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28 先輩達の誤解
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朝起きると目の前には薫の顔があり、目を閉じて眠る彼を暫し見るのが日課になっている。少しでも動くと彼が起きてしまうから、息を殺しているんだけどいつも我慢出来なくて少し動いちゃうと彼は起きてしまう。ぱちっと目が覚めた薫は、もう起きている私を見ると口角をあげて微笑む。
「おはよう」
「おはよう」
朝一番の声は低く掠れていて、ずっと聞いていたいくらい心地良い低音ボイスだ。すっぴんなんてもう何回も見られているのに、太陽のひかりで明るくなっている部屋でじっと見られると隠れたくなる。彼のシャツに顔を埋めると彼の手が私の身体に回り、抱きしめられる。ドクンドクンと聞こえる鼓動に微睡んでいると、セットしていたベッドのそばにある時計のアラームが鳴って起きる時間を知らせる。
薫が動いてアラームの音を止めると、私はやっと彼の胸から顔を上げた。
すると薫の顔が私の顔に近いて、そっと唇が重なった。何度か口を啄み、頬にもキスをされるとやっと起きる。
「ほら」
と、ベッドに座った彼が手を差し出すと、私はその手を取った。
一緒に起き上がると、手を繋いだまま洗面所まで一緒に行く。彼が顔を洗い歯を磨いている間は、私は彼の腰に背後から手を回して抱きつく。髭も剃る彼の一連の朝のルーティンを見ながら、まだ完全に目が覚めてない私は、薫が何かするために動くたびに顔を動かされた。
「起きたか?」
「うん…起きた」
さっぱりした薫は私の方を振り向くと、私の顔を覗き込む。彼の腰に回した手を離すと、薫は私の頭を撫でて洗面所からいなくなってしまった。一人になった私はやっと顔を洗い始めた。
歯を磨き、髪を櫛で整えていると、ほのかに香るコーヒーの匂いがする。
二人で朝を迎えることが増えると、自然と薫が朝食を出す担当になった。といっても、最初はコーヒーだけだったけど、最近ではトーストされたパンも出るようになった。
このままいけば、目玉焼きも出てくるようになるかもしれない。料理なんてしたことないと言っていた薫が、フライパンの前で卵に色がつくのをじっと見ている姿を想像するだけで面白い。
「いい匂い」
「もうできた」
リビングへと行くと、対面キッチンにあるカウンターの上には湯気の立つコーヒーカップが2つとお皿の上にトーストされた厚切りパンが3枚置かれている。1枚は私ので、あとの2枚は薫が食べるパンだ。基本的に朝はブラックコーヒーしか飲まないといっていた薫だったが、私が食べると知るとパンを出すようになって一緒に食べるようになった。
カウンターのそばにある高い椅子に並んで座って食べると、お皿をシンクに置いて彼が片付ける。
私は朝食がすむと、着替えの置いてある寝室へと向かい、ベッドメイクを済ませて、出勤の準備を始める。コレとコレ、とクローゼットから取った服を着て、化粧を始める。大体リップをつけている時に薫が寝室にやってきて、彼も私の服が置いてあるクローゼットからスーツとYシャツを出す。着替えている彼のスーツとシャツの色を見て、私はネクタイ選びに入る。最近ではネクタイも締められるようになったのだ。
私の選んだネクタイをつけていると、彼の手が私の腰に回り、額に唇を押し付けてくるが、キスまではしない。化粧をした後は、もう会社に行くからこれ以上の触れ合いは断っているのだ。せっかく綺麗にしたのに、もう一度化粧を直すのは嫌だからだ。
準備が終わると彼の車に乗り、会社の近くにある公園で下ろされる。本当なら薫の家の近くの駅でいいと言ったけど、
「どうせ行く先は一緒なんだから、問題ない」
公園も本当に会社まで歩いて数分の近さで、お昼は会社の人が使うのが多いが、ここは最寄りの駅とは反対側なので会社の人に会う心配はないと言われた。
帰りは会社から一緒に帰るのはほとんどなくて、最寄りの駅の駐車場に私が行くか、私が薫の家へと直行するのどちらかしかない。
薫がスポーツ観戦でテレビを見る以外は離れる事がない蜜月に、このまま一生続いたらどうしようと、なぜか未来のことを考えて不安になる。
──幸せすぎると不安になるのね
私の気持ちなど知るよしのない薫からの多すぎる愛を受け取り、私は日々を過ごしていた…のに、
「豊嶋さん、連絡先交換しない?」
と、しつこく声を掛けてくるのは同期の安藤くんだ。同性の子としか連絡先は交換しないと公言しているし、何度も安藤くんにも伝えたのに、彼はめげずに何度も聞いてくる。
──いっそのこと薫の前で聞いてくれたらいいのに
そうしたら彼は部下の安藤くんを止めてくれるし、彼の行きすぎた行動を注意してくれる。
だが、彼はいつも他に誰もいない時に聞いてくるし、一度なんて同期の女子に私の連絡先を聞く暴挙に出たのだ。その女子は、『豊嶋さんの許可がないと教えられない』と突っぱねてくれたから良かったものの、教えられたら鬼のように連絡がくると思うと急に安藤くんが恐ろしくなった。
その子にはめちゃくちゃお礼を言ってランチも奢ったけど、彼女も安藤くんのことを気味が悪いと同意してくれた。
それとなく彼氏の存在を匂わせる男物のアイテムを身につけても、彼の行動に変化はないから、もう直接彼氏がいるから無理と言うしかないかもしれないところまで来ているのかもしれない。
私が座るデスクからホワイトボードに書かれている予定表を見れば、薫達は今ミーティングをしているみたいだった。
一番上に置かれた名前入りマグネットは薫で、その下にある複数の名前の中に安藤くんの名前を見ちゃって少しだけ凹んだ。
「豊嶋さんって彼氏いるよね?」
隣にいる先輩に声を掛けられて、はい、と頷いた。
「やっぱりね!だってそのシャツ大きすぎるもの、どんな人なの?」
チラッと周りを見たら、案件がないのかチラホラと雑談している人がいたので、先輩の方を向いた。
「年上で…すっごく優しくて…カッコいいんです」
薫の好きなところをあげたら、同じ会社の人だとバレちゃうと思って濁していたら、先輩は
「カッコいい人か…そうだよね、豊嶋さん可愛いもの」
「そんな…先輩も綺麗な人だなって思ってます」
「またまたー!お世辞はいいから!」
「いや本当に」
照れる先輩も可愛いと思いながら、笑っていると
「なになに?何の話?」
私達の後ろに座る先輩が話に入ってきた。
「豊嶋さんの彼氏の話」
「あー、安藤くん?」
「へっ?!違いますよ?」
話に入ってきた先輩の口から、ありえない人の名前が出てきて思わずすぐに否定した。
「豊嶋さんの彼氏は年上なんだって」
「そうなの?豊嶋さんが彼氏いないなんてありえないくらい可愛いもんね」
「そんな…先輩達はいらっしゃるんですか?」
「私達はもう結婚してるよ」
私に話が集中しそうになり話を逸らすと、途中から入ってきた先輩が左手にある指輪を見せながら笑う。
「そう、私なんて子供いるし」
「えっ?そうなんですか?」
私を指導する先輩が爆弾発言をして、めちゃくちゃ驚いた。スタイルも良くて全然子供を産んだとは思えないくらいだったからだ。しかも私と同じ定時に帰ってるって事は…
「もうすぐ8歳なのよ」
この会社では育休や時短勤務が可能なのは5歳までで、その年齢をすぎたら一般社員と同じ勤務時間になるのだ。
「見えないです!」
「本当にもう…なんて可愛いの?!よし、姉さんがあとでジュース奢っちゃう」
「やめなって、全くもう」
私を小中学みたいに扱い、可愛がってくれる先輩を嗜める先輩のやり取りを見て、穏やかな空気が流れる。
「…そうか、安藤くんが彼氏じゃないのかー、いつもよく話すから勝手に思ってたわ…ごめん」
結局話を戻され、安藤くんが彼氏とか嫌だなあと思っていたら、
「年上なんだってよ」
「年上?彼氏何歳よ?」
「…35歳です」
「「35?!」」
薫の年齢を言うとやっぱり二人は驚いている。
「…また随分年上だね」
指導してくれる先輩がそう言うと、もう1人の先輩も頷いて口を開いた。
「ほぼ私達に近いね…えー出会いは?」
絶対に聞かれると思ったら、やっぱり聞かれてどう返事をしようかと思っていると、
「あっ…新しい案件来たから始めようか」
先輩が私の話を遮ってくれた。本当に案件がきたから話はここで中断したけど、返事に困っていた私を助けてくれたと、ますます指導の先輩が好きになってしまった。
***************
しばらくするとまた案件が止まってひと段落したから、私はお昼に行く事にした。携帯を取り出すと特に新着の連絡は無かったけど、一応薫にメッセージを送る事にした。
「今お昼っ、と」
送信ボタンを押して、お昼を食べに会社の近くにあるパスタ屋へ行く事にした。ランチ時間も終わりの頃に行ったから比較的に空いていて、すんなりと席につけた。
注文したパスタを食べ終わると、薫からの返信があったから、少し前まで先輩の前で薫の話をしたから顔を見たくなった。それと同時に安藤くんのことも思い出して、げんなりしちゃう。
お会計の伝票を持ってレジで支払いを済ませると、薫と待ち合わせ場所へと向かった。
「…ッ」
唇を合わせるだけだったのに薫の舌が私の口内に入り、小さな声が漏れた。名残惜しく離れた唇に、未練が出てつい目で追ってしまう。彼の口には私の付けていたグロスが移り、持っていたハンドタオルで拭っていると、薫は私を植木のそばに寄せた。いくらお昼時間が過ぎたといっても会社の人がいる可能性もあるのだと今更ながら気がついた。
「暑いだろ」
そう言って彼は私が羽織っていたシャツの中に手を入れて、腰をゆっくりと上下に撫でた。
「ううん、まだ平気」
確かにもう夏に近づいているから暑いけど日差しはさほど強くないから、そこまでキツくない。あと数週間もすれば外を歩くのが大変になる暑さになると思うけど。
今日は先に帰るように言われ、ふと先輩と話していた彼氏の話を思い出した。
──薫はどう思うのだろうか
安藤くんのことを話した方がいいのか…それとも私が大袈裟に騒ぎすぎなのかなと思う。
もやもやした気持ちを抱えたまま、僅かな逢瀬は終わりを告げた。
「おはよう」
「おはよう」
朝一番の声は低く掠れていて、ずっと聞いていたいくらい心地良い低音ボイスだ。すっぴんなんてもう何回も見られているのに、太陽のひかりで明るくなっている部屋でじっと見られると隠れたくなる。彼のシャツに顔を埋めると彼の手が私の身体に回り、抱きしめられる。ドクンドクンと聞こえる鼓動に微睡んでいると、セットしていたベッドのそばにある時計のアラームが鳴って起きる時間を知らせる。
薫が動いてアラームの音を止めると、私はやっと彼の胸から顔を上げた。
すると薫の顔が私の顔に近いて、そっと唇が重なった。何度か口を啄み、頬にもキスをされるとやっと起きる。
「ほら」
と、ベッドに座った彼が手を差し出すと、私はその手を取った。
一緒に起き上がると、手を繋いだまま洗面所まで一緒に行く。彼が顔を洗い歯を磨いている間は、私は彼の腰に背後から手を回して抱きつく。髭も剃る彼の一連の朝のルーティンを見ながら、まだ完全に目が覚めてない私は、薫が何かするために動くたびに顔を動かされた。
「起きたか?」
「うん…起きた」
さっぱりした薫は私の方を振り向くと、私の顔を覗き込む。彼の腰に回した手を離すと、薫は私の頭を撫でて洗面所からいなくなってしまった。一人になった私はやっと顔を洗い始めた。
歯を磨き、髪を櫛で整えていると、ほのかに香るコーヒーの匂いがする。
二人で朝を迎えることが増えると、自然と薫が朝食を出す担当になった。といっても、最初はコーヒーだけだったけど、最近ではトーストされたパンも出るようになった。
このままいけば、目玉焼きも出てくるようになるかもしれない。料理なんてしたことないと言っていた薫が、フライパンの前で卵に色がつくのをじっと見ている姿を想像するだけで面白い。
「いい匂い」
「もうできた」
リビングへと行くと、対面キッチンにあるカウンターの上には湯気の立つコーヒーカップが2つとお皿の上にトーストされた厚切りパンが3枚置かれている。1枚は私ので、あとの2枚は薫が食べるパンだ。基本的に朝はブラックコーヒーしか飲まないといっていた薫だったが、私が食べると知るとパンを出すようになって一緒に食べるようになった。
カウンターのそばにある高い椅子に並んで座って食べると、お皿をシンクに置いて彼が片付ける。
私は朝食がすむと、着替えの置いてある寝室へと向かい、ベッドメイクを済ませて、出勤の準備を始める。コレとコレ、とクローゼットから取った服を着て、化粧を始める。大体リップをつけている時に薫が寝室にやってきて、彼も私の服が置いてあるクローゼットからスーツとYシャツを出す。着替えている彼のスーツとシャツの色を見て、私はネクタイ選びに入る。最近ではネクタイも締められるようになったのだ。
私の選んだネクタイをつけていると、彼の手が私の腰に回り、額に唇を押し付けてくるが、キスまではしない。化粧をした後は、もう会社に行くからこれ以上の触れ合いは断っているのだ。せっかく綺麗にしたのに、もう一度化粧を直すのは嫌だからだ。
準備が終わると彼の車に乗り、会社の近くにある公園で下ろされる。本当なら薫の家の近くの駅でいいと言ったけど、
「どうせ行く先は一緒なんだから、問題ない」
公園も本当に会社まで歩いて数分の近さで、お昼は会社の人が使うのが多いが、ここは最寄りの駅とは反対側なので会社の人に会う心配はないと言われた。
帰りは会社から一緒に帰るのはほとんどなくて、最寄りの駅の駐車場に私が行くか、私が薫の家へと直行するのどちらかしかない。
薫がスポーツ観戦でテレビを見る以外は離れる事がない蜜月に、このまま一生続いたらどうしようと、なぜか未来のことを考えて不安になる。
──幸せすぎると不安になるのね
私の気持ちなど知るよしのない薫からの多すぎる愛を受け取り、私は日々を過ごしていた…のに、
「豊嶋さん、連絡先交換しない?」
と、しつこく声を掛けてくるのは同期の安藤くんだ。同性の子としか連絡先は交換しないと公言しているし、何度も安藤くんにも伝えたのに、彼はめげずに何度も聞いてくる。
──いっそのこと薫の前で聞いてくれたらいいのに
そうしたら彼は部下の安藤くんを止めてくれるし、彼の行きすぎた行動を注意してくれる。
だが、彼はいつも他に誰もいない時に聞いてくるし、一度なんて同期の女子に私の連絡先を聞く暴挙に出たのだ。その女子は、『豊嶋さんの許可がないと教えられない』と突っぱねてくれたから良かったものの、教えられたら鬼のように連絡がくると思うと急に安藤くんが恐ろしくなった。
その子にはめちゃくちゃお礼を言ってランチも奢ったけど、彼女も安藤くんのことを気味が悪いと同意してくれた。
それとなく彼氏の存在を匂わせる男物のアイテムを身につけても、彼の行動に変化はないから、もう直接彼氏がいるから無理と言うしかないかもしれないところまで来ているのかもしれない。
私が座るデスクからホワイトボードに書かれている予定表を見れば、薫達は今ミーティングをしているみたいだった。
一番上に置かれた名前入りマグネットは薫で、その下にある複数の名前の中に安藤くんの名前を見ちゃって少しだけ凹んだ。
「豊嶋さんって彼氏いるよね?」
隣にいる先輩に声を掛けられて、はい、と頷いた。
「やっぱりね!だってそのシャツ大きすぎるもの、どんな人なの?」
チラッと周りを見たら、案件がないのかチラホラと雑談している人がいたので、先輩の方を向いた。
「年上で…すっごく優しくて…カッコいいんです」
薫の好きなところをあげたら、同じ会社の人だとバレちゃうと思って濁していたら、先輩は
「カッコいい人か…そうだよね、豊嶋さん可愛いもの」
「そんな…先輩も綺麗な人だなって思ってます」
「またまたー!お世辞はいいから!」
「いや本当に」
照れる先輩も可愛いと思いながら、笑っていると
「なになに?何の話?」
私達の後ろに座る先輩が話に入ってきた。
「豊嶋さんの彼氏の話」
「あー、安藤くん?」
「へっ?!違いますよ?」
話に入ってきた先輩の口から、ありえない人の名前が出てきて思わずすぐに否定した。
「豊嶋さんの彼氏は年上なんだって」
「そうなの?豊嶋さんが彼氏いないなんてありえないくらい可愛いもんね」
「そんな…先輩達はいらっしゃるんですか?」
「私達はもう結婚してるよ」
私に話が集中しそうになり話を逸らすと、途中から入ってきた先輩が左手にある指輪を見せながら笑う。
「そう、私なんて子供いるし」
「えっ?そうなんですか?」
私を指導する先輩が爆弾発言をして、めちゃくちゃ驚いた。スタイルも良くて全然子供を産んだとは思えないくらいだったからだ。しかも私と同じ定時に帰ってるって事は…
「もうすぐ8歳なのよ」
この会社では育休や時短勤務が可能なのは5歳までで、その年齢をすぎたら一般社員と同じ勤務時間になるのだ。
「見えないです!」
「本当にもう…なんて可愛いの?!よし、姉さんがあとでジュース奢っちゃう」
「やめなって、全くもう」
私を小中学みたいに扱い、可愛がってくれる先輩を嗜める先輩のやり取りを見て、穏やかな空気が流れる。
「…そうか、安藤くんが彼氏じゃないのかー、いつもよく話すから勝手に思ってたわ…ごめん」
結局話を戻され、安藤くんが彼氏とか嫌だなあと思っていたら、
「年上なんだってよ」
「年上?彼氏何歳よ?」
「…35歳です」
「「35?!」」
薫の年齢を言うとやっぱり二人は驚いている。
「…また随分年上だね」
指導してくれる先輩がそう言うと、もう1人の先輩も頷いて口を開いた。
「ほぼ私達に近いね…えー出会いは?」
絶対に聞かれると思ったら、やっぱり聞かれてどう返事をしようかと思っていると、
「あっ…新しい案件来たから始めようか」
先輩が私の話を遮ってくれた。本当に案件がきたから話はここで中断したけど、返事に困っていた私を助けてくれたと、ますます指導の先輩が好きになってしまった。
***************
しばらくするとまた案件が止まってひと段落したから、私はお昼に行く事にした。携帯を取り出すと特に新着の連絡は無かったけど、一応薫にメッセージを送る事にした。
「今お昼っ、と」
送信ボタンを押して、お昼を食べに会社の近くにあるパスタ屋へ行く事にした。ランチ時間も終わりの頃に行ったから比較的に空いていて、すんなりと席につけた。
注文したパスタを食べ終わると、薫からの返信があったから、少し前まで先輩の前で薫の話をしたから顔を見たくなった。それと同時に安藤くんのことも思い出して、げんなりしちゃう。
お会計の伝票を持ってレジで支払いを済ませると、薫と待ち合わせ場所へと向かった。
「…ッ」
唇を合わせるだけだったのに薫の舌が私の口内に入り、小さな声が漏れた。名残惜しく離れた唇に、未練が出てつい目で追ってしまう。彼の口には私の付けていたグロスが移り、持っていたハンドタオルで拭っていると、薫は私を植木のそばに寄せた。いくらお昼時間が過ぎたといっても会社の人がいる可能性もあるのだと今更ながら気がついた。
「暑いだろ」
そう言って彼は私が羽織っていたシャツの中に手を入れて、腰をゆっくりと上下に撫でた。
「ううん、まだ平気」
確かにもう夏に近づいているから暑いけど日差しはさほど強くないから、そこまでキツくない。あと数週間もすれば外を歩くのが大変になる暑さになると思うけど。
今日は先に帰るように言われ、ふと先輩と話していた彼氏の話を思い出した。
──薫はどう思うのだろうか
安藤くんのことを話した方がいいのか…それとも私が大袈裟に騒ぎすぎなのかなと思う。
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