行った。



結局思ったように仕事が出来なかった私は、帰ることにした。帰っても誰もいない部屋に帰るのが嫌で、珍しく外食をしようと普段なら近寄らない新幹線も止まる主要の駅のすぐそばにある1人でも入れるレストランでご飯を済まそうと駅に降りて改札を出て歩いていると、見知った長身のイケメンを見つけた。誰もが目を奪われるそのイケメンは1人ではなく、彼と同じくらいに整った顔をした女性と一緒で、知った仲なのか、楽しそうに談笑していた。2人並ぶとまるで映画のワンシーンのようで絵になっていて、周りの視線など気にしない2人の世界にいるみたいでなかなか声を掛けられなかった。
「…うそ」
思わず口から出た言葉は、改札前のアナウンスやら待ち合わせ場所や行き交う人々が利用する客の話し声でかき消された。そのまま回れ右をしてこの場から離れたいのに、足が地面に突き刺さってしまったかのように動かせない。
少し頬を赤くして話してる駿平は、前にいる女性に揶揄われてまんざらでもなさそうだ。その表情は年相応で、私といる時には滅多に見せない表情をしている。
──もしかして、手を出して来ないのは本当は私と別れたくてで…私から別れを切り出してくれるのを待っているから…？
と不思議だった駿平の行動に納得出来た時には、駿平と女性は移動した後でもうそこにはいなかった。



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駿平が別れたがっているのは分かったけど、私から別れを切り出すのは無理だった。
──だって好きなんだもん
恋人の浮気現場を見て、その人と別れないなんて信じられないとテレビドラマやSNSを見て思っていたのに、今その人の気持ちが分かる。彼と別れを決意することすら…別れる選択なんて最初からない。
一生このままなのか…と思っていたけど、それはあり得ないと頭を横に振った。少なくとも本命の彼女だから、浮気ぐらい許さないと…と思うと悲しくなってきた。
──本命だからって浮気されたくない
1人でいる時には駿平は今頃誰かと、と思うたびに誰かと駿平を共有なんてしたくない、彼は私のものよっ！と頭の中でヒステリックに叫び、声が出ずに泣いた。
1人の時はご飯も食べる気が起きなくて、次第に痩せていく姿に、周りの人たちは病気じゃないかと心配し、駿平も夜ご飯を食べてないと知ると私とご飯を食べるようになった。
毎回作ってくれる消化に優しいうどんやお粥なのは、駿平なりの優しさなのかもしれない。何度か私が作るって言っても、
「由紀ちゃんは休んでいて」
と、お箸以上の重さの食器皿も持たせてくれなくなった。私はというと、私と夜ご飯を食べる頻度が増えたことにより、平日に一緒にいる時間が増えて喜んでいた。2人の時にはスマホも触らないから、誰も私達を邪魔しないと思うと、嬉しくてついいつも以上に甘えたが、決してキス以上の事をしてくる事はなかった。
──それでもいい、いつか私を求めてくれるから
駿平が他の女と会うのを阻止していると思うだけで憂鬱な日常は、少しだけマシになった。


そして、妹の結婚式に出席するために帰省する日となると、浮気相手に会うために絶対に残ると思っていた駿平は一緒に帰る事になった。
──嬉しい！
と心から思えたのは親に紹介しちゃえば、彼は外堀を埋められ益々私から離れないと思ったからだ。
──結局浮気されるなら、今のうちに既成事実作るべきかな…？でも手を出して来ないし…ホテルで誘ってみる？でもそうしたら、一回じゃ足りないから…結婚式参加出来ないし…
いつの間にか彼を襲ってホテルに籠ろうかと思ったけど、妹の結婚式だと思い出して、自分勝手な思考に苦笑した。
月曜日は弾丸で行って帰って来て翌日仕事に行こうとしていま当初の予定とは違い、私も駿平も有給を使ったから話す時間はたっぷりあるとはやる気持ちを抑えるよう自分に言い聞かせた。