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カラオケ1

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デートをしたいと言って部活で疲れている彼の腕を引いて、ビル全体がカラオケ店になっている本館にやってきた。

「この2時間のプランとドリンクバーセットのヤツでお願いします」

カラオケ店の受付で黒いベストと白いブラウスの男性店員に、カウンターのメニュー表を右の人差し指で差しながらカラオケプランを伝える聡。その左横で彼の腕に自分の腕を絡ませ、ぴたりと密着する私。
チラチラと私の顔と聡の顔を見ては、キビキビとこちらからは見えないが、モニターにタッチする店員。

ーーやっぱりカッコいいからねっ!見ちゃう気持ち分かるよっ!でもっ!私の彼氏だしっ!

と先週付き合い始めた彼が、羨望の眼差しを向けている店員に心の中で、マウントを取る。ふふんっ、と得意になっていると、彼の腕に回した私の手に力が強くなってしまって、固い腕に私の胸を押しつける形になってしまう。すると、ピクっと一瞬彼の腕が動いた気がしたが、店員から終了時間が印字されたレシートが挟んである黒い長方形のバインダーを貰っていた。
私の方へと顔を向けると、

「5階みたいだから」

そう告げた彼は、受付カウンターの斜め後ろにあるエレベーターへと、歩き出し私も腕にくっついたまま同じ歩幅で歩く。

「マイクとタンバリンとかマラカスは部屋にあるみたいだな」
「そうなの?…このカラオケ店は初めて来た」
「そうなのか?」
「うん、いつもは家の近くにある駅前のカラオケに行くから」
「…そうか、俺もココは初めてだからな」

そんな話をしていると、エレベーターの扉が開き、乗り込んだ。



*********************


518号室とプレートが貼ってある薄暗い部屋の壁際には、長いソファーが置かれ、1人用のソファーがテーブルを挟んで向かいにある。出入口から正面にある目を引く大きな画面は、オススメの音楽や料理の写真が流れている。扉の横にある内線電話とエアコンのリモコン、電気を付けるスイッチ、上着などを掛けるハンガーがあった。
室内に入り荷物を1人掛けのソファーに置いて、一番奥のソファーの端に座ると、聡はテーブルの上に黒のバインダーを置き、私が座るソファーの正反対の端に荷物を置いた。

「何か飲むか?」
「あっ…そうだった!一緒に行こう」

座っていた私は慌てて立ち上がり彼の腕に抱きついたのだった。



カラオケに来て1時間が経つころ、彼は聞き役に徹していてあんまり歌ってくれなかったが、一緒にデンモクを覗きゲーム機能がついている事に気がついて、あーでもないこーでもないと2人で笑いながら解いていく。
エアコンの空調が効いた部屋で、冷たい飲み物を飲んだのもあるのか、トイレに行きたくなった私は彼に断りを入れてカラオケの部屋から出た。

トイレから戻り長いソファーに座る聡の前を通る時に、彼の足に引っかかって倒れそうになった。

「きゃっ」
「危なっ」

咄嗟に出た彼の腕が私のお腹に回り引き寄せられて、そのまま彼の膝の上にストンと座ってしまう。
ギュッと目を閉じていた私は、痛みがいつまでも来なくて、恐る恐る目を開けると横抱きに座った彼の膝の上に、私のお腹に回りに彼の腕が巻きついていた事に気がついた。

「~~~~~~っ!!」
「っ、暴れるなっ」

顔を真っ赤にしてジタバタと彼の膝の上から逃れようとすると、落ちるっ!と彼の叱咤する声が聞こえ、大人しくなる。
いつもは見上げないと見れない彼の顔が、私の目の前にある。

「…あ、っ」

一重の中にある黒い瞳が揺れて、ピンクアッシュのセミロングの真っ赤な顔をしたーー私が映し出される。
そのまま彼の顔が近寄り、キスされると思った時に私は瞼を閉じた。
ちゅっ
軽く触れただけの唇が離れゆっくり瞼を開けると、まだ彼の顔が近くにあった。彼の胸板に置いた両手を滑らせ彼の肩に、彼の首の後ろへと回すと、また彼の顔が近づいた。
今度は唇が合わさった時間が長く、ギュッと結んだ口を彼の舌がヌルッとなぞる。薄く口を開けると彼の舌が私の口内に入り口の中をモゾモゾと動く。

「んっ…っ」

彼の舌が私の上顎に触れた時、思わず声が漏れてしまって恥ずかしくなる。離れようとすると、彼の舌が私の唇を追いかけてまた深いキスになる。
カラオケの室内にガンガンに流れる音楽に混じり、グチュッグチュッと2人の口の隙間から唾液の水音が微かに聞こえる。
聡の右手が私の顎の下を擽ると、ふっと声が漏れて口が開いてしまう。そうすると私の口の隙間から唾液が溢れて口元を伝うと、彼の舌が舐めとる。

「ぁ…んっ」

口を塞がれていたから息も上手く出来なかったのに、口が離れていざ息が出来るようになると、不思議と口の中が寂しく感じる。
私の口元を綺麗にして満足した彼が、私の額に合わせて顔をくっつけた。

「…コーラの味だった」

照れ臭くて初キスの味を拗ねたように言ってしまう私を聡は、ははっ、と笑い、付き合い始めて初めて私に見せた、目が糸みたいに細くなった笑顔に見惚れてしまった。
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